映画館で見る「月イチ歌舞伎
」の今シーズン最後の演目を見てきたのですね。
「二人藤娘」と「日本振袖始」の二本立て上映でありました。
さすがに歌舞伎素人とは言え「藤娘」とは踊りだぁね…くらいは知っているわけで、
さすれば「日本振袖始」がそのタイトルのわりにはヤマタノオロチ退治を扱っただけに
活劇要素がいささか濃かろうと思って、関心高しとなるのですなあ。
スサノオノミコトが倒すことになるヤマタノオロチは、
ニニギノミコトの許へコノハナサクヤヒメとともに遣わされたイワナガヒメの化身である
ということにこの話ではなっておるようで。
コノハナサクヤヒメだけがニニギノミコトの許に据え置かれ、
容色の劣る自分だけが帰されたことからイワナガヒメは恨み骨髄、
見目麗しき女性を食い尽してやるとヤマタノオロチに変化したのだと。
これは「たたり神」ですなあ。
こうした話が「日本振袖始」という場違い感丸出しのタイトルになるのは、
ヤマタノオロチに対する人身御供とされることになった稲田姫(神話ではクシナダヒメ)に
スサノオノミコトが剣を預けて着物の長い袖に隠させ、
いざというときには「これで刺せ」というわけなのですよ。
剣を隠すために長い袖が必要だった…振袖の始まりはそこにあるのですと、
作者・近松門左衛門の想像力は大したものでありますねえ。
単純に日本神話のお姫様が振袖と言わず、江戸時代の着物のような装束では
およそ無かったでしょうけれど。
舞台としては、ヤマタノオロチの八つの頭を表すために
同じ化粧を施した8人の役者が登場して、動き回って見せるわけですが、
これがばらばらに見えて時折、一列に並んで長い胴体を見せたりもする。
演出効果の面白さもありましたですよ。
ただ主役の坂東玉三郎
がイワナガヒメであるうちはともかくも、
ヤマタノオロチに変化して後は芝居としては見せ場続出ながら玉三郎らしさはと言えば…。
その点、舞踊だかんね…と思っていた「二人藤娘」の方は
玉三郎と七之助によるダブル藤娘で艶やかにという趣向なんでしょうけれど、
その点はともかくも玉三郎の妙技全開といったふうでしたなあ。
そりゃ、七之助も巧いのだとは思いますが、
隣で玉三郎がほぼ同じ動きをしているというのは見ていて可哀想になってくるというか。
おそらく七之助一人で藤娘を踊っていたら、かほどには思わないでしょうから。
とにかく玉三郎の方はまさしく藤娘が踊っているのであって、
その点、七之助の方は(くどいですが比べてしまうとということで)
踊っている藤娘を演じているという印象の違いがあるのですよ。
それだけ玉三郎の動きというのが作り物でない自然さなわけでして、
見るたびに「すげえ…」と思うところ。分かりやすいところでは
手や指の動き、甲をそらせたりすぼめたりする動き、鳥肌ものです。
あたかも伊東深水
の「指」と対面したときにも似たぞくぞく感と言いましょうか。
毎度同じことを言ってしまいますが、人間国宝ってのはすごいものですなあ。