まずはこの日の2マン相手となるAnly。バンドでの厚みあるロックサウンドと弾き語り。そのバランスや、よし。カヴァーも2曲(ガブリエル・アプリンの「Please Don't say love me」とレッド・ツェッペリンの「天国への階段」。この2曲を続けて歌ってもさほど違和感がないのが面白いところ)。前回eggmanで観たときから、夏フェス出演を経て一皮むけた印象だ。声の出が強くなり、MCのカタさもだいぶとれた。19歳だけあって吸収力が凄いね。
土曜の渋谷の午後にも関わらず、客は6~7人。あれれ? そういや先週始まったばかりなのに、そんなに評判になってないし、これはもしかして……と嫌な予感抱きつつ観たら。結論から書くと、見事に大外れ。完全に期待を裏切られた感。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』によく似た症状で、つまりテンポ悪いし、無駄に暗いし、無駄に長いし、何を伝えたいのかもよくわらないっていう。スカッとする場面がひとつもなくて、ただただどんより。途中退席しようかと思いつつ、でも我慢しながら最後まで観たんだが、終わり方がまたどうしようもなくて。こりゃあ、客入ってないはずだわ。
その点、デビューEPに収録されていたファンキーな「Love Got In The Way」はライブ映えするし、彼女のキャラにも合っていた。インタビューではEPよりもアルバムのジャジーな世界観のほうが自分らしいというような発言をしていたが、ライブにおいてはあのEPのノリをもっと多めに混ぜ込んだほうがいいものになるんじゃないか。今後はジャジー路線一辺倒で突き進むより、EPにあったファンキー成分をうまくミックスさせていく方法をとったほうが面白くなるんじゃないかとも僕は思ってるんだが、どうだろう。
20分の休憩を挿んで、第2部は全員が黒のスーツでキメて登場。音のあり方も1部とは変え、ゴキゲンな「Let The Good Times Roll」に始まり、しばらくはビッグバンドのスタイルで。中納良恵を迎えての「Bring On Home To Me」から、金子マリが日本語詞で歌った「A Change Is Gonna Come」(あの日本語詞って清志郎がつけたやつじゃなかったかな、たぶん)と続いた。また曽我部恵一とは「Forever Young」を。ボブ・ディランのこの曲を歌ったあと、忠さんは何度か言い聞かせるようにそのタイトルを言葉にして発していたし、そういえば「Let The Good Times Roll」でも“歌い続けて半世紀だぜ、カラダはボロボロ、でも心は熱い”と歌っていたので、そういう思いがいま強くあることがよくわかった。そして尾崎亜美を迎えての「What A Wonderful World」のあとは、実の娘であるAsiahと2曲。軽やかな「 L.O.V.E.」に続いて、じっくりと「Unforgettable」をデュエット。これがよかった。忠さん曰く「僕には夢がありまして、いつか娘とステージで歌えたらな、と。ナット・キング・コールがナタリー・コールとデジタルで共演してましたけど、僕はそれをナマで実現させちゃいました」。それを受けてAsiahさん「じゃあ、パパが死んだらあとは私が」。「なんてこと言うんだよ」と忠さん(笑)。いやしかし、この「Unforgettable」には本当にうっとりさせられた。
本編の終盤は、松たか子を迎えて軽くダンスもしながら「私の青空」。続いて佐野元春を迎えての「ふたりの理由、その後」。佐野元春は学生時代、佐藤奈々子と共にに小坂さんの家に招かれ、奥様の作ったラザニアを御馳走になったのだそうだ。「一宿一飯の恩義をここで返せてよかった」と佐野さん。で、ラストはこの日の音楽監督を務めたひとり、佐橋佳幸のギターをフィーチャーして「You Are So Beautiful」をじっくりと。因みにこのライブのもうひとりの音楽監督はDr.kyOnで、キーボード主体の曲やビッグバンド曲などは恐らくkyOnさんのアレンジによるものだろう。さすがにそのアレンジはどれも素晴らしかった。
思えば昨年の国際フォーラムでの「風街レジェンド」しかり、オーチャードホールでの「ALFA MUSIC LIVE」しかり、数多くの出演者の中でその歌唱そのものによってとりわけ強い印象を残したのが小坂忠だった。そして今回の50周年記念公演。やはり強く印象に残ったのは主役の忠さんの声のよさと張り、歌のうまさ、それから佇まいとちょっとした身の振る舞いのかっこよさだった。なんというかこう、スタイルがあるのだ。50年も歌ってきて、けれども謙虚で、出演者のみんなを引きたてて。そのステキさがよく伝わるライブだったし、50年の積み重ねの意味が何よりソウルフルな歌唱そのものに表れてもいた。