昨年度は「アテルイ 」、「怪談牡丹燈籠 」、「蜘蛛の拍子舞/身替座禅 」、「三人吉三 」、「阿古屋 」、
そして「二人藤娘/日本振袖始 」と見て、それぞれに楽しませてもらった月イチ歌舞伎。
2017年度も5月から月替わりで始まっていますけれど、
このほど6月公開分の「東海道中膝栗毛」を見に行ってきたのでありますよ。
原作はご存じのとおり十返舎一九
の同名作。当時大変な人気作となったものだけに、
当然のごとく歌舞伎にも取り入れられて…といった事実はあるようですなあ。
ですが、もともとが滑稽なエピソードのオンパレードなだけに歌舞伎用の脚本が
それこそ自由に展開されてきたという歴史もあるそうな。
この映画に収録された話はそうした延長線上にのっかっているのでありましょう。
簡単に言ってしまえば「なんと荒唐無稽な!」とも。
キャッチに「お伊勢参りなのにラスベガス!?」とありますように
川の渡しで流された弥次さん喜多さんがたどりついたのはこともあろうかラスベガス。
だいたいラスベガスは内陸の砂漠の町ですから、日本からどう海を流されたって
たどりつくはずがないのですが、そんなことは全くお構いなしということで。
このラスベガスの挿話は、気が付いてみれば三保の松原に漂着していた弥次さん喜多さんの
夢の話として片づけることができますけれど、考えてみれば違う作りにすると
思わぬリアリティーが出たのかもと思ったり。(もっとも端からリアリティーは追及されてませんが)
と、言いますのもしばらく前の「ブラタモリ」で金刀比羅宮が取り上げられていたときのこと。
こんぴらさんの周りにはさまざまな娯楽施設が点在しており、参拝客のお楽しみには事欠かない。
そのようすからタモリの曰く「こんぴらさんはラスベガスだったんだ…」と。
こんぴらさんの周辺にはもっともっと参拝客を呼び込もうと
「楽しいところ」をアピールするような施設が軒を連ねたわけですが、
そんな一大娯楽拠点をラスベガスに例えたのですなあ。
これは弥次さん喜多さんが目指したお伊勢さんでも
似たりよったりの状況だったのではと思うのでありますよ。
ですから、実は訪ねてみればお伊勢さんそのものがラスベガスだったともいえるわけでして。
ま、話としては観客にどれだけ笑ってもらえるかという一点突破の芝居だけに、
「これが歌舞伎?」と思わないでもないですが、「これも歌舞伎」ということなのでしょう。
歌舞伎の、という以上に江戸庶民の娯楽のさまを偲ぶ気のする「東海道中膝栗毛」なのでありました。