いやあ、昨日は寒い一日でありましたなあ。

でも、朝から都心では雪と気付かないほどに、より山に近い多摩地域では単なる曇り。

と、油断しておりましたら、夕刻にはやっぱり雪が降り出しました(そんな予報でなかったのに)。


ですが、氷点下になるかならぬかくらいの気温で寒い寒いと言っていては、

大黒屋光太夫 らに鼻で笑われてしまいそうでもあろうかと。


かようなことはともかくも、荻窪の杉並公会堂まで室内楽の演奏会を聴きに行ったのですね。

ピアノの小山実稚恵 、ヴァイオリンの矢部達哉、チェロの宮田大によるピアノ・トリオでありました。


Carte Blanche カルト ブランシュ[白紙委任状] 小山実稚恵 Vol.2@杉並公会堂

かつてはピアノの音と弦楽器の音との親和性に疑問を感じて、

この組み合わせの曲に妙な聴きにくさを感じたこともありましたですが、

いつの間にかそういうことも無くなって。


ひとえに奏者の個性である音色の点で、

たまたま聴いたピアニストの音が個人的に合わなかったということでもありましょうか。

その点、(さほどピアノ曲を聴かない者ながら)常々気にかけているピアニストのひとりでしたので、

相性は悪くないとはいえるわけで。


とまれ、プログラムはたっぷりとしたピアノ・トリオ作品を2曲。

ベートーヴェン の「大公」とメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番でありました。


元来、音楽には聴く楽しみ以前に奏でる楽しみがありましたですね(って、今でもありますが)。

ひとりで好きに演奏するのもよいですが、複数名集まれば合わせる楽しさもあるわけで、

ちょっとしたステイタスの人たちならば何かしらの楽器を習い覚えていたであろう時代には

小さい編成のアンサンブルで奏でられる曲は重宝され、また人気を呼んだことでもありましょう。


その点で、ピアノ・トリオは三人集まれば演奏可なだけに、仲間集めの敷居が低い。

とりわけベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」は

時の神聖ローマ皇帝レオポルト2世の子息、ルドルフ大公に献呈された作品ですので、

「大公さまもお弾きになったこの曲を、さあ、あたくしたもね」てな具合に

さぞ楽譜は売れたんではないですかねえ。


ベートーヴェンらしい勇壮さを持った、

そしてまた、ベートーヴェンだけに実験的なところも併せ持つ曲だけに

奏でる人たちにはたっぷりした満足感を与えたことでもありましょう。


一方で、メンデルスゾーンの作品は、

「これはベートーヴェン以降に書きあげられたもっとも偉大なピアノ三重奏曲である」と

シューマン が賛辞を贈ったという曲ですけれど、もそっとインティメイトな雰囲気でしょうか。


確かに第1楽章や最終の第4楽章はインティマシーというにはダイナミックと思えるところながら

その中にも、また中間楽章にも時折、「おや?」と思わせる何やら懐かしい旋律の断片が

聴きとれる気がしましたですよ。


時に文部省唱歌でもあるかのような、

時には「サウンド・オブ・ミュージック 」の「私のお気に入り」が浮かんでしまうような。


そうした曲調は、貴族たちのサロンでお披露目されそうなベートーヴェンに比べて、

もそっと家庭的な印象につながりますね。

インティメイトな雰囲気とはそうしたところでもありまして。

初めて聴いた曲でしたけれど、外の寒さを忘れてほっこりする心地になったものです。


そうした印象をなおのこと後押ししたことには、

演奏者たちがアンサンブルの楽しみを自ら感じていると伝わるところでしょうかね。

音楽を奏でることはまずもって自分の楽しみなのだということを

見ていて思い出しましたですよ。


中学、高校、そして大学までは演奏することを楽しむ側にいたはしくれながら、

今ではすっかり聴くだけの側に回っている。

また、そのうちに何ぞかを奏でてみようか、そんなことを思いつつ帰途に付きましたら、

自宅最寄駅では遅まきながらの雪に見舞われ、寒さですっかり冷めて帰宅したのでありました(笑)。