
苦労して敵地10連戦の2勝目。マリナーズは、首の皮一枚でプレーオフ進出への望みをつなげたか。
イチローは、こう例える。
「もう、死にかけてる――。今日負けたら死んだと思うけど、ちょっとだけ、まだ火が残っているというか、焼き肉やりながら、もうガスがない状態に近いけれど、もう1回さしたら、ちょっと火がついたみたいな、そんな感じかな。そんな感じになってほしい。そこしか可能性がないんで」
ワイルドカード争いトップのヤンキースが今日も勝ち、直接対決のない5ゲーム差は変わらない。それでも今日、「ふう~」っと消えかかった炭に息を吹きかけると、赤い炎が広がった。イチローは、それが再び大きく燃え広がることに、最後の望みを託す。
このチームのポテンシャルが試されている。今日、どこかで開き直ったかのようなものを感じた。1回裏に逆転を許すも、2回に逆転。3回、4回にもたたみ掛けて、試合を決めた。
明日からは、アスレチックスとデビルレイズをホームに迎えて7連戦。ともに勝率5割を切るチームに対して、どんな戦いができるのか? 今日の試合を含めて8連勝でもすれば、分からない。
鼻で笑う人もいるだろう。ただ、このチームがそれをできないと言い切れる人もいないはずだ。
ここに来てできることは、前を向くこと。昨日まで沈んでいたチームメートに、笑みがあった。悪あがきでもいい。ヤンキースを慌てさせたい。
さて、初回にホームを踏んだイチローは、今季100得点を記録した。シーズンで「200安打、100得点、30盗塁」を記録したのはこれで7度目だが、イチローはこの日、“オンリー・ワン”になっている。
これまで、球聖と呼ばれたタイ・カッブ(元タイガース)と、ウィーリー・キーラー(元オリオールズほか)が、「200安打、100得点、30盗塁」を6度記録しており、イチローも去年、彼らに並んだが、この日の得点でイチローは彼らを超えたことになる。
その感想を問えば、イチローは言った。
「まあ、1個片付いた、という感じだね」
“1個”とは、これからまだまだ、記録を塗り替えていきますよ、という意思表示だろうが、そんなカッブやキーラーを現代に蘇らせるような行為に快感を覚えるかと聞けば、「まあでも、最近の記録――僕が関わる記録って、そんなんばっかだから、『またか』っていう感じだね」と、何気なさを装った。
本心か? それは分からない。
ただ、である。そのすごさを改めて考えれば、言葉がない。キーラーの記録も、カッブの記録も、一般的には打者有利と言われた時代のもの。その考え方には最近になって異論も出ているが、いずれにしても、もう破られないだろうと、逆に誰もが忘れていたような数字である。
ジョージ・シスラー(元ブラウンズ=現オリオールズほか)の年間最多安打を破ったときもそう。イチローは、そういう人たちの名を身近にした点でも、その貢献がたたえられていい。
そういえば、シスラーの記録を破ったとき、シスラーの家族の方が「イチローのおかげで、『ジョージ・シスラー』という名を、多くの人が思い出してくれてうれしい」と話していた。
来年、イチローはキーラーが持つ、8年連続200安打に挑戦する。記録更新はまだ先だが、再びイチローは、キーラーという名を、表舞台に呼び寄せることになる。