そういえば、先ごろエンニオ・モリコーネが亡くなったのだったっけ…と、ふいと思い出して追悼気分に。
誰とは言わず有名人が亡くなったときには、ネット上に追悼記事の嵐が吹き荒れるわけですが、
根っからのひねくれ者としては、何かと熱のようなものが去った後にじっくり振り返るのをよしとする、
そんなところがありまして。
ともあれ、映画音楽の巨匠と言われたエンニオ・モリコーネを偲ぶには当然にしてその音楽を聴く、
もちろん映画音楽というジャンルの性格上、音楽を担当した映画をこそ見るという形のありましょうけれど、
とりあえずはCDを取り出したのでありますよ。
1988年に発売された「エンニオ・モリコーネ フィルム・ミュージック’66~’87」という2枚組。
かつてマカロニ・ウエスタンの音楽担当として名を馳せたモリコーネは、
そもイタリア製西部劇が世界的に受け入れられる元になった「荒野の用心棒」からして音楽で参加していますが、
このCDで振り返る20年ほの中に、1964f年の「荒野の用心棒」や翌年の「夕陽のガンマン」は入っておらず、
最初の曲は1966年の「続・夕陽のガンマン」なのですなあ。いささか残念な限り。
一方、その後のモリコーネは「ニュー・シネマ・パラダイス」あたりが代表作として知られるように、
実にきれいなメロディーを紡ぎ出すことで知られるようになるわけですが、
こちらの映画は1988年作品ですので、やはりこのCDには入っていない。
何やらまさに間隙を縫うような作りになっておるのですなあ。
ですが、そうしたわりと地味な映画の音楽も含めてモリコーネの作品を振り返ることができるという点では、
稀有なといいますか、聴いて楽しむ音楽というよりもむしろ資料的価値を持つような類いかのかもと思ったり。
もちろん映画の個性の反映だからでしょうけれど、雑多な音楽が入った箱をひっくり返したようでもあり、
時にはかなりエグイ音楽がつけらえているものもあるわけで、単純に聴いて楽しいというばかりではないもので。
ですが、こうした音楽の幅の広さこそ、長年にわたり映画音楽の職人として活躍したモリコーネの技なのでしょうなあ。
このCDの収録曲でさくっと、そのバリエーションのほどに触れてみますと、
まず「続・夕陽のガンマン」、マカロニ・ウエスタンの先行2作にあった流れるメロディーとは違ったインパクトがありますね。
「シシリアン」をはじめとするフィルム・ノワール系では緊張感をあおったり、はたまた神経を逆なでしたりする面も。
「死刑台のメロディ」は(あたかもノワール映画のような邦題ながら)冤罪事件を扱っているだけに民衆の声が聴こえるよう。
こうした幅のあるバリエーションからの、後の「ニュー・シネマ・パラダイス」につながって
今受け止められているようなモリコーネ音楽で思われるのが「ミッション」でしょうかね。
劇中で中出られる「ガブリエルのオーボエ」には、映画館で見ながらも「おお!」と思ったものでありました。
ちなみにその後のモリコーネでは影を潜めたのかなと思うところは、
先の時代に多用されていた笛ものの出番でありましょうか。
いわゆる息を吹き込んで音を出すという意味ではハーモニカの利用などもありましたけれど。
この手の楽器をフィーチャーすると、音楽としてはエッジが立ち過ぎるきらいがあるようにも。
弦楽器でしっとり聴かせるようなものとはかなり個性が異なるように思えるところです。
てなふうな振り返りをしておきつつも、ということにはなりますが、
やはり「その後」のモリコーネの音楽はひと皮向けたところに行ったといいますか、
「ニュー・シネマ・パラダイス」、「海の上のピアニスト」、「マレーナ」…、いいですよねえ。
そちらをたっぷり楽しむには都響コンマスの矢部達哉のソロ・ヴァイオリンが瑞々しいこちらの一枚、
「Dear Morricone」は染み入ってきますですよ。特に蒸し暑い今の陽気にあってはなおさらなのでありました。