門
夜の10時を過ぎると病棟は静かになった。仕事帰りの見舞いも永くなり、父との会話も少なくなったように思う。雨は降っていないので駅までは広い公園の横を歩いて帰ることにした。坂を下った先に裏門があり、奇妙な外観のホテルの横を通ると公園にでる。
大きな門は鉄の扉を閉じており、その時になって誰かに毎夜10時に閉まると聞いたことを思い出した。その前で立ち止まっていると、公園の方から同年代の女性がこちらに向かってきた。
「今晩は」
「今晩は」
「閉まってますねぇ・・・」
「ええ、でも男の人はみんな乗り越えてますよ」
「あぁそうですか、それじゃ・・・」
と足をかけ凝ったつくりの門扉を軽々と乗り越えた。
「どうするんですか?」
「私は(扉の)隙間をくぐり抜けます」
「なるほど!」
と彼女を見ていると、
「挟まったら恥ずかしいので行って下さい」
「失礼!!!」
振り返らず歩いた。門が見えなくなったところで一旦立ち止まったが、そのまま駅に向かった。
それ以来、門扉を乗り越える度に彼女のことを思い出した。
子供だった頃・・・
私が子供だった頃、大雨の翌日になると改装中の駅の周辺には大きな水溜りが出来た。かなり危険な場所で今なら立ち入り禁止だろう。当時はそこに入り込んで遊ぶことに大人たちも肝要だった。
ある日、友達の言葉に誘われて駅に行った。一緒に行くと言って聞かない3歳下の妹を自宅まで連れて帰ることよりも好奇心が勝り、危険とは知りながらも妹を伴って足は駅に向いていた。
駅と道路を結ぶ古い橋の土台部分には幾つも大きな穴があいており、その深みにはみごとに雨水が溜まっていた。煉瓦で覆われていたせいか土台は滑りやすい。初めのうちは妹に気を配っていたのだが、いつしか遊びに夢中になった頃、気がつくと妹は水溜りに落ち泣き叫んでいた。
どうやって引きあげたかは忘れたが、ずぶ濡れで足から血を流していた妹の手を引いて家まで帰った。「だから着いて来るなって言っただろう」とかなんとか言い訳がましいことをはきつつ、母親に怒られることを想像しながら歩いたことを憶えている。
数年後、その駅のあたりには新しいタワー(電波塔)ができる予定だ。街は大きく変わりつつある。
羽田から西へ
久しぶりに国内出張で今宵は前泊だ。
昼過ぎに羽田から西の小さな空港を目指した。ホテルまではタクシーでよかったが、時間があったのでローカル線を利用した。無人駅前の店で切符を買い電車に乗り込んだまではスムーズだったが、思いのほか時間がかかった。途中の待ち時間を含め約1時間、それでも運賃は230円だ・・・ 。
明日に備えて、篤姫を見たら眠りにつくことにしよう。
