「らくちぜーしょん」良いですね♪♪♪

 

 心より愛と感謝をこめて

 

在宅栄養専門管理栄養士・安田和代さん

 今回は、クリニックの歯科衛生士と連携したケースを紹介します。脳腫瘍(しゅよう)の一種、神経膠腫(こうしゅ)末期の男性Aさん(享年69)です。うちのクリニックでは、口から食べている方も、食べていない方も、「食支援」として関わります。

 

 2017年7月から訪問するようになりました。きっかけは、奥さんからの「正月に雑煮を食べさせたいので、安全な調理法を教えてほしい」という依頼でした。毎年お雑煮はAさんが家族に作っていたのですが、次の正月はそれが難しそうでした。Aさんが食べやすい雑煮を奥さんが作れるように、調理方法をお伝えしました。

 

 ところが、お正月が過ぎて間もないころ、症状が悪化し、鼻からチューブで栄養を入れることになりました。その後は意識がぼんやりしていて、食べることは厳しくなりました。そこで私は歯科衛生士の合掌かおり(49)と話し合い、口のケアを中心に関わることにしました。終末期になると、どうしても口の中が汚れて臭うことがあります。口の中をきれいにして、本人の好きな物を口に含ませ、味と香りを楽しんでもらうことにしました。

 

 うちのクリニックではそのような関わりを「らくちぜーしょん」と呼んでいます。食を楽しんでもらう「楽(らく)」と、口腔(こうくう)ケアで「口」の中が「楽(らく)」になることを意味します。

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 私たちはご自宅で、Aさんの大好物のコーヒーをいれることにしました。合掌が口の中をきれいにする傍らで、ミルでコーヒー豆をひきました。すると部屋中に良い香りが漂いました。合掌の指導で、ご家族ができたてのコーヒーを綿棒に浸し、口の中をマッサージしました。温かいカツオだしや昆布だしも試しました。ご家族は「お父さんの反応がいつもと違う」と喜んでいました。

 

 家族に口のマッサージをしてもらうことには、もう一つ意味があります。本人の喜びだけではなく、家族の満足度を高めることにもつながるのです。本人に食べさせてあげることはできないけれど、家族ができることの一つに、口腔マッサージがあるのです。

 

 関わって1年4カ月、18年11月にAさんは静かに旅立ちました。みんなで口腔ケアに関わることで、熱が出ることもなく穏やかに過ごせました。亡くなった後、ご自宅にお邪魔したとき、奥さんが「大好きなものを最期まで味わえて、お父さんは幸せだったと思います」と言って下さいました。実際に食べることは難しかったのですが、味や香りを感じてもらうことはできました。他職種と関わることで、管理栄養士としてできることの幅が広がると思った事例です。(構成・佐藤陽)=全7回

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 在宅栄養専門管理栄養士・安田和代さん 1964年岐阜県生まれ。摂食嚥下(えんげ)リハビリテーション栄養専門管理栄養士などの資格も。急性期病院、保健所、療養型病院勤務を経て同県岐南町の総合在宅医療クリニック勤務。

本日 朝日新聞 beより