5話「あなたが造れと言ったから」
鬱ノ宮高校の悲劇
第5話「あなたが造れと言ったから」
化学室の発電施設から放射能漏れが止まらない。
一方、ここは夜の料亭。
差し向かいに男が2人きり。
化学の主任逃田が、
目の前の豪勢な料理に
箸もつけずに言う。
「右田理事長~。 お願いします~。
助けてくださいよぉ~」
相手は…
鬱ノ宮高校で長らく絶大な権力を握っていた、
前理事長右田核栄。
そのテラテラ脂の沁み出た顔は下野した今も健在だ。
媚びているのか、逃田はあえて「前」を省いて呼んだ。
「ふん。原発の安全確保はお前の仕事だろう、逃田よ。
こんなとこで酒など飲んでないで、
フルタイムで復旧に努めるべきじゃないのか」
「そんな殺生なぁ~。
危険な時は軍でも警察でも投入して助けてくれると
言ってたじゃないですか~」
右田は刺身をつまみながら憮然として応える。
鬱高産でないのは女将に確認済みだ。
「残念ながら今ワシは在野の身だ。
関係各機関をどうこうする命令権限はない」
「えええ~ そんな~。
なら民井兄弟の尻でも叩いてくださいよ~」
「…阿呆が。 放っておけば民井の失点になるものを、
なんでワシが助けにゃならん。
とにかく、今のこの事態は今の教師陣で何とかするのがスジだろ」
「うううううううう」
(そもそもあなたが造れと言ったから
無理やり造ったんですよぉ~)
…恨み節を逃田は必死で呑み込んだ。
言うほどクリーンでも安価でもない原発に、
右田一派が異様に固執するのにはもちろん理由がある。
核抑止力、という外交カードを持っていたいのだ。
隣の隣、悪名高い北コチュジャン高校が
執拗に原発を造りたがるのも、
安心なはずの原発を近隣高が北コチ高に
なかなか造らせたがらないのも、
同じ理由からだ。
だが、命が惜しければそのことは
ほじくっちゃちゃならない。
「おい逃田、おまえ専門家なんだろ。
行って原発止めて来んか」
「そそそそ、そんな危ないことできましぇ~ん」
「身体に影響は無いんだろ?」
右田が皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「自分の身になるとまた話は別ですぅ~」
逃田は全く悪びれずに即答する。
「ほほう!
口先では安全安全の大安売りだが、体は正直だのう!
いざ実践するとなると本音が丸出しだわい!
ぶふぁふぁふぁふぁふぁっ」
核栄は愉快そうに笑った。
今はもうラッキーなことに部外者だ。
「で?どうするつもりだ? また化学部の生徒に押し付ける気か」
「押し付けるなんて人聞きの悪い~。
現場に行くのは下の者のつとめです~」
「…ふん。化学部の生徒もかわいそうよの」
(今ワシが理事長の座にいなくて、本当に良かった)
核栄は杯をしみじみと飲み干した。
今この事態に高みの見物をしていられる幸運を、
八百万の神に感謝しつつ。
(…ワシが40年間推し進めてきた原発で、
就任1年目の民井が詰め腹を切らされるとはのう…)
そして、心の底から安堵のため息をついた。
鬱ノ宮高校の前理事長。
長らく独裁者として君臨してきたが、
そのあまりの借金まみれの経営ぶりで、
今は第一線を退くことを余儀なくされている。
ただし民井兄弟の不人気ぶりに返り咲く気満々。
座右の銘は
「みんなの金は俺の金」
実子の翼(後述)とは髪の色だけが同じ。
このブログは原発に反対する立場から書いた、
ライトノベルもどきの短文小説です。
細かなデータに揚げ足取りされないために、
あえて創作というカタチをとっております。
したがってフィクションであり、
実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。



