多摩センターに出向けばやっぱり立ち寄ってしまう東京都埋蔵文化財センター。ですが、ここの企画展は年度単位の1年開催…ということは、多摩センターに出かけるのは年に一度未満というところでしょうかね。
開催中であったのは「多摩の"なんで!?"な出土品」というもの。考古学関係の展示はおよそ、「こんな発見がありました!そこで、こんなことが分かってきました」てな成果発表が多かろうと思うところながら、今回の展示で意表を突かれたのは、昔々にはこんなものが作られていましたが、それは「なんでなのでしょうねえ」と疑問を投げかける形だったのですなあ。
そりゃ、研究者の方々にも分からないことは多々ありましょう。でもって「なんで?」と問いかけ、来場者(当日も小学校から団体が来てましたが)の素朴な考えを出してもらう中に、もしかするとヒントが隠されているかもと。先日のEテレ『サイエンスZERO』でも「シチズン・サイエンス」という言葉が聞かれましたですが、どうやら象牙の塔にこもる学者たちが「素人は黙っとけ!」というのが科学のありようではなくなって来ているようですな。
とまれ、「なんで?」と問いかけている本展のフライヤーは上に載せたものですけれど、わざわざこの企画展のためにまたまたみょうちきりんなキャラクターを(東京都の税金で)作ったのであるかなと。なにしろ、東京都の税金の使い方には、広報に資するという名分でずいぶんと「やってくれちゃってんじゃあないの!」というものがある(故人の見解です)だけに、そんな考えも浮かんだところ、これが思い違いも甚だしかったようで。
実際に多摩ニュータウンNo.46遺跡から出土した縄文中期の土器に描かれた意匠を使ったのでしたか。『20世紀少年』の「ともだち」のようなといいますか、鬼太郎の目玉おやじのようといいますか、姿かたちは人物っぽいですが、顔の造作が多重円で描かれているのはそれこそ「なんで?」ですから、まあ、本展に相応しいキャラとは言えそうです。
さりながら、現在ではシミュラクラ現象という脳の働きの関係と言われるヒトの認知機能からしても、ヒトの顔っぽい造形はいくらでも造りようがあるわけで、実際に縄文土器の中にはたくさんの人面装飾土器がありますですね。そう考えるとなおのこと、上の土器に対する「なんで?」感は募るばかり。理由が分からなくて「お手上げ状態」とは、児童向けの解説でもありましょうね。
で、展示をひとわたり見てきたわけですが、いくつかカテゴライズされた「なんで?」が紹介される中には、このようなものも。「自力で立たないのはなんで?!」と。
底が丸かったり、尖とがっていたり。それぞれ違ちがう時代の土器たちですが、自分で「立てない」ことは共通しています。そのまま置いただけでは転がってしまう土器。わざわざ作られたのは、なんで !?
尖った底になっているものは、極めて単純に土や砂地に突き刺して安定させていたのであろうに…と、勝手にアンフォラのイメージから類推して疑うこともなったところ、縄文の尖底土器に関しては「立てて置くことはできないので、石で支えるなどなんらかの方法で固定したと考えられてい ます」と解説されて、どうやら突き立てて使うという想定ではなさそうなのですな。要するに「考えられています」という以上の確証は無い「なんで?」なのですな。
一方で、底が丸みを帯びている瓶の方は古文時代後半の遺物だということですけれど、この時代になりますとやきもので様々な造形物が生み出されていたでしょうから、技術不足ということでもなさろう。そうとなれば、わざわざこの形に造ったのではと考えたくもなるところですよねえ。そんなことからは「日用品というよりは、儀礼・祭祀のような特別な機会に使われたと考えられています」となってくるのも当然であろうかと。その先には儀礼・祭祀でわざわざこの形が求められたのは「なんで?」になってくるでしょうけれど。
こちらはまた別の区分けで「この「あな」なんで?!」というコーナーに。口縁部近くに鍔が巡っていて、鍔の際のところに小さな穴がぐるりと穿たれていることから「有孔鍔付土器」と呼ばれるようですが、なんで穴があけられているのか、どうにも分かっていないのであると。説はさまざまあるということながら、学者の方々も苦し紛れになることがあるのかも。
湿気を防ぐための貯蔵容器であるという説など、穴があいていない方が湿気が防げると反論される前に気付きそうだと、庶民感覚からしても。とにもかくにも分からないことに対して、まずは思いつく限りの案を出してみて(他人の意見をとやかく言わないのがブレインストーミングのポイントですものね)、その後に検証していくわけですが、そのなんでもありのブレスト段階にシチズン・サイエンスとして参加する余地があるのでしょう。そのときに、上の諸説のようなのを見ると参加する勇気が湧いてくると言うか(失礼発言か…)。ということで、今回も興味深く拝見してきた東京都埋蔵文化財センターの企画展示なのでありましたよ。