7話「とにかく大勢に従いなさい」
鬱ノ宮高校の悲劇
第7話「とにかく大勢に従いなさい」
このブログは原発に反対する立場から書いた、ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
新聞部部室。
部長の七雲が大きな紙を広げて、壁新聞を製作中だ。
「おい。もっと何というか…ホームページとかツイッターとか、
そういう現代的な発信手段はないのか」
緑色の髪の不死の少女、緑子があきれたように言う。
「今どき壁新聞って…」
七雲が顔を上げる。
「うるさいゾ、緑子ちん!
3000歳近い年寄りのくせにツイッター?」
「まだ2671歳じゃ。小娘が」
「…(小声で)充分婆ァじゃないのよ。
あのねぇ、こーいうのは手書きのほうが暖かさが心に伝わるモンなのよ!
あたしはもっとみんなにエネルギー問題に関心を持ってもらいたいの!」
「ふうん…関心のぅ」
緑子は溜息をついてから問いかける。
「……なあ七雲。
今から4つの解答例を言う」
「ん? 何? クイズ? 」
「行くぞ。
いち、原発容認。
に、原発反対。
さん、よくわからない。
よん、批判はやめましょう
…さて、最も正解に遠い のは、どれだかわかるか?」
「好きだね、選択問題。
…最も正解に遠いの、ね? …んん~。どうなんだろ。
3の、アタシぃ♪よくわかりませ~ん♪
とか言ってる子たちが一番ダメなんじゃないの?」
「違う。
1、2、3はどれも立派な見識。
3のわからん、というのも意見は意見じゃ。
3つとも、その意見を表明することによって
本人が何らかの責務を負う」
「あ~。まあそうかもね。恥かくのは自分だもんね」
「だが、批判はやめろ、というのは意見という体裁をとっていない。
要するに自分と同じようにとにかく大勢に従いなさい、ということじゃ」
「…あ、うん」
緑子は重大なことを言う前にいつも浮かべる、
凄みのある笑顔になった。
「よいか、七雲。
この鬱高では何か重大な岐路に立った時、
批判はやめて大勢に従え という声が必ず主流になる。
重大な時であればあるこそ、そうなる」
「…そうかなぁ」
「そうじゃ。貴様は1回目かもしれんが、
私は同じようなことを2671年も見せられてきた。
…これはつまり言い方を変えれば、
一度決めたことは間違ってても変えられない、
ということなのじゃ。
言ってる当の本人はその負の効果に無自覚らしいがの」
「……」
「批判を許さないのは、
今回の場合原発容認と事実上同義語。
ならば私は原発賛成ですと、正々堂々言えばよかろう」
「…うん。まあ、そだね」
「それを言えないのは、
うすうす原発がヤバいものだ と感じておるからじゃ。
その相反した意識によるストレスが、攻撃的な物言いとなって現れる」
緑子の独演会は続く。
「原発反対派がアツくなるのは理解できる。
危険だと信じるモノが野放しで、
今も毒を垂れ流してるんじゃからの」
「ああ。 まあ…それは怒るよね」
「だが賛成派が怒る理由は実はあまり無い。
原発は現に何基も存続してるし、
今回の事故も、主張通りなら大して心配要らないはずじゃ。
ならば、何故彼らはこうもイライラしている?」
「…だんだん難しい話になってきたね、緑子ちゃん」
七雲はそう言うとマジックペンを置いて向き直り、
本格的に緑子の言葉を聞く姿勢になった。
6話「何もしてない奴が批判をするな」
鬱ノ宮高校の悲劇
第6話「何もしてない奴が批判をするな」
どことなく新撰組を思わせる水色と白の旗。
中央にくっきり浮かぶ一文字は「誠」、
…ではなく「風」。
泣く子も黙る鬱高風紀委員会の市中見回りだ。
学校指定のブレザーではない、特注の紫紺の学ラン。
左腕の腕章にはやはり「風」の一文字。
列の先頭に立つのは風紀委員長であり、
前理事長の孫でもある右田翼。
竹刀を肩にかついで、ただ一人胸のボタンをはずしている。
渡り廊下の先には一般の男子生徒が二人。
「トーデン仕事おっそいよなぁー」
「やる気ないんなら お隣のUSA高校に
ぜぇ~んぶ任せちゃえばいいのに」
「あ。そー言えば俺、
園芸部の無農薬ホーレン草、好きだったのにな~」
「あぁー。あんだけ化学室に近いともう食べれないよなー」
パシイイイィィィィッ
響き渡る、竹刀で廊下の壁を叩く音。
学ラン姿の風紀委員たちがパラパラッと二人を取り囲む。
「なななななんですかっ」
右田翼は悠然と近づいてくると、
そう言った男子生徒のあご先に竹刀をヒタリと向けた。
「批判はするな」
「…はあ?」
「今この瞬間も原発事故を食い止めようとして
命を賭けている者がいる」
「え …別にその人たちの批判なんて…」
「いいか。何もしてない奴が批判をするな」
「………」
「それと風評被害も許さん」
「はい?…」
「野菜の放射性物質は基準値以下だと検査結果が出ている。
誤った認識を軽々しく口にするんじゃない」
「…そんな。…で、でも少ないとはいえ検出されてるんでしょ?
だったら、食べる食べないは本人の自由じゃないんですか?
市販の農薬ですら嫌、という人だっているのに」
「黙れ加害者! 貴様らのような軟弱エコ野郎が鬱高を滅ぼすんだ!」
「…ちょ!ちょっと何だよ!その言い方!
食べなかったら加害者扱いかよ?
この高校を滅ぼしてるのは放射能出してる奴だろが!」
「…な・ん・だ・と?」
「っ……」
翼のひと睨みで男子生徒は黙る。
「おい、こいつらのクラスと名前を控えろ。
それと写真も撮っておけ」
「はっ」
学ランの部下たちが直立して答える。
翼は竹刀を肩に戻すと再び歩き始めた。
「おうおう右田さんに何て口叩いてんだよゴルァ」
「黙って上の言うこと聞けってんだオルラァァ」
「いっぱしに意見すんじゃねえよデメエェラァァ」
「大人しく出されたモンを食ってりゃいいんだよドュルォオラァァァァァァァアアァ」
可哀相な生徒たちを脅す罵声が背中に聞こえる。
鬱高風紀委員会は色んな機会に色んな事を怒鳴り散らしているが、
その色をぬぐってみると言ってる骨子はただひとつ。
「お上に逆らうな」…ということ。
いみじくも手下どもの粗暴な物言いがそれを端的に顕している。
翼はひとりつぶやく。
「…ふん、非国民どもめが」
右田 翼
(みぎた つばさ)
鬱ノ宮高校2年生。
特注の学ランを着る理事長直轄の治安部隊、
「鬱高風紀委員会」の委員長。
自由や平等が何より嫌いで、
学校の方針に叛旗を翻す者は内容を問わず許さない。
モットーは「絶対服従上意下達」 あだ名は「ウヨク」。
鬱高の左バネが自壊してからは我が世の春を絶賛謳歌中。
長らく独裁者だった前理事長、
右田核栄の戸籍上は孫。
実際は妾腹の実子で、
そのことは本人も承知している。
鬱高内でも極少数しかその存在を知られていない不二原緑子とは
幼い頃からの顔なじみである。
左出身の現理事長との関係は微妙。
このブログは原発に反対する立場から書いた、
ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、
あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
5話「あなたが造れと言ったから」
鬱ノ宮高校の悲劇
第5話「あなたが造れと言ったから」
化学室の発電施設から放射能漏れが止まらない。
一方、ここは夜の料亭。
差し向かいに男が2人きり。
化学の主任逃田が、
目の前の豪勢な料理に
箸もつけずに言う。
「右田理事長~。 お願いします~。
助けてくださいよぉ~」
相手は…
鬱ノ宮高校で長らく絶大な権力を握っていた、
前理事長右田核栄。
そのテラテラ脂の沁み出た顔は下野した今も健在だ。
媚びているのか、逃田はあえて「前」を省いて呼んだ。
「ふん。原発の安全確保はお前の仕事だろう、逃田よ。
こんなとこで酒など飲んでないで、
フルタイムで復旧に努めるべきじゃないのか」
「そんな殺生なぁ~。
危険な時は軍でも警察でも投入して助けてくれると
言ってたじゃないですか~」
右田は刺身をつまみながら憮然として応える。
鬱高産でないのは女将に確認済みだ。
「残念ながら今ワシは在野の身だ。
関係各機関をどうこうする命令権限はない」
「えええ~ そんな~。
なら民井兄弟の尻でも叩いてくださいよ~」
「…阿呆が。 放っておけば民井の失点になるものを、
なんでワシが助けにゃならん。
とにかく、今のこの事態は今の教師陣で何とかするのがスジだろ」
「うううううううう」
(そもそもあなたが造れと言ったから
無理やり造ったんですよぉ~)
…恨み節を逃田は必死で呑み込んだ。
言うほどクリーンでも安価でもない原発に、
右田一派が異様に固執するのにはもちろん理由がある。
核抑止力、という外交カードを持っていたいのだ。
隣の隣、悪名高い北コチュジャン高校が
執拗に原発を造りたがるのも、
安心なはずの原発を近隣高が北コチ高に
なかなか造らせたがらないのも、
同じ理由からだ。
だが、命が惜しければそのことは
ほじくっちゃちゃならない。
「おい逃田、おまえ専門家なんだろ。
行って原発止めて来んか」
「そそそそ、そんな危ないことできましぇ~ん」
「身体に影響は無いんだろ?」
右田が皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「自分の身になるとまた話は別ですぅ~」
逃田は全く悪びれずに即答する。
「ほほう!
口先では安全安全の大安売りだが、体は正直だのう!
いざ実践するとなると本音が丸出しだわい!
ぶふぁふぁふぁふぁふぁっ」
核栄は愉快そうに笑った。
今はもうラッキーなことに部外者だ。
「で?どうするつもりだ? また化学部の生徒に押し付ける気か」
「押し付けるなんて人聞きの悪い~。
現場に行くのは下の者のつとめです~」
「…ふん。化学部の生徒もかわいそうよの」
(今ワシが理事長の座にいなくて、本当に良かった)
核栄は杯をしみじみと飲み干した。
今この事態に高みの見物をしていられる幸運を、
八百万の神に感謝しつつ。
(…ワシが40年間推し進めてきた原発で、
就任1年目の民井が詰め腹を切らされるとはのう…)
そして、心の底から安堵のため息をついた。
鬱ノ宮高校の前理事長。
長らく独裁者として君臨してきたが、
そのあまりの借金まみれの経営ぶりで、
今は第一線を退くことを余儀なくされている。
ただし民井兄弟の不人気ぶりに返り咲く気満々。
座右の銘は
「みんなの金は俺の金」
実子の翼(後述)とは髪の色だけが同じ。
このブログは原発に反対する立場から書いた、
ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、
あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。
4話「人の噂も75日」
鬱ノ宮高校の悲劇
第4話「人の噂も75日」
地震からの復旧はだいぶ進んで、
鬱ノ宮高校にも日常が戻りつつある。
日常と違うのは…
化学室付近からの避難指示。
全校を覆う重苦しく沈滞したムード。
それと毎朝の教頭の化学室事故報告だ。
新聞部の部室で部長の小沢七雲は言った。
「ああもう! あのカピバラ顔の教頭ったら!
もうちょっとわかりやすくハッキリ物が言えないの!
わざわざ理解できないように喋ってるとしか思えない!」
部屋の真ん中の大机で、
熱心にシュークリームをつつきまわしていたもう一人の少女が顔を上げる。
緑色の髪と目を持つ美少女。
たった2人だけの新聞部、その部員らしい。
「ふん。貴様にもわかるのか、それが」
手にはシュークリームの皮の切れ端を持ったまま、
美貌とは裏腹の尊大な態度で答える。
「人の噂も75日。
要はその期間さえ乗り切れば良いのじゃ」
少女の話は唐突に飛躍した。
「いち、うやむやに言う。
に、少なめに言う。
さん、後から言う」
「ま、2は時と場合によっては多目に言う場合もあるがの」
そこまで言うとふっと笑った。
可愛らしい、と言うにはちょっと迫力があり過ぎる微笑み。
「この3つの答弁技術を駆使して、
我が高の指導者層は2000年来、困難を乗り切ってきたのじゃ」
言い直してくれたおかげで七雲の思考がやっと追いつく。
「…ん。 えっと。 そ、そうなの? 緑子ちゃん!
んむむむ~。 …てかそんなの酷いじゃん!」
「うやむやにして誤魔化したって、
施設の放射能漏れは止められないんだよ!」
「その通り。貴様にしては上出来じゃ」
緑子と呼ばれた少女の笑顔に、さらに凄みが増す。
もうちょっと近寄りがたい感じ。
「このたった一つの冴えないやり方には重大な欠点がある。
それは相手が鬱高生以外通じないということじゃ」
「……?」
「戦争のように相手が他校生である行為。
原発のように相手が人間ではなく、純粋に物理的な現象。
そういった事象に対しては致命的な対処法じゃ」
「…せ、戦争?」
七雲の思考はもうついていけない。
「大本営発表で誇張戦果を連発したあげく自滅したようにの」
「?」
「今回の事態も、先送りにしておけば
そのうち下火になるという代物ではない」
「…この代償は近いうちに我々が体で支払うハメになるやもしれんの」
そう言って緑子は2個目のシュークリームに手を伸ばした。
不二原 緑子
(ふじわらの みどりこ)
鬱ノ宮高校の2年生で新聞部員。
本人曰く、年齢は2671歳(…)
鬱ノ宮高校とともに生き続ける不死の存在らしい。
その真偽はともかくとして、
歴史変遷には異様に詳しい。
学校の指導部も手が出せず一目置いているが、
緑子自身は時局に積極的に関与しない。
名前の通り、髪も目も唇も緑色の美少女。
部長の七雲とは甘党仲間で、口癖は
「この100年で菓子はほんに甘くなったものじゃ」
3話「基準値を上回るものの」
鬱ノ宮高校の悲劇
第3話「基準値を上回るものの」
地震から5日目の朝礼。
毎朝、教頭の民井弟が日課の報告を行う。
黒地に白字で「鬱」と抜いてある校旗に深々と一礼すると、
小太りの体躯が壇上をトコトコ駆け上がった。
地震以来、
ブルーのジャンパーを着たまんまだ。
生徒たちは秘かに
青いカピバラと呼んでいる。
「え 昨日、
化学室で測定されました数値は基準値を上回るものの」
童顔に似合わず艶のある美声がマイク越しに響く。
「…直ちに重大な事態を想起させるものではなく、
皆様におかれましては落ち着いた行動をとられますよう
重ねてお願い申し上げます」
壇の下にはクラス毎に整列した生徒たち。
その中にひとり、赤毛の髪の少女。
なぜだか小鳥を一羽、肩にとまらせている。
鬱高新聞部の部長、
2年生の小沢七雲だ。
下の名は「ななくも」ではなく、「なぐも」と読む。
その灰色の小鳥は目をパチクリさせると、
七雲の耳に口ばしを寄せて囁いた。
「ちょっと危ないけど我慢しろってさ」
ウソという野鳥だがそんじょそこらの鳥ではない。
人語を解し、しかも要約簡便化して主に伝える神鳥なのだ。
「ふうん。なるへそ」
七雲が小声で応える。
「…まったく。
とてもそうは聞こえなかったよ。
サンキュね、中条」
小鳥には中条というペットらしくない名がつけられているらしい。
教頭の美声は続く。
「なお二重隔壁内部の燃料棒の露出を防ぐべく、
注水作業を実施中でありますが、
現段階において完全に成功したという報告は受けておりません」
中条は再び囁く。
「器が割れてるかもしんないってさ」
「げ。そんなに危険なことを言ってるの?
こんなにサラッと?」
七雲は顔を曇らせた。
まわりの生徒には
教頭の言葉の真の意味は伝わっていないらしく、
特に動揺は見られない。
民井が一通り喋り終わると言った。
「何か質問は?」
「はい」
七雲が手を挙げた。
ここは鬱ノ宮高校新聞部部長として、
生徒を代表して聞いておかねばならない。
「あ、あのー。聞いてると
何日も全然進んでないみたいなんですけど!」
「……いや。 だから線量が」
「だったら単純にもっと人数増やしちゃいましょうよ!
例えば一気に20倍増とか!」
「……」
「きちんと交代制にして!
安全圏から送迎して!
24時間体制にして!
…それって可能ですよね?」
「…ええと。何が可能で何が可能でないか、
今後の作業の推移を見極めつつ、
専門家の意見をお伺いしながら判断していきたいと思います」
中条がすかさず翻訳する。
「素人は黙ってろ」
「………」
七雲は黙った。
民井が間髪を入れず宣言する。
「では以上で終わります」
朝礼は散会となった。
七雲もプーッと頬を膨らませた顔でその場をあとにする。
だが。
容器はやはり下部が破損していたのだった。
こうして貴重な時間はみすみす流れていくことになる。
ごく初期にチェルノブ○リの関係者が言ってたこと。
「少なくとも作業員5000人は必要だ」
小沢 七雲
(おざわ なぐも)
本編の主人公。
鬱ノ宮高校2年生。
3年生が卒業した直後の3月なので、
実質最高学年である。
新聞部部長。
部員は全部で2名しかいない。
明るく素直で行動力はあるが、知性は普通程度。
いつも肩にとまってるのは野鳥のウソ。
人語を解する神鳥で、他人の発する難しい表現を
七雲にもわかるよう簡略に言い直してくれる。
ただし外来語が一語でも含まれているとフリーズする(笑)
このブログは原発に反対する立場から書いた、
ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、
あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。











