2024年8月26日厚労省にてビタミンB12大量筋注療法承認
本日添付文書が作成されたとのことでエーザイよりご紹介
ロゼバラミン®(メコバラミン)25mg/vial
1日1回50mg、週2回筋注
進行抑制目的で使用
心配していた発症1年以内の縛りに関する文書記載はなし
MRさん曰く、すでに生産はされているらしいとのこと
薬価収載(値段決定)が3-6ヶ月後におこなわれたらすぐに臨床にて使用可能
2024年8月26日厚労省にてビタミンB12大量筋注療法承認
本日添付文書が作成されたとのことでエーザイよりご紹介
ロゼバラミン®(メコバラミン)25mg/vial
1日1回50mg、週2回筋注
進行抑制目的で使用
心配していた発症1年以内の縛りに関する文書記載はなし
MRさん曰く、すでに生産はされているらしいとのこと
薬価収載(値段決定)が3-6ヶ月後におこなわれたらすぐに臨床にて使用可能
雑誌:Viruses. 2021 Nov; 13(11): 2301.
タイトル:TDP-43 and HERV-K Envelope-Specific Immunogenic Epitopes Are Recognized in ALS Patients
(ALSにおけるTDP43とHERV-K(ウイルス)抗原の認識)
Free full text→こちら
<管理人前置き>脳神経内科の病気は病因ごとにわけて考えるのが一般的で血管性(脳梗塞など)、感染性(髄膜炎など)、腫瘍(脳腫瘍など)、変性(ALS、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症など)、自己免疫(多発性硬化症、視神経脊髄炎など)、先天性(水頭症など)、外傷、内分泌、薬剤性などにわかれます。ALSは変性疾患に属していますが、これがウイルスによる感染性に属するならば大発見かと思いますが、今回の文献はHERVというウイルスで古代にDNAに組み込まれてそのままヒト子孫へ遺伝してきた内在性ウイルスです。レトロウイルス(HIV、HTLV1、HERV等)ならばHIV同様HARRT療法など抗レトロウイルス薬により改善が期待できます。しかし文献は治療の内容ではなく抗体価の内容になっており治療の話がでてきません。お忙しい方は下の要旨だけでも閲覧頂ければ幸いです。
<以下本文>
<要旨>
Human endogenous retrovirus-K(HERV-K)とTAR DNA-binding protein 43(TDP-43)はALSの病態に関与している。
HERV-K表面抗原と血漿中のTDP43に対する抗体をALS患者(1長期生存者、2発症間もない患者)と健常人で測定した。ALS患者ではHERV-KとTDP43への抗体が相関関係で上昇する一方で健常人では相関的な上昇はみられなかった。
HERV-KとTDP43に対する抗体はALSにおけるバイオマーカーになる可能性がある。
<背景>
ALS欧州疫学
弧発性58~63歳発症ピーク、やや男女に多い
家族性47~52歳発症ピーク、男女同率
(J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry. 2009;81:385–390)
環境因子
喫煙(J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry. 2010;81:1249–1252.)
過度の運動(Neurology. 2002;59:773–775)
化学物質への暴露(Funct. Neurol. 2016;31:7)
(予備知識)レトロウイルス属はRNAしか持っておらず、細胞内に入るとRNA→DNAを作成する。これを逆転写と呼ぶ。このDNAがヒト細胞内のDNAにどかっと割り込んで占拠する。
その後DNA→mRNA→tRNA→粗面小胞体内のリボソームにて蛋白を合成する(なお滑面小胞体にはリボソームが存在しない)。ここらへんは小胞体ストレスを減らす話題のAMX0035にも関与する部分なので重要。
<ウイルスとTDP43について>
同じレトロウイルス属でもHIVと異なりHERVsは病的異常を起こすことがなく、DNAへの組み込みは数百万年前からおこっていた可能性がある。この病的意義を持たないHERVsが人間のDNAに組み込まれて遺伝してきたものである。HERVsはヒトゲノムの8%を構成するが、重要性のないDNAだと考えられていた。HERV-KのHML2サブタイプがごく最近登場してきた。このサブタイプはHERVsの中でも最も逆転写(RNA→DNA組み込み)が盛んである。
動物モデルでHERV-Kを発現した運動ニューロンを持っている場合、進行性の運動機能障害を呈した(Sci Transl Med. 2015 Sep 30; 7(307): 307ra153.)(→つまりHERV-K蛋白合成を抑制できれば運動ニューロン機能改善の可能性がある)
HERV-KはTDP43が結合し発現を抑制している(LTRという部位の4カ所に結合)。
TDP43を保持する運動ニューロンはHERV-Kが増量した。内因性TDP43をなくしたニューロンではHERV-k発現が減少した。
HERV-k env-su領域への抗体は血清と髄液にてALSで有意に増加し、多発性硬化症、アルツハイマー型認知症、健常人では増加しない報告がある。
同じくレトロウイルスに属するHIVではTDP43リン酸化強化によりTDP43が増量する。
HIV感染でALS類似症状を来した症例があり、HAART療法で部分的症状改善を認めた(J Neurol Sci. 2006 Jan 15;240(1-2):59-64)。
TDP43はmRNAの転写、スプライシングや安定化、その他顆粒形成や蛋白間相互作用に関与するため生体内でかかせない蛋白である。特に成長期の中枢神経発達にはかかせない。TDP43は細胞内で核と細胞質を行き来している。この行き来を遺伝子的に変異させるとリン酸化とユビキチン化したTDP43の細胞内蓄積を生じた(ほとんどのALSで細胞内にTDP43が蓄積)。
染色体の1番に位置するTARDBP遺伝子により産生されるTDP43蛋白は414個のアミノ酸からなる。とくにこのC末端がHERVに結合するため重要
<方法>
ALS45人(平均64歳、28人男、17人女、診断されたばかりの人は27人、長期生存者は18人)、年齢と性別が類似した献血者をコントロールとした。
HERV-K-env-su(20-38)
TDP43(258-271)
TDP43(398-411)
リン酸化されたTDP43(398-411)を抗原として抗体をELISAで調べた。
<結果>
ALS群ではHERV-K-env-su(20-38)への抗体が上昇している群ではTDP43(398-411)とリン酸化されたTDP43(398-411)の抗体が相関関係で上昇していた。健常人では同様の相関関係はみられなかった。
Figure 3(→こちら)、A,C,EがALS群、B,D,Fが健常人
<管理人感想>figure3をみてもわかるように健常人グループでも相関関係がある例も散見されることと、ALS群で抗体の上昇が乏しいALS患者も多く、バイオマーカーとしてはちょっと弱いのではないかな、と感じました。
HIVとHERVはレトロウイルスに属しています。HIV(HTLV1含む)でALS類似症状を呈した例も多数報告があります。HERV陽性例で抗レトロウイルス治療法を用いてALSの症状改善や進行抑制をしたかどうかという点が皆様興味あるのではないでしょうか。しかしTriumeqなどまだ治験phase2で安全性が確認された段階です(Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2019 Nov;20(7-8):595-604.)。phase3まですすんでいるような文献は探しだせませでした。今後治療法が期待できる分野です。もしまた機会があれば治療に絡んだ文献を探せれば幸いです。
前回の続きです。
JETALSのwebパワーポイント(→こちら)の中の引用文献のabstractだけみてみました。
ALSは発症1年で70%のα運動ニューロンが死滅する(Neurology. 1998 Aug;51(2):603-5.)
ラットの皮質ニューロンを用いた実験ではグルタミン酸で死滅したが、B12を併用したところ皮質ニューロンを保護できた(Eur J Pharmacol. 1993 Sep 7;241(1):1-6)。
亀山先生(脳神経内科の大家)の写真とB12でぴくつき(線維束性収縮)を減らせる、との記載がありましたが、文献にはなっていないようでした。筋弛緩薬で線維束性収縮を減少しても下位運動ニューロンの過興奮が抑制できていないので意味がありませんが、下位運動ニューロンの過興奮を抑制した結果線維束性収縮が減少したとなれば凄い報告になるかと思います。
JETALSのHP上(→こちら)で、128人(50%B12 50mg/週、50%プラセボ)予定、治験期間2017年10月~2022年3月予定(もう終了)。B12を週2回(少なくとも1日以上あける)。筋注は1回2mlを2カ所(肩、大腿、殿部)。
もう終了しているはずですがまだ論文化されていません(厚生労働省へ製造承認(保険申請)する際に論文化は必ずしも必要ありません。ラジカットの論文なしで治験データだけで認可されました)。ビタミンB12特殊製剤の製造承認をしたというエーザイからのプレスリリースもまだありません。
<管理人考察>ブログ14より、発症1年以内にビタミンB12を50mg/週筋注すれば延命および機能抑制が示されました。
ALSになった方は治療法がない厳しい状況にあるため治療法がほしいところです。実はお金さえあれば上記の治療を受けることは可能です。基本的に病院というのは3割負担の患者さんだったら残りの7割を国保や社保などへ保険請求することにより利益をあげて病院を運営しています。もしALSの特定疾患受給者証をお持ちの場合、収入額により異なりますが、病院や薬局など保険期間での支払い上限が設けられます(月max2500円など)。病院としては残りを同様に保険請求し病院運営しています。
保険診療外=自由診療(10割負担)でビタミンB12超大量筋注療法をうけることも可能です。混合診療の問題があり、保険内受診日と同日に10割負担での治療は受けられません。そのため受診日とは別日に理解のある病院へ受診します(極端な話保険の問題がないので開業医や美容皮膚科なども有効性さえわかっていれば応じてくれるかもしれません。総合病院や大学病院では小回りが効かないので困難かもしれません。B12は大きな副作用もなさそうです)。
問題は量です。2021年の国内メチコバール注射液0.5mg/0.5mlの1アンプルで107円です(国内にはこの濃度しかありません)。1回25mgを週2回筋注するとなると1回あたり50個必要で約5400円、25mg/25mlとなります。治験ではエーザイの協力の元12.5mg/2mlという製剤を造ったのでしょう。1回の注射が25mg/4ml(またはプラセボ4ml)ですみます。薬代は5400円なので週2回、月約8回で約4万円強でしょうか。それに良心的なクリニックを探すことができれば再診料、投薬料もなんとかなるかもしれませんね。ただし25mlの筋注というのは相当痛そうです。海外にはB12(5mg/ml)で30mlいりのものが34ドルで売っていますが、まあ輸入までやってくれる医療機関は少ないと思います。
25mlなら氷を用いて痛覚神経を麻痺させた部位に筋注が望ましいです。注射の痛みは温度、注入速度、濃度、pHによります。薬液をぬるくした状態でゆっくり注入する、これが基本となります。
これがブログ13の治験にあるように多発性硬化症の薬などでは保険外ですと1日8000円程度かかりますので大富豪以外はちょっと手がだせない領域になるかと思います。
雑誌:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Apr; 90(4): 451–457.
タイトル:Ultra-high-dose methylcobalamin in amyotrophic lateral sclerosis: a long-term phase II/III randomised controlled study
Free full text→こちら
治験ナンバーNCT00444613
<管理人前置き>
昔、国内でアメリカ人講演者を招いた研究会がありました。管理人も参加していましたが会場の中では英語が飛び交っていました。そんな会場内で「あれ、もう一人native speakerがいるぞ」、と聴いていたら上記論文の筆頭著者の梶先生でした。英語の発音、アクセント、イントネーションが完璧でした。
梶先生は元徳島大学教授、現在宇多野病院院長とのことですが、57回(2016年)日本神経学会(年1開催)のテーマは「なおる神経内科をめざして」でした。脳神経内科という分野はとりわけ治療介入できる病態が他科に比べて少ないのが現状です。梶先生はジストニアへのボツリヌス毒素なども詳しく、治す脳神経内科を目指している姿勢はとても共感できました。こういった先生のことをスーパードクターと呼ぶのだろうと感じました(面識はありませんが、、、)。
上記論文をみようとしたのですが、端的な結論から申すとビタミンB12で発症1年以内のALS患者には約600日の延命効果があったが発症1年以降の患者では有意差がつかなかったという内容です。今回の治験と発症1年以内の患者に限定した治験を行う説明を日本語でパワーポイントにわかりやすく記載されたものがweb上にあります→こちら
<以下文献本文>
<ビタミンB12>
B12はホモシステインの再メチル化を促し、ホモシステイン濃度を下げて神経毒性を回避。
Extracellular signal-regulated kinases(Erk)1/2とAktを活性化し神経を長持ちさせる
B12はグルタミン酸(Glu)毒性を抑制し、神経再生化を促す
B12は経口投与では胃の内因子の問題があって消化管からの吸収には限界がある。
B12は尿から排泄されるため副作用も少ない(赤い尿らしい)
<治験期間>
2006年~2014年まで日本の51カ所で治験
12週間観察のみ、182週間投薬
ALSFRS-Rと人工呼吸器や死亡までの期間を評価
<参加資格>
373人→370人(診断基準で3人除外)
20歳以上
Probableかdefinite ALS
発症3年以内(発症の定義に線維束性収縮や筋痙攣は含まない)
12週間の観察期間でALSFRS-Rが1~3点減点(進行の速さが同じくらいの集団にするため)
<除外基準>
気管切開
NIV(非侵的的喚起)の使用歴
%FVC60%以下(正常なら80%以上)
複数の伝導ブロック(神経伝導検査)
観察期間や治験中リルゾールの開始、用量変更がある患者
エダラボンを治験中使用していない患者
心、腎、肝の重篤な障害やB12欠乏を疑う採血血算所見がある患者
<グループ>
球麻痺、上肢や下肢麻痺発症、リルゾール併用者、参加前のALSFRS-R、12週間の観察期における減点のスピード具合により最初にグループ分けされた。
そこから
1,Placebo
2,B12 25mg/週
3、B12 50mg/週
週2回筋注
の3つにグループ化
370人中260人がstudyを終えた。ちなみにリルゾールは89.7%で内服
113人は参加継続するのを拒否したり上記除外基準に抵触したため中止した。
6名の患者が糖尿病でメトホルミンを飲んでいたがB12低下を示唆することはなかった(メトホルミンで通常B12が低下することがある)
3つのグループはどれも同じような配分であった。
Placebo群
123人中
平均62歳
初発部位
球麻痺24%
上肢48%
下肢26%
弧発性95%
家族性5%
ALSFRS-R
-1 点 34%
-2 点 46%
-3 点 35%
123人中38人が様々な理由で中止。86人のうち57人がNIVや気切または死亡により中止、29人だけが182週間治験満了した。
B12 25mg/週群
B12 50mg/週群の治験患者も上記とほぼ同様の結果であった
<Figure2>→こちら
AとBは発症全体患者で死亡などのイベントやALSFRS-Rスコアの変化はありません。
しかしCとDの発症12ヶ月以内の患者限定での比較では約600日の延命効果(死亡またはNIV、気管切開までの期間)やARSFRS-Rで進行抑制が認められました。
結論全体として有意差はつかなかったが発症12ヶ月以内へ限定すればB12によりALSへの延命、機能温存効果が示された。
<管理人考察>発症の定義が線維束性収縮と筋痙攣を除いた他の症状であること。
発症12ヶ月以内のALS患者へB12超大量筋注を行うと有効であったとのこと。大変勉強になりました。
ここで一つの仮説を思いつきました。ALSというのは発症前から複数の不明の誘発因子により引き起こされるようです(色々な文献にのっていますがブログ13参照)。遺伝子異常がALS全体の約15%にしかないことからも遺伝子だけでは説明しきることが難しい状況です(ブログ13)。
日本人に多いSOD1は常染色体優性遺伝なので50%の確率で浸透率も高いようですが、異常遺伝子をもっている(保因者)でも発症する人としない人がいます。
加えてALS発症前には大脳運動ニューロンの過興奮、線維束性収縮と脱神経、再支配などが徐々に起こってきます(ブログ2)ので発症前の段階でB12を投与すればホモシステイン毒性減少、(Erk)1/2とAktを活性化し上記の運動ニューロン死滅過程を防御することができる可能性があります。そのためALSが心配な方やSOD1変異がわかっている方などは発症前からビタミンB12を内服していても効果があるかもしれません(あくまでも仮説です)。B12は1.5mg/日が保険適応ですが、ネットショッピングなどで0.1~5mgなどあり、1mg100錠が約2000円で購入できます(処方薬ですと診察料、投薬料、薬局での調剤料など細かな部分で費用が発生します)。水溶性で尿から排泄され副作用が少ないと考えられるビタミンB12ですが、長期投与で肺がんのリスク増加などの報告もあるそうです(Int J Cancer. 2019 Sep 15;145(6):1499-1503.)。詳しい因果関係は不明です。摂取は自己責任となり処方薬以外での薬害救済処置はうけることができないこともご注意下さい。
雑誌:Nat Rev Neurol. 2021; 17(2): 104–118.
タイトル:Improving clinical trial outcomes in amyotrophic lateral sclerosis
Free full text→こちら
<前置き>
2020年末のALS病態と治験などをまとめた文献になります。
最先端のトフェルセンの治験などは1年半前の情報になると少し古いかもしれません。
<ALS遺伝子異常>
ALSの発症は遺伝子変異(出生後変異含む)や環境因子をベースとして、不明の誘発因子によって複数の段階を得たあとに発症する。異常部位は患者によって多彩である。
ALS全体で遺伝子異常がわかっている例は15%以下。
ALSの家族性と弧発性の比率は家族性約15%(昔は約5%といわれていたがだいぶ増加)、弧発性約85%
遺伝子異常はタンパク恒常性、RNA機能、細胞骨格のどれかを変化させる
Table1(→こちら、英語)に遺伝子、蛋白、機能、染色体の部位、家族性と弧発性での変異頻度などが載っているのでそのまま転載。この中でもC9orf72(家族性20-50%、弧発性10%)、SOD1(家族性10-20%、弧発性2%)、TARDBP(家族性5%)、FUS(家族性5%)、OPTN(家族性4%)などの遺伝子異常が多い。
遺伝子異常があっても発症しない人がいる。遺伝子の多面的異常や不明の誘発因子が示唆されている。
<ALS病態>
ALSではグルタミン酸(Glu)毒性、ミトコンドリア構造異常、自己融解、ニューロンの炎症、軸索輸送障害などの異常がある。
ニューロンの周りに存在するアストロサイトやミクログリアも神経毒性物質(Glu等)分泌に関与。
TARDBP遺伝子変異がなくても、弧発性と家族性ALSのほとんどで細胞内にTDP43という異常タンパクが蓄積
(Figure1、ALS病態生理像要約)
ニューロン内のNa+増量→Ca2+増量→神経細胞死
Glu分泌増量→神経細胞内Na+とCa2+増量→神経細胞死
RNA代謝異常→核と細胞質間でタンパク合成異常→細胞死
SOD1変異→酸化ストレス増量やミトコンドリア機能異常→細胞死
SOD1変異タンパク蓄積→軸索でのニューロフィラメント蓄積や輸送障害→ニューロン死
SOD1変異タンパク蓄積→下位運動ニューロン周囲のシュワン細胞変性
遺伝子変異(TARDBP、FUSやC9orf72)→TDP43やFUSタンパクの蓄積→酸化ストレス増量、ミトコンドリア機能異常、軸索輸送障害→ニューロン死
ミクログリアから神経毒性物質(Glu等)放出→ニューロン死
アストロサイトのGlu解毒作用低下→ニューロン死
(Figure1は転載に許可が必要なため転載できません、ご興味ある方は文献1のfree full text内ご参照)
<バイオマーカー候補>
1,経頭蓋磁気刺激(TMS)で大脳皮質過興奮の定量的に測定。実際リルゾール投与後にこの大脳皮質過興奮抑制を証明。
2,血清もしくは髄液中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)
ALSの遺伝子や病態がかなり複雑なため個々の部位に対する治験薬の評価に何らかのバイオマーカーがあると便利
<既存薬のALSへの応用>
上記の病態生理に基づいて、すでに他疾患へ使用されている薬のALSへの応用治験がおこなわれている。
Table2(→こちら、英語)
いくつかあげると
Tauroursodeoxycholic acid(タウロウルソデオキシコール酸(アミロイドーシス(FAP)や胆石治療)1g+フェニル酪酸Na(尿素サイクル異常症治療)3g)(AMX0035):小胞体ストレスやミトコンドリア機能異常を改善。ALSではALSFRS-R評価にて進行抑制を確認。治験もすすんでいる模様。
Mexiletine(メキシレチン(抗不整脈薬)):Naチャネル遮断薬。ALSの筋痙攣頻度と強度を劇的に抑制(Muscle Nerve. 2018; 58: 42–48)。
Gluの受容体としてNMDAやAMPA受容体などが存在。
Memantine(メマンチン(アルツハイマー型認知症治療):NMDA受容体遮断。ALSの進行抑制はできなかった。
Perampanel(ペランパネル(てんかん治療)):AMPA受容体遮断。国内治験あり。結果未。
(詳細な説明は日本語のwebでも色々あり)
他にはEdaravone(エダラボン)なども日本国内で有効であったが、2020年のイタリアのstudyでは進行抑制効果が示されなかった(J. Neurol. 2020; 267: 3258–3267)。Methylcobalamin(ビタミンB12)は進行抑制効果が限定的であった。
免疫関係の薬ではテクフィデラ®(フマル酸ジメチル)(多発性硬化症)やIL2があげられるが結果未、Masitinib(チロシンキナーゼ阻害)(重症喘息)ALSFRS-Rで進行抑制。抗がん剤ではタモキシフェン(乳癌)2つのstudyで無効。別にアジレクト®(ラサギリン、MAOB阻害)(パーキンソン病)無効。その他table2参照
<遺伝子や細胞への治療>
脊髄性筋萎縮症(SMA)へantisense oligonucleotides(ASOs)(スピンラザ®、ヌシネルセン髄液注射)の有効性がすでに証明された。
またTDP43タンパクが蓄積するTARDBP遺伝子変異を阻止してしまうと、細胞の生存が不可能になる(つまり少量のTDP43は細胞維持に必要)。
ASOs薬として変異SOD1のmRNAを減量するtofersenがあげられる。経口や点滴より髄腔内投与が一般的で、adeno-associated virus(AAV)と一緒に投与することにより運動ニューロン内でmicroRNAを書き直す(ASOは消化管から吸収できない)。それにより異常蛋白産生を抑制できる。Tofersenは髄液中の異常SOD1蛋白の減量に成功したと2020年に報告されている(N. Engl. J. Med. 2020; 383: 109–119)(ちなみに超簡略化すると細胞内DNA→mRNA→蛋白産生。SOD1は遺伝子名であり、そこから産生される蛋白もSOD1蛋白とよぶ)。
現在髄液内への投与は腰椎穿刺を必要とするが、ナノテクノロジーにより将来的に腰椎穿刺よりももっと簡便な方法がみつかるかもしれない(J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry. 2020; 91: 849–860)。
SOD1以外にもC9orf72へのASOs薬2020年末時点、治験前の研究がされている(2022/4までにもう少し進歩しているだろう)。具体的には6塩基配列(GGGGCC)の繰り返しにより毒性のあるRNAが産生されているためこれを制御する薬となる。
ASOs薬は点滴では血液から中枢神経へ移行する血液脳関門(BBB)を通過することが中々難しい。加えてmRNAをターゲットにした場合に想像以上の精密さが要求されるため実用が中々難しい薬である。
<遺伝子校正治療>
ALSの遺伝子異常が多様すぎるためfocusをしぼりきることが難しいようなことが記載されている
<幹細胞治療>
現在の治験ではALSの進行をいかに抑制できるかということに焦点があたっているが、ALS患者としては機能維持回復のための幹細胞移植など劇的に改善させる薬を期待している。複雑な運動機能ネットワークは大人になると成長が失われる部分である。実用的なオプションというよりも理論上の治療にとどまっている。病態を改善させるはっきりとしたエビデンスが得られていない(一部の症例では安全性や部分的改善の報告がある)。
<臨床治験の患者選択>
ALSの原因は多様であり治験に酸化する患者選択はとても重要である。ENCALSモデルでは8つの項目が重視されている。
1,年齢、2,病気のステージ(El Escorial基準のdefiniteやprobable等)、3,発症部位(球麻痺、四肢、呼吸筋等)、4,肺活量、5,C9orf72の遺伝子状態、6,発症からいつ診断されたか、7,認知機能、8,機能スコア(ALSFRSR等)である。
病気の進行速度、類似した併存薬(リルゾール、エダラボンなど)投与状態などが望ましい。
<管理人考察>
本文献および引用文献から調査した中でも興味深いことはALS全体で現在わかっている遺伝子異常が15%以下であること、遺伝子もいろいろな部位の異常があることからまだまだ謎が多く原因が雑多なため、筋萎縮性側索硬化症というよりは筋萎縮性側索硬化症候群(scleroses)と呼んだ方が良いのかもしれません。
ALSへの治療薬がリルゾールとエダラボンしか保険適応がないため他の治療法がほしいところです。HIVなどの治療の考えと類似していますが、根本的治療が困難であれば症状を遅らせることに焦点があてられます。
運動ニューロンの過興奮で線維束性収縮がおきてニューロン死を招く(ブログ2)ことから、ブログ10のALS split handで述べたように、Na+チャネル遮断薬は線維束性収縮を抑制してALSの進行を遅らせられるかもしれない、と思っていました。
Na+チャネル遮断薬としては抗不整脈薬や抗てんかん薬などがありますが、2011年頃にリリカ®(プレガバリン)が認可されるまでは神経障害性疼痛へ抗不整脈薬であるメキシレチンが保険適応外として使用されるケースがよくありました。慢性痛には効果がありませんが急性痛には効果があると言われています。副作用は心不整脈躍起ですが忍容性は高いです。
次回ブログと内容が一部かぶりますが、ALSの90%以上で筋痙攣を経験します、治験ではメキシレチン300mg/日で筋痙攣を劇的に抑制することができましたが、一方で線維束性収縮は抑制できませんでした(文献1)。線維束性収縮へのスタンダード治療は現在存在せず、別のデーターでもメキシレチンで線維束性収縮の抑制とALSFRS-R評価で進行の抑制ができなかったとの報告があります(文献2)。
もしALS筋痙攣へクロナゼパム、芍薬甘草湯、チザニジン、トラマール(弱い麻薬)、SNRI、各種鎮痛剤など処方されても改善が乏しく痛みがひどい方には、メキシレチンは有力な治療薬です。
<管理人総括>BFSでも線維束性収縮を抑制したいところですが、やはりスタンダードな治療が存在しませんね。
ALSでも運動ニューロンの過興奮を抑制し、線維束性収縮を抑制できれば運動ニューロン保護につながると考えられ、なんとか方法がないか見いだしたいところです。昔ロレンツォのオイルという映画がありました(患者の父が病気について調べて治療薬を発見するという映画、若干怪しい結果なのですが、、、)。ある程度文献を読み進めていけば誰にでもチャンスやひらめきがでてくるものです。是非治療法を探しましょう。
1)Muscle Nerve. 2018 Mar 6;10.1002/mus.26117. doi: 10.1002/mus.26117. Online ahead of print.
Mexiletine for muscle cramps in amyotrophic lateral sclerosis: A randomized, double-blind crossover trial
2)Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener. 2015;16(5-6):353-8.
A single blind randomized controlled clinical trial of mexiletine in amyotrophic lateral sclerosis: Efficacy and safety of sodium channel blocker phase II trial
ALSへのラジカット®(一般名:エダラボン)の経口薬(MT-1186)が厚生労働省に製造承認申請されたと最近発表がありました。ビタミンB12大量筋注療法のように却下されなければいいのですが、、、今回はラジカットについて調べたいと思います。
下記リブログさせていただいた内容ではヨーロッパでの推奨使用はなく、アメリカでは年間約1700万円かかるなど、大変勉強になりました。
他の情報もあわせると日本、韓国、アメリカ、最近ではカナダもエダラボンが認可されています。
ラジカット®
<歴史>
2001年に急性期脳梗塞で保険適応が通りました。海外で使用されていた薬剤が国内へ導入されることもありますが、ラジカットは世界中でも日本で初めて導入された薬です。
<機序>
フリーラジカルを除去し、神経細胞死に関わる酸化ストレスを打ち消す薬です。
<副作用>
腎障害で使用すると腎障害が増悪するため禁忌。大きな声で言えませんが透析まで言っている場合は使用されているケースもありました(腎障害がこれ以上すすまないから)。通常採血では腎障害では尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)が上昇しますが、進行期のALS患者さんでは筋肉量が少ないため腎障害があっても採血でCreが低値のままなのであてになりません。そのためBUNのみで腎障害を評価します(医療者側からみると脱水や消化管出血でもBUNだけ上昇するため区別がつきませんので要注意)。まあ、シスタチンCを測定すればわかりますが特定の機関へ提出するため時間がかかります。
次にフリーラジカルというのは細菌死滅過程でも必要なため、細菌感染時は腎障害の増悪をきたしやすく慎重投与になっています。
<半減期>
α相0.3時間、β2.3時間と血中半減期は短いです。当時の製薬会社営業マンの説明では20分以内で投与すると腎障害リスクが高まり、30分以上かかると効果が薄れてくると言っていました(伝聞エビデンス不明)
<後発品>
エダラボン(一般名と同じ)が登場していますが保険適応は急性期脳梗塞のみです。
<ALSへのラジカット®試験、文献1>
2011年~2014年国内でプラセボとの二重盲検(医師も患者も本物か偽物の薬かわからない状態にした試験。治験管理者だけわかるという仕組み)
<患者選択基準>
Probable ALS以上
%FVC 80以上
発症2年以内
20~75歳
<経過中の中止基準>
気管切開が必要
%FVC 50以下かつPaCO2 45以上
腎障害(CCr50ml/m以下)
<ALS患者選択>
ラジカット群:69名、プラセボ群:68名
両群とも家族性ALS3%以下、リルゾール内服91%
<治験内容>
1クール=28日間
第1クール14日連続で60mg/日点滴
第2~6クール以降10日間同量投与
<結果>
ALSFRS-R(満点48点。数値が高いほど良い)→ALSガイドライン2013参照
上記6クール(28日x6)で
ラジカット群-5.01点
プラセボ群-7.50点
ということでラジカット群では進行抑制が認められたため国内で保険が認可されました。
<管理人考察>
ALSは遺伝子異常の多様性から様々なタイプがありますが、SOD(Superoxide dismutase=活性酸素除去)1変異のように酸化ストレスに弱いタイプにはラジカットがよくききそうです。逆に酸化ストレスが関係ないような例ではあまり効かないのではないでしょうか。
また点滴の繰り返しにより末梢の点滴が確保しにくいケースでは、抗がん剤と同様で右胸部にCVポートを留置して簡単に点滴する方法があります(実際にいらっしゃいます)。もし針を刺す時痛みがある人は氷で1分くらい冷やしてから針を刺すと痛みを感じません(あまり行われていませんが有効です)。
問題はラジカット®の中止時期です。気管切開したらリルゾール同様中止しなければいけませんが実臨床では患者さんの治療法がなくなってしまうためどちらの薬剤も止め時に大変迷います。呼吸筋麻痺型では四肢の筋量がまだまだ残っていますので結構点滴をしてしまっています。
ちなみに大学病院では困難だと思いますが中規模病院では訪問看護で家で点滴しているところもあります(投与時間が短い)。
文献1、Lancet Neurol. 2017 Jul;16(7):505-512
Safety and efficacy of edaravone in well defined patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial
Writing Group; Edaravone (MCI-186) ALS 19 Study Group
Free full textなし
赤:略語、青:重要点
ALS(SBMA含め)では母指球周囲の筋が小指球の筋より有意に萎縮します。このことを解離性筋萎縮(split hand)と呼んでいます(1992年Eisenら初報告)。頸椎症性脊髄症などでは双方が同時に萎縮します。下記文献1に詳しい日本語での解説が載っていましたのでご紹介します。
<予備知識>母指球の構成筋と支配神経は短母指外転筋(abductor pollicis brevis:APB、正中神経)、短母指屈筋(浅:正中神経。深:尺骨神経)、母指対立筋(正中神経)、母指内転筋(尺骨神経)です。また手の1と2指の間の背側には第一背側骨幹筋(first dorsal interosseous:FDI、尺骨神経)が位置します。小指球を構成するのは短小指屈筋、短掌筋、小指対立筋、小指外転筋(abductor digiti minimi:ADM、いずれも尺骨神経)です。
<本文>
固有の筋に注目するとALSでは上記のAPB(正中T1>C8)、FDI(尺骨C8>T1)、ADM(尺骨C8>T1)の中でもAPBとFDIの萎縮が顕著です(ぴくつきやALS疑いの針筋電図で手の1と2指あたりに針をさされた方も多いかと存じます)。どちらも脊髄の根元はC8とT1と頸髄の同じような場所から分岐するため、上位運動ニューロンより下位運動ニューロンの影響が強い現象と考えられます(用語は当ブログ1参照)。
病態の機序としては下記A~Cがあげられる。
A、日常生活で親指周辺を使用する頻度が高く酸化ストレスや代謝要求が高い(治療薬としてラジカットで酸化ストレスを軽減できる)。
B、APBやFDIなど母指周辺の筋は小指のADMよりも複雑な動きを要するためより多くの上位運動ニューロンがAPBやFDIに関与している。つまり運動神経細胞間のグルタミン酸の連絡が多いことを意味している。グルタミン酸は神経毒性があると言われている(治療薬としてリルゾール(グルタミン酸遊離抑制)が使用されている)。
C、APBとFDIにかかわる軸索の興奮性がADMより強い。軸索内はナトリウム(Na)イオンが流入し軸索内が+になり興奮する。健常人の安静時にも1~2%のNaイオンチャネルが開口している。健常人ではAPBとFDIはADMより上記のNa電流が強いことが示されている。さらにALSでは健常人よりもこのNaイオン流入が強いことが示されている。結果として下位運動ニューロンの興奮により線維束性収縮がおこる(治療薬としてNaチャネル遮断薬(抗不整脈薬や抗てんかん薬など)は進行を抑制する可能性があるかもしれない。後日の文献参照)。
文献
1、 脊髄外科 25(3) 248-251, 2011 だれでもネットで全文アクセスできます→こちら
<管理人考察>
ブログ2を参照してほしいのですが、ALS進行期では末梢レベルで神経再支配が行われます。再支配された神経は脆弱で易興奮性があり線維束性収縮をきたします。この易興奮性がALS自体の病態異常によるものか、残存した筋を一生懸命動かすための代償機能なのか不明ですが、上記Cの理論ではALS自体の病態異常による可能性があります。運動ニューロンの易興奮性を制することができればALS進行を抑制できるかもしれません。
診察で萎縮を調べるだけでなく、上記は神経伝導検査でのCMAP(振幅)の低さで数値化できます。経時的変化でCMAPが低下していれば病状の進行(萎縮、脱力など)を客観的に評価できます。治験の際の進行抑制評価などにも応用できそうです。
早期診断には母指球有意の萎縮に注目することはとても大切だと思います。治験が増加している昨今、早期診断により多くの人が治験に参加することが可能になります。なお進行しきってしまうと母指球も小指球もいずれも高度の萎縮となります。
APBは正中神経ですが、FDIとADMは尺骨神経支配です。でもFDI>ADMと軸索興奮性が異なるのは意外でした。
赤:略語、青:重要点
雑誌:J Cell Physiol. 2008 Nov;217(2):301-6.
タイトル:What do we know about serotonin?
(セロトニンについては我々が知っていること)
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ふと疑問に思いましたが、上位運動ニューロン<下位運動ニューロンが興奮して線維束性収縮(fasciculation、以下fas)が生じると考えてきましたが、筋細胞自体の易興奮性の要素はあまり述べられていません。筋炎などではfasがみられないこともあり、ALSではfasはやはり運動ニューロンの影響のみと考えられます。しかし筋弛緩作用を有するベンゾジアゼピンの離脱や原因不明のBFSなどでは筋自体の興奮の可能性も否定しきれません。
セロトニンに限った話ですが、上記文献によると骨格筋自体にセロトニンの受容体(5HT1~7)は存在しません(下記表、上記文献より)。ちなみに筋肉は平滑筋(血管や消化管に存在、ALSで障害されない)、骨格筋(自分で動かせる筋肉、ALSで障害される)、心筋(自分で動かせない、ALSで障害されない)にわけられます。骨格筋と心筋をあわせて横紋筋と呼びます。
セロトニン症候群(セロトニン過剰状態)ではfasや筋痙攣が観察されます(下記表2。ブログ2記事より引用)。また選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の飲み始めや急激な濃度上昇時なども下記末梢運動神経系に存在するセロトニン刺激によりfasや筋痙攣のみが新規に観察されることも稀にあります。その機序としてはやはり下位>上位運動ニューロンの興奮によると考えられます。
<表1、J Cell Physiol. 2008 Nov;217(2):301-6.日本血栓止血学会記載より>
<表2、J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017; 88: 773-779より>
【線維束性収縮の原因】
運動ニューロン疾患(MND)
脊髄性筋萎縮症(SMAとSBMA)
脊髄小脳変性症3(SCA3=Machado-Joseph病)
ポリオ
ヘルペスウイルス感染後
<末梢神経病変>
多巣性運動ニューロパチー(MMN)
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
他の免疫介在性末梢神経障害
シャールコー・マリー・トゥース(CMT)
外傷性末梢神経障害
<運動神経根と腕神経叢病変>
炎症性
放射線治療副作用による腕神経叢炎
<脊髄病変>
神経梅毒
頚部脊柱管狭窄症
放射線治療副作用による脊髄炎
帯状疱疹や狂犬病等によるウイルス性脊髄炎
<代謝性病変>
低カルシウム
低マグネシウム
甲状腺機能亢進症
<末梢運動神経の過興奮>
Benign fasciculation syndrome
Cramp-fasciculation syndrome
運動後fasciculation
<薬剤性>
カフェイン、コリン刺激、アンフェタミン、抗ヒスタミン剤、セロトニン、交感神経緊張をきたす薬剤、ベンゾジアゼピン離脱期
<毒物>
ヘビ、クモ、サソリ刺されなどによるコリンブロック
<自己免疫疾患>
VGKC抗体(脳炎+末梢神経運動興奮)
神経ミオトニア
<筋炎>
封入体筋炎(70人中2人のみfas観察)
<前置き>赤は略語へ、青は強調点へ
これまで良性線維束性収縮症候群(benign fasciculation syndrome: BFS)を中心とした文献を紹介させていただきました。
線維束性収縮(fasciculation、以下fas)のみ感じて筋萎縮、筋緊張異常、筋力や反射に異常を認めない場合はほとんどが良性の線維束性収縮です。
アメリカの筋萎縮性側索硬化症協会(ALS association)というホームページでfasciculationとページ内検索してみてください。What Do Fasciculations or Muscle Twitching Mean?(Edward Kasarskis先生記載)という記事の中で、線維束性収縮だけがみられ筋萎縮や脱力がないときは数ヶ月(a few months)待つべきである、ということをおっしゃっています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)でもfasのみで初発する方は確かにいらっしゃいますが多くの症例で脱力や筋萎縮が数ヶ月以内には出現してきます。ALSというのは徹底的な除外診断のうえでたどり着く病気であり現在有効なバイオマーカーはありません(遺伝子検査がありますが費用や設備などの関係で診断前の疑い症例へ全例検査することは不可能です)。そのためこの数ヶ月というのは大変苦しい時期だと思いますが待ちましょう。上記のKasarskis先生のご意見でもfasのみの場合はほとんど良性であり、確率論から言ってもALSでないことが圧倒的に多いとおっしゃっています。
日本ALS協会ではBFSに関する情報はないようですので載せてほしいです。
英語ではabout BFSやBFS forumなどのホームページがあります。日本語のホームページはうまくみつけることができませんでした。英語ができる方はそちらもご参照下さい。
<fasでのALSとBFSの鑑別>
fasの部位、肉眼的動き、筋痙攣の有無だけでBFSとALSとの鑑別(=区別)は困難です。下腿後面はBFS好発部位ですが、下腿から始まるALSもあるためなんとも言えません。筋痙攣を合併する場合はcramp fasciculation syndrome(CFS)と呼ばれますが、正常人でも筋肉がつる人は沢山いらっしゃいます。一方ALSでも筋痙攣を合併することがありますのでなんとも言えません。
針筋電図の初期ではALSで異常がでることもあればでないこともあります。針筋電図できれいな形のfasであれば問題ありませんが、変形したfasやその他の異常があれば要注意です。その際には他の多くのfasをきたす神経疾患を鑑別しなければなりません(ブログの2、線維束性収縮参照)。針筋電図でfasからALSとBFSを鑑別することについてはたくさんの報告がありますが実はここは結論がでていません。
私個人が思うBFSとALSのfasの鑑別項目があります。私見の一つということでご認識下さい。1つ目はALSへの恐怖心や強いストレス後にfasが全身へ広がる日数が数日などもの凄い早いものはBFSであるという印象があります。ALSだともう少し緩徐にfasが広がると思います。勿論BFSでも緩徐にfasが広がることもありえますし、fasが一部に限局し続けている人もいます。2つ目はBFSではfasの日内変動がとても大きいです(ブログ2、線維束性収縮文献も参照)。日内変動の大きいALSというのはあまりみたことがありません。勿論日内変動がないBFSやALSはあります。3つめは不安神経症要素がある方ですが、ALSの方でも強い不安を抱えていらっしゃる方もいますので強い鑑別要素にはならないと思います。さらには先日のブログのFASICSのように健康不安障害的背景がなくてもfasを過度に心配してしまうケースもあります。
<BFS増悪因子>
BFSでは不眠、不安、ストレス、疲労、激しい運動、カフェインなどがfasを悪化させます。わかりやすい例で言いますと、激昂した際には交感神経が緊張し運動ニューロンも興奮して顔の筋肉などひきつるのがわかると思います。あれと同じように上記の要素は脊髄の運動神経細胞などを興奮に導くのではないかと考えられます(カフェインは運動神経細胞内でPDE阻害→cAMP上昇→神経細胞興奮でぴくつき躍起。アデノシン拮抗作用もあるが運動神経細胞への関与は不明)。一部文献では不安があると水面下に過換気となり運動神経の興奮を誘発するという記載もありました。過換気症候群では運動神経が興奮しやすくなり筋肉が高度に緊張して握った手が開けなくなることがあります(助産師の手といいます)。
なお、BFSにおけるfasの正確な病態生理は不明です。
<もしぴくつきのみ感じた場合は>
まずyoutubeでぴくつきがfasかどうかみてみましょう。もしfasであった場合、筋萎縮や脱力の有無によらず脳神経内科を速やかに受診しましょう。なぜならブログの2線維束性収縮に記載した通り、線維束性収縮をきたす疾患は沢山あります。その中でも薬剤性ならば投薬調整で改善が期待できます。採血でわかる電解質や甲状腺機能亢進症などは治療介入ができる病気です。また神経伝導検査をすれば末梢神経障害も調べることができますし、頭部や脊椎MRIでは狭窄症なども調べられます。いずれも原因がわかれば治療介入が可能です。またその時点で筋萎縮の有無、握力数値や脱力の有無を記録しておくのが極めて重要です。なぜなら数ヶ月や一年後などに比較できるからです。
上記やその他の検査(場合により嚥下造影、腰椎穿刺、肺機能検査、体幹CT等)に異常がみられず針筋電図できれいな線維束性収縮電位のみでその他異常がなければBFSと診断されるでしょう。BFSならば禁煙、カフェイン回避、ストレスマネージメント(睡眠確保、適度な運動、環境調整)などが重要となってきます。
身体化障害ならばSSRIですが、そもそもBFは良性のため放置してもよく、標準的治療はありません。運動ニューロンの過興奮のため興奮抑制作用のある投薬が試されます。例としてクロナゼパムや睡眠薬など(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)、芍薬甘草湯、アロチノロール、カルバマゼピンなど(Naチャネルブロッカー)、認知行動療法など色々治療法を試しましょう。
また医師側からみると患者を精神科へ紹介するのにためらうケースもあります。精神科疾患と考えられると怒りだしてしまう患者がいるからです。もし不眠、不安、抑うつ要素が強ければ、脳神経内科と同時並行で精神科/心療内科に紹介して下さい、と患者側から主治医へ訴えるのも一手です。fasが消失するまでは診断がはっきりしませんので脳神経内科と定期受診したほうがいいと思います。
<fasのみ認めている時点でできること>
1、体重測定(毎日。スマホアプリが便利です)
2、最大周囲計の測定(約1ヶ月に1回、下記記載)
3、両手、男性なら上半身裸体、下肢の前面と後面の撮影(約半年に1回、筋萎縮評価)
4、線維束性収縮の動画撮影(診察時にみれないこともあるので便利)
5、握力測定(約1週間に1回、握力計は高いので金銭的に余裕がある方のみ)
2の最大周囲計ですが、柔らかいメジャーを100均で購入しましょう。片側4カ所(下記A~D)、合計両側8カ所測定しましょう。A、上腕最大周囲計。肘をまげた時にできる力こぶに点をつけてそこの周囲計測定。B、前腕最大周囲計。肘より数センチ末梢の部分の一番太いところ。C、大腿周囲計。膝蓋骨(ひざの皿)上縁から15cm体幹よりに赤い点をつけてそこの周囲計測定(10cmだと大腿四頭筋のうち二種の筋しか評価できないので注意)。D、下腿最大周囲計。ふくらはぎの一番太い部分の周囲計。
もし症状が下肢だけならば下肢だけでいいと思います。
BFSの場合、身体の症状にとらわれない方がいいので上記無視して忘れてしまうのが実は一番いいです。しかし皆様気になりますので上記をご提案させていただきました。繰り返しますがFasのみであればBFSですが、筋萎縮や脱力などfas以外の神経所見での異常がでてくれば少し他の疾患も疑われなければいけません。例えば50代の一側上肢のfas、筋萎縮、脱力では多巣性運動ニューロパチー、CIDP(MADSAM)なども考えなくてはいけません(治療方法あり)。
<最後に>
注意点をあげさせて頂きます。
体重減少についてはALSの筋萎縮でもおこるし抑うつ食事摂取不良でもおこります。
握力も10kg程度の誤差であれば握力計の違いによっておこりますし、肘を伸展しきって測定するよりも肘を90°まげて握力を測定すれば握力は相対的にあがります。同じ体勢同じ握力計で測定できればベストです。
各文献で述べてきたように自覚的な脱力感、つっぱり、筋痙攣などもBFSで普通にみられます。
通常の運動であればぴくつきはそこまで増悪しません、それよりも運動を全くしなければ廃用になり自然に筋力は低下します。
また、身体表現性障害で声や四肢が動かなくなる人もいます。詐病の方でも当然腕が動かなくなります(昔身体障害者の2級を取得するために腕が動かなくなったという主訴で来院された患者さんがいました。その方が急性アルコール中毒で搬送された際、動かなくなった腕が元気に動いていたのを目撃した際にはびっくりしました)。それらの方々に共通する点は筋萎縮がありません。廃用以外の目立った筋萎縮がある方は精神的な要素ではなく明らかに器質的異常が隠れています。
深部腱反射も元々亢進傾向(強く動く)の人も多数います(神経質な方など)
ここまでかけあしにて線維束性収縮のみを認め筋萎縮、脱力を認めない良性線維束性収縮(BFS)について色々とまとめさせていただきました。ネット上に情報がすくないところですので皆様のご参考になれば幸いです。