【400文字作文】 お・さんぽ

小さい川を囲うように、しっかり造られた
遊歩道には、きちんと桜が植えられている。
自転車で遊歩道を走っていた私は、小さい
川を縁取るように咲いている菜の花を見て、
菜の花たちと同じ目線に立ちたくなった。
自転車を遊歩道の柵にもたせかけ、川のほ
とりに下りると、ゆっくり風が吹いている気
がした。最近、髪を短くした私は、髪を切っ
てよかったな。と、思った。
人がひとり歩けるくらいの川沿いの一本道
を、菜の花を撫でながら歩いていると、ずっ
と向こうで老夫婦が、花を背景に写真を撮っ
ているのが見えた。その光景を見て私は、な
んだか照れてしまい、自分の靴ヒモを見なが
ら一本道を歩く。
一本道は曲がっているけど、「まっすぐ」
という言葉が似合うな、と思った。途中で曲
がっていても、まっすぐはまっすぐなのだ。
遊歩道沿いにある家の窓からヤキソバよ、
という声と、子供の笑い声が流れてきた。
【400文字作文】サクラサクナリサクラチル

桜の真下にいるワタシは、散ってしまった
小さな花びらしか見えない。ワタシは、その
花びらだけでじゅうぶんだ。
桜の前を通り行く人たちは、白くて白くて
ほのかにほのかに紅い、桜の花の美しさに見
惚れている。
顎を上げ、ほうけたように口をあけ、艶や
かな桜にナニかを奪われている人たちの頬も
ほのかにほのかに紅いが……その人たちの視
線の焦点は、桜の花びらのもっともっと向こ
う側にあるようでワタシは身ぶるいした。桜
の花の向こう側にあるモノがみんなには見え
てワタシには、見えない。
ちいさな子供が、つながれていた母親の指
をほどきしゃがんで、地に堕ちた桜の花びら
で遊びだした。花びら気持ちいい?と聞くと
子供は、手のひらにくっついた花びらをワタ
シに見せ、こくりとうなずいた。
ワタシもこくりとうなずき、サクラサクナリ
サクラチル。と、声に出さずにつぶやいた。
【400文字作文】 ひばり

僕は、何も決めず北へ向かっていた。車が
少ない高速道路はどこかマヌケで、流れゆく
景色もどこか無機質な感じがする。灰色の空
のせいかもしれない。
これより北へ行っても、何も変わらないと
思い、高速道路を降りた。隣で眠っている彼
女をおこさないように、ゆっくりブレーキを
踏んだけど、彼女は窓側に向けていた顔をこっ
ちに向け、着いちゃった?と、きいた。
料金所の男に、まだ雪が残っているから気
を付けるよう声を掛けられ礼を言った後、ま
だだから寝てていいよ。と言うと彼女は目を
閉じたまま僕を見て、すっと微笑んだ。
彼女の、三日月のようなまつ毛をもう少し
見たくて僕は車を寄せタバコに火を点け、窓
を少しだけ下げた。
窓の隙間からタバコの煙は逃げ、鳥の鳴き
声だけが入ってくると彼女は、ヒバリね。と
言い、黒い髪を指でなぞって、白くて紅い耳
を僕に見せてくれた。