終身雇用があっての・・・
心より愛と感謝をこめて
「忘年会なんて、面倒くさい」「なんで仕事以外で会社の人と会わなきゃいけないの?」。年の瀬、職場の宴席を欠席する「忘年会スルー」が流行語になっている。同僚と集うのは、もう時代に合わないのか。
■軽々と欠席メール
東京・新橋駅前で、街ゆく会社員に聞いてみた。
「ワーク・ライフ・バランスと言っている割に、忘年会とは感覚が古い」。金融系の20代男性はバッサリと切り捨てる。出欠を尋ねるメールへの返信で簡単に断れ、周囲の同年代も職場の忘年会には出ないという。「気が合う仲間とだけ楽しんだ方がいい」と話す。
一方、幹事を務めているという製造業の男性(52)は、「どんなに準備しても、興味がないと言われるとがっかり」と言う。一方で、「本音を言えばこっちだってスルーしたい。パワハラ、セクハラとうるさい時代だから」。
ホットペッパーグルメ外食総研が首都圏や関西圏、東海圏の男女約1万人に聞いたところ、仕事関係で忘年会や新年会をすると答えたのは全体の45%。2012年度からほぼ横ばいだ。
■天平の職場も酒食
社会学者の園田英弘さんが書いた「忘年会」によると、室町時代の皇族の日記に、年末の歌会で酒を飲み、乱舞する描写が出てくる。「年忘(としわすれ)のよう」という記述があり、「忘年会の一応の起源の一つ」とされる。
さかのぼって奈良時代、日本人は職場で酒食を囲んでいた。新元号の「令和」は、九州・大宰府の公邸での開宴の辞から採られたものだ。奈良大学の上野誠教授(万葉文化論)によると、宴(うたげ)は行政府を維持するために必要だった。
宴席ではまず、地位の高い者があいさつし、上下関係を確認。宴会が進むと、酒と歌の効果で座が崩れ、参加者はふだんとは違う関係性を築く。最後に再び上司が場を締め、日常に戻るのは、現代の忘年会と変わらなかったという。
「多様な人間関係をつくることで、円滑に仕事ができる。宴は秩序とカオスを持ち合わせた政治そのものだ」と上野教授は語る。「終身雇用が当たり前でなくなった現在の企業では、かつてほど人間関係を重視する必要がない。『忘年会は仕事の一環』という考え方は変わってきている」
■企業側は開く工夫
忘年会は仕事なのか。労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は「トップがあいさつするなど、公的行事の要素が強ければ仕事」と指摘する。ただ賃金は発生しないため、欠席したからといって評価を下げたり、ペナルティーを科したりすることは適当ではないという。
忘年会で気が重いのは上司への対応だという人は少なくない。「送別会と異なり、忘年会は誰のために開催するのかが、あいまい。上司が主役になりがちだ」と指摘するのは、明治大学の堀田秀吾教授(社会心理学)だ。だが本来、上司と部下が一緒に飲むことで、コミュニケーションとアイデアが生まれる場として評価されていいという。企業の中には忘年会を昼食の時間に開いたり、託児付きで設定したりするなど、絶やさないように工夫する動きもある。
嫌な上司はどう対処したらいいのか。「なぜこんな風にしか話せないんだろうと分析しながら話を聞くと、脳が活性化し、感情を抑える訓練にもなる。無駄だと思うところに、意外に宝があるんです」(江戸川夏樹)
本日 朝日新聞 朝刊 より