『壁の男』貫井徳郎

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1993年の鮎川哲也賞最終候補の『慟哭』で作家デビューした。

日本推理作家協会賞を2010年に『後悔と真実の色』で受賞されているようだが、こちらは読んでない。
『慟哭』がミステリー作品だったので本作品もミステリーかなと思っていたが、全く違った。
 
 
 
以下あらすじ
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ノンフィクションライターの鈴木はSNSの呟きで、その町の事は知っていた。
そこは栃木県のある町で、民家の壁や塀に同じ人間が書いたと思われる落書きのような絵が描かれているのだ。
 
絵は青や赤といった原色で、濃淡はなく、モチーフも人や動物とバラバラで、子供の落書きのようで、稚拙としか言いようのないものだった。
鈴木は最初に絵の写真を見た時、苦笑する以外なく、その町が評判になり、人が訪れるようになったと聞いた時も、物好きが多いなと思っただけだった。
 
しかし考えを改めたのは、朝の情報番組のネット上の話題を取り上げるコーナーで、絵がその町全体を覆い尽くすほどになっており、絵は上達はしていなかったが、描き手の執念にも似た気迫がTV画面を通して伝わってきたからだ。
 
鈴木は現地に行って、その絵の描き手に会い、絵を描いたきっかけなど本人に取材を試みる。
だが塾の経営者だという男、「伊苅(いかり)」は、
「子供が喜ぶと思って」内側の壁に絵を描いたのがきっかけだというだけで取材を拒否する。
それだけでは、町全体を覆い尽くすほどに絵を描けるものなのか疑問に思った鈴木はその町に通い続け、男の過去を調べていく。
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デビュー作品の『慟哭』は最後まで読んで、「え!?そういうこと?」と、
とにかく驚愕とは正にこれでしょうというくらい驚かされた。
賞をとっている作品だと思っていたのだが、'93年の鮎川哲也賞受賞作品ではないという事で今回知り、その時の受賞作は余程すごい作品なのだろうなと調べたところ、近藤史恵氏が『凍える島』で受賞した回らしい。
 
先日娘が女清掃員探偵キリコシリーズの最新作を、私は短編集『悪意の迷路』の中で「シャルロットの友達」という作品を読んでいた女性推理作家だった。
残念ながら長編を私は読んでいないので、機会があったら読むことにしようと思っている。
 
貫井徳郎氏の『慟哭』は実は2000年以降に入ってから読んでいて、昨年夏にももう一度読みたくて読んでいる。
さすがに2度目は結末を知っていたので、驚きはしないものの、やはりよく考え練られた作品だなと感心した。
 
本作品はミステリーではなく、どちらかと言えば…純文学のようだが、途中驚きもあり…1つの枠にはめるのが難しい。
 
ライター「鈴木」の行動とその後絵を描く男「伊苅」の最近の事や過去が本人を主人公に書かれていく。
最後まで読むと「伊苅」という男の今までの人生が全て見えてくる。
 
男の母親の存在感が最初薄かったが、少年時代の部分では物静かだがしっかりした母親として存在する。
町の老人たちが頑固だけれど、どこか優しいところなども良い。
個人的には町に男が馴染んでいく辺りの、町の人とのやりとりが温かくて好きだった。
男の母親の言葉は励まされる。
 
今回も結末に驚きの出来事があるが…途中の人との関わりなどとても温かいので、読んでみて欲しい。
 
 
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