やまとーあーとみゅーじあむ@秩父・羊山公園

秩父・羊山公園 で、まず訪ねた武甲山資料館 のもそっと奥に
ひっそりと佇むようにありましたのが「やまとーあーとみゅーじあむ」、
棟方志功の版画(ご本人的には「板画」だそうで)をもっぱらに展示する美術館でありました。



まずもってロビー空間でビデオ映像を見ることができますけれど、
上映されたのは歴としたドキュメンタリー映画だったのでして、
「彫る・棟方志功の世界」というこの映画、30分程度の短編ながらなかなかに興味深い。


ベルリン国際映画祭短編部門グランプリや芸術祭大賞を受賞しているのも伊達ではないもの。
これが見られただけでも入場料700円の大方は元をとった気分でありますよ。


しかしながら「何故それほどに」ということで言いますと、
棟方志功の作品はもちろんどこかで見たことがある、そして棟方志功が版木を彫っているさま、
それも牛乳瓶の底のような眼鏡をかけたうえで版木に思い切り顔を近づけて

彫刻刀を振るうさまを何かしらで見た記憶が蘇ったりするわけですが、

ここに映し出されるのは棟方志功の素の姿でして。


ゴッホ の絵に触発されて「日本のゴッホ」を目指し、絵を描くようになった棟方志功は
後に木版の世界で活躍しますけれど、やはり自ら描くことも楽しみとしていたようですな。


版画に対しては肉筆画と呼ばれる作品の制作する姿も

映画には収められておりますが、 その筆遣いの早いこと、早いこと。
考えることも迷うこともなく速射砲のように矢継ぎ早に筆を置いていくさまは
あたかも何かに取りつかれたかのようでもあろうかと思うところです。


そんな鬼気迫る姿の反面、人としての棟方志功は何やら楽し気な人物でもありそうな。
青森生まれの相当に訛りを含んだ語りはともすると何をしゃべっているんだか…と
いうところもありますが、とにかくいつも楽しそう。


かつて見た展覧会で「運命頌板画柵」なる作品を見たことがありますけれど、
ベートーヴェン にも興味を抱いていた棟方志功らしく、
版木に向かいながらも何やら口ずさんでいる歌というのが、第九 の四楽章、「歓喜の歌」で。

それと知れるまでは少々時間を要しましたですが、棟方の場合には
「歓喜の歌」のメロディーまでがどうやら津軽弁のようになっていたようでありますよ。


とまれ、そんなこんなのドキュメンタリー映画を見た後、

実際の棟方作品を展示で見るのですから、何とはなし作品を見て

作者を思い浮かべながらとなるのは自然なことでもあろうかと。
そして、ついつい目が行ってしまうのは接する機会の少ない

肉筆画の方ということになりましょうか。


棟方志功「赤鬼」「青鬼」


この「赤鬼」「青鬼」にしても、それこそ棟方の人となりがストレートに出ているようで
見ている方も釣り込まれてにんまりとしてしまうような。


版画の彫りに見るシャキっとしたラインとは違い、伸びやかにうねり、かすれる墨の線。

棟方志功の人としての魅力が垣間見られたような気がしたものでありますよ。