山形県立博物館のお話もこれまた長くなりつつありますが、館内で歩を進めてようやっと特別展のスペースに到達したのですな。展覧会タイトルは「海に入るまで濁らざりけり-「母なる川」最上川-」というもの。「江戸時代の川絵図や最上川に関係する資料などを展示して、今も残る歴史的文化や流域に暮らす人々の生活やその姿に注目し、最上川が持つ魅力にせまります」(同館HP)と言われますと、ついふらふらと山形まで出かけてしまい…とは、今回の「旅立ちのきっかけ」にも書いたとおりでありまして。
ちなみに、タイトルの元々は「広き野を ながれゆけども 最上川 うみに入るまで にごらざりけり」という、昭和天皇が東宮時代に山形を訪れた際に詠んだ歌だそうで、山形県郷土館文翔館の前には歌碑が建てられているとか(行ってませんですが…)。まあ、最上川で思い浮かぶ詩歌と言えばひとえに松尾芭蕉の句ということになりましょうけれど、山形でこちらの歌は「県民の歌」ともされているようでありますよ。
と、それはともかく展示ですけれど、特別展と言うわりには「ん?!」という内容であったような。なまじ、先に山梨県立博物館で見た富士川水運に関わる展覧会が結構頑張って仕立てていたなあという印象だっただけに、残念な感じがじわじわと。ま、特別展と言って「特別な」入場料も掛かりませんので、むしろ常設展での最上川の紹介と併せ技にすることで、理解が深まるとは言えましょうね。それでこそ出かけてきた甲斐があるというものです。
まずもって、最上川の流路はこんなぐあい…なのですが、どう見ても山形県の形はモアイ像か何かの横顔というイメージではなかろうかと。実際に、山形県ではこの形をモチーフに「きてけろくん」というゆるキャラ的なものをフィーチャーしたキャンペーンがあったりもした…とはこれまた余談。で、その横顔にあたかも髪の毛の生え際ラインを描くように流れているのが最上川なのでありますよ。
…最上川は福島県との境である吾妻山系を発し、山形県の中央部を流れて酒田から日本海に注ぐ、山形県のみを流域とする川です。1つの県のみを流域とする川としては国内最長です。
流路延長は229㎞(先日触れた淀川は75㎞余り)で、全国で見ても7番目に長い川とのこと。また、山梨から静岡を流れる富士川、熊本の球磨川と並び、日本三急流のひとつでもありますね。急流たるイメージは、松尾芭蕉の有名句「五月雨をあつめて早し最上川」で知ることができますし、芭蕉の足跡をたどって山形に入った正岡子規も「ずんずんと夏を流すや最上川」という句を残しておるそうな。
そんな急流であっても川筋を伝って舟運が栄えたとは、周囲を山に囲まれ、他に物流の道筋を見出し得なかった場所なればなおのことだったでしょうか。上の写真左側が、当時の最上川舟運で主役を務めた「ひらた船」という川舟だそうで。模型では分かりにくいですが、実寸では最大27m、積載量でいえば現代の10トントラック2台分を運んだと言いますから、馬や牛に担がせて山越えすることに比べ、圧倒的な優位を誇っていたのでありましょうね。
ですが、急流であるが故に難所も多い最上川、当初は新庄の南、大石田と河口の坂田を結んでいた舟運をより上流まで通船可能なようにするには開削工事が必要だったのですな。
慶長11年(1606)、最上義光は、碁点・三ヶ瀬・隼の三難所を開さくし、大石田より上流まで舟運を開き、船町河岸をつくりました。また、元禄7年(1694)、米沢藩の御用商人西村久左衛門が五百川峡谷を開き、置賜地方まで船が通れるようになりました。
年貢米はもちろんのこと、特産の紅花なども最上川舟運で酒田の湊に運ばれ、北前船で大阪へ、さらには江戸へと持ち込まれたのでしょうけれど、舟運の中継基地として幕府直轄の川船役所が置かれた大石田はたいそう賑わう町であったということです。
さりながら、舟運の栄華は他の場所同様、明治になって鉄道が通ると終焉を迎えることに。山形の内陸部に奥羽本線が通った(福島~青森間が全通した)のは明治38年(1905年)だったということでありますよ。舟運利用の無くなった最上川では今、2か所で観光向けの舟下りがあるのですな。大石田の先、大きく西へカーブして酒田方面へと向き変えたあたりには、松尾芭蕉ゆかりの舟として「最上峡芭蕉ライン舟下り」が、そして最上義光が開削させたという難所を通るのを目玉とする「最上川三難所舟下り」が運航されていると。
特別展会場では、開削の歴史と関わりあることからか、「三難所下り」のビデオ上映がありました…が、後日にこれに乗船予定とあらば見てしまっては楽しみが半減するてな思いでスルーしておきました。ところがところが、いざ乗ろうとするとこれが…というお話は今少し先で触れることになるのでありまして、また後ほど。取り敢えずこの次は、「以前、見たからなあ」と言った山形城址が数年のうちに結構復元されておるではないの!ということで、そちらのお話を。