どんよりとした曇り空で気分もいくぶん沈潜気味…になりかけるところですが、まあ、心持ちくらいは晴れやかにと東京オペラシティのコンサートホールへ出かけたのでありました。例によって(?)「ヴィジュアル・オルガンコンサート」でして、大きなホール空間でオルガンの響きに包まれますれば、暫時鬱陶しさも忘れようかというわけで。

 

さりながら、奇しくも今回のプログラムはちと凝ったものでありましたよ。そもオルガンとトランペットのデュオという組み合わせは、昨年秋(2022年11月)に出向いた「ヴィジュアル・オルガンコンサート」でも聴けましたですが、今回はトランペットが加わるのみならず、そもオルガン自体、二人の奏者による4手連弾とは珍しいのではなかろうかと。

 

ヴィジュアルと名の付くとおりに奏者の手元をクローズアップした映像が、がらんとしたステージ上に据え付けられたスクリーンに映し出されるわけですけれど、88鍵あるピアノほどには鍵盤の幅広さが無いものですから、二人の奏者が横並びになって4本の腕が動きまわるようすに、些かの忙しなさを感じたものでありますよ。ですが、パイプオルガンには複数段の鍵盤がありますし、出せる音色の多様性を鑑みれば、そもそも一人の奏者、つまりは二本の腕、十本の指で奏するだけでは勿体ない、機能を活かしきっていないのかもしれませんですね。

 

とはいえ、もともと複数名で弾く想定があったとは思えないところでして、足鍵盤の方は二人の奏者で扱うには足が錯綜してしまうのでしょうか、あまり使われていなかったのかも。ヴィジュアルたるコンサートとしては、足鍵盤を華麗に渡り歩くようすなどもクローズアップされるのが常ながら、今回はほとんど映し出されることは無かった(独奏曲は別ですが)のは、使用されていないか、その頻度が低いか…てなところでしょうか。足鍵盤が聴いてる側の体を揺さぶるような低音を繰り出すことを考えれば、聴いていれば分かりそうなものではありますが、演奏の最中にそのあたりにはとんと気が回っておりませんでした…(笑)。

 

と、オルガンの4手連弾はそれはそれで聴きものながら、トランペットが入ってきますとねえ、やっぱり位置づけとしてはトランペットが独奏、オルガンが伴奏てなふうになって、すっかりいいところを持っていかれた感がありますですね。それでも、ヴィヴァルディの「2本のトランペットのための協奏曲」RV537を持ってきて、2本の独奏トランペットのうち1本を、オルガンが「トランペット」の(音を模した)ストップを使うことで担当し、オルガン奏者が2名いることで伴奏部分は伴奏部分で演奏するという変則技が繰り出されたりも。トランペットとオルガン連弾という組み合わせならではの演奏だったりもしましたですよ。

 

とはいえ、トランペット・ソロがフィーチャーされた、映画『ミッション』の「ガブリエルのオーボエ」(エンニオ・モリコーネが作った名曲のひとつですな)や、賛美歌としても夙に知られる『アメイジング・グレイス』などはメロディが体の中に沁み行って、無駄に溜まった湿気を追い出してくれるよう。やはりこの時期は、心身ともに清々しいを追い求めておるなと感じたものでありました。

 

ところで、ここで登場したパオロ・トレッテルというトランペット奏者は、プロフィールによりますと「クラシックからジャズに至る幅広いレバートリーを自在に操るイタリア人個性はトランぺッター」とありまして、経歴に「フランス、サロン・ド・プロヴァンス国際ジャズコンクール第1位」とあることから、本来的にはジャズ系の方なのかも。まあ、ウィントン・マルサリスあたりを引き合いに出すまでもなく、ジャズとクラシックの境界を超えて活動する方はままおりますので、そのこと自体はどうというわけでもありませんですが、ピアソラの曲を演奏する際には片鱗が窺えたような気もしたものです。

 

トランペットの音色はともすると暑苦しさを覚える印象もなきにしもあらずで、真夏の夜の野外ライブで汗の玉を散らしながら演奏する姿なども思い浮かべてしまうところながら、今回は曲によって通常のB♭管とピッコロ・トランペット、そしてフリューゲルホルンを持ち替えて、実に穏やかに馥郁たる音色を聴かせてくれたのですな。上手な人が吹くトランペットは暑苦しくもうるさくもないのですよねえ(笑)。束の間、いい暑気払いになったのでありましたよ。