両親のところへ向かう道すがら、ちと「オルガンプロムナードコンサート」を聴きにサントリーホールに立ち寄ったのでありました。
「いざ共に讃えん、大いなる響き」をテーマにパイプオルガンの壮麗さを、耳のみならず肌でも感じる演奏会は、ランチタイムの短い時間ながらも「ううん、聴いた!」感のあったところでしたなあ。バッハと言えば古臭く、また有名曲である「主よ、人の望みの喜びよ」などと言われた日には些か手垢が…などと思ってしまうものの、伴奏音型でこれだけ聴かせる曲も珍しいのではないですかね。だいたい、グノーの「アヴェ・マリア」もバッハのプレリュード(これを伴奏と言ってしまうのもなんですが)が下地にあってこそ成り立ったわけですし。古臭いなどと片付けられないバッハであるなと感じいる次第かと。
で、この日の聴きものは奏者(オルガニスト大平健介)自身がオルガン独奏用に編曲したメンデルスゾーンの交響曲第5番第4楽章でしたなあ。ご存じのように、『宗教改革』というタイトルでも呼ばれるこのシンフォニーには、マルティン・ルターが作ったコラール『神はわがやぐら』がフィーチャーされているわけですが、こうした背景があるせいか、妙に?オルガンに馴染むようでもありました。本来はオーケストラで演奏される曲ですから、それなりの響きがホールを満たすところを、オルガンひとつで実に堂々と。この日の「聴いたな」感のもとにもなったのがこの一曲でありました。
ところで、平日お昼に開かれるこの無料コンサートは、今回で最後だったのですなあ。そも「いざ共に讃えん、大いなる響き」というテーマにもそれを含ませていたようで、出演者メッセージにはこんなふうに。
1991年よりスタートしたオルガン プロムナードコンサートは、本公演をもって幕を閉じます。本日はここに集う多くの皆様とともに、改めてその歴史を声高らかに賛美したいという思いで選曲いたしました。
いやはや、30年余りにわたって続いてきたコンサートだったのでしたか。個人的にはここ数年に何回か数えるほど出向いた限りですけれど、「終わってしまうか…」てな感懐を抱く方もきっとおられましょう。で、そんな「何事にも始まりがあり、終わりがあるのであるな」という思いがふと湧き起ってきましたのも、ホールへ向かうにあたって中央線快速に乗っておりますときに、中野を通り過ぎれば「サンプラザも、そのうち解体されるんだろうなあ」、新宿にたどり着けば「ALTAはどうなって行くのであるか?」などと、考えていたものですから。
と、建物の話ばかりになりますが、ヨーロッパの古いビルが外見そのままに内装を全面更新してそこにあり続けるというのと異なって、日本ではスクラップ&ビルドが主流ですのでねえ。例えばロンドンなどでは、街角のあちこち、ビルの壁面に「ブループラーク」なる表示が掲げられて、「昔、ここに何某(という著名人)が住んでいました」と告知してあったりましますが、ビル自体の見かけは古いのでなんとなく往時のようすを偲びやすいといいますか。比して、日本では建物自体、敷地一体が再開発されてしまうので、解説板が立っていても偲ぶよすがは解説板そればかり…だったりも。ま、物事に終わりがあるのは世の習いですので、あんまり懐かしがりになっても詮無い話ですけれどね。
ちなみに…と、やおらサントリーホールの話に戻りますが、今度は「終わりがあれば始まりがなる」というべきでしょうか、新企画として「オルガンコンサートシリーズ 「サントリーホール Presents 伊集院光と行く!奥深~いオルガンの世界 トーク&コンサート」が2025年よりスタートします」とは、同ホールHPにもあるとおりで。配付されたフライヤーを見ると、ちょっとしたレクチャー&コンサートでもあるようす。元来、コンサートホールの経営というのは聴きに来てくれる人が入場料を払ってくれて成り立っていることからすれば、無料コンサートというのは啓蒙活動のようなものなわけですが、無料なのでとにかくお試しでオルガンの響きを…というところは30年余りで一区切り。有料化(といっても1000円ですが)によって内容も付加的要素を設け、も少し関心を深めてもらえますと幸いです的な意図となりましょうかね。これも折を見て聴きに出向いてみることにいたしましょう。