どうにも頭の中でタンゴのリズムが鳴り続けていますな(笑)。

ずっとアルゼンチン・タンゴ だぁ、コンチネンタル・タンゴ だぁと聴き続けていましたから。


そこでタンゴのリズムを少し吹き払おうと別の音楽の方へ向かおうと思いますが、

すでにしてコンチネンタル・タンゴの演奏はムード音楽とかイージーリスニングとかの

はしりになったのではてなことを書いた折に、あれこれの演奏家が浮かんできたものの、

やっぱり(個人的にはですが)ポール・モーリアだろうなと思ったわけでして。


「イージーリスニング」とはいかにも和製英語丸出しの感ありですけれど、

その名のとおりに心地よく聴き流されてしまっておしまいという類いもあれば、

その演奏、そのアレンジがスタンダードとして残るものもある。


そのアレンジでこそがスタンダード化していることと、

単に既存曲をアレンジするばかりでなく自ら作曲したものもスタンダード化しているという

その両者において数量的にいって他に優っているのがポール・モーリアではないかと

思うわけです(個人的に思いの及ぶ範囲でしかありませんけれど)。


例えば既存曲のアレンジで定番化していると思われる作品には

「恋はみずいろ」、「エーゲ海の真珠」、「オリーブの首飾り」、「涙のトッカータ」などがありますね。

どれもメロディーが思い浮かんだりするかもしれませんですが、

おそらくはその思い浮かんだところはポール・モーリアのアレンジによるものではなかろうかと。


イージーリスニングと言われた範疇では、

他にもレイモン・ルフェーヴルやカラベリ、パーシー・フェイスといったミュージシャンたちがいて、

レイモン・ルフェーブルには「シバの女王」や「哀しみの終わりに」といった代表曲があり、

カラベリには「ミスター・ロンリー」(FMで放送されていた「ジェット・ストリーム」のオープニング)、

パーシー・フェイスには「夏の日の恋」と、これまた知れわたった曲があるにもせよ、

数ではポール・モーリアには及ばない。


また、自作曲のスタンダード化という点でも

「蒼いノクターン」や「薔薇色のメヌエット」などなどを始めとして知られた曲は多いですな。

ひとつの大きな特徴としては自ら弾くチェンバロがフィーチャーされていたことも

印象に残る要素のひとつかと思うところです。


とまあ、そんな有名どころの話は言うまでもないことだものですから、

ここではたまたまにもせよ、近くの図書館でポール・モーリア晩年のオリジナル曲集というCD、

「愛するために」を見かけたものですから、それを聴いてみた…とまあ、

そういう話につながるのでありますよ。


ポール・モーリア「愛するために」


帯ラベルに「華麗なる“音楽の世界旅行”」とあるだけに

ダブリン、パリ、ヴェニス、リオ…と世界のあちらこちらの町を訪ね歩くような感じの作品集。

昔馴染んだポール・モーリアらしさではないものの、「ああ、ポール・モーリアだぁね」と

感じさせるものが漂っているのですよね。


本人としても忘れていたのですけれど、手元には名曲集のLPレコードが一枚あるだけながら

ある時期、そういえばよく聴いたのだったっけということをじわじわ思い出してきましたよ。

新譜が出るたびにFM放送で取り上げられていましたから、それをせっせとカセットテープ

録音しまして、繰り返し繰り返し…。


この曲を聴けば一定の情景が嫌でも思い浮かんでしまうといったものは

おそらく誰にもありましょうけれど、今回のCDのように始めて耳にする曲ばかりなのに

その雰囲気だけで過去の記憶をよみがえらせるトリガー足りうるとは思いも寄らず。


イージーリスニングという言葉の妥当性はともかくも、聴き流すふうに聴いたりしても

さまざまな思いに浸りつつという感じのあった、久しぶりのポール・モーリア体験でありました。