朝は伏見稲荷大社稲荷山をひと巡り、その後踵を返して淀川三川合流域を歩き廻ってさらに石清水八幡宮の山登りをして…と、伏見を間に挟んで京阪電車でもって右往左往したという長かった一日も終わりに差し掛かり、中書島駅まで戻ってまいりました。

 

 

ここから徒歩5分のところにある月桂冠大倉記念館を次なる目的地としておりまして、前日には伏見十石舟の最終便には間に合うも、乗り場のすぐ近くにある記念館の閉まる時刻にはたどり着けなかったものですから。なにしろ、伏見は酒どころですものねえ。ま、あちこち巡り歩いた挙句ですので、この日もぎりぎりだったんですけれどね。

 

 

ともあれたどり着いてみますれば、いかにも歴史がありそうな大きな酒蔵らしさをたっぷりと醸し出しておりましたな。では、受付によって早速に中を見て回ることに。ちなみに、入館料は600円かかりますけれど三種の利き酒付きで、利き酒に使うぐい飲みはお土産ということで。ぐい飲みそのものは売店で販売している商品のようですので、まあ、お酒が飲める人だったら入館料分の元は取れると言ってよろしいかと。

 

 

まずは展示室の手前を左手に進んだホールでビデオ上映を拝見。今日も今日とて最終組で飛び込みのような状態でしたので、ホールでひとり上映を待ち受けるような感じでありました。

 

 

ところで、この施設の名称が「月桂冠大倉記念館」であるのは、月桂冠という酒蔵が持つ大きな倉を利用して設けたからであるか?くらいに思っておりましたですが、実のところは創業者が大倉さんだったのですなあ。展示解説にはこのように。

1637(寛永14)年、初代・大倉治右衛門(おおくら・じえもん)が京都府南部の笠置(かさぎ、現在の相楽郡笠置町)から、城下町であり、宿場町、港町としてにぎわう伏見に出てきて創業。屋号を「笠置屋」(かさぎや)、酒銘を「玉の泉」」と称していました。創業から250年ほどは、主に地元の人たち、旅人相手に商う小さな酒屋でした。

 

「創業から250年ほどは…小さな酒屋だった」ということは、単純計算で1637年+250年で1887年、つまりは明治20年ですけれど、その前年に11代目として当主を継いだ大倉恒吉が月桂冠の大躍進を導いたようでありますよ。なんでも一代で事業を100倍にしたとか。そも「月桂冠」という銘柄を付けたのも恒吉なのだそうで。

 

 

と、ここで改めてにはなりますけれど、こと「月桂冠」と耳にすれば「ああ、日本酒の…」となるものの、本来的には一般名詞としてある言葉でもありますですね。この解説にもあるとおりに。

「月桂冠」は、勝利と栄光のシンボルとして、スポーツ競技の勝者に授与される、月桂樹でつくった冠です。月桂冠の11代当主・大倉恒吉は、自らが商う酒の名に、Laurel Wreath(ローレルリース)から翻訳されたばかりの「月桂冠」と名付け、1905(明治38)年に商標登録されました。「京都・伏見の酒をナンバーワンにしてみせる」、そんな大きな志をこめての命名でした。

 

なんとはなし、明治のハイカラ趣味とでもいったものが感じられるところですけれど、実際「当時、自然や地名などをもとにした銘柄が多かった中で、ハイカラな酒銘として注目を浴びた」そうでありますよ。ですが、恒吉のアイディアは銘柄を新しくするだけのことではなかったと。

 

 

明治になって鉄道による物流が始まりますと、東京をはじめとする各地の消費地へ迅速に出荷できるようになる一方で、旅客が鉄道移動する際、駅弁のついでにどうぞ一杯!と駅売酒が考え出されたと。ぐい呑みがわりの小さなコップを頭に載せた小瓶の仕様は「大倉式猪口付瓶」として実用新案登録されたそうな。「1910(明治43)年の新発売を契機に、当時、拡大していた鉄道網に乗せて、月桂冠の名を全国に広めることとなった」ということです。

 

 

とまあ、そんなこんなの歴史をたどり、造り酒屋の展示には必ず置いてある昔の酒造りの道具などを脇目にみながら、最終コーナーはいよいよ「きき酒処」ということに。

 

 

かようなサーバーにコインを投じてちびっとやる形ですな。ですが、この「きき酒処」、ちびっとやるくらいなものでありますのに、大人数で「がっはっは!!」状態になっている外国人グループがおりましたですよ。最近は海外でも日本酒は「SAKE」で通用するようですし、ワインにも通じる飲み方で広まりを見せておるのでありましょう。それだけに、このコーナーに係として配置されていた月桂冠の社員は白人男性でしたなあ。

 

おそらくは日本酒好き(それ以前に日本のアニメか何かが好きだったのでしょうか…)が昂じて、日本の酒造メーカーに就職したてなことかもですが、何を思ったか?その係の方がにこやかに「どうですか?」などと言いながらこちらにやってくる。流ちょうな日本語ですので臆することは何もないですが、いささか気負ってもおり、心中で(どれほど日本酒を知っておるものか…)なんつうふうにも。ちょうど、昔ながらの本醸造月桂冠を口にしたところですので、「昔からある日本酒の味ですなあ。思いのほかうまいですが、どうせなら燗で飲みたいところです」と言えば、かの係の方、「そうですよね!」とうれしそうに即応してきた。「うぬ、おぬし、ほんとに日本酒が好きなんだあね」と思い返したものでありましたよ。御見それしました…。

 

とまれ、こんなインバウンド対応も含めて、月桂冠はその名の由来である欧米で顧客を獲得すべく、今も奮闘努力を重ねておるのだなと知ることになった月桂冠大倉記念館なのでありました。