どうにも現代史に弱いですなあ。といっても、リアルタイム、今現在の現代というよりも

中学、高校の世界史の授業がなおざりにしてしまいがちな20世紀以降の歴史と言いますか。

 

最近はむしろ現在に近い部分を最初に取り上げたりすることもあるようですけれど、

かつての世界といえば、ほぼ間違いなく四大河文明とか古いところから時系列で扱う、

それが当たり前でしたものね。畢竟、現代史までたどりけないと…。

 

ポルトガルで、カーネーション革命ともよばれる事態が起こったのは1974年。

きちんと世界の情勢に目を向けていれば知らなかったはずもないのでしょうけれど、

恥ずかしながら今さらながらに「そんなことがあったのだなあ」と。

 

スペインにフランコ独裁政権があり…ということは

第二次大戦の前哨戦的な関わりから知ってはいましたが、

その影響としてピカソの「ゲルニカ」が1981年までスペインにお里帰りができず、

しかもマドリッドで展示されるに際して、1995年まで防弾ガラスに囲われていたとは

比較的最近になって知ったところなのですね。

 

一方、おとなりのポルトガルでは1933年以来の独裁体制が

先に触れたカーネーション革命で倒されたのだということをようやっと知ることになった次第。

映画「リスボンに誘われて」を見たことによりまして…。

 

 

タイトルと、そしてフライヤーを見たところではてっきり恋愛ものかなとも。

欧米の映画では年齢の高さとは関わりなく、恋愛模様が描かれる映画が数多ありますものね。

あたかも今すぐ川に身投げをせんと思えた、橋の上に佇む若い女性を引き留めた初老の高校教師…、

こんな場面から始まるとなれば、そんなふうに考えても仕方のないところかと。

 

とりあえず講義に向かわねばならないライムント(ジェレミー・アイアンズ)は

橋で出会った女性を学校に連れていくのですが、ふいと彼女は姿を消してしまい…。

 

置き去りにされた彼女のコートに残された1冊の小さな本とリスボン行の列車の切符を手に

とまどうライムントでしたが、もしかしたら彼女が現れるかもしれないと考えて、駅へと向かう。

それらしき人物を見かけることのないまま、列車はまさに出発しかかりますと、

あろうことか、ライムントは何の旅装もないまま、この列車に飛び乗ってしまうのでありました。

 

といって、ここはスイスのベルン、おそらくは翌朝まで走りどおしであろうと思しき列車に

飛び乗ってしまうとは、それほどに彼女に感ずるところがあったのか、

はたまた大陸の西の端、リスボンに惹かれるところがあったのか。

 

先日放送されたのNHK「世界ふれあい街歩き ファド響く坂の街 リスボン~ポルトガル~」を見ても、

リスボンの旧市街はいかにもそぞろ歩きしたくなる、魅力といいますか、

ある種のエキゾチシズムを色濃く漂わせた街でもあるなあと思ったものです。

ただ、「七つの丘の町」とも言われるだけに、坂道の上り下りは相当ありましょうけれど。

 

そうした町自体の魅力を常々ライムントが感じていたわけではないようですので、

彼を突き動かしたのはひとえにかの女性…ではなくして、彼女が残していった一冊の本だったわけで。

 

広い読みするうちに目が離せなくなり、リスボンに到着するや訪ねた先は本の作者の家であったと。

どうやら限定出版的な本であることから、そうすることが行方をくらました女性のてがかりをも

得られるのではと考えたものではありましょうが。

 

と、ここから先、本の作者は後にカーネーション革命に至る前、

サラザール独裁体制に抵抗する反政府レジスタンスのひとりであって、

同志との関わり、秘密警察との微妙なつながりなどが解きほぐされていくわけですが、

この歴史を知らなかった者としてはついつい「そうであったか…」と引き込まれたりもしたものです。

 

さりながら、そもライムントの目の前で発車せんとする列車に、彼を飛び乗らせた理由、

これは先にも触れたとおりではあるものの、背中を押した背景に今ひとつ得心がいかず…。

ま、これは後から考えてみれば、なのですけれど。

 

とまれ、そんなわけでこの映画、カーネーション革命という歴史の中に確かにあった出来事、

そしてリスボンという町を映し出す映像が伝える魅力、こうしたあたりだけを見るとしても

十分に興味深く、楽しめる作品かもしれませんですね。