政次同様(?)神宮寺川沿いの県道を下ると、井伊谷の中心地に出る。谷間の平地を領地としていた支族たちとは異なり、さすがに本家の直轄地は農業に適した平地が広がっている。
上の空中写真中、①は井伊谷城跡、②は竜潭寺である。また竜潭寺のすぐ北に★で示したのは、ドラマでは南朝の皇子さまとして会話の中で登場する宗良親王を祀った井伊谷宮(明治5年創建)である。もともとはここまで竜潭寺の寺域だったのではないだろうか。
【浜松市地域遺産センター】
この施設は、地域の文化財の保存、研究、活用を目指して(おそらく大河ドラマにあわせて)発足したもののようだ。少し古い地図を見ると引佐協働センターととあることから、いくつかの施設や組織を統廃合させての発足かもしれない。
展示は2階。それほど広い部屋ではないが、ビジュアルを工夫した展示の様子がうかがえる。大河ドラマ関係では、直親愛用の青葉の笛のレプリカと直虎発給の徳政令文書(複製)が目についた。
大河ドラマ関係以外にも常設として発掘された土器などが展示されていた。中でも目を惹いたのは、木喰上人による仏像である。写真は十王像のうちの五体だが、説明によれば、引佐狩宿の寿龍院(奥山から北西に行ったあたり)で彫られて納められたものとのことである。
【井伊谷城跡】
地域遺産センターの駐車場は、城跡巡りのためにも使って良い、というセンターの方のお言葉に甘え、車をおいたまま城跡へと向かった。
麓から見上げる井伊谷城跡である。比高80mぐらいの山頂に城は築かれていた。
大河ドラマにあわせて整備され手すりもついた登山道を登ると、虎口に到着する。登山道の両側にしっかりと土塁が残っている。
展望台も整備されており、そこから井伊谷を眺める。手前の矢印は竜潭寺の位置。ドラマ第4回では、千賀(財前直見)が侍女たけ(梅沢昌代)に「出家と言っても裏の寺に行くだけ」とたしなめていたが、実際にはもう少し遠い。館の位置(後述)も考えると裏というのも変である。むしろ「すぐそこの寺」と言う方が正確ではないだろうか。
また、竜潭寺の奥に見える山を越えると金指の地、そして都田川沿いの祝田、瀬戸、刑部が広がる。そして一番遠くに見える地平線は三方原台地である。
山頂部には土を固めた高まりがある。表示板には「御所の丸」とあったが、城に籠もった際の居住施設があった場所ということだろう。
北東方向を見るとピークが3つ連なる山が見える。それでついたのかどうかわからないが、矢印の山が三岳山。ここには南朝の皇子さま(宗良親王)が籠もった三岳城があった。
ドラマでは全く語られていないように見えるが、実は第1回、軽率な井伊直満(宇梶剛士)が今川義元(春風亭昇太)の前で突きつけられる書状に、「…御嶽城鬱憤…」という文言が見える。これは遠江守護である斯波氏に付いて侵略者今川とこの城に籠もって戦い、井伊が敗れた戦のことであろう。義元の父氏親(つまり寿桂尼の夫)の時代のことである。
【井殿の塚と井伊館跡】
井伊谷城跡から下山し、少し東へ行くと井殿の塚に行き当たる。
ここは、謀叛の疑いで今川によって切腹させられた井伊直満、直義兄弟の墓(これも宝篋印塔)である。ドラマでは直義は登場しないし、少し離れて寂しい場所に埋葬されたことになっていたが、実際には館の北西隅だったようである(後述)。
この井殿の塚から東南一帯が井伊館跡ということになるが、現在はすっかり住宅地になってしまっており、沼津城よりももっと跡形もない。
公民館の前に表示板があるのが唯一の目印かもしれない。
と思って表示板を読むと、南側に堀の痕跡があると書かれていた。ぷらタコり精神を発揮して探すことにする。
表示板にあった館跡の推定位置と堀跡(?)を空中写真に当てはめてみた。館は方一丁の大きさであり、少なくともその南側に堀があったことになる。ドラマ第3回では、駿府からおとわ(新井美羽)が無事に戻った喜びのあまり、父直盛(杉本哲太)が腰まで浸かって渡る堀であった。仮にこの溝が堀跡だとして、実際にはどうだったのだろうか。まさかこの幅と深さということはないだろう。長い年月の間に埋もれてしまってこのようになったのだと考えたい。
空中写真には、井伊谷城跡に到る登山道を点線で、山頂の土塁(で私が確認できた部分)と中央部の高まりを黄色の実線で描き込んだ。
また、地域遺産センターにあった説明によれば、井伊館の東方には中野氏の館が、南西方向(地域遺産センターの南ぐらい?)には新野氏の屋敷があったらしい。
最後に蛇足。空中写真中ほど下にある★である。ここにはミカンの木があるのだが、どうも1月16日放送の「鶴瓶の家族に乾杯」で鶴瓶と柴咲コウが気にしていたミカンではないのかな??と思うのである。回りの景色を見てもそんな感じだし…
(続く)
【参考文献】
小和田哲男 「井伊直虎 戦国井伊一族と東国動乱史」洋泉社歴史新書(2016)
浜松市地域遺産センターのサイト