栃木県の那珂川町あたりをうろうろと、あっちへ行ったりこっちへ来たりとしてましたが、
実のところ那珂川町(旧・馬頭町)を訪ねた個人的最重要目的地へ向かい…といって、
車便乗の旅ですので、向かってもらったわけですが(笑)。
入ってきたのは、合併して那珂川町となる前の馬頭町で、町の中心だったエリアですね。
明らかに農村風景とは違う町並みですけれど、静かなものです。
町の入り口で遭遇したクランク状の連続した曲がり角には「おや?桝形か?!」と思い、
もしかして宿場町でもあったとなれば賑わいのあったろうと想像するのですが…。
とまれ、かような馬頭の町の真ん中あたりに、その目的地はありまして、
「なぜここにこれが?」と思う「馬頭広重美術館」、ようやく到着いたしましたですよ。
なんでも近隣地域出身の実業家が集めた歌川広重をはじめとするコレクションの一括寄贈を受けたそうな。
特段この地が広重ゆかりというわけでなさそうですが、観光資源としては大いに有効でありましょう。
確かに釣られて来てしまう者もいるわけで。
ところでこの、一見すると豪農やかたの敷地の片隅にある雨避けの農機具置き場かとも見紛う建物、
木材を多用し、通気性のよさそうなあたり、想像どおりに隈研吾の設計によるものでありましたよ。
「地元産の八溝杉による格子(ルーバー)に包まれ」ているということですけれど、
やはり風雨にさらされる外側は、建材としての強固さとは別に見てくれの劣化は隠せませんなあ。
もともとは精気に満ちた木の色を見せていたとは思うところながら、すっかり冬枯れ色に。
あたかも息も絶え絶えで死を待つばかりのカマキリ色とでもいいますか…。
決して腐しているのではなくして、本気でメンテするとしたら大変だろうなとも。
もっとも、経年変化が自然のものであること含みのコンセプトなのかもしれませんけれど。
とまれ、展示室など館内のようすは至って現代的な美術館なわけでして、
そこでは館蔵の名品展が開催中なのでありました。
当然にして歌川広重を主として、他にも豊国や国芳、明治の小林清親と井上安治なども展示されてますが、
質量ともに誇るのはやはり広重作品でして、風景画家たる面目躍如の作品群に出会えることはもとよりとして、
「忠臣蔵」を扱った歌舞伎題材の絵、静物画(といっていいのか)の「魚づくし」のシリーズなどは
あまりお目にかからないものでもありましょうか。
そして何よりも、広重自筆、肉筆画を目の当たりにできる機会はなかなかに貴重でもあろうかと。
写真は撮れませんので、画像は馬頭広重美術館HPでご覧になっていただかなければなりませんですが。
錦絵という刷り物は、どうしても線を彫り出す関係からも輪郭がきっちりしてくるわけながら、
絹本の肉筆画の方は淡さと朧な感じに錦絵とは違う特徴がありますな。
例えば、上のフライヤーに使われた富士山の絵なども同様です。
ところでこのフライヤーですが、何だって中央に文字の帯を入れて富士を二分割してしまうかなぁ…とは、
思うなかれ。もとよりこの絵は左右別々、二軸の掛け軸なのでありますよ。
しかも、右は静岡側から、左は山梨側から見たものを描き、並べている。
パッと見を欺く作品作りではありませんか。
なるほど、近づいて前景をよおく見れば左右がつながる景色でないことは分かるわけで、
こうした広重の一面を知るのもまた楽しからずやでありますね。
わざわざ出かけた甲斐があったというものなのでありましたよ。