東京に長らく住まっておりながら山手線 の29駅全てで乗降したことがあったろうか…
てなことを振り返ってみたことが以前ありましたけれど、ふいに「それでは京浜東北線は?」と。


そんなことに思い至りましたのは外でもない、京浜東北線の駅で

これまで全く乗降したことのなかった上中里駅で初めて下車したものですから。
やおら上中里と言われて「それ、どこよ?」という方も多いかもですなあ、もしかして。


とまれ、東京の23区内ではありながらそこはかとない垢抜けなさの中を歩いて目指したのは、
北区西ヶ原にある東京ゲーテ記念館でありました。


2015年の夏にフランクフルト周辺 を見て回った際に
「フランクフルトと言えばゲーテ でしょ」と言うことでゲーテハウス に行き、
その後には「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 」を読み…とあれこれする中で
東京ゲーテ記念館の存在を知ったのでありますよ。


そのうち行ってみようとは思ってましたですが、
何分にも他に合わせ技の用事のあるような場所でないものですから、そのままに。
ですので、ともかく「東京ゲーテ記念館にこそ行くのだ!」と意を決することにして、
出かけてみた…とまあ、そういう次第でありまして。


本来的に最寄り駅はといえば東京メトロ南北線の西ヶ原駅でしょうけれど、
ちとJR京浜東北線沿線の立ち寄り先から廻る都合で上中里駅からのアプローチに。
しばらく裏道の住宅街を抜けて、信号のある交差点に出たと思えば、
その傍らには小さな広場(矛盾した表現ですな)が。
「ゲーテ記念館前ポケットパーク」と名付けられておるようです。


ゲーテ記念館前ポケットパーク


ドイツ語の亀の子文字(正確にはフラクトゥーア)が書かれた大きな柱が
「Goethe Park」と存在感をアピールしているわりには、
ポケットパークという表現がぴたりと来る狭さ。
ですが、ゲーテの年譜やファウストの一節を記した解説板が設置されておりました。

と、その通りの向こうになかなかの威厳で建てられてあるのは東京ゲーテ記念館。
ゲーテに関するものなら和書・洋書を問わず、新聞の切り抜きなどもコレクションしている
ある意味かなりマニアックな図書館と言ったらいいでしょうか。


東京ゲーテ記念館


入り口脇のピンポンを押して案内を請い、
入ってすぐのホール右手が自由に観覧できるギャラリーになっておりました。
ちなみに現在は「ゲーテと音楽」にまつわる収蔵品の展示(12/10まで)ということで。


ゲーテギャラリー@東京ゲーテ記念館


常設的なものとしてはゲーテの人物・事績紹介として、
「科学者としてのゲーテ」「政治家としてのゲーテ」「演劇人としてのゲーテ」
「画家としてのゲーテ」「批評家・編集者・翻訳者としてのゲーテ」といったあたりが
パネル展示されて、ゲーテの才能が多岐にわたったことを窺い知ることができます。


で、展示の多くを占めるのが「ゲーテと音楽」に関わる資料ですけれど、
ゲーテその人、あるいはその作品に関わる言葉があれば本当に何でも集めてしまうのだなと。




例えばゲーテ作品を元にしたオペラ公演のポスターとか。しかも年代モノですよね、これ。
トマの「ミニヨン」を新橋演舞場(!)で上演した際には入場料が最上席で350円とありますし、
大阪商船(現在の商船三井ですな)がニューヨーク定期航路を開始したことが告知されている。
藤原歌劇団の第41回公演ということで調べてみますと、1951年(昭和26年)だと分かりました。


ところで、トマの歌劇「ミニヨン」はゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を
下敷きしてあったのですなあ。ちいとも知りませんでした。

と、唐突ながら「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」からちょっとした引用を。

「楽器は声の伴奏をするだけだろう。言葉や意味のないメロディーや走句やパッセージはぼくらの目の前をとびまわって、時にはつかまえて自分のものにしたくなる蝶か色あざやかな鳥のように思えるものね。だけど歌は、精霊のように天までかけのぼって、ぼくらのうちのよりよい自我を、いっしょに天まで昇るように誘うんだからね」

ヴィルヘルム・マイスターの言葉がそのままにゲーテの言葉とは限りませんけれど、

これを読んだときには「ああ、ゲーテは器楽を下に見ているのだなぁ」と思ったものです。

まあ、詩人でもあるわけですから、言葉にこそ魂が宿る的な思いがあったかもですねえ。


ですから、ふと思いましたのはゲーテの作品由来ながら、歌詞を伴わない曲、

こういうものにゲーテはどういう反応を示したろうか…という興味がわくといいますか。


例えばメンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」や

デュカスの交響詩「魔法使いの弟子」を耳にしたとしたら

「器楽曲もまた雄弁だ」てなことを言ったでしょうか。



…てなふうな想像を巡らしたりする東京ゲーテ記念館の展示なのでありました。


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