オーラのくすみがまだ消えない道原忍は、意外なシチュエーションに遭遇した。


銀行強盗の現場だ。

まさに今、子供を人質にした銀行強盗が逃走用の車両を警察に要求しているという、

教科書通りのシチュエーションだった。

道原忍は、その時特異な自分の感情が産まれるはずだと予想したが、大きく外れた。

驚くほど冷静な感情をもってそれを眺めていた。


機動隊が銀行を取り囲み、説得を続ける中、

道原忍は、自分の感情・精神状態の異変にすぐに気が付いた。

「今、冷静である自分が異常だ」

道原忍は、自我を失った。


彼は、自分の脳廠が【剥き出し】であることに気づいていなかった。当然のことだ。

彼は、自分を若禿だと勘違いしていた。 こんな大きなボタンの掛け違いはない。

『異常にデカイ若禿、吐き気を催す』これが、道原忍の鏡に映る道原忍だった。


24歳を迎えた道原忍は、保険会社に勤めていた。

しかし、思うように仕事が運ぶことがない。

「お前よりアリや蜂の方がよく働く。」

上司によく虐げられていた。


精神状態は、良好でなかった。

そのヤカンにで熱された湯は沸点に達しようとしていた。


4月22日、よく晴れた清々しい昼下がり、青紫色に近いオーラを纏った道原忍は、街中を歩いていた。

先ほど、保険加入の勧誘で断られたばかりだ。

「なに?あなた何なの!?」

「東京住宅火災保険の道原と申し…」


彼がした会話はこれだけだった。 なるほど、アリや蜂の方が使えるかもしれない。



つまり、彼の脳廠は【剥き出し】であった。


道原忍の人生の歯車は、ここでガタツキを見せた。
彼の精神異常(緊張型分裂症)とは、極度なコンプレックスに起因するものだ。

無理もない。すれ違う通行人が皆、彼の脳廠を見て嗚咽する。

話しかけようにも恐れられ、逃げられるといった事例は多々あった。


道原忍の心は、深い裂傷を負った。 自分の外見に恐怖すら感じるようになった。
道原少年は、鏡を見なかった。