雑誌:Neurology. 2004 Aug 24;63(4):721-3.
タイトル:Cramps, muscle pain, and fasciculations: not always benign?
(筋痙攣、筋肉痛と線維束性収縮:いつも良性とは限らない?)
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<管理人前置き>今まで線維束性収縮のみを認めた時はBFSばかりである、という紹介をしてきましたが、稀な症例報告をみますと線維束性収縮+筋痙攣でALSへ進展した例もあるようです。かなり稀で怖い情報かもしれませんが報告いたします。科学というのは好ましい情報だけでなく好ましくない情報もしっかり報告するということが肝要のためご容赦下さい。
<本文>
72歳男性、線維束性収縮(fasciculation、以下fas)と筋痙攣以外に脱力、筋萎縮などはみられず、採血や針筋電図なども異常なかった。三角筋生検までして異常はなかった。発症1年後両手にわずかな脱力を認めた。両手と前脛骨筋に筋萎縮を認めた。針筋電図で明らかな異常(複雑なMUP、fib/SW、振幅増大など)を認め、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。
<管理人意見>cramp fasciculation syndromeと考えられていたものの1年後に脱力、筋萎縮を認めた症例です。しかしこの文献の末尾にもmost patients with benign fasciculations do not progress to MND(ほとんどの良性線維束性収縮は運動ニューロン疾患に進展しない)とあります。
雑誌:J Neurol. 2011 Apr;258(4):573-8
タイトル:Fasciculations and cramps: how benign? Report of four cases progressing to ALS
(線維束性収縮と筋痙攣:良性とはいかなるものか?ALSへ進展した4例報告)
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<本文>
1、40才男性、両下肢つっぱり訴え、2年後顔面を含んだ全身のfasと筋痙攣を認めた。さらに2年後同様のfasと筋痙攣があったが筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなくCramp-fasciculation syndromeと診断された。ただしこの時点において神経伝導検査で正中神経のCMAP低下を認めていた。さらに4ヶ月後右肩周囲の脱力と筋萎縮を認めた。神経伝導検査で伝導ブロックを認め多巣性運動ニューロパチーを疑われ免疫グロブリン大量静注療法を行うも無効で約1年後呼吸不全で死亡した。病理解剖では脊髄前角と前根の著名な萎縮を認めALSと診断された。
2、52才男性、下腹部、腓腹筋、ハムストリングスの筋痙攣を自覚し、3年後受診し、全身にfasを認めた。しかし筋萎縮、脱力、上位運動ニューロン徴候は認められずCramp-fasciculation syndromeと診断された。クロナゼパムは無効であった。その約半年後受診した際に手の萎縮と脱力、深部腱反射亢進を認めた。針筋電図とあわせてALSと診断された。
3、63才男性、両上肢と背部に頻回のfasを認めた。1年後脳神経内科受診し、fasを腓腹筋にも認めたが、筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなかった。さらに約1年後筋痙攣を四肢に認めた。上位運動ニューロン徴候は乏しかったが針筋電図とあわせてALSと診断された。
4、40才男性、プロチームレベルで活躍するアスリート。半年前から両上肢と大腿にfasを認め、両上肢が筋トレで太くならなかった。EMGでは異常なかった。約1年後筋痙攣を認めた。その時点で筋萎縮、筋緊張、筋力や反射に異常はなくcramp-fasciculation syndromeが考えられた。しかし約半年後脱力と筋萎縮が急速に進行し両上肢近位筋萎縮、脱力と上位運動ニューロン徴候を認め、針筋電図とあわせてALSと診断された。
<管理人意見>fasと筋痙攣のみで当初筋萎縮、筋緊張、脱力、反射に異常がなかったにも関わらずALS進展した4例が報告されていました。このようにfasと筋痙攣のみでもALSへ進展する事例も稀ながらあることがあります。そうかなり稀です。
注意しなくてはいけないのが上記症例4にあるように筋肉ムキムキの方(例えば握力60とか)の人の場合です。ちょっと筋力が落ちたくらいでも筋力低下や萎縮がわかりにくい時があります。その場合正常内と診断されてしまうでしょう。
他にもfasと筋痙攣のみからALS進展した一症例の報告をあげますとNeurology 1986 36: 997-998。J Neurol Sci 1997 150:129-131などがあげられます。基本的に少数例の報告はNeurologyなど有名雑誌ではあまり受け付けていないのですが、かなり稀な例であるからこそ症例報告に載せられたと考えられます。また症例数が少ない報告は信頼性が低いと言われています。以前に紹介したBFS121例や35例の方が圧倒的に文献の価値があります。
なおこれら一部の文献の影響もあり、fasのみを認める患者に対して最低5年間は経過観察するように筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013のP31では記載されています。
管理人意見内の文献もあわせて本記事にある4つの文献の特徴としてはfasのみではなく筋痙攣を伴っていたということです。ブログの2、線維束性収縮で記載した抗VGKC抗体がcramp fasciculation症候群の32%で陽性になります。なお国内では保険適応になっていません。コスミックコーポレーションでは自費で10万円かかってしまいます(一部大学は無料)。
少し話が脱線しましたが神経所見正常でfasのみ異常を呈する方が少なくとも1年以上経過して神経所見上のその他の異常を呈しALSへ進展した報告は見つけられませんでした。加えて筋痙攣自体は健常人でもおきるのであまり怖い病気の心配をされない方がいいです。