私は脳神経内科専門医として多くのぴくつきや筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの診療をしてきました。ぴくつきというのは健常人の70%が経験します。例えば眼の使いすぎで眼の周囲がぴくぴくすることは多くの人が経験したことがあるはずです。
このブログでは文献を元にぴくつき(線維束性収縮)や良性の線維束性収縮(benign fasciculation syndrome: BFS)についてまず紹介して将来的にはALSについて色々調べていきたいと思います。

現代はインターネットが発達しています。ぴくつきについてDr Googleで検索するとALSという言葉に初めて出会い、容易にゾッとするかと思います。アイスバケツチャレンジなどでALSという病名が認知されてきたことやSNSなどによるALSの情報発信は非常に良いことだと思います。一方で大変難しい病気であるためぴくつきを感じただけで過度に心配される方が大勢いらっしゃいます。多くは良性のBFSですがBFSの情報が日本語のネットには圧倒的に欠如していると感じました。日本語での詳細な記述はwikipediaくらいでしょうか?youtubeでも海外ではDr1名(Simon Freilich先生(イギリス))と患者さんと思われる方がBFSを解説しているのをみました。日本のyoutubeではBFSについてしっかりとした解説はほとんどありませんでした。情報の欠如に対してこのブログが役に立てば幸いです。


最初に用語から説明させていただきます。

脳神経内科: ぴくつきが出現して初めて脳神経内科という分野を知ったという方も大勢いらっしゃるかと思います。神経内科というのは1975年に標榜を許可された比較的新しい分野です。そして神経科(精神科)と1文字違いで間違われやすいために、2017年日本神経学会が脳神経外科と同じ立ち位置である脳神経内科という名称に変更することを決定しました。

ぴくつき: 一般にぴくつきといっても線維束性収縮(fasciculation)の場合もあればミオクローヌスのこともあります。youtubeで線維束性収縮あるいはfasciculationとひけばすぐに動きが観察できると思います。2つの違いは自分が真似できる運動がミオクローヌスです。一方で線維束性収縮とは自分で同じ動きを真似するのが困難な動きです。ちなみに線維束性収縮とは運動神経と筋肉の興奮ですから安静時にしか感じません。歩行時、動作時など筋肉に力が入っている部位には感じることはありません。

運動ニューロン: 極めて簡潔に記載します。脳の運動神経細胞から軸索という長い線が伸びて脊髄にある運動神経細胞に信号を送ります。脊髄の運動神経細胞から軸索が伸びて筋肉へ到達します。
<上位運動ニューロン>→脳の運動神経細胞+軸索(~脊髄の運動神経細胞まで)(簡潔記載のため樹状突起などは省略)
<下位運動ニューロン>→脊髄前角の運動神経細胞+軸索(~筋肉まで)
全てナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオンなどによる電気活動で神経の連絡がとられています。理論上、上位もしくは下位運動ニューロンのどこかが興奮すればぴくつきを含めて筋肉が電気的に興奮して収縮します。


専門用語や病名は各学会の用語集にのっとり呼称しますので同じ病気でも学会ごとに呼び方が異なることがあります。日本では良性線維束性収縮(benign fasciculation)というのは日本神経学会用語集にありますが、良性線維束性収縮症候群(benign fasciculation syndrome: BFS)という呼称はございません。これは海外で1993に呼称された概念(後述する4、BFSの121症例の文献参照)です。線維束性収縮以外に筋緊張、筋萎縮、脱力や反射などに異常を呈さない疾患です。

以下はその他用語になります
線維束性収縮(一般英語twitch, flickering、専門英語fasciculation)

良性線維束性収縮(benign fasciculation: BF)
良性線維束性収縮症候群(benign fasciculation syndrome: BFS)
(適切な日本語がなし)(cramp-fasciculation syndrome: CFS)
線維束性収縮のみの異常を呈するのがBFSで、線維束性収縮+筋痙攣(cramp)ならCFSと呼べます。

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)
ALS類縁疾患として下記1~3があげられます
1、    原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)→上位運動ニューロンのみ障害
2、    進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy:PMA)→下位運動ニューロンのみ障害
3、    進行性球麻痺(progressive bulbar palsy:PBP)→球麻痺が前景

運動ニューロン疾患(motor neuron disease; MND)

日本ではMNDの中に上記ALS、PLS、PMA、PBPが含まれる傾向にあります。脊髄性筋萎縮症(SMA)や球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はMNDに含まれない傾向にあります(症例から考える針筋電図。診断と治療社 P69参照)。


<良書>
ALSについては【筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013】(207ページ)とネットで引いてみて下さい。PDF12個に分割されていますが無料で日本神経学会より入手できます。やや古いためラジカットは保険適応前で記載されていません。上記ガイドラインのP31に線維束性収縮だけを認める例では長期の観察を要するとなっています。患者さんにとったらおそろしく長い期間恐怖にさらされます。文章中には載っていませんが、BFSは線維束性収縮を敏感に感じてしまう身体化障害の一つですから心療内科/精神科と早めに連携を取っていくことが望ましいと考えられます(後述する3、BFSの2症例の文献参照)。

<疫学>
ALSの好発年齢は60代に多く約1.5:1で男性に多いです。年間発症率は10万人に1~2人と少なく、さらに若年で発症する可能性はとても低いです。【日本におけるALS患者さんの動向】とネット検索してみれば現在のALSに罹患している患者数つまり有病率(その病気を持っている患者数)がわかります。若年での発症が低いのことがわかります。
一方BFSの好発年齢は30~50才と幅広く約2:1以上で男性に多いようです(後述するブログ3~6の文献参照)。

<リスク>
ALS最大のリスクは加齢(60代/70代ピーク)、喫煙があげられます。
ぴくつきを認めBFSやALSが心配な方はすぐに禁煙しましょう。酸化ストレスを回避できます。ここらへんはALSの治療ラジカットやALS reversalsでもあげられるcurcuminなどと関連してきます(いつかブログにあげたい内容です)

BFSのリスクは不眠、不安、ストレス、疲労、過度の運動、カフェインなどです。後日文献を紹介したあとにBFSについてまとめたいと思います。