先に(遅ればせながら)ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのことを書きましたけれど、
それで思い出したことをひとつ。
コンサートの会場である楽友協会大ホールの会場内の柱が、曲の合間合間で遠目にステージを映す際、
何度も出てきましたけれど、この柱にふと目がとまったものでして。
柱の柱頭装飾を見て「ああ、イオニア式か…」なんつうふうに。
それと言いますのも、年末に一度(都心を通らないとたどり着けない)両親のところへようすを見に行ったおりに、
買物ついでに日本橋の髙島屋に立ち寄りましたところ、館内にある髙島屋史料館では
「装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~」なる展示が行われたのでありますよ(2/21まで予定)。
以前に髙島屋史料館を訪ねた際、日本橋髙島屋そのものの建築についてはいささか知るところとなりましたが、
今回の展示ではもそっと広く日本橋界隈の建築に目を向けた内容となっていたのですな。
取り分け髙島屋から見れば日本橋を越えた先にある二つの建築物、
日本銀行本店と三井本館との対比を解説しているのが、なかなかに興味深かったところでして。
明治建築界の大御所・辰野金吾の設計で知られる日銀本店がどっしりとした堅牢感を見せるその向かいに
(石造りながら)比較的軽やかに伸びあがって三井本館は建っておりまして、確かに対比の妙はありますですね。
冒頭に触れた柱の話でいいますと、日銀本店も三井本館も、どちらもコリント式の柱頭飾りが使われていると。
古代ギリシアの建築様式にはドーリア式、イオニア式、コリント式とあるわけですが、
柱頭装飾を持たずにすっくと柱が立ち並ぶドーリア式は荘重、荘厳な印象とでもいいましょうか。
これに対してイオニア式は柱頭部に、「あっという間にかわいいコックさん」が出来上がるお絵描き歌の
6月6日の部分みたいな装飾があるのですな(といって、何のことかお分かりになりましょうか…)。
これはもうこの形!としてバリエーションもあまり無いように思うところですけれど、一方でコリント式は
もっとも凝った装飾があしらわれておりますね。
基本的には「アカンサス」と呼ばれる植物模様でぎざぎざした掘り込みなど、技巧的になっているような。
この点では同じコリント式でありながらも、三井本館の方がよりそれらしいということのようです。
日銀の方の柱頭装飾はかなり簡素化して使っているようですから。
辰野が留学したイギリスには、16世紀イタリアの建築家アンドレア・パラーディオに影響を受けた建築様式があり、
(パラーディオの建築した代表作のひとつはヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会であるとか)
辰野もこれに影響を受けていたようでありますね。
建築のことに詳しいわけではありませんので、この程度の初歩的なあたりだけで深入りすることはしませんが、
日本橋界隈には斬新な現代建築が続々建てられているその傍らに、歴史的なと言えそうな建造物も並んで
見て回るには事欠かないということで、本展会場では「日本橋建築めぐり」なるマップも配布しておりましたよ。
それを片手にして日銀本店、三井本館以外の建物の装飾などにも目を向けるぶらり歩きを
してみようかなあと思っているうちに、不要不急の外出自粛が厳しさを増してきてしまい…。
ま、建物は逃げませんからそのうちに徘徊してみるといたしましょう。
逃げないとは言っても、この後も日本橋界隈の再開発は続くでしょうから、どうなるものやらではありますが。