雑誌:Neurology. 2004 Aug 24;63(4):721-3.

 

タイトル:Cramps, muscle pain, and fasciculations: not always benign?

(筋痙攣、筋肉痛と線維束性収縮:いつも良性とは限らない?)

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<管理人前置き>今まで線維束性収縮のみを認めた時はBFSばかりである、という紹介をしてきましたが、稀な症例報告をみますと線維束性収縮+筋痙攣でALSへ進展した例もあるようです。かなり稀で怖い情報かもしれませんが報告いたします。科学というのは好ましい情報だけでなく好ましくない情報もしっかり報告するということが肝要のためご容赦下さい。

 

<本文>

72歳男性、線維束性収縮(fasciculation、以下fas)と筋痙攣以外に脱力、筋萎縮などはみられず、採血や針筋電図なども異常なかった。三角筋生検までして異常はなかった。発症1年後両手にわずかな脱力を認めた。両手と前脛骨筋に筋萎縮を認めた。針筋電図で明らかな異常(複雑なMUP、fib/SW、振幅増大など)を認め、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。

 

<管理人意見>cramp fasciculation syndromeと考えられていたものの1年後に脱力、筋萎縮を認めた症例です。しかしこの文献の末尾にもmost patients with benign fasciculations do not progress to MND(ほとんどの良性線維束性収縮は運動ニューロン疾患に進展しない)とあります。

 

 

雑誌:J Neurol. 2011 Apr;258(4):573-8

 

タイトル:Fasciculations and cramps: how benign? Report of four cases progressing to ALS

(線維束性収縮と筋痙攣:良性とはいかなるものか?ALSへ進展した4例報告)

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<本文>

1、40才男性、両下肢つっぱり訴え、2年後顔面を含んだ全身のfasと筋痙攣を認めた。さらに2年後同様のfasと筋痙攣があったが筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなくCramp-fasciculation syndromeと診断された。ただしこの時点において神経伝導検査で正中神経のCMAP低下を認めていた。さらに4ヶ月後右肩周囲の脱力と筋萎縮を認めた。神経伝導検査で伝導ブロックを認め多巣性運動ニューロパチーを疑われ免疫グロブリン大量静注療法を行うも無効で約1年後呼吸不全で死亡した。病理解剖では脊髄前角と前根の著名な萎縮を認めALSと診断された。

 

2、52才男性、下腹部、腓腹筋、ハムストリングスの筋痙攣を自覚し、3年後受診し、全身にfasを認めた。しかし筋萎縮、脱力、上位運動ニューロン徴候は認められずCramp-fasciculation syndromeと診断された。クロナゼパムは無効であった。その約半年後受診した際に手の萎縮と脱力、深部腱反射亢進を認めた。針筋電図とあわせてALSと診断された。

 

3、63才男性、両上肢と背部に頻回のfasを認めた。1年後脳神経内科受診し、fasを腓腹筋にも認めたが、筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなかった。さらに約1年後筋痙攣を四肢に認めた。上位運動ニューロン徴候は乏しかったが針筋電図とあわせてALSと診断された。

 

4、40才男性、プロチームレベルで活躍するアスリート。半年前から両上肢と大腿にfasを認め、両上肢が筋トレで太くならなかった。EMGでは異常なかった。約1年後筋痙攣を認めた。その時点で筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなくcramp-fasciculation syndromeが考えられた。しかし約半年後脱力と筋萎縮が急速に進行し両上肢近位筋萎縮、脱力と上位運動ニューロン徴候を認め、針筋電図とあわせてALSと診断された。

 

 

<管理人意見>fasと筋痙攣のみで当初筋萎縮、筋緊張、脱力、反射に異常がなかったにも関わらずALS進展した4例が報告されていました。このようにfasと筋痙攣のみでもALSへ進展する事例も稀ながらあることがあります。そうかなり稀です。

注意しなくてはいけないのが上記症例4にあるように筋肉ムキムキの方(例えば握力60とか)の人の場合です。ちょっと筋力が落ちたくらいでも筋力低下や萎縮がわかりにくい時があります。その場合正常内と診断されてしまうでしょう。

他にもfasと筋痙攣のみからALS進展した一症例の報告をあげますとNeurology 1986 36: 997-998。J Neurol Sci 1997 150:129-131などがあげられます。基本的に少数例の報告はNeurologyなど有名雑誌ではあまり受け付けていないのですが、かなり稀な例であるからこそ症例報告に載せられたと考えられます。また症例数が少ない報告は信頼性が低いと言われています。以前に紹介したBFS121例や35例の方が圧倒的に文献の価値があります。

なおこれら一部の文献の影響もあり、fasのみを認める患者に対して最低5年間は経過観察するように筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013のP31では記載されています。

 

管理人意見内の文献もあわせて本記事にある4つの文献の特徴としてはfasのみではなく筋痙攣を伴っていたということです。ブログの2、線維束性収縮で記載した抗VGKC抗体がcramp fasciculation症候群の32%で陽性になります。なお国内では保険適応になっていません。コスミックコーポレーションでは自費で10万円かかってしまいます(一部大学は無料)。

少し話が脱線しましたが神経所見正常でfasのみ異常を呈する方が少なくとも1年以上経過して神経所見上のその他の異常を呈しALSへ進展した報告は見つけられませんでした。加えて筋痙攣自体は健常人でもおきるのであまり怖い病気の心配をされない方がいいです。

 

 

雑誌:J neurol (2013) 260:1743-1747

 

タイトル:Fasciculation anxiety syndrome in clinicians

(臨床医における線維束性収縮不安症候群)

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<本文>

線維束性収縮不安症候群(Fasciculation anxiety syndrome in clinicians (FASICS))=臨床医(医師や歯科医師)のBFSについて調査した

線維束性収縮(fasciculation、以下fas)は末梢神経障害、peripheral nerve hyperexcitability syndromes、ALSなどでおこる。Online searchでやはりALSが心配になる人がかなり多い。

 

20人の臨床医(ほぼ男性)のうち

14人(70%)はFASICS

3人(15%)はfasのみならず痙攣も合併

2人(10%)は感覚障害も合併し末梢神経障害と診断

最後の1人(5%)がALSと診断された。

20人全員が当初からALSを心配していた。

 

運動、ストレス、疲労、カフェインがfasの増悪因子であった。

VGKC抗体全例陰性

 

FASICSの中の3人/14人(21%)は全身にfasを感じていた。他の人は下肢や上肢、顔など様々なところにfasを感じていた。脳神経内科医(consultant neurologist)もいた(文献の中に年齢はなかったが役職からして50代が多いと推測された)。直近で8人/14人(57%)はALSと診断された患者と接していた。精神疾患(anxiety(不安症)やうつ)の既往がある人はいなかった。筋萎縮、脱力や神経伝導検査異常はなかった。FASICSの針筋電図ではmultipletやtripletなどの異常も一部の人に認められた。

 

全体の平均追跡期間は7.9±10.1年(3~40年間)であった。FASICSの14人では筋萎縮、脱力、反射異常はみられなかった。経過観察で全体的にfasは減少しALSの心配は改善された。

 

不安な状態だと身体に敏感になり過換気気味となる。過換気では軸索へのNa閾値がさがり、HやCaイオンの影響もあり、運動神経軸索興奮をおこしfasにつながる(Brain 1997(pt2):317-325)。

 

Fasの部位や針筋電図での線維束性収縮電位(FPs)でBFSとALSは区別できない。複雑なFPs(multipletなど)の存在は脱神経と直結できない。

 

Fasのみで脱力なし。EMGで正常FPsのみでALSへ進行した例もある(Neurology 2004 63:721-723. J Neurol 2011 258:573-578)。ゆえにFASICS含めたBFSでは長期のf/uが不可欠である。

 

 

<管理人意見>精神疾患の既往がなくてもALS患者と接していればfasが心配になる医師もたくさんいることがわかりました。

 

雑誌:Muscle Nerve. 2018 Dec;58(6):852-854

タイトル:A prospective study of benign fasciculation syndrome and anxiety
(BFSと不安についての前向き研究)
Short report
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<本文>
35人の良性線維束性収縮症候群(BFS)患者を24ヶ月追跡した。
参加基準:18才以上、線維束性収縮(fasciculation、以下fas)以外異常なし。針筋電図で複雑性fasなどの異常を認めず、運動ニューロン疾患など他の疾患へ進展していない人たち
内訳:男性71%、女性29%。平均年齢47±11歳
医療関係者34%
筋痙攣合併率65%
<併発疾患>
抑うつ/不安神経症/PTSD29%
睡眠障害26%等
<内服薬>
スタチン20%
β遮断薬20%
抗てんかん薬11%
SSRI9%等


fasの部位は腓腹筋>腕>太腿>顔>胸>足>口>舌の順番で多かった。24ヶ月の追跡で15人は追跡不能であった(つまり改善したかインタビューを拒否した例があった。ALSなど他の神経疾患へ進展した例は1例もなかった)。

74%は自己申告で不安を訴えていた。しかし客観的なZung self rating anxiety scaleで病的と判断される44点以上だったのは14%しかいなかった。

ストレス、カフェイン、不眠で誘発されやすかった。


<管理人意見>35人のBFS患者を追跡した2年間の研究ですが、65%(23人)に筋痙攣(つまり筋肉のツリ)を認めています。それらはBFSというよりもcramp fasciculation syndromeにあてはまりますが、この文献ではBFSとして扱われています。やはり1例もALSへは進展していません。Fasの頻出部位をみてもわかるようにBFSというのは全身のあらゆるところにでるため部位だけではALSに進展するかどうかも判断できません。
載せてはいませんが多くの文献でALSのfasは近位筋に多発性に認めるとありますが、BFSでも近位筋に多発性にfasを認める方は多いです。

雑誌:Ann Neurol 1993 Oct;34(4):622-5

 

タイトル:Long-term follow-up of 121 patients with benign fasciculations

(121人の良性線維束性収縮患者の長期追跡結果)

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<本文>

下記の基準を満たす121名へ電話で経過調査をおこなった

1 良性線維束性収縮を認める

2 メイヨークリニックでの神経診察で異常を認めなかった

3 針筋電図で正常の線維束性収縮電位(FPs)以外の異常を認めなかった。

4 最低2年以上観察

 

121名のうち運動ニューロン疾患へ進展した例はなかった。

男性94人女性27人

平均発症年齢43歳

平均追跡期間7.2年(2~32年)

 

<雑多な症状>

線維束性収縮(fasciculation、以下fas)102人(医師診察でのfas目撃を合わせると合計121人)

倦怠感56人

筋痙攣52人

色々な部位のしびれ51人

全身の筋肉痛41人

ALSの心配17人

筋肉の硬さ17人

 

<経過>

60人はfas改善

40人はfas不変

5人はfas増悪

17人はfas出現の日内変動が強い

 

Fasの増悪は運動、ストレス、疲労、カフェインがあげられた。

 

fas32人は全身、85人は限局性

40人は医療関係者

 

19人はfasの発症1ヶ月前に何らかのウイルス感染をしていた。

22人は感情や肉体的ストレスがひどい間にfasを発症した。

4人は喘息へのβ刺激剤を使用

1人は甲状腺ホルモン内服中で機能亢進時に発症していた。薬の調整でホルモンが正常化したらfasは消失した。

 

<検査>

19人に神経伝導検査で軽度の末梢神経障害を認めた。神経診察での異常はなかった。

 

<考察>

ウイルス感染が先行していた症例では運動神経根の末梢神経障害が起きていたのかもしれない。

 

<結論>脳神経内科医による神経診察での有意な異常(筋萎縮、脱力、反射など)がなく、針筋電図も異常がないfasだけ認められる例は完全に良性である。

 

 

<管理人意見>BFSの大規模で有名な文献になります。1993年とやや古いのです。19人が感染後のギランバレー症候群様の運動神経根の障害を呈しており、この部位の異常によってfasのみが臨床症状として出現したというのは大変興味深い考察でした。

ALSでも発症当初限局的にfasを認めている方もいらっしゃいます。ちなみにfasとはどんな時でも不規則なリズムでおきますが、BFSの場合はfasの日内変動が強いことは鑑別に有用かもしれません。

雑誌:Psychosomatics 2019; 60:499-507

 

タイトル:The association between benign fascicuations and health anxiety: A report of two cases and a systematic review of the literature

(良性線維束性収縮と健康不安の関連:2症例報告と文献の解析をあわせて)

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<管理人前置き>精神科の用語はあまり詳しくないので誤訳がありましたら個人のメッセージで教えて下さい。

 

 

<本文>

健常人の70%は線維束性収縮(fasciculation、以下fas)を感じる。特に加齢、激しい運動、ストレス、疲労により感じやすい。

Fasは神経根症、末梢神経障害、自己免疫疾患、peripheral nerve hyperexcitability syndromes(PNH)や運動ニューロン疾患から生じる

良性線維束性収縮症候群(BFS)の最初の報告はBrain 1938; 61: 311-334で、特に医療従事者に多かった(もちろん筋萎縮性側索硬化症(ALS)に詳しいから)。

BFSは精神科(DSM5)ではsomatic symptom disorders(身体症状症)、illness anxiety disorders(病気不安症)とも呼ばれる。

 

 

<症例2例>

1、38歳男性、神経科学者

左ふくらはぎにfas、2日後左下肢全体へ拡大、微妙な下肢筋萎縮の左右差からALSに違いないと思い込んだ。約2週間後かんだり、飲み込んだりしにくくなり、fasは右下肢、胸、腹、顔へ拡大した。約4週間後寝る前に首や両上肢が痙攣しはじめた。神経診察、胃カメラ、神経伝導検査、針筋電図、頭部/頸椎MRIで異常がなかった。発症から3か月後抑うつで働くことができなくなり、妻との関係も不良となった。情動不安や不眠も併発した。彼は自分が90%ALSだと思っていたためBFSやALSについていつもネットなどで調べていた。

治療としてフルオキセチン20mg→ミルタザピン30mgと認知行動療法(CBT)によりfasは主観的に50%減少した。8か月後健康不安やALSへの不安は寛解した。

 

2、41歳男性、非医療従事者

過敏性腸症候群の既往あり。

右ふくらはぎにfas、ネットを調べて運動ニューロン疾患(MND)だと不安になった。神経診察と針筋電図は正常だった。MNDが心配で他の脳神経内科も多数同時受診していた。

アルプラゾラムでfasは一時的に軽減、デュロキセチン無効、皮疹でセルトラリンは中止。MNDへの不安から1年間入院したこともあった。エスシタロプラム10mg開始とCBTにより彼のMNDへの確信率は95%から50%まで軽減した。その9か月後には投薬が中止されたが、しゃべりにくさや舌の痙攣があり球麻痺型MNDの可能性を彼は疑っていた。再度エスシタロプラム処方とCBTを行い、fasの減少(最初30回/分→発症約17?か月後2回/分)まで改善、MNDは95%否定的だと彼自身思った。

 

<考察>

8個の文献を選択し、診察と針筋電図で病的所見のないBFS例のうち384人を分析した。

30代~40代男性にBFSが多かった。Fas以外には異常知覚、痙攣、筋疲労や主観的脱力を感じている人が多かった。0~80%の人に精神疾患の既往(そのほとんどは不安障害)があった。

6個の文献では半年~7年の間患者を追跡していた。

MNDではないというカウンセリングだけでは改善しない例がほとんどであったがCBTと抗うつ剤では改善例が多数認められた。

Health anxiety(健康不安症(ちょっとした体の異常))は全人口の0.8~4.5%にみられる。

FasがおきてMNDを心配すると、体の感覚により敏感になる。不安感があると交感神経が活性化され過換気や運動神経が興奮しやすくなる。つまりfas自覚→MNDなどを想起(ネット検索など)→不安→危険察知能力亢進→身体の状態に敏感になる→fas自覚の悪循環をたどるのがBFS。

Health anxiety disorders(健康不安障害)にはSSRIが最もエビデンスがある

運動によってfasが誘発されることがあるが、運動は薬物療法と併用すべきでありBFSの場合運動が推奨される(ALSでは中等度までの運動は推奨、重度の運動は逆に悪い)。

脳神経内科医が安心感を与えることでも改善しない患者は精神科へ早めに紹介し併診すべきである。

 

 

<管理人意見>やはり40代のfasだけでは良性の場合がほとんどですね。BFSはネット検索などで調べまくる人に多い病気だと思いますというのは上記にもあります。Fas+抑うつがひどい方などは抗うつ剤(副作用の少ないSSRIなど)が有効であり早期に精神科/心療内科へ紹介した方が良さそうです。脳神経内科医ではクロナゼパム、芍薬甘草湯やカルバマゼピンなどはよく処方されます。SSRIはそれほど処方されませんが試みる価値は十分にあります。万が一ALSだったとしても抑うつ合併例にはSSRIが推奨されています(筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013 P94)。

 

雑誌:J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017; 88: 773-779

タイトル:Fasciculation in amyotrophic lateral sclerosis: origin and pathophysiological relevance
(ALSの線維束性収縮の起源と病態について)
Review
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<管理人前置き>雑誌やタイトルをgoogle検索すれば要約だけ閲覧することができます。英語ができる方はpubmedというサイトでキーワードをいれれば色々文献を手に入れることができます。その中でも要約だけしかみれないものと全文が見れる文献(free full text)に分かれています。また略語が出現する箇所は赤くしておきます。
当ブログではまず最初に線維束性収縮のメカニズムについてみたいと思いますが、いきなり難しい内容になっています。BFSだけ気になる方は一番下の【線維束性収縮の原因】と<管理人意見>だけ閲覧して次の記事に進んで下さい。色々な病気で線維束性収縮がおきることがわかります。



<本文>
筋萎縮性側索硬化症(ALS)線維束性収縮(fasciculation以下fas)の関係は150年以上前から報告されている。Fasciculationという用語は1938年に論文で初めて造られた言葉である。舌だけはfasよりもfibrillationという言葉がよく用いられる。

ALSのfasは下位運動ニューロン(LMN)のみならず大脳皮質の過興奮と関連がある。脊髄前角にある運動神経細胞へ影響するものはRenshaw細胞、介在ニューロン、脊髄固有ニューロンや上位運動ニューロン(UMN)などがあげられる。
ALSの臨床症状が出現する前から大脳皮質の過興奮があげられている(つまりALS発病以前から水面下で異常がおきている)。
fasを認めるより中枢側をくも膜下ブロックするとfasが減少した報告があり、UMNの過興奮を示唆する。他にも頭を磁気刺激することでfasを誘発した報告がある。
他にF波精査とあわせるとLMNの中枢側、末梢側いずれの部位でもfasが誘発されることは確認されている。
ALSの初期ではLMNの中でも脊髄前角細胞など脊髄付近からの興奮でfasをきたす。ALSが進行してくると筋肉に近い末梢運動神経の枝分かれしたLMNからの興奮によりfasをきたす。
複雑で不安定ないわゆる悪性のfasはALSの進行度合いにより検出されやすくなる。
ALSの病初期ではfasが目立つがALS進行期では目立たなくなる(運動ニューロンが死滅しきってしまうため)。
ALSでは針筋電図でfasが多いことは予後不良因子の一つであり、LMNの過興奮を裏付ける。
原発性側索硬化症(PLS)ではUMNのみの障害でfasはかなり少なく予後は比較的良い。脊髄性筋萎縮症(SMA)ではfasは多いが予後は様々である。

ALSでは運動ニューロン内へのナトリウムイオン流入が持続的に増加し、ニューロン外へのカリウムイオン排泄が減少する。これにより軸索内に陽イオンが貯留しLMNでの過興奮が生じるためfasをきたしやすくなる。このチャネルの変化はALSの病態によりおこるのか、死滅したLMNを代償的に動かすために変化しているのか不明である。しかしこのイオンの流れで運動ニューロン内の興奮が増加し代謝性ストレスなどによりニューロンの死滅を確実に招くことになる(神経細胞が興奮しっぱなしの状態では運動神経細胞が死滅するということです)。

SOD1を変化させた動物モデルではLMNが脱分極(興奮)しやすい。
上記よりNaチャネルブロッカーは進行抑制に有効と考えられる。

末梢で分岐したLMNはコリン製剤が投与されると容易にfasを誘発する。アセチルコリンはLMNと筋肉の間の神経筋接合部でシナプス前よりグルタミン酸が放出された後に分泌される。そのためリルゾールのようなグルタミン酸放出抑制薬は有効である。

神経再支配が進行してくるとK+イオンチャネルがうまく働かないので運動ニューロンが持続的に興奮し筋痙攣がおきやすくなる。

遠位筋のfasは様々な急性の末梢神経障害(急性ポリオ灰白髄炎、外傷)でよく誘発される。慢性的緩徐進行性のシャルコーマリートゥース病(CMT)糖尿病性末梢神経障害(DPN)手根管症候群(CTS)ではfasがでることは極めて稀である。局所的な脱髄が軸索の易興奮性や異所性発火を誘発しやすい。

舌では皮膚よりも表面の粘膜上皮が薄いため肉眼的fasを観察しやすい。

針筋電図ではALSで僧帽筋のfasが出現する頻度が極めて高い。
針筋電図の針はごく一部のみをターゲットにするためFasを発見するだけならば超音波の方が有効である。発火頻度や形は針でしか評価できない。

健常人でも下腿後面や足にfasはおきやすいがMNDを心配する人が多く、インターネットへアクセスしやすい現代ではたくさんの情報が入ってくる。BFSは下肢を主体として全身におこる。日中の変動が強く、数ヶ月から数年に渡り持続する。運動、ストレスやカフェインなどで誘発される。おそらくは中枢性の易興奮性や不安による過換気が原因の一つと言われている(過換気だと運動神経細胞が興奮しやすくなります)。

有痛性筋痙攣はスタチン治療の高齢者によくみられる。
Cramp-fasciculation症候群(CFS)の32%に抗VGKC抗体が陽性であった(Muscle Nerve 2014; 49: 351-356)。それらの例では針筋電図で慢性神経原性変化や採血でCK上昇を認めた。
ALSとは異なりMMNで超音波による部分的運動ニューロン肥大を認めることもある





【線維束性収縮の原因】
運動ニューロン疾患(MND)
脊髄性筋萎縮症(SMAとSBMA)
脊髄小脳変性症3(SCA3=Machado-Joseph病)
ポリオ
ヘルペスウイルス感染後
<末梢神経病変>
多巣性運動ニューロパチー(MMN)
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
他の免疫介在性末梢神経障害
シャールコー・マリー・トゥース(CMT)
外傷性末梢神経障害
<運動神経根と腕神経叢病変>
炎症性
放射線治療副作用による腕神経叢炎
<脊髄病変>
神経梅毒
頚部脊柱管狭窄症
放射線治療副作用による脊髄炎
帯状疱疹や狂犬病等によるウイルス性脊髄炎
<代謝性病変>
低カルシウム
低マグネシウム
甲状腺機能亢進症
<末梢運動神経の過興奮>
Benign fasciculation syndrome
Cramp-fasciculation syndrome
運動後fasciculation
<薬剤性>
カフェイン、コリン刺激、アンフェタミン、抗ヒスタミン剤、セロトニン、交感神経緊張をきたす薬剤、ベンゾジアゼピン離脱期
<毒物>
ヘビ、クモ、サソリ刺されなどによるコリンブロック
<自己免疫疾患>
VGKC抗体(脳炎+末梢神経運動興奮)
神経ミオトニア
<筋炎>
封入体筋炎(70人中2人のみfas観察)
【上記文献以外に他意見】Simon Freilich先生(イギリス)の動画:副甲状腺機能亢進症、ビタミンD不足、利尿剤やACE阻害薬→いずれも電解質異常を招く。
高カリウム、低カリウム、抗コリン薬(ipratropium tiotropium triphexyphenydate)、スタチン、イソニアジド、麻薬、麻薬離脱期、コルチコステロイド、睡眠時無呼吸症候群→交感神経緊張誘発でもfasをきたす




<管理人意見>線維束性収縮(fasciculation以下fas)についてかなり詳細な報告です。色々な病気でfasが起きることがわかります。上位運動ニューロン(脳から脊髄前角細胞手前までの部分)と下位運動ニューロン(脊髄前角細胞から筋肉手前までの部分)つまり脳から筋肉へ到達する部分を先日のブログで紹介しましたが、下位運動ニューロン(LMN)の何らかの興奮でfasが誘発されます。ALS発病初期は前角細胞に近い中枢部分から興奮が生じるようです。しかしALSが進行してくると筋肉付近での異常な運動神経の枝別れをおこします。新規に枝分かれした部分は興奮しやすく脆弱です。この末梢部位での興奮でも肉眼的には同様のfasになりますが、針筋電図では大きな違いが得られます。
またこの文献では上位運動ニューロン(UMN)への磁気刺激でもfasがおきるようですがfasのメインはLMNと考えられているようです(なお磁気刺激を加えれば電気の流れが発生することは高校の物理でやるかと思います)。
BFSでの興奮部位は不明ですが、針筋電図で異常がないことから少なくとも筋肉付近での末梢に近い部位での神経興奮ではなくUMNやLMNの脊髄前角細胞周辺からの興奮が予想されます。

私は脳神経内科専門医として多くのぴくつきや筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの診療をしてきました。ぴくつきというのは健常人の70%が経験します。例えば眼の使いすぎで眼の周囲がぴくぴくすることは多くの人が経験したことがあるはずです。
このブログでは文献を元にぴくつき(線維束性収縮)や良性の線維束性収縮(benign fasciculation syndrome: BFS)についてまず紹介して将来的にはALSについて色々調べていきたいと思います。

現代はインターネットが発達しています。ぴくつきについてDr Googleで検索するとALSという言葉に初めて出会い、容易にゾッとするかと思います。アイスバケツチャレンジなどでALSという病名が認知されてきたことやSNSなどによるALSの情報発信は非常に良いことだと思います。一方で大変難しい病気であるためぴくつきを感じただけで過度に心配される方が大勢いらっしゃいます。多くは良性のBFSですがBFSの情報が日本語のネットには圧倒的に欠如していると感じました。日本語での詳細な記述はwikipediaくらいでしょうか?youtubeでも海外ではDr1名(Simon Freilich先生(イギリス))と患者さんと思われる方がBFSを解説しているのをみました。日本のyoutubeではBFSについてしっかりとした解説はほとんどありませんでした。情報の欠如に対してこのブログが役に立てば幸いです。


最初に用語から説明させていただきます。

脳神経内科: ぴくつきが出現して初めて脳神経内科という分野を知ったという方も大勢いらっしゃるかと思います。神経内科というのは1975年に標榜を許可された比較的新しい分野です。そして神経科(精神科)と1文字違いで間違われやすいために、2017年日本神経学会が脳神経外科と同じ立ち位置である脳神経内科という名称に変更することを決定しました。

ぴくつき: 一般にぴくつきといっても線維束性収縮(fasciculation)の場合もあればミオクローヌスのこともあります。youtubeで線維束性収縮あるいはfasciculationとひけばすぐに動きが観察できると思います。2つの違いは自分が真似できる運動がミオクローヌスです。一方で線維束性収縮とは自分で同じ動きを真似するのが困難な動きです。ちなみに線維束性収縮とは運動神経と筋肉の興奮ですから安静時にしか感じません。歩行時、動作時など筋肉に力が入っている部位には感じることはありません。

運動ニューロン: 極めて簡潔に記載します。脳の運動神経細胞から軸索という長い線が伸びて脊髄にある運動神経細胞に信号を送ります。脊髄の運動神経細胞から軸索が伸びて筋肉へ到達します。
<上位運動ニューロン>→脳の運動神経細胞+軸索(~脊髄の運動神経細胞まで)(簡潔記載のため樹状突起などは省略)
<下位運動ニューロン>→脊髄前角の運動神経細胞+軸索(~筋肉まで)
全てナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどによる電気活動で神経の連絡がとられています。理論上、上位もしくは下位運動ニューロンのどこかが興奮すればぴくつきを含めて筋肉が電気的に興奮して収縮します。


専門用語や病名は各学会の用語集にのっとり呼称しますので同じ病気でも学会ごとに呼び方が異なることがあります。日本では良性線維束性収縮(benign fasciculation)というのは日本神経学会用語集にありますが、良性線維束性収縮症候群(benign fasciculation syndrome: BFS)という呼称はございません。これは海外で1993に呼称された概念(後述する4、BFSの121症例の文献参照)です。線維束性収縮以外に筋緊張、筋萎縮、脱力や反射などに異常を呈さない疾患です。

以下はその他用語になります
線維束性収縮(一般英語twitch, flickering、専門英語fasciculation)

良性線維束性収縮(benign fasciculation: BF)
良性線維束性収縮症候群(benign fasciculation syndrome: BFS)
(適切な日本語がなし)(cramp-fasciculation syndrome: CFS)
線維束性収縮のみの異常を呈するのがBFSで、線維束性収縮+筋痙攣(cramp)ならCFSと呼べます。

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)
ALS類縁疾患として下記1~3があげられます
1、    原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)→上位運動ニューロンのみ障害
2、    進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy:PMA)→下位運動ニューロンのみ障害
3、    進行性球麻痺(progressive bulbar palsy:PBP)→球麻痺が前景

運動ニューロン疾患(motor neuron disease; MND)

日本ではMNDの中に上記ALS、PLS、PMA、PBPが含まれる傾向にあります。脊髄性筋萎縮症(SMA)や球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はMNDに含まれない傾向にあります(症例から考える針筋電図。診断と治療社 P69参照)。


<良書>
ALSについては【筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013】(207ページ)とネットで引いてみて下さ(注:最近ガイドライン2023年版が発売されました)。PDF12個に分割されていますが無料で日本神経学会より入手できます。やや古いためラジカットは保険適応前で記載されていません。上記ガイドラインのP31に線維束性収縮だけを認める例では長期の観察を要するとなっています。患者さんにとったらおそろしく長い期間恐怖にさらされます。文章中には載っていませんが、BFSは線維束性収縮を敏感に感じてしまう身体化障害の一つですから心療内科/精神科と早めに連携を取っていくことが望ましいと考えられます(後述する3、BFSの2症例の文献参照)。

<疫学>
ALSの好発年齢は60代に多く約1.5:1で男性に多いです。年間発症率は10万人に1~2人と少なく、さらに若年で発症する可能性はとても低いです。【日本におけるALS患者さんの動向】とネット検索してみれば現在のALSに罹患している患者数つまり有病率(その病気を持っている患者数)がわかります。若年での発症が低いことがわかります。
一方BFSの好発年齢は30~50才と幅広く約2:1以上で男性に多いようです(後述するブログ3~6の文献参照)。

<リスク>
ALS最大のリスクは加齢(60代/70代ピーク)、喫煙があげられます。
ぴくつきを認めBFSやALSが心配な方はすぐに禁煙しましょう。酸化ストレスを回避できます。ここらへんはALSの治療ラジカットやALS reversalsでもあげられるcurcuminなどと関連してきます。

BFSのリスクは不眠、不安、ストレス、疲労、過度の運動、カフェインなどです。後日文献を紹介したあとにBFSについてまとめたいと思います。