雑誌:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Apr; 90(4): 451–457.

タイトル:Ultra-high-dose methylcobalamin in amyotrophic lateral sclerosis: a long-term phase II/III randomised controlled study

Free full text→こちら

治験ナンバーNCT00444613

 

<管理人前置き>

昔、国内でアメリカ人講演者を招いた研究会がありました。管理人も参加していましたが会場の中では英語が飛び交っていました。そんな会場内で「あれ、もう一人native speakerがいるぞ」、と聴いていたら上記論文の筆頭著者の梶先生でした。英語の発音、アクセント、イントネーションが完璧でした。

 梶先生は元徳島大学教授、現在宇多野病院院長とのことですが、57回(2016年)日本神経学会(年1開催)のテーマは「なおる神経内科をめざして」でした。脳神経内科という分野はとりわけ治療介入できる病態が他科に比べて少ないのが現状です。梶先生はジストニアへのボツリヌス毒素なども詳しく、治す脳神経内科を目指している姿勢はとても共感できました。こういった先生のことをスーパードクターと呼ぶのだろうと感じました(面識はありませんが、、、)。

 

上記論文をみようとしたのですが、端的な結論から申すとビタミンB12で発症1年以内のALS患者には約600日の延命効果があったが発症1年以降の患者では有意差がつかなかったという内容です。今回の治験と発症1年以内の患者に限定した治験を行う説明を日本語でパワーポイントにわかりやすく記載されたものがweb上にあります→こちら

 

 

<以下文献本文>

<ビタミンB12>

B12はホモシステインの再メチル化を促し、ホモシステイン濃度を下げて神経毒性を回避。

Extracellular signal-regulated kinases(Erk)1/2とAktを活性化し神経を長持ちさせる

B12はグルタミン酸(Glu)毒性を抑制し、神経再生化を促す

B12は経口投与では胃の内因子の問題があって消化管からの吸収には限界がある。

B12は尿から排泄されるため副作用も少ない(赤い尿らしい)

 

<治験期間>

2006年~2014年まで日本の51カ所で治験

12週間観察のみ、182週間投薬

ALSFRS-Rと人工呼吸器や死亡までの期間を評価

 

<参加資格>

373人→370人(診断基準で3人除外)

20歳以上

Probableかdefinite ALS

発症3年以内(発症の定義に線維束性収縮や筋痙攣は含まない

12週間の観察期間でALSFRS-Rが1~3点減点(進行の速さが同じくらいの集団にするため)

 

<除外基準>

気管切開

NIV(非侵的的喚起)の使用歴

%FVC60%以下(正常なら80%以上)

複数の伝導ブロック(神経伝導検査)

観察期間や治験中リルゾールの開始、用量変更がある患者

エダラボンを治験中使用していない患者

心、腎、肝の重篤な障害やB12欠乏を疑う採血血算所見がある患者

 

<グループ>

球麻痺、上肢や下肢麻痺発症、リルゾール併用者、参加前のALSFRS-R、12週間の観察期における減点のスピード具合により最初にグループ分けされた。

そこから

1,Placebo

2,B12 25mg/週

3、B12 50mg/週

週2回筋注

の3つにグループ化

 

370人中260人がstudyを終えた。ちなみにリルゾールは89.7%で内服

113人は参加継続するのを拒否したり上記除外基準に抵触したため中止した。

6名の患者が糖尿病でメトホルミンを飲んでいたがB12低下を示唆することはなかった(メトホルミンで通常B12が低下することがある)

 

3つのグループはどれも同じような配分であった。

Placebo群

123人中

平均62歳

初発部位

球麻痺24%

上肢48%

下肢26%

 

弧発性95%

家族性5%

 

ALSFRS-R

-1 点          34%

-2 点          46%

-3 点          35%

 

123人中38人が様々な理由で中止。86人のうち57人がNIVや気切または死亡により中止、29人だけが182週間治験満了した。

 

 

B12 25mg/週群

B12 50mg/週群の治験患者も上記とほぼ同様の結果であった

 

 

 

<Figure2>→こちら

AとBは発症全体患者で死亡などのイベントやALSFRS-Rスコアの変化はありません。

しかしCとDの発症12ヶ月以内の患者限定での比較では約600日の延命効果(死亡またはNIV、気管切開までの期間)やARSFRS-Rで進行抑制が認められました。

結論全体として有意差はつかなかったが発症12ヶ月以内へ限定すればB12によりALSへの延命、機能温存効果が示された。

 

 

 

<管理人考察>発症の定義が線維束性収縮と筋痙攣を除いた他の症状であること。

発症12ヶ月以内のALS患者へB12超大量筋注を行うと有効であったとのこと。大変勉強になりました。

ここで一つの仮説を思いつきました。ALSというのは発症前から複数の不明の誘発因子により引き起こされるようです(色々な文献にのっていますがブログ13参照)。遺伝子異常がALS全体の約15%にしかないことからも遺伝子だけでは説明しきることが難しい状況です(ブログ13)。

日本人に多いSOD1は常染色体優性遺伝なので50%の確率で浸透率も高いようですが、異常遺伝子をもっている(保因者)でも発症する人としない人がいます。

加えてALS発症前には大脳運動ニューロンの過興奮、線維束性収縮と脱神経、再支配などが徐々に起こってきます(ブログ2)ので発症前の段階でB12を投与すればホモシステイン毒性減少、(Erk)1/2とAktを活性化し上記の運動ニューロン死滅過程を防御することができる可能性があります。そのためALSが心配な方やSOD1変異がわかっている方などは発症前からビタミンB12を内服していても効果があるかもしれません(あくまでも仮説です)。B12は1.5mg/日が保険適応ですが、ネットショッピングなどで0.1~5mgなどあり、1mg100錠が約2000円で購入できます(処方薬ですと診察料、投薬料、薬局での調剤料など細かな部分で費用が発生します)。水溶性で尿から排泄され副作用が少ないと考えられるビタミンB12ですが、長期投与で肺がんのリスク増加などの報告もあるそうです(Int J Cancer. 2019 Sep 15;145(6):1499-1503.)。詳しい因果関係は不明です。摂取は自己責任となり処方薬以外での薬害救済処置はうけることができないこともご注意下さい。