かめ新聞 -125ページ目

横丁か市場か商店街か


 東京の魚河岸として有名な築地市場にも横丁にも似た活気がある。場内市場と場外市場があり、もちろん誰でも気軽に買い物が楽しめるとても豊かな空間がある。

 そんな中に気になる珈琲店を見かけた。店にはたいした奥行きも無く、どうやら小路の飲み屋よりもせまい。幅一間、奥行二間程度あるかないか。感じのいい喫茶店はいくらもあるがこれは言わば利休好みか。興味深気に覗いていると、店主のおばあちゃんがアルミのドアを全開にして笑顔で迎えてくれた。折り畳みカウンターを延ばせば路地にはみ出す格好のオープンカフェになる。なんとも手際の良いスケールの小さな小さな珈琲店。この店舗面積なら、珈琲一杯だけでも生計が成り立ちそうな気になってくる。商売は何も拡大思考である必要はないのだ、と勇気づけられる。肩の力を抜いてみる。

しょんべん横丁


 横丁話第二弾。思い出横丁のような小路ではほとんどの場合、便所は共用で店の外、通りにひとつある。ほとんど男便所の大便器を女子が借りているという程度にいい加減な男女共用便所だ。ましてや利用客はかなりの酔っぱらいだからたちが悪かろう。ヤキトリの煙で活気があれば誤摩化せるが、寂しい小路では厠臭が鼻を突く。だからだろう「しょんべん横丁」との俗称がよく似合う。

 写真は、甲府で見つけたとある小路の便所。これを見た瞬間、これが正しい便器の向きだと思った。これぞ金隠しなのだ、と納得しながら思わず写真におさめた。ちなみに新宿の思い出横丁は横を向いている。

 今夜は甲府の「桜座」で浅川マキのライブが行われる。

流行建築通信6/ヒットメーカー


 ペッパー警部 邪魔をしないで
 ペッパー警部 私たちこれからいいところ

 阿久悠は、この曲でピンクレディーを世に送り出した。
 この歌い出しに込められた売れる法則はいったい何だろうか。
 1970年代は歌謡曲全盛の時代だった。その最大のヒットメーカーは作詞家「阿久悠」だ。ピンクレディはもちろん山本リンダ、沢田研二、桜田淳子、岩崎宏美、郷ひろみ、西城秀樹から、演歌では五木ひろし、石川さゆり、八代亜紀、そして宇宙戦艦ヤマトといったアニメソングまで、時代は阿久悠とともに進んだ。
 現代はどこか空しき建築ブーム。妹島和世、伊東豊雄、山本理顕、青木淳、隈研吾たちはいわばザ・ベストテンの常連だ。実はこの常連組の構造設計のほとんどに作詞家ならぬ構造家「佐々木睦朗」が関わっている。彼こそが現代建築界のヒットメーカー「阿久悠」なのかもしれない。最近では、SANAAの「金沢21世紀美術館」「ディオール表参道」、伊東氏の「せんだいメディアテーク」「まつもと市民芸術館」、青木淳氏の「ルイ・ヴィトン表参道ビル」などきり無し。妹島さんの「梅林の家」でやった鉄板構造も彼。佐々木氏のコンペ当選率は6割にもなるらしい。つまりビッグコンペの時にはまず彼の奪い合いとなる。レコード大賞曲が毎年阿久悠だったように。
 このところ「流行建築通信」という思いつきのコラムを続けているうちに、趣味の色がだんだん濃くなってきている。歌にはやり廃りがあるのは歓迎だが、建築が流行になるのはどうなのか。そろそろペッパー警部の出番かもしれない。

 その時なの もしもし君たち帰りなさいと
 夢からうつつに戻されたのよ アアア

思い出横丁


 西新宿に暮らしはじめて度々お世話になるのが、庶民の味方新宿西口「思い出横丁」。戦後のヤミ市の時代から続くやきとり屋の多い小路です。50軒以上の小さな店が並んでいてまだ全店を網羅したわけではありませんが、時々ヒットな味に出会います。高くて旨いのは当たり前だから、この値段でこの旨さ!というのがやっぱりヒットの条件です。いわゆる名物メニューです。今のところ、蒸し鶏、もやし炒め、ラーメン、やきそば、やきとりを食べるならここというのは決まってきました。横丁でちょっと早い昼飯をかきこんで出勤するのもまた一興。まだ入ってないが、うなぎの店も楽しみです(ね、ためさん)。

 この写真、思い出横丁でも老舗にあたるお店から通りを眺めて飲んでおります。またみなさん、ご一緒しましょう。

ひかり保育所のなかま


 日曜の夜、ひかり保育所建設のワークショップ仲間が集まってくれた。ワークショップに参加した仲間の多くが東京に集まっている。あの頃まだ大学1年生だった人も既に就職するような年齢になり、それぞれの道を探っている。酒を飲む時もあれば酒に飲まれる時もある。酒の味もいろいろだ。
 この日の仕入れは、とうとう築地まで足を伸ばした。鯛のあら煮。あさりの酒蒸し。カレイの塩焼き。ぎんなん揚げ。するめ。冷酒。ちょっと大人な感じでお迎えした。

流行建築通信5/ガラス


 最近のガラス事情にも微妙な変化があるようだ。
 10年ほど前までの大きなガラス面は大抵、網入りガラスだったと思う。その後、大ガラス面には強化ガラスが多用されるようになった。伊東豊雄の代表作となったせんだいメディアテークも、強化ガラスに飛散防止フィルム張りだった。ところがここ数年、大ガラス面には合わせガラスがよく使われている。これはただ建築雑誌で見る傾向にしかすぎないんだけど、その傾向は顕著だ。
 聞くところによると、強化ガラスは割れても安全ということなのだが、大ガラス面になってくるとさすがに崩落被害が危険になる。飛散防止フィルムを張ればいいのだが、これも張り替えの時に4方を枠に飲み込ませるにはガラスを外す大工事となってしまうのがネックとなる。特殊フィルムをはさみこんだ合わせガラスならば、崩落の危険は無く、防犯上にも優れているようだ。
 環境問題に加え、災害や防犯に感心が高まる今、合わせガラスや複層ガラス、ダブルスキンが好まれ、ガラス周りはどんどん厚くなっている。当分ガラス愛好建築家は、ますます厚みを増していくガラスと格闘し続けることになる。

流行建築通信4/バックマリオン


 流行建築は、物質的にも精神的にも透明でかつフラットでなければならない。そんな流行建築にはガラス関連メーカーの技術力が欠かせない。だからだろうか、建築家を問わず建物が似通ってきているように感じる。
 オフィスビル等に見られるカーテンウォールの表情がいつの間にか変化している。初期のカーテンウォールでは、ガラスはマリオンという方立の奥に取り付けられるため、マリオンの縦ラインが目立った。このマリオンが名の由来なのかは知らないが、写真は有楽町マリオン。
 汐留、品川や六本木でも多く見られる最近のカーテンウォールでは、マリオン(バックマリオン)の前面にガラスが取り付けられるため、ガラス面にサッシは現れない。つまり立面はフラットになる。
 このバックマリオンは、今や妹島和世や隈研吾をはじめとする流行建築には欠かせないディテールとなって、透明、フラットでカーテンウォールな立面を作り出している。

ニッポンイチの風景/続中野編


 新宿から電車で30分程郊外に出た小平という町で暮らしたことがある。可住地100%の真っ平らな土地すべてに、ごく平凡な2階建て戸建て住宅が隙間無く並ぶスーパーフラットな町だった。新宿から西に30分圏内はどこも似たような風景が広がっている。

 JR中央線を新宿から西に向かう車窓景観には、人口密度と風景の関係がとてもわかりやすい。日本一利用客が多い新宿を出発し、中野区で日本一の2万人/km2だったのが、杉並区に入ると1.5万人、三鷹市から国分寺市までは1万人、立川市で7千人、八王子市まで離れると3千人に減り、ずっと山の緑を見ながら電車に揺られ、甲府に着く頃には千人/km2、ということになる。地方大都市でさえこの数字だから、とにかく東京の密度は尋常ではない。ちなみに全国平均は340人/km2にすぎない。風景の見方の参考に。

がんばれ一級建築士

 今日は一級建築士製図試験の日だ。学科試験に受かった人が受けられる国家試験の2次試験にあたる。これに合格すれば晴れて一級建築士となる。この免許を獲得できる人は、毎年5000人程度にすぎない。合格率はこのところ低くなっており、6~10%前後を推移している。弁護士並みになってきた。そのための資格学校がビッグビジネスとなり難易度を上げてしまうから、貧乏人には世知辛い世の中になっている。

 この合格者5000人の中で、設計に携わる人は半分程度の2500人くらいになるのだが、ここから将来の(あるいは現在の)有名建築家が誕生するのだから、(10人程度としても)確率は1/250程度だろうか。さて、この確率は高いのか?低いのか?

流行建築通信3/UFO


 ピンクレディ/UFO
 信じられないことばかりあるの
 もしかしたらもしかしたらそうなのかしら
 それでもいいわ近頃少し
 地球の男にあきたところよ

 薄い壁の実現には、断熱材技術の向上が欠かせない。
 断熱塗料が普及してきているが、これはもともとNASAの技術だ。
 思い出すのは、野口さんの乗ったディスカバリー号。断熱材が機体から剥離した。前回のコロンビア号落下の原因はこの断熱材の剥離だとされている。船外で作業する野口さんにも感心したが、断熱材もかなりの優れものだろう。飛行機やロケットの機内と外部との環境差異は建築環境の比ではない。(宇宙での剥離は人命に関わるが)
 実はこの宇宙断熱材の技術(JAXA参照)が民間企業に移転されることになった。建築分野への実用化も決まっている。これまでの断熱塗料をはるかに凌ぐ-100~+150度までに対応するという。もう断熱材は張るんじゃなくて塗るんだって。
 これでは、薄い壁の流行がますます加速してしまう。
 そのうち建物は新幹線やロケットみたいなかたちになる。
 当然、内部は完全な人工環境に間違いない。

 信じられないことでしょうけれど
 ウソじゃないのウソじゃないのほんとのことよ
 それでもいいわ近頃少し
 地球の男にあきたところよ