クレットナッハの畑違い
学んである程度の知識をつけてから実践するか、充分に経験を積んでからそれを確固たらしめようとするのか。
そう...これまでの自分の人生を振り返ってみても
意図するしないに拘らず、何事に於いても圧倒的に後者を選択して来たような気がする。
それはワインについても然り、Probieren geht ueber Studieren...まずは飲んでみるべし。
クレットナッハの隣接する2つの葡萄畑、オイヒャリウスベルク(Euchariusberg)とアルテンベルク(Altenberg)。
何度か飲んだ事はあるが、改めて両者の違いはと問われても、粘板岩、珪岩、輝緑岩というキーワード以外は
情報が限られている事もあって今ひとつピンと来ない。こんな時は並べて試すのが一番手っ取り早いのだ。
そんな訳で、シュテファン・ミュラー醸造所の2021年産、畑違いのリースリング・トロッケン2本を飲み比べ。
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まずは北側に位置する畑、オイヒャリウスベルクから。
スクリューキャップ。外観は僅かに緑色がかった明るいレモンイエロー。
グレープフルーツ系の柑橘の香りに混じって鉱物のニュアンス、相対的に清涼感のある香り。
飲んでみると、シャープで良く伸びる酸とスマートな果実味。酸は持続的でアフターにも長く持続する。
ミネラル感は淡白で、酸が強いお陰で重心は高く、シーファー感は控えめ。
極僅かではあるが、こっちの方がサッパリとしてて酸が伸びる印象。
開栓2日目。初日より酸に迫力と存在感があって、柑橘の薄皮系のミネラル感も映える。
開栓3日目。相対的に清水の如くフラットに拡がる酸が印象的。最後に霙の様な酒石の塊。86-/100
(過去のヴィンテージ→2020年産、2019年産、2018年産)
2021 Krettnacher Euchariusberg Riesling Qualitaetswein trocken
Weingut Stefan Mueller (Konz-Krettnach/Saar)
A P Nr 3 525 542 06 22,Alc 10.5%vol
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次いで、オイヒャリウスベルクの南に隣接するアルテンベルク。
スクリューキャップ。外観に差は無く、こちらも僅かに緑色がかった明るいレモンイエロー。
グレープフルーツ系の柑橘の香りに混じって鉱物のニュアンスはほぼ同じだが
果実香に若干の奥行きが感じられる。
こっちの酸も良く伸びるが、舌の上での酸の拡がりはやや収束して感じられ、果実味は同じくスマート。
ミネラル感に味があるのが印象的で、相対的に旨味もあって若干ミルキーな味わい。
どちらも酸主体だが旨味があるぶんバランスで勝る。
開栓2日目。相変わらずの見事な酸。僅かだが果実の肉付きではこちらが上。
どことなく桃のニュアンスもあるような。
開栓3日目。果実味がグッと存在感を増して、相変わらずの強酸と拮抗した凝縮感のある味わい。
開栓7日目。酸がグッと前に出て他の要素は吟味し辛い。柑橘感いっぱい。八朔の味わい。86/100
(過去のヴィンテージ→2020年産)
2021 Krettnacher Altenberg Riesling Qualitaetswein trocken
Weingut Stefan Mueller (Konz-Krettnach/Saar)
A P Nr 3 525 542 07 22,Alc 10.5%vol
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クレットナッヒャー・オイヒャリウスベルクは、恐らくドイツで最も冷涼なワイン生産地域の1つと目されており
ここの立地は風が強く吹くため涼しい気候だが日当たりが良く、葡萄は非常に長い期間成熟する事が出来る
のだそうで、鋭いザール・リースリングには理想的な条件なのだという。
土壌には基本的に灰色粘板岩と青色粘板岩が混在するが
ザールでよく見られる赤色粘板岩(灰青色の粘板岩が、鉄の含有量が非常に多いため赤くなったもの)や
珪岩、火山性の輝緑岩、表土ではこれらの岩石が粘土と混ざり合っているとのこと。
クレットナッヒャー・アルテンベルクは更に涼しい畑で、劇的な傾斜や高度な露出は無いものの
畑には細かい土壌と岩石質の灰色粘板岩が多く
一部のエリアには珪岩や玄武岩、そしてザールブルガー・ラウシュでも見られる粗粒の輝緑岩などが点在し
この山で最高の水源が混ざり合ったユニークな場所なのだという。
造り手のシュテファン曰く、「ここのワインにはいつもミネラルと塩味がある」のだそうな。
う~ん、字面だけを見ていると、どの辺がどう違うのかよく分からないが
このヴィンテージで比較した限りでは、アルテンベルクの方に一日の長がある印象。
どちらもアルコール度数は10.5%vol。「古き良き時代のザール」という雰囲気の辛口リースリング。素晴らしい。