かねてカール・アウグスト公に招かれ、またゲーテ との親交も深めていたシラー

いよいよワイマールへ居を移し、1799年から1802年まで住まったという建物に

ふいに出くわしたのですね。入口の上にプレートが見えておりまして、

「Hier wohnte Schiller 1799-1802」と書かれてありましたですよ。


1799年から1802年までシラーが住んだという家

ヨーロッパではあちらこちらで、歴史に名を刻んだ人たち(知ってたり知らなかったりですが)の

住んだ家とかいう案内を見かけることがありますので、きょろきょろしながら歩かないと

後で損した気分になったりするものです(笑)。


もっとも、ここらにあるはずなんだが…と探してみても見当たらないこともあれば、

今回のように不意打ちでこんなところに…ということもあるわけですが。


それはともかく、この家からほんの数十メートルくらいしか離れていないところに

シラーは1802年に引っ越して、亡くなるまでの3年間を過ごしたのですが、

その終の棲家の方がシラーハウスとして公開されているのでありますよ。


シラーハウス@ワイマール

元々は朝いちばんでこちらを訪ねて、小さな広場状のところにわんさと高校生の一群がおり、

これと接近遭遇を避けてワイマールハウスに立ち寄ったことは先にも申したとおり。

ワイマール ハウス をひと回りして戻ったときにはかの一群は消えていてひと安心と思うも

結局のところ館内で鉢合わせ。ま、この話は取り敢えずこれまで。


で、ともかく館内へと足を運ぶわけですけれど、

ふいと思い立ってみればシラー、シラーと言ってどれほどのことを知っているかと思い返すも

ベートーヴェンの第九 に使われた「歓喜に寄す」の原詩を書いた詩人であり、

劇作家であるということになりましょうか。もっとも読んだことがあるのは「群盗」くらいかも。


だいたい詩作品には縁遠いですなあ。個人的にというばかりでなく、

およそ日本で詩作品に親しむ方々は欧州などに比べると少なめなのではないですかね。


そうはいいつつ、日本にも「詩歌」(とひとまとめにするのはどうかとも思いつつ)に

慣れ親しんでいた時代はあったのですよね。和歌、俳句、漢詩などなど。

そこへ明治になって入ってきた西洋詩もおそらくは関心と好奇の目が注がれたことでしょう。

上田敏の訳詩集「海潮音」は当時のベストセラーだったのではありますまいか。


そうした中ではシラーの詩への親しみも、おそらく今よりはあったのではなかろうかと。

太宰治 の「走れメロス」がシラーの譚詩「人質」を材料に創作されたことは

(相当に似ている点があるとは、先日見た太宰関連の展覧会に比較展示されていました)

よく知られていることのようですし。


と、余談が長くなりましたが、一方でシラーの劇作には

オペラ化されているものあれこれありますので、それで知った気になっているのかも。

例えば先ほどの「群盗」や「ドン・カルロス」、「ルイザ・ミラー (原作タイトルは「たくらみと恋」)、

それに「オルレアンの少女」や「メッシーナの花嫁」、そして「ヴィルヘルム・テル」も。



「メッシーナの花嫁」や「ヴィルヘルム・テル」は1804年の作ですから、

ほぼ間違いなくこの家で書きあげられたのではないでしょうか。



もしかしてこの机で?と思うところながら、

なんだかちと新しすぎるような気がしてなりませんなあ。

ゲーテハウス@フランクフルト の立ち机は本物感たっぷりでしたけれど。


と、ゲーテを引き合いに出したところで両者の住環境の違いを考えてみますと、

同じワイマールにあってゲーテは宰相ですから、(この後に実際に訪ねることになりますが)

それ相応に大きな館をそっくりそのまま使っているのは当然として、

シラーの方はヴァイマル公の母君のサロンに出入り自由で、宰相の大親友、

そして詩人として尊敬もされている…としても、職業上、飯のタネは限られていたのかなと。


確かにワイマールに来て1802年には貴族に叙されて「フォン」シラーになったりという

待遇改善はあったのでしょうけれど、要するに土地持ち貴族とは違いましょうから、

そのあたりが住まいの違いとして現れてくるのですかね。


といって、一番上で見た転居前の建物は大きなものでしたが、

それをまるまるシラーが使っていたとも思われないので、この公開されている家は

シラーにとって全てが自由になる一軒家として満足すべきものであったろうと想像するところです。


それは日本人の感覚からすると、なおのことですね。

19世紀初頭に小奇麗な部屋がいくつもあることを考えますと。




それにしても、各部屋それぞれに暖房設備の形が個性的なのが面白いところですな。

とまあ、ここでシラーは亡くなるまで名作を生み出していたのだなあ…てなことを思いつつ、

見て回ったシラーの住まいですけれど、隣接して新しい建物のシラー博物館もありまして。


シラー博物館@ワイマール

当然にしてこちらにもシラー関連資料がたくさん…と思いましたところが、

壁面にゲーテらしき顔が見えておりますように特別展が開催中であったような。

ということで、その関連はまた別のところで触れることにいたそうかと思っておりますよ。