信州・安曇野の小さな美術館、大熊美術館を訪ねたわけですが、上には上と言いましょうか、さらにちいさくひっそりとした美術館がさほど大熊美術館から遠からぬ木立の中にあったのですなあ。その名も有明美術館、看板は手書きです。
ちなみに「有明」というのは、おそらくは安曇野からはっきりと山容の望める有明山に由来する地名からでありましょう。最寄り駅ではありませんですが、JR大糸線にも有明駅がありますしね。
安曇野から望める山として、高橋節郎記念美術館のところで常念岳に触れましたけれど、常念が雪のかぶった頭だけを(左端に)覗かせている一方で、有明山(右端)はその台形の、安曇富士とも呼ばれる姿をはっきりと見せている。それだけに山岳信仰の対象ともなって、麓に有明山神社が祀られていたりもするのですなあ。
ところでこの有明美術館、高い天井まで吹き抜けのエントランスからして魅力的な建物ですけれど、これが個人美術館、つまりは個人の所有物ということなのでしょうな。建物もコレクションも。
展示作品は和洋混在、全てはコレクターである所有者の審美眼によるものでありましょう。ロダンの彫像もあれば、一方で尾形乾山のやきものもある。それにしても、この乾山の器はポップですなあ。
全体のテーマといったところではなくして、個々の作品をそれぞれに愛でるのを信条としているような。ひっそり閑として空間がまたそれを可能にしているわけで。聴こえてくるのは小鳥のさえずりばかりという具合ですのでね。
ただ、そんなロケーションでかつ(大熊美術館同様に)HPも無ければ、特段の宣伝もしておららないようす。美術館として経営が成り立つのであるか…とも思うところながら、老夫婦が淡々と営業を続けている地方都市の個人商店みたいな感じなのかも。ことさらに採算にとらわれるでなく…。
後になって知ったことですけれど、2019年に一度、閉館したらしいのですよね。コロナ禍と言われ出す以前ですので、それが理由ではない。ですが、どうやら安曇野の個人美術館としては草分けとも言える歴史(1981年開館)が近隣住民の惜しむ声を呼び、また知る人ぞ知る存在を愛するリピーターも再開が望まれたようで。結果、コロナが落ち着きを見せてきた2023年秋、再び開館されることになったのだそうな。続けるのもまた大変なのでしょうけれどねえ。
1階奥のラウンジには、たくさんの美術書が雑然と並んでいる片隅で薪ストーブが焚かれて、すぐ脇の籐椅子には受付で応対してくれたおばあちゃまがつい今しがたまで腰かけておりましたよ。ここで淹れたてのコーヒーをいただきながら、ちらちらする炎の動きをいつまででも見ていられそうな。どうやらここでは時間の流れが異なっているようでもありました。GWだっただけに、巷は喧騒に包まれていたでしょうに。