グローバル化と新興諸国の登場で、スペイン語が無視できない言語になった。

 スペイン語圏で、最大の人口は、1億人を超えるメキシコだが、2番目の国はどこかご存知だろうか。そう、4千8百万人のラテン系いわゆるヒスパニック人口を抱える米国である。4千7百万人のスペイン、4千6百万人のコロンビアがこれに続く。

 大統領選のまっただ中にある米国だが、西部のカリフォルニア州や南部、南西部のニューメキシコ、アリゾナ、テキサス、フロリダ州では、大統領候補者は、スペイン語で語りかける。
 大統領候補者がスペイン語で演説するとは、東京育ちの候補者が東北弁で演説するようなものである。わが国でそのようなニュースはまだ聞いたこともない。日本も世界も、「地方の時代」を迎えているとは言え、日本の地方化は、まだ初歩的段階なのだろう。

 もとはと言えば、米国の南・西部は、一部(ルイジアナは仏領、フロリダはスペイン領等)を除いて、メキシコ領だった。
 メキシコ人が冗談めかしてよく口にすることだが、「メキシコは、天国に最も近い国。だけど、不幸なことは、米国に最も近いこと」とも言い、また、「そのうち、ソフトパワーの言葉と移民で、中味はメキシコ領になるさ」とも言う。
因みに、米国で車のナンバープレートは、州名と番号だけだが、ニューメキシコ州の車だけは、最後にU.S.A.と書いてある。同州はメキシコ領だと勘違いする人が多いからに違いない。

 スペイン語がこれだけ世界に蔓延してくると、日本産の製品名にも今まで以上に注意が必要だ。
 いや、既に弊害が現れている。車名だけに絞ると:
 ニッサンのモコは、Mocoと綴られ、日本語ではモコモコとした親しみやすい響きだが、スペイン語では、鼻汁を意味する。
 マツダの軽自動車ラピュタは、Laputaと綴られていたが、これは、スペイン語では、la putaと聞こえ、売春婦のこと。6年ほど前に、販売中止になって救われている。
 パリダカで世界的に有名になったPajeroは、南米アンデス山中に生息する体長50センチ前後の猫の一種Leopardus pajerosからヒントを得た名前だそうだが、俗語・卑語の類で、引用をはばかる意味がある。そのためか、中南米では、Mitsubishi Montero (Montero=勢子)に改名した。因みに、米国では数年前に販売が停止された。
 勿論問題は日本車だけではない。GMもかつては小型車Chevrolet Novaを製造販売していた。Novaは、No vaとなると、スペイン語では「行かない」「動かない」(It doesn't go)の意味である。フォルクスワーゲンのPolo GTIもそのままスペイン語で発音すると、とんでもない意味になる。さすがにスペインでは、GTIを削除して単にPoloだけになっている。
 南北アメリカでは、これらが笑い話にもなっている。(例:http://www.taringa.net/posts/humor/8367650/EL-Moco-y-La-Puta.html)
 スカンジナビア地域や中欧・東欧諸国でも似たような問題が発生している。

 われわれ一般市民から見れば、お笑いごとですまされるが、販売責任者としては、冷や汗ものだろう。
 長らく、官庁でも会社でも、国際派と国内派とが対立し、国内派優勢のわが国である。しかし、世の中がこれだけグローバルになると、米国や中国を知っているだけでは、国際派とは言えない。ウォール街どころか、アテネの衝撃が及ぶ時代である。実際的な現場重視とともに、広い視野や気配りが求められているということではあるまいか。