さて、島根県立美術館 を訪ねたお話の続きでありまして。
フランス近代絵画 の並んだ展示室1よりはかなり小ぶりの展示室2では
「旅する浮世絵 諸国名所絵を中心に」と浮世絵が並んでおりましたですよ。


「旅する」、「名所絵」と来ればそこには歌川広重 が…という予想通りに
広重作品を中心にして、その中には「最晩年の傑作三部作」と言われているらしい
「雪月花」が堂々たる威容を誇っておりました。


歌川広重「(雪月花)阿波鳴門之風景」

歌川広重「(雪月花)木曾路之山川」

歌川広重「(雪月花)武陽金沢八勝夜景」

雪月花 」といって「雪」と「月」は一目瞭然ですので、花は一番上になりましょうか。

題材は鳴門の渦潮で、これを花に見立てたのですかね。

広重は自身、鳴門の渦潮を実見したわけではなく、

「山水奇観」という書物の挿絵を転用して描いたということですけれど、

あたかも見てきたような迫力を出している。3枚続きというパノラマも活かされておりますねえ。


真ん中はすっかり雪に埋もれてしまった木曾の山川のようす。

まるで雪が生き物のようにのしかかってきている感があり、妖怪ものか?と思ってしまうところです。


一方、いちばん下の作品は月明かりの金沢八景。

江戸初期から景勝地として知られるようになったようですが、

江戸から江の島詣で途中の立ち寄りポイントとされたとは江戸幕府が安定して、

庶民も遊山に出かけられるようになったことを偲ばせますなあ。


と、展示には広重以外の作品もありましたけれど、ここではやはり広重をもう2点ほど。
ひとつは先ほどパノラマ的に見たのとは異なって、ひとつの渦潮にフォーカスした構図です。


歌川広重「六十余州名所図会」から「阿波 鳴門の風波」


「六十余州名所図会」から「阿波 鳴門の風波」という一枚ですけれど、
波濤がなんともすごいことになってますなあ。


いかに「風波」とはいえ相当以上にデフォルメしてあると思いますが、
なんでも「近景モティーフを極端に拡大する構図を試みて」いるということでもあり、
こうした手法は後に「名所江戸百景」で表現されることになるのだそうです。


もうひとつの方は穏やかな抒情といったふうで、むしろ広重らしいのかも。
「近江八景之内 唐崎夜雨」という作品です。


歌川広重「近江八景之内 唐崎夜雨」

大津・唐崎神社の境内には巨大な松の古木があって(現在は3代目らしい)、
夜の雨の中に立つ松と琵琶湖というのが近江八景ひひとつとされているとのこと。


広重はおよそ灯りの無い時代に夜の、しかも雨の降る景観を描き出したわけですが、
単純に考えれば真っ暗闇であることがリアルであって、
画面のようでは背景の壁から泥水を流し落したかとも見えるところながら、
感覚的にはただただ音の無い世界に雨音だけが聞こえてくると感じさせるところが
大したものでありますなあ。


と、浮世絵の展示室をひと回りした後はお隣の展示室へと向かいます。