前から随分と間が空いてしまったので、こちらも参照ください。
私見 "こうして欲しかった"シン・ウルトラマン①(ネタバレ注意) | 怪獣玩具に魅せられて (ameblo.jp)
妄想が止まらない。「こうなって欲しかった、『シン・ウルトラマン』」① | 怪獣玩具に魅せられて (ameblo.jp)
妄想が止まらない。「こうなって欲しかった、『シン・ウルトラマン』」② | 怪獣玩具に魅せられて (ameblo.jp)
ウルトラマン敗退後の人類の様子
ゼットンは宇宙空間にて完全体となるべく精製を続けている。その姿は、地球上からでも目視できる。
政府はウルトラマン(=神永)から聞いた事実を一度は隠そうとしたが、ウルトラマンが地球に落下したのを多くの人が目撃しているため、隠しきれるはずがなかった。政府により、ゼットンとゾーフィ(銀河連邦からの使者)の目的が公表される。
世界はパニックに陥った。ザラブ・メフィラスなど、数々の外星人の企みに翻弄されてきた日本政府と、地球消滅の遠因となったウルトラマンに協力していた禍特対への批判は特に苛烈を極めた。
このままゼットンが完全体になる前に、人類同士の争いで滅亡するかと思われるほどだった。
が、二週間もすると(もちろん、その間に多大な人的被害が出るのだが)、暴動は次第に沈静化していく。
人類史上類を見ない恐慌になるはずが、関係者全員の予想を裏切り、世界は日常に回帰しようとしていた。
浅見「どういうことなのでしょう」
田村「受け入れられないんだ、現実が。ウルトラマンでさえ負けた。圧倒的すぎる力差を前に、何をやっても無駄だと分かった。その事実を前にして――そして、背を向けているんだ」
ウルトラマンとゼットンーー地球人にとっては、どちらも人智をはるかに超えた存在であり、その両者の激突、そしてウルトラマンの敗北の結果が呼び起こす次の展開も、地球人の創造力や現実認識力の許容範囲を超えている。ゆえに、ゼットンによる地球自体の滅却も、「その時」が来るまでは実感として感じられない。そうなると、日常に回帰するしかないのだった。
浅見「一種の現実逃避、そういうことですね」
浅見は物憂げに呟く。神永の意識は、まだ戻らない。
人類側の抵抗
世界は諦めていた。実感のない終焉。ゼットンがいつ地球に飛来するかはわからず、それまでは地球の上に浮かんでいる禍々しい姿を、恨めし気に睨むしかない。
世界は日本に責任を押し付けようとするが、押し付けたところでどうにもならない。国同士の小競り合いなど関係なく、地球そのものがなくなるのだから。いつしか各国は議論を止めた。国の最高機関が悉く思考停止する中で、そこに住む市井の人々によって、変わらぬ生活は続けられていた。
禍特対も事実上解散している。浅見は神永の病室に付き添い、田村は一人、やるせなさを噛みしめるしかない。そんな中で、一人だけ、本部で研究を続けている者がいた。
それが、船縁由美であった。
真夜中、研究を続ける船縁のところに、酔っぱらった滝が現れる。
希望を持ち続ける船縁に対して、滝は酔いに任せてまくしたてる。
滝「バカバカしい! ウルトラマンでさえ勝てなかった相手に、僕らができることなんかない。奴にしてみれば、僕らなんかアリと同じなんだ。何をどうやったって辿りつけない、絶対的な生物なん――」
ハッとする滝。その瞳が、水を吸ったように広がる。
滝「そうだ――。なぜ、奴は生きているんだ」
滝が見い出した疑問は、そもそもの根本に立ち返るものだった。
地球を支配するために、外星人は「生物兵器」たる「禍威獣」を利用した。
「兵器」としての「生物」を使った。
メフィラスはそれを「現地調達」であると言った。確かに、それには一理ある。外宇宙から別の兵器を持ち込むよりも、現地に存在し、現地の環境に適応しているものを使う方が遥かに効率的である。
だがゼットンの場合は、必ずしもその理に当てはまらない。
ゼットンの目的は地球の滅却である。1兆度の熱球さえ精製できれば、それで良い。
生物である必要がない。それこそ、外宇宙で核爆弾に相当するものを一発ぶち込むだけでも事足りる。
にも拘わらず、何故、ゼットンは「禍威獣」なのか。何故、生物なのか。
滝は必死になって考え始める。船縁は冷静な目で、その背中を見守っている。
長い長い思考の果てに、滝は複数の仮説にたどり着いた。
ゼットンが生物でなければならない理由--
①燃費の悪さ。1兆度の火球を精製することにエネルギー容量の殆どを使いきる。パソコンに譬えると、一つのプログラムの実行にメモリの大部分を使ってしまうので、それ以外の行動をプログラムすることができない。またゼットンはその攻撃方法から遠隔にならざるを得ず、一から十まで全てプログラムを入力した場合、あらゆる可能性に対応させるためのプログラムがすさまじく膨大になる。よって「生物兵器」とすることにより、行動の一部の自己選択させることを選んだのではないか。
②有事の際の「選択」を可能とさせたため。ゼットンの任務はただ一つ、1テラケルビンの火球の精製だが、惑星によっては総力を挙げて反撃してくる可能性もある。ゼットンの火球精製には相応の時間がかかり、さらにエネルギーの殆どを精製に転用するために、迎撃システムはあっても、その場の状況に柔軟かつ即時的正確に対応するプログラムを組みこむ余裕はない。電磁光波防壁を360度、長時間にわたって展開させる容量もないため、包囲的攻撃を受けた場合にどの攻撃に対して優先的に対応するかを、自立的に選択する必要があり、それを「生命」の部分が担っているのではないか。
要は、1テラケルビンなんていう桁外れのナニを作り上げるためにステマ全振りしている状態なので、それ以外の部分を生物の自立的行動で補っているのではないかということ。
ならばそこを突けば――あるいは勝機があるかもしれない。
滝の「仮説」は禍特対から室長へ――そして、世界へと伝えられた。
滝の仮説は、仮説でしかない。それを基に対策を考えるうえで、一切の枠を排除した幅広いアイデアが求められた。
ウルトラマン、禍威獣--人智を超えた存在を相手にする以上、これまでの「常識」に囚われている場合ではない。
どんな空想でも、真剣に考えれば科学に繋がる糸口が見つかる。それが空想科学である。
世界有数の叡智、一般の人々の空想、子どもの突飛な発想……
それら一切が混在となった中で、禍特対を中心に、具体的なプランが立てられ始める。
作戦は3段階。
①精製が完了し、大気圏内に飛来してきたゼットンに対する全包囲攻撃。ゼットンは自身が1テラケルビンの火球を精製できるのだから、熱エネルギーへの耐久性はとてつもないものがあるが、貫通ミサイルなどの衝撃に対する耐久性は未知数。前述の「ステマ全振り」から考えると、熱への耐久よりは劣るのではないか。よって、熱兵器ではなく、貫通爆弾などを多用して、全方位からゼットンに攻撃をかける。全方位から同時に攻撃した場合、ゼットンはその中から特に自分にとって脅威となる攻撃に対して迎撃プログラムを起動させるはず。全ての攻撃に対応はできず、ダメージは与えられなくても、その行動に隙を作ることはできる。
②その隙を狙ってウルトラマン登場。人類側の攻撃の中に紛れて接近する。
③ウルトラマンのベータ・システムを使って、ゼットンを次元の裂け目に飛ばす。その後すぐに次元の裂け目を閉じる。
しかしこのプランにはそれぞれの段階で大きな課題があった。
①ゼットンに一時的にでも隙を作らせるためには、今現在人類が所有している兵器の全てを同時に使用する程度の攻撃力が必要。ただでさえ国同士で小競り合いしている人類に、そうした総力戦が可能なのか。この作戦に参加した国の兵器在庫はほとんどゼロになるため、仮にゼットンを倒して延命したとしても、作戦に参加せずに兵器を温存した国から侵攻される危険が出てくる。全ては仮説の上に成り立っているため根拠に乏しく、外星人関連で信用を失っている日本の呼びかけに、どの国も応じてくれるとは思えない。
それに対して、班長の田村が提案する。
作戦に参加しない場合はその国を、今後外星人や禍威獣による侵攻被害があったとしても、庇護の対象とはしない。
作戦終了後に人類が生存している場合、日本が秘密裏に保管している「禍威獣」のデータや「ベータシステム」の情報を作戦参加国で共有する。外星人の技術を転用した兵器は今後、作戦に参加せずに、あるいは作戦に参加した場合でもすべての戦力を提供せず(自衛力は除く)、備蓄した兵器で他国への侵攻を計画した国に対して使用される。
以上の2点を、「対等の交渉」として各国に通達する。
外星人の科学力転用など可能なのか? という室長に対して、竹野内豊演じる政府の男が言う。
信じさせるしかない。これまで怪獣被害を一手に引き受けてきた日本が、主張するしかない、と。
だが残り②③の課題は、人類側の努力でどうにかできるものではない。
②ウルトラマンが復活してくれること。こればかりは、ウルトラマン本人にしかできない。
復活を願って、人類側でできることをするしかない。
③ベータシステムを使って、ゼットンを異次元の狭間に放逐することができるのか、ということ。
これもウルトラマン頼みになってしまう。が、お膳立てだけして、肝心の部分を全てウルトラマン任せにすることに、禍特対はじめ多くの人が疑問を呈する。禍威獣との直接対決はウルトラマンに頼むとしても、せめて作戦のイニシアティブは人類が取るべきではないのか。--。
ベータ・システムの原理に繋がるものさえ分かれば……。悔しそうに唇をかみしめる滝。
話し合いのために、本部に集まる禍特対。その時、浅見のパソコンに2つのファイルが送信される。
1つは音声ファイル。もう1つは、数式が並ぶpdf。これを見た滝は目を輝かせる。
音声を再生すると、このようなメッセージが吹き込まれていた。
音声「ベータ・システムをめぐる我々の交渉は決裂に終わりました。が、私はウルトラマンと相いれなかっただけであり、地球人との交渉は未だ継続中であると考えております。むろん、私の真の目的が公に知らされた今、前回と同様の交渉については一顧の余地だにないことは承知しております。確かに私は本来の目的を隠していましたが、一方で、地球生命に対する私の気持ちは偽りのないものであります。私は、この地球を愛し、むざむざと宇宙の塵と化すことを望みません。よって、以前の私の企てに対する贖罪として、提供するはずであったベータ・システムの原理について、皆さんの言語で翻訳したものを送りましょう。これをどのように使うか、それは皆さんの手に委ねます」
音声「『人事を尽くして天命を待つ』。私の好きな、そして苦手な言葉です。叶うなら、私が天命の場に立って、皆さんを導く存在となりたかった。『地球を、あたなにあげます――』あの時、何よりも欲しかった“禁じられた言葉”。しかしウルトラマンおよび銀河連邦の監視下にある地球は、もはや私がいられる場所とはならない。せめて、あなたがたの青く美しい惑星が、今後も存在し続けられますよう、遠い外宇宙よりお祈り申しあげます。 メフィラス 拝」
田村「これは――罠だと思うか?」
浅見「他の目的はあると思います。地球が延命し、メフィラスに借りができれば、再び交渉のテーブルにつける。そうした計算はあるでしょう。だからこそ、こっちのファイルの中身は信用して良いと思います」
竹之「悪魔が危険なのは、まやかしの中に真実を混ぜるから――。しかし今はその真実を、最大限利用するしかない」
メフィラスから贈られたファイルは、滝の手によって研究された。
ベータ・システムによって異次元の狭間を作る。そのためには、ベータ・カプセルによるプランク・ブレーンとのリンクを重層的にし、次元を捻じ曲げることによって「ひずみ」を作るしかない。「ひずみ」はブラックホールのようなものだから、すぐに閉じなければならない。よって、
①1回目のベータカプセル起動によりウルトラマンが現れ、ゼットンに接近。
②2回目の起動と共にゼットンに衝撃を与え、異次元の狭間に叩き込む。
③ウルトラマン含めて、他のものが呑み込まれる前にベータ・システムをシャットダウンし、異次元とのリンクを切る。
となる。この②と③はほぼ同時に行う。
来るべき時に備えて、世界は急にあわただしくなった。ゼットンに対しては人工衛星による監視を続ける一方で、世界中から対ゼットン用の兵器を呼びかける。交渉は難航を極めたが、ベータ・システムの謎を解明した事実が作戦に現実性と具体性を与え、一部の国を除いて協力体制が整っていった。
そうしている間にも、ゼットンはウルトラマンと闘った時に浪費したエネルギーを取り戻しつつあった。が、人工衛星による監視など、人類がゼットンに向けて何らかの対策を練っていることは明らかであった。また銀河連邦が設定したタイムリミットは刻一刻と迫っている。火球は1テラケルビンには及ばないが、それでも地球を滅却させるに足るエネルギー量での精製は可能と判断したゼットンは、その身体の精製が完了した時点で大気圏に突入することを決定する。