…ということで、広重美術館@山形県天童市を訪ねたというお話の続きは「学んで、旅して、たのしむ浮世絵」という企画展(会期は7/29で終了)を振り返ることにいたしまして。

 

本展では、初代〜五代までの歌川広重の作品を通して、浮世絵の見方や見どころを学び、広重が描く東海道や諸国を旅しながら、江戸っ子に愛された浮世絵の魅力に迫ります。

かような紹介のある展覧会ですので、いわば浮世絵入門編、折しも子供の夏休み自由研究向け企画かとも思えるところですが、会期が7月いっぱいだったのはそういう意図では無かったのでしょう。ともあれ、いまさらのように近所の浮世絵講座を聴きに行っている者としては、入門編などと言いつつもしっかり見て回った次第でありますよ。

 

 

まず最初のコーナーは「浮世絵のひみつ」と。作品の接写は(一部を除いて)撮影不可ですので、とりあえず展示のようすだけですが、この部分の展示趣旨にはこんなことが書かれてありまして。

もともと浮世絵は現代の漫画やアニメのように、江戸のポップカルチャーとして大衆に親しまれ、娯楽として求められたものでした。しかし現代となっては、これは浮世絵だ、という認識はできても、何が描かれているのか、どうやって作られているのか、何に使うのかなどすぐにはわからず、何となく見過ごしていることも多いかかもしれません。

このあたり、美術作品と向き合うときの悩ましさがありますですねえ。仰るとおりに作品にまつわるあれこれを知った上で見れば理解も深まるわけでして、件の浮世絵講座を聴いてみたりすることも同様なのですが、だからと言って予備知識、事前知識が無いと美術作品と相対し得ないかというと、そういうことでもない。それこそ自由な鑑賞(理屈を知ってからではおそらく浮かんでくることない印象があったりすること)が出来なくもなったりするわけですしね。ではありますが、ここでは謙虚に教えてもらう姿勢で臨むといたしましょう。

 

で、そもそも「浮世絵って?」ということですけれど、かような説明がありましたなあ。

浮世絵とは、江戸時代に誕生し発展した絵画で、当時の人びとの暮らしや町並み、流行、文化などを描いたものです。中世には仏教の「浄土」に対して現世を「憂き世」といい、つらいことが多い苦しみに満ちた世の中を意味していました。それが江戸時代の平和な社会になると、「浮世」の造成語が生まれ、どうせ憂き世に生きるのなら楽しく浮かれて暮らそうと享楽的な意味に変ります。

享楽的と言われれば美人画や役者絵の方がそれらしいとは思いますが、広重に多い名所絵の場合、旅(これまた束の間の楽しみ?)を促すものであったということになりましょうかね。ともあれ、続いてはいろいろある浮世絵の画題による分類の説明になっておりましたよ。

  • 美人画…浮世絵のなかで最も重要かつ作品数の多いテーマで、吉原遊郭の遊女や江戸市中で評判の町娘などが描かれました。…当時の美人の典型だった、切れ長の目、すっと通った鼻筋、色白で瓜実顔という共通した特徴で描かれています。また、髪型や着物の着こなしなどは時代の好みが反映され、最先端をゆくファッション誌の役割も果たしていました。

顔付きに共通性がありながも喜多川歌麿はそこに個性を偲ばせて描いた…とは、先の浮世絵講座で聴いてきたところですけれど、最も作品数の多いという美人画の浮世絵、これを買うのは男性諸氏ばかりかと思っていましたら、今で言う(というよりひと頃で言う)「アンアン」、「ノンノ」のようなファッション誌の役割を果たしていたとなれば、江戸期にはアンノン族のような浮世絵族が出現していたのでありましょうかね。

  • 役者絵…文字通り、歌舞伎役者をモチーフにした作品をいいます。歌舞伎の演目の印象的な一場面を描いたものや、役者の特徴をとらえて実物に似せた似顔絵がつくられました。現代のアイドルや俳優のブロマイド写真のようなもので、圧倒的に人気が高く、江戸っ子たちに最も親しまれたジャンルです。

このジャンルでは一時、東洲斎写楽が大活躍したしたわけですが、「実物に似せた似顔絵」もあまりにリアルに写し出しては幻滅を免れえないところがあったのでしょうねえ。

  • 風景画…日本各地の名所風景を描いたもの。大和絵としては伝統的で主要なジャンルであるものの、浮世絵では役者絵や美人画よりだいぶ後の江戸後期に入ってから人気が出たジャンルです。…人々の見知らぬ土地へのあこがれはいつの世も同様で、名所風景画は旅行ガイドや写真集のように、あるいは旅の土産として楽しまれました。

美人画がいわば「アンノン」の役割を果たしていたことに擬えれば、風景画の方はさしずめ「るるぶ」か「マップル」か、てなことになりましょうか。駿州丸子(まりこ)宿のとろろ汁などなど、ご当地グルメ情報まで書き込まれているあたり、当時も今も食道楽の人が多いようですなあ。

  • 花鳥画…四季折々の草花や樹木、鳥や虫、魚などを題材にした絵画で、日本古来より描かれてきた伝統的なテーマです。掛軸や屏風のような一点ものは一部の人しか鑑賞できませんが、版画になると庶民も気軽に楽しむことができ人気を得ました。

広重といえば何をおいても名所絵(風景画)と思うところながら、「質、量ともにこの花鳥画の分野で最も活躍した絵師です」と言われますと、「そうでしたか…」と。展示作品には『魚づくし』シリーズから「鯉」が出てましたけれど、ずいぶんとリアルな細密描写を、広重も手掛けていたのでしたか。出版経緯としては歌麿が蔦重プロデュースで作った狂歌本と同様であったようですね。

 

他にも、文字絵(描線に文字を巧みに組み込んだ文字絵といわれる戯画)、うちわ絵(うちわに張るための浮世絵版画)、絵半切・封筒絵(便箋・封筒として実用するための浮世絵版画)、おもちゃ絵(双六やかるたなどなど)といったジャンルの紹介があり、加えて版画だけに彫りや刷りといった製作工程の説明もあったのですが、長くなってしまいましたので、取り敢えずこの辺で。広重美術館のお話はもう一回(だけ!)続くことになりますです、はい。