2016年9月16日(金)

 

五反田・IMAGICAで、『SUPER FOLK SONG 〜ピアノが愛した女。〜』[2017デジタル・リマスター版] 試写。

 

1992年に劇場公開されてDVDにもなっているが、僕が観るのは今回が初めて。デジタル・リマスターということで、モノクロフィルムの粒立ちに加え、ピアノの音の響きがとにかくいい。ピアニストとしての矢野顕子がどういう音を鳴らす人なのか、その特徴が今までで一番ハッキリわかった気がした。


ピアノ一音一音に対する徹底的なこだわりと妥協のなさ、その凄まじい緊迫感は、観ていて胃のあたりが痛くなるほど。満足いく演奏ができるまで食事もとらずに何度でもやり直す一心不乱さはピアノの鬼といった感じだが、こうまでしないとその曲に宿らないものが確かにあるということだ。それが何なのかわかっているのは本人だけなのだが。


演奏して音を生む矢野顕子の映画であると同時に、これはそれを録るエンジニア・吉野金次の映画でもある、というのは観終えて強く思ったこと。矢野さんがなぜ金次さんを必要とするのかがよくわかる。そしてこれを観た人はエンジニアの重要さを改めて思い知ることにもなる。


2006年に細野晴臣さんが書かれた、吉野金次さんに関する興味深い文章を見つけたので、リンクを貼っておく。「音の品格」と細野さんは書かれておられる。なるほど。http://dwww-hosono.sblo.jp/article/1199935.html


ところで、矢野さんには過去1度だけ取材したことがある。怖かった。あのときの怖さと緊張が生々しくよみがえってきて、さらにまた胃のあたりが痛くなった。


この冬、2週間限定ロードショー。あ、そうそう、四半世紀も前の作品とあって、鈴木慶一さんが実になんとも若々しかったです。

 

2016年9月11日(日)

 

渋谷O-nestで、ビッケブランカの“Natural Woman Tour”ファイナル。

 

まずはこの日の2マン相手となるAnly。バンドでの厚みあるロックサウンドと弾き語り。そのバランスや、よし。カヴァーも2曲(ガブリエル・アプリンの「Please Don't say love me」とレッド・ツェッペリンの「天国への階段」。この2曲を続けて歌ってもさほど違和感がないのが面白いところ)。前回eggmanで観たときから、夏フェス出演を経て一皮むけた印象だ。声の出が強くなり、MCのカタさもだいぶとれた。19歳だけあって吸収力が凄いね。

 

休憩挿んでビッケブランカ。超最高!  あまりによすぎて、ぶっとんだ。1年前にTAKE OFF7で観たワンマンからの進化の度合が凄まじいの。のっけから彼特有の陽性のパワーが大炸裂。圧倒的に明るくて楽しくて、観ている誰もが笑顔になって、バラードではキュンときてホロっとなって(特に「TARA」は沁みたな)、そのあとはさらなる昂揚が訪れて。海外だったらMIKAとかいるけど、日本でこういうライブができる男はほかにいないんじゃないか。奏でられる全ての曲がグッドメロディである上、バンドとの一体感がグンと増していて。何よりビッケ自身の「何が何でもこのライブを最高のものにするんだ」というような思いと熱が声と動きにズバッと表れていて、汗も飛び散る飛び散る。やっぱあれだね、人の心を動かすのは熱量だね。

 

彼は和製MIKAなんて言われることもあって、「ファビュラス」なんかはまさにそうだけど、この日披露された新曲はMIKAを越えてファレルかジャスティン・ティンバーレイクかってなグルーヴとポップ性があった。因みに「ファビュラス」は本編ラスト。その多幸感たるや。まさに“人生、ファビュラス”。ビッケは歌い終えて思わず「みんな幸せになってくださいっ!!」と叫んでいたけど、その言葉を心の底からああやって本気で叫べる男がほかにいるかって話。それが彼の100%の思いだってことは観ていた全員がわかったはずだ。あと、そういえばライブ半ばではミュージカルっぽい作りを取り入れてたところもあって、それもよかった。そうやって1本のライブにストーリー性を持たせたりもしているわけだ。やりたいこと、描いたビジョンを、確実に形にしていってるんだな、いまのビッケは。いやー、やっぱ逸材。間もなくの新作もめちゃめちゃ楽しみです! (ベタ褒め)

 

*写真はメジャー第1弾作品のジャケ。インパクトあるなー。

 

 

2016年9月10日(土)

 

新代田FEVERでウソツキ。

 

いくつかの夏フェス出演を経て自信をつけたのだろう、ダイナミックなバンドサウンドを実に堂々と鳴らし、竹田君の歌は以前よりも伸びやかに。それに全員、演奏時の表情がまたすごくよくなった。あと、男性客も増えてきたようだな。よき傾向。関わったバンドがすくすく成長していくのを見るのはいいもんですねぇ。

 

オフィシャルサイト用に後日ライブレポ書きます。

 

2016年9月10日(土)

 

渋谷TOEIで、『ディアスポリス-DIRTY YELLOW BOYS-』。

 

土曜の渋谷の午後にも関わらず、客は6~7人。あれれ?   そういや先週始まったばかりなのに、そんなに評判になってないし、これはもしかして……と嫌な予感抱きつつ観たら。結論から書くと、見事に大外れ。完全に期待を裏切られた感。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』によく似た症状で、つまりテンポ悪いし、無駄に暗いし、無駄に長いし、何を伝えたいのかもよくわらないっていう。スカッとする場面がひとつもなくて、ただただどんより。途中退席しようかと思いつつ、でも我慢しながら最後まで観たんだが、終わり方がまたどうしようもなくて。こりゃあ、客入ってないはずだわ。

 

ドラマ版がけっこう好きだったから僕は楽しみに観に行ったわけですよ。ところがそのドラマ版にあったよさが何もかもすっかり失われててね。まず(異邦警察という)設定の面白さが1ミリも活かされてないし。そもそもその設定についての説明は始まりの1~2分くらいで終わらせて、あとは知らんぷりだし(ドラマ版観てなかったら、なんのこっちゃわからんよ、あれじゃ)。出てくる全員の行動が非論理的だし。誰彼構わず殺しまくるアジア人コンビに関してはとってつけたような幼少時代のダークな背景描写を挿入して理由づけしてくるあたりがまたイラッとさせられるし。何より主役の松田翔太が躍動する場面があまりに少なすぎるし(つまり活劇としての面白さを監督は初めから放棄している)。ドラマ版でかなりいい味出してた柳沢慎吾と康芳夫はほとんど出てもこないし(このふたりの活躍場面を発展させずに映画化する意味がどこにあるんだ?!)。映画化にあたって新たに安藤サクラという名女優を起用しておきながら、話の主軸にまるで関わらない捨て駒みたいな扱いにしかできてないし。いやもう挙げたらキリがないんだけど、要するに脚本家にも監督にもドラマ版に対する愛情や敬意、またはドラマ版のよさの上に立って発展させようという意欲がこれっぽっちもないってことがよくわかるんだな。因みに監督は熊切和嘉。『青春☆金属バット』とか『私の男』とかけっこう好きだったんだけど、今回この『ディアスポリス』でもう僕の中の評価ガタ落ちっすわ。

 

まあよかったことと言えば、須藤健太とかOMSBとか、あっち側のキャスティングと演技がよかったってことぐらいかな。主役の松田翔太に関しては、僕はドラマ版を観ながら久々に適役がキタな、しばらく龍平の株ばっかあがってたけどこれによって彼のかっこよさが見直されるなと喜んでたんだけど、この映画版はただただ勿体ない。脚本と監督がちゃんとさえしてればもっと活かされて再評価されたはずなのに……。

 

しかしあんなに面白い素材を使いながらどうしてこんな仕上がりになっちゃったんかねぇ。ドラマ版のエンディングに使われてたチャンラン・ポ・ランタンのあの素晴らしい曲「月」が映画には使われないと知ったときにはガッカリしたんだけど、観たあとに思いましたわ。こんな駄作にあの名曲が使われなくてよかったとね。

 

 

 

 

2016年9月9日(金)

 

ブルーノート東京で、キャンディス・スプリングス。

 

大学を卒業したばかりだというベーシストとドラマー(ふたりとも見かけからしていかにも若い!)を引き連れての単独初公演。晩年のプリンスがよくしてたようなサングラスを見せつけながらの登場シーンからしてなんとも明るく、元気溌剌キャラ全開。ボリューミーな鳥の巣ヘアも含めて実にステージ映えするルックの人だ。取材時もそうだが、彼女はステージでもよく笑い、とても楽しそう。この華やいだ感覚こそが彼女の魅力だよなと、まずは思わせる。

 

だがしかし、持ち前のその明るさが深みのあるバラードへの入り込みを邪魔してる感もあり。元気なMCから、しっとり聴かせる歌への移行が粗くて雑なのだ。例えば「ソウル・アイズ」のような深いパラードを聴かせるにはMCから少しの間を置いて集中してから歌世界に入りこむべきなのだが、彼女は明るいMCからそのまま歌い始めてしまう。実に勿体ないところだが、恐らくナッシュビルのホテルラウンジで雑多な客を相手に歌っていた頃のやり方がぬけていないのだろう。

 

その点、デビューEPに収録されていたファンキーな「Love Got In The Way」はライブ映えするし、彼女のキャラにも合っていた。インタビューではEPよりもアルバムのジャジーな世界観のほうが自分らしいというような発言をしていたが、ライブにおいてはあのEPのノリをもっと多めに混ぜ込んだほうがいいものになるんじゃないか。今後はジャジー路線一辺倒で突き進むより、EPにあったファンキー成分をうまくミックスさせていく方法をとったほうが面白くなるんじゃないかとも僕は思ってるんだが、どうだろう。

 

ゲストのジェシー・ハリスは2~3曲のみの共演かと思っていたら、大半の曲でギターを。「トーク・トゥ・ミー」はやはり作者のジェシーあってこそ。主張はせず、引いたところで主役を際立たせる演奏は、さすがだなと。

 

ほかに印象に残った曲は「プレイス・トゥ・ハイド」。ナマで聴くと、改めていい曲。で、今後はいかにいい楽曲と出会っていけるかにかかってるなと思ったりも。

 

あと、ロバータ・フラックの「The First Time Ever I Saw Your Face」は味わいあってよかったが、サム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー」はやはりゲイの人が歌ってこそ泣ける&沁みる曲であることを再確認。

 

まあ、何しろ彼女のキャリアはまだ始まったばかり。これからライブ経験を積み、この魅力的な原石がどう磨かれ、どう変わっていくのかが、とても楽しみだ。

 

 

2016年9月7日(水)

 

ブルーノート東京で、ノラ・ジョーンズのスペシャル・ショウケース。

 

ドラムにSOILのみどりん、ベースに小泉P克人を迎えてのトリオ編成で、「キャリー・オン」に始まり新作から続けて5曲。そしてキャンディス・スプリングス公演にゲスト出演するため来日中のジェシー・ハリスを呼びこんでの「ドント・ノー・ホワイ」。ギターを持つことなく全編でピアノを弾いて歌うノラを観るのはずいぶん久しぶりで、まずそれが新鮮だった。あんなに親密なあり方でのノラのライブを僕が観るのは、日本デビューよりも前にNYの小さなギャラリーで行なわれた2001年のライブ以来。で、彼女本来の歌とピアノの個性を味わうには、このくらいがもっとも適しているのかなと感じたりもした。

 

因みに今日から同会場での公演がスタートしたキャンディス・スプリングス嬢も観に来てたけど、彼女はノラの1stを聴いてSSWになる決意をした人。で、ジェシー・ハリスはキャンディスのアルバムのリード曲の作者。キャンディスも特別な思いでこのショーケースを観ていたに違いない。

 

ノラの新作『デイ・ブレイクス』は10月5日発売。新作が出る度に「今回が一番いいかも」と思ってきたけど、今回は冷静に考えても最高傑作の感、あり。大ヒットしたデビュー盤は「ジャジー」だったが、新作の数曲はジャジーじゃなくてジャズ。深みがあって長く聴ける。

 

ただそれだけに、これまでサイドプロジェクト含めてノラの全作品のライナーノーツを書かせていただき、毎回インタビューもさせてもらってきた僕が、この新作にまったく関わることができなかったのは正直残念で仕方がない。強い媒体を持ってないこと含めていろんな意味で今の自分の力不足ということなんだろう。もっと頑張らないとな。

 

2016年9月3日(土)

 

角川シネマ新宿で、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』。

 

監督は『フランシス・ハ』のノア・バームバック。40代の中年夫婦と20代の若者カップル、そのジェネーション・ギャップをユニークに描いてた前半はかなり楽しめた。例えば会話の中で思い出せないことがあるとすぐにググろうとする中年と、「すぐにググるのはイージーだ。思い出すまで考えよう」と言う若者。音楽をDLして聴く中年と、アナログ盤で聴く若者。映画を動画配信サービスで観る中年と、VHSで観る若者。タブレットばっか見てる中年と、ボードゲームを楽しむ若者。「古くてもいいものはいい」と、生活の中にスマートに古いものを取り込んでいるのはむしろ若者のほうだというその描き方が新鮮で面白く。確かにそうなのかもな、と。

 

しかしながら中盤から話はあらぬ方向に転がっていく。で、僕は監督のその話の転がし方に、完全にはノリきれなかった派。僕はおっさんなので、おっさん側のイタさに共感するところはそりゃ大きいんだがしかし、若者がこれ観たらあまりいい気持ちはしないんじゃないか。とか考えちゃってね。いや、面白かったんですけど。ウイングスの曲が効果的に使われてたのとか、よかったし。あ、邦題が全然ダメですね。

 

2016年9月5日(月)

 

渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールで、小坂忠のデビュー50周年記念公演。ライブのタイトルは『小坂忠 Debut 50th Anniversary ~Let the GOOD TIME's ROLL~』。

 

「今日は特別です。最高のミュージシャンと最高のゲスト。こういうのはもうできないんじゃないかと思いますが…」「この3日間くらい、ほとんど眠れなかったんです。今も夢心地ですけどね」「夢を持つことって素晴らしいことだなと思うんです。歌い続けて、いろんな夢を見てきましたが、夢のひとつが今日実現しました。ありがとう」。この日の思いを小坂忠さんはそんなふうに、何度かとても素直な言葉で表していた。

 

まさに「最高のミュージシャンと最高のゲスト」。だって、林立夫、小原礼、駒澤裕城、Dr.kyOn、佐橋佳幸らが中心になったバンドに、バンジョーの西海孝、コーラスの真城めぐみ、ホーンでブラックボトムブラスバンドのYASSYやMONKYらが加わり、ゲストで鈴木茂、吉田美奈子、矢野顕子、細野晴臣、EGO-WRAPPIN'の中納良恵、金子マリ、曽我部恵一、尾崎亜美、Asiah、松たか子、佐野元春らが次々に登場して忠さんとの素晴らしい共演を見せたのだから(敬称略)。

 

ライブは2部構成。第1部は「はずかしそうに」で幕を開け、続いて「ボン・ボヤージ波止場」。そして1975年のツアーのある部分を再現するような感じで、鈴木茂を迎えての「氷雨月のスケッチ」、吉田美奈子を迎えての「機関車」「ほうろう」「しらけちまうぜ」(この『ほうろう』名曲3連発が早々に歌われたのには驚いたし、全体を通しても鈴木茂と吉田美奈子と小坂忠が揃ってのこの3曲はとりわけハイレベルなものとして響いてきた)。また、矢野顕子とは名バラード「つるべ糸」を、細野晴臣とは「ありがとう」を歌唱。それぞれとの思い出話もどれも楽しく、とりわけ細野さんとの話は史実的にも興味深いものだった。例えば「氷雨月のスケッチ」に関して細野さん曰く「本当ははっぴいえんどに作る曲を、茂は忠にあげちゃったんだよ」とか。「僕はバンド名を考えるのが好き」で、「はっぴいえんどの最中にもう次のバンドの名前を考えてた」とか。

 

20分の休憩を挿んで、第2部は全員が黒のスーツでキメて登場。音のあり方も1部とは変え、ゴキゲンな「Let The Good Times Roll」に始まり、しばらくはビッグバンドのスタイルで。中納良恵を迎えての「Bring On Home To Me」から、金子マリが日本語詞で歌った「A Change Is Gonna Come」(あの日本語詞って清志郎がつけたやつじゃなかったかな、たぶん)と続いた。また曽我部恵一とは「Forever Young」を。ボブ・ディランのこの曲を歌ったあと、忠さんは何度か言い聞かせるようにそのタイトルを言葉にして発していたし、そういえば「Let The Good Times Roll」でも“歌い続けて半世紀だぜ、カラダはボロボロ、でも心は熱い”と歌っていたので、そういう思いがいま強くあることがよくわかった。そして尾崎亜美を迎えての「What A Wonderful World」のあとは、実の娘であるAsiahと2曲。軽やかな「 L.O.V.E.」に続いて、じっくりと「Unforgettable」をデュエット。これがよかった。忠さん曰く「僕には夢がありまして、いつか娘とステージで歌えたらな、と。ナット・キング・コールがナタリー・コールとデジタルで共演してましたけど、僕はそれをナマで実現させちゃいました」。それを受けてAsiahさん「じゃあ、パパが死んだらあとは私が」。「なんてこと言うんだよ」と忠さん(笑)。いやしかし、この「Unforgettable」には本当にうっとりさせられた。

 

本編の終盤は、松たか子を迎えて軽くダンスもしながら「私の青空」。続いて佐野元春を迎えての「ふたりの理由、その後」。佐野元春は学生時代、佐藤奈々子と共にに小坂さんの家に招かれ、奥様の作ったラザニアを御馳走になったのだそうだ。「一宿一飯の恩義をここで返せてよかった」と佐野さん。で、ラストはこの日の音楽監督を務めたひとり、佐橋佳幸のギターをフィーチャーして「You Are So Beautiful」をじっくりと。因みにこのライブのもうひとりの音楽監督はDr.kyOnで、キーボード主体の曲やビッグバンド曲などは恐らくkyOnさんのアレンジによるものだろう。さすがにそのアレンジはどれも素晴らしかった。

 

アンコールは、鈴木茂、吉田美奈子、中納良恵、金子マリ、曽我部恵一、尾崎亜美、Asiah、松たか子、佐野元春が再び登場して、賑やかに「ゆうがたラブ」。華やかさと共にグルーブあり。21時になるちょっと前に、このゴージャスなショーは閉幕した。

 

思えば昨年の国際フォーラムでの「風街レジェンド」しかり、オーチャードホールでの「ALFA MUSIC LIVE」しかり、数多くの出演者の中でその歌唱そのものによってとりわけ強い印象を残したのが小坂忠だった。そして今回の50周年記念公演。やはり強く印象に残ったのは主役の忠さんの声のよさと張り、歌のうまさ、それから佇まいとちょっとした身の振る舞いのかっこよさだった。なんというかこう、スタイルがあるのだ。50年も歌ってきて、けれども謙虚で、出演者のみんなを引きたてて。そのステキさがよく伝わるライブだったし、50年の積み重ねの意味が何よりソウルフルな歌唱そのものに表れてもいた。

 

いろんなアニバーサリー・ライブがあるが、これは演奏も音響も極めてハイクオリティで、へんにお祭り要素に傾くのではなくしっかりと音楽そのもののよさを味わえた、とても良質なものだったと思う。さて、今夜はこの日発売された新作『Chu Kosaka Covers』(プロデュースは小原礼)をじっくり聴くとしよう。

 

 

追記: 「金子マリが日本語詞で歌った「A Change Is Gonna Come」(あの日本語詞って清志郎がつけたやつじゃなかったかな、たぶん)と続いた。」  と書きましたが、僕の記憶違いのようです。コメントで「多分砂川正和さんの歌詞だと思います。」とご指摘いただきました。

 

 

 

 

 

2016年9月3日(土)

 

新宿レッドクロスで、ザ・たこさんとハッチハッチェルオーケストラの2マン「たこ八ナイト」。

 

昼間は会場近くのファミレスにて、ザ・たこさんの4人に取材。10月発売の新作『カイロプラティック・ファンクNo.1』についての話をガッツリと(アルバムの発売タイミングで、音楽ウェブサイト「musicshelf」に掲載予定。乞うご期待)。

 

取材後に時間があいたので映画を1本観てから、レッドクロスへ。

 

「たこ八ナイト」。先攻はハッチハッチェルオーケストラ。久々に観た気がするが、ドラムも代わってまたバンドが若返った印象。バーベキュー、綱渡り、ビアガーデンなどお馴染みの曲を夏の終わりの“新宿の端っこ”に響かせ、たこ目当ての人々を巻き込みながら会場をひとつにする。稀代のエンターテイナー、ハッチは、この夜も“舌好調”だった。

 

後攻は我らがザ・たこさん。実験的とも言えるくらい意外性に富んでいて攻めまくったセットリストに吃驚&興奮。今ならこれだけ攻めても大丈夫。迷いの1ミリもない新作を完成された、これが現在の彼らの自信なのだろう。

 

まず、オープナーのインスト「ネギ畑」に続く2曲目が、なんとギター・山口しんじのヴォーカルで「ロックンロールフーチークー」(ジョニー・ウィンターのカヴァー)。かっこいい。こういうブルーズロックを弾かせたら、日本に限って言えば山口しんじの右に出る者はいないと改めて思う。そして、テーマの前にもう1曲。ヴォーカル・安藤が登場しての初っ端には、普段ならマントショーに持ってくることの多い「女風呂」。早くも会場内、熱気が充満。

 

テーマに続いては新作収録曲「カッコイイから大丈夫」。この曲はなんというか、どっか間抜けだったり、うまくいかないときをいくつも過ごしながらもなんとか頑張ってるようなやつ(僕もそうだし、あなたもきっとそうでしょう)の応援歌的なところがあって、聴いてて内側から盛り上がる。鼓舞される感覚があるのだ。ザ・たこさんの新たな名曲の感、あり。そこに続いたのがこれまた意外な過去曲で、久しぶりに聴く「ゴリラの息子」。僕はザ・たこさんの全曲のなかで5指に入るくらい好きな1曲だ。なんたって間奏あたりの山口しんじのギター効果がたまらない。

 

後半戦は、いま一番笑える「お豆ポンポンポン」に始まり、「肩腰、背中」ときて、本編ラストが「あんたはギビトゥミ」。どれも新作に入る曲だが、わけても「肩腰、背中」から「あんたはギビトゥミ」と続いたところが凄かった。わかりやすく笑いが入るのは「お豆」までで、「肩腰、背中」から「あんたはギビトゥミ」の流れは笑いの要素よりも観る者をグワッと渦に巻き込むグルーヴがとてつもない。笑いを求めている人はむしろ置いてきぼり。そのくらいの強度と濃度がこの2曲にはあった。また「あんたはギビトゥミ」という新曲でマントショーというのも思い切った発想だなと思ったが、それはとても新鮮で、“あんたのお尻はブッチャーか高見山”…このフレーズが一夜明けても耳から離れない。今のこのバンドの押し出しは、やっぱ絶対的にファンクなのだ。

 

アンコールは「ナイスミドルのテーマ」をハッチハッチェル迎えて演奏。例によって安藤とハッチはプロレス技の掛け合い(=ふたり馬場対決)を延々繰り返して笑いをとったが、演奏においてはファンクなナイスミドルのあのテンポにヴァイオリンが絡むところがなんとも奇妙な面白さだった。

 

という具合に、「ロックンロールフーチークー」の始まりから「あんたはギビトゥミ」でのマントショーまで、「そうくるか?!」ってな場面がいろいろあったこの夜のステージ。こりゃ、10月のクアトロや11月の服部緑地野音ワンマンも何が飛び出すかわからんな。進化するソウルショー。見逃せない。

 

 

2016年8月31日(水)

 

下北沢Lagunaで、男子中学生~高校生によるフリースタイルバトルと女性シンガー・ソングライターやバンドの演奏が交互で行なわれるイベントを(途中まで)観てきた。目当てはシンガー・ソングライターのairiさんと山﨑彩音さん。ふたりとも17歳の女子高生。ふたりとも声と歌唱の個性がはっきりある。


初めて観たairiさん。強さと気怠さ、その相反する成分の両方が歌声にあって惹かれた。とりわけスローな曲でその声質が活きる。喋ると普通に高校生なのだが、スロー曲の歌表現はやけに大人びて感じられるのだ。ノラ・ジョーンズ「ドント・ノー・ホワイ」のカヴァーが実によかった。この曲をカヴァーする人は少なくないが、今まで聴いた中でトップ3に入るぐらい。


フジロックに続いて観た山﨑彩音さん。歌い出したその瞬間に場の空気と時間の流れを変えてしまえるのだから、それだけその歌唱には既に世界観と言えるものがあるってことだ。引き込む力がハンパない。やはり、恐れ知らずの感、あり。場所やムードに左右されず、ゆっくりじっくり自身の内面を声にする、その肝の据わりっぷりたるや。ルー・リードとコカコーラの歌と、フジでも歌われた新曲が特によかった。


因みに男子中学生~高校生たちのフリスタバトルも非常に楽しめるもので。フリースタイルダンジョン(に出てるラッパーたちのやり方や語彙)の影響をもろに受けすぎじゃないかという面もなきにしもではあったけど、日々集まって言葉表現を磨き合ってることが確かに伝わり、それは実に健全なことじゃないかと思った。


そのようにフリスタで思うことを吐きだす男子たちと、アコギ弾き語りで内面を表現する女子ふたり。まるきりベクトルが違えども、どっちも確かに2016年を生きる10代の表現であり、瑞々しくも面白い。