「何故ここにこれが?!」と以前から気にはなっていた美術館へ、このほど初めて出かけてみたのでありますよ。山梨県北杜市長坂にありますアフリカンアートミュージアム、建物は結構モダンな印象でありますなあ。
もっぱらアフリカの民俗的な作品を展示している施設のようです。ま、作品といっても、本来的にはアートたることをイメージして作られたものではないので資料といった方がよいのかも。とまれ、入口のドアノブ(?)からして、こんな設えでありましたよ。
アフリカの造形、美術は思いもよらないデフォルメ、フォルム、表現力、質感など理屈ではなく観る者の心に直接、訴えかけてくる力があり、たちまち虜になってしまう魅力があります。
HPでかような誘いの言葉を投げかけてくる同館では「アジア、オセアニア、インドネシア、フィリピン、台湾やヒマラヤなどの少数民族の美術」をもコレクションしているようですが、訪ねたときには「アフリカの彫刻」展が開催中、この美術館にとっては王道の展示と言えましょうかね。
アフリカの彫刻と聞けば、モディリアーニがインスピレーションを得た首の長い人物像ばかりを思い浮かべてしまいますけれど、当然にしてその系統ばかりではありませんですね。フライヤーを飾っているのはナイジェリアのイボ族による「頭上面」(「頭からすっぽり包む衣装を身に付け、頭上にマスクを乗せて踊る」際のマスク)だそうですが、何を模しているかといえば、これが何と!象であると。
ジブリ映画の『もののけ姫』では乙事主がたたり神と変じてしまうようすが描かれますけれど、象にも荒魂があるとするならばこんな造形となるのかもしれませんですね。アフリカの彫刻、すなわちプリミティブ・アートと想像してしまうところながら、単にプリミティブ、原始的なのだとは言い切れないものでもありそうです。
2階展示室から階下のメイン展示室を見下ろしますと、彫刻作品がずらりと並び、それぞれに個性が際立っておりますな。壁面にはテキスタイルも飾られています。ともあれ、プリミティブとばかりも言っておれない彫刻作品をいくつか振り返っておこうかと。
こちらもフライヤーに見た象と同じくナイジェリアのもの。「ふだんは祠に安置され、供物を捧げられたりしている」となれば宗教的偶像なのであるなと思うわけですが、これがいったん祭りとなりますと被りものとして使用される、つまりは「頭上面」であるというのですなあ。
結構な大きさですので、さぞ不安定だろうと想像するところながら、「若い男性がかぶり、その男性が結社内で、さらに高い地位に上がったことを祝ってパフォーマンスを披露する」となりますと、この大きな頭上面を被った上でそつなく踊りを披露できることが、いわば「通過儀礼」なのかもしれませんですね。高い地位に上がった結果のパフォーマンスとはいえ、これがうまくこなせなくてはぶち壊しになりましょうし。
趣き変わってこちらはレリーフでありますね。「描かれている場面は1515~1516年にベニンがイボと闘って勝利を得たシーン」で、戦勝記念を語り残すためであるか、木彫りではなくしてブロンズで作られて宮殿内に飾られたのだそうでありますよ。ベニンは19世紀末まで王国として存在しましたけれど、ざっくり言えば英国の植民地にされてしまい、今ではナイジェリアの一部になっているという。アフリカは大航海時代以降、侵略され、略奪され…というあたり以外の歴史は語られることが少ないですが、こうしたレリーフによって語り伝えられることも確かにあるということになりましょうね。
と、展示作品のうちではナイジェリアの作品が最も多かったようですけれど、ちと他の国にも目を向けておくとしましょう。「ムガンダ」と呼ばれる成人儀礼に使われるコンゴ(旧ザイールの方)のマスクということですが、やはりナイジェリアとはずいぶんと異なっておりますなあ。
上の方に付いた尖った形は蛇を模したもので、下にひげのように下がる麦わら状のものはラフィアというヤシ科の植物素材だとか。日本人からすれば麦わらに見えてしまうこともあり、ムサビの民俗資料室で見る日本の民具を思い浮かべたりしてしまいますですよ。
と、こちらはまた素朴な造作ですけれど、このようなアーモンド形の顔かたちこそモディリアーニに?と思うところかと。解説にも「20世紀初頭のパリの芸術家の多くがこの造形に影響を受けた」とありまして、ちとピカソのイメージもあるかと思ったり。ガボンでは「村で功績のあった有力な祖先の頭蓋骨を、籠製の陽気に入れて祀る祖先崇拝が行われていた」ようで、この作品は「遺骨籠の守護神」として容器の上に取り付けるということで。「悪霊から遺骨の守る」というには、いささか迫力不足のようですが…。で、迫力不足という点ではこんなのはどうでしょうかね。
「王の象徴であるライオンの像」という作品タイトルで紹介されておりますが、「これ、ライオン?」と。なにやらヘタウマ的なライオンで、ぶさいくな猫かとも。ですが、正しく「王の象徴」なのですなあ。ベナンがかつてダホメ王国であった時代、「19世紀前半に在位したクエゾ王のシンボルの一つ」がライオンということですのでね。それにしても、このライオンでとやかく言うのもなんですが、やがてフランスの植民地されてしまう運命を暗示しているような…とは、ベナンの人たちとの感覚の違いでもありましょうねえ。
とまあ、思った以上に豊穣なアフリカンアートに触れつつ、エコール・ド・パリの画家たちにも思いを馳せてしまったり。さらには建物の外、入口脇の水辺には睡蓮が花を咲かせていたものですから、印象派のモネまで思い出した次第。いいもの見たなと思うアフリカンアートミュージアムなのでありました。