先日、チューバのソロ・リサイタルを聴いたことで、「ブラスの響き」(かつてこういうタイトルのラジオ番組がNHK-FMにありましたな)を久しぶりにと、金管アンサンブルのCDを取り出したのでありますよ。

 

 

「Best of London Brass」という一枚ですけれど、ロンドン・ブラスは先にも触れましたPJBE(フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル)1986年に解散した翌年、後継団体的に誕生したアンサンブルでありますね。ともあれ、フチークの「剣士の入場」(タイトルはご存知ないかもながら、Youtubeなどで探してもらえばほぼほぼ誰もが聴き覚えのある曲かと。個人的には『メリーポピンズ』でバートとアニメのペンギンの絡むシーンを思い出します)では賑やかに、チャイコフスキーの組曲『くるみ割り人形』ほかクラシックのアレンジ曲ではまろやかに、楽しい演奏が詰まった内容となっているという。

 

と、金管楽器ばかりのアンサンブルであるのに、「なんとも耳あたりの良い響きであるな」と思うのですよね。これは、ひとつにはブラス・バンド(日本の吹奏楽のように木管楽器が混じることのないアンサンブル)の伝統が英国に根付いているからでもありましょうか。日本でも地域や職域でたくさんのバンドがありますけれど、英国でのようすは映画『ブラス!』を見たりすれば窺い知れるところかと。

 

ではありますが、英国に限らず西洋の音楽の演奏形態、その究極がオーケストラでもありましょうけれど、これらは音質の均一性といいますか、ハーモニーにとても気を使ってきた結果、今の形があろうかとも思うところです。もちろん、時に打楽器やハープなどの撥弦楽器には飛び道具的にハッとさせる使い方もあるものの、例えば打楽器でもティンパニはやはり響の馴染みを考えてできたものであって、これの代わりに和太鼓を持ち込んだとしたら、尖ってしまってどうにも…ということになりましょうかね。

 

もちろん、だから和太鼓がどうの…ということを言うつもりはありませんですが、こうした一体感ある響きを生み出す工夫の中で、いわゆる同族楽器が次々作られてもきたのでありましょう。金管の響きにさらに低音が欲しいとなればチューバが生み出されたように、ヴァイオリンに類似する音程の異なる楽器としてヴィオラやチェロ、コントラバスがあるように。

 

と、そんな思い巡らしをしていて思い出しますのは先日のEテレ『にっぽんの芸能』で紹介されておりました正派邦楽会の合奏でして。筝、三味線、尺八という邦楽器を使った大合奏にも力を入れているというこの団体、明治期に創始者がやはり西洋音楽に影響を受けて、これと伍していく方策を考えようと作り出されたのが正派邦楽会でもあるうようですな。

 

ただ、オーケストラの響きが統一感にあって楽器がそれに馴染むようになっている反面、邦楽の楽器は必ずしも当初より大合奏を想定しているものではありませんから、個々の楽器もそれぞれの際立つ個性があるわけで、オケのように音のブレンドを楽しむことよりも、音の掛け合いをこそ楽しむところがあろうかと。異種格闘技とまで言っては言い過ぎでしょうけれど。

 

そうではあっても、筝であれば伝統的な十三絃に加えて、後に十七絃筝や二十五絃筝などが考案されたのは、やはり同族楽器の音域の充実が考慮されてのことでしょうかね。一方で、三味線にも同族楽器と思しき、細棹、中棹、太棹などのバリエーションがありますけれど、これは三味線という楽器の音域の充実というよりも、それぞれに関わる芸能の種類によって使い分けられるわけで、方向性がちと違いますな。

 

まあ、そんなことで西洋音楽に影響を受けて、正派邦楽会は「日本の伝統音楽を世界に!」を合言葉に活動を続けてきたということではありますが、明治の西洋音楽の受容期とは考え方を変えてもいいのではないでしょうかね。なんとなれば、邦楽器による大合奏はありとしても、それをオーケストラへの対抗といった捉え方ではなしに、より邦楽器らしい独自性に着目した音楽創造があっていいのでしょうし。もっとも、そんなことは織り込み済で日夜研鑽を重ねておりますと、会の方々からお叱りを受けてしまうかもですけれどね。

 

ちなみに同会の牙城?たる正派邦楽会館が比較的近隣の東京・小金井市にあるそうですので、何かしらイベントの開催でも気が付いた折には出かけてみようかと思っておりますですよ。