根っからの怖がりでありまして。

「君子危うきに近寄らず」などと嘯きつつ、怖いものには敢えて近づかないように。


ですから、幽霊の話などはもってのほか。

「四谷怪談」、「番町皿屋敷 」、「牡丹燈籠」といった超有名どころの、

さすがにタイトルを知っていこそすれ、話の中身はつゆ知らず。

まあ、敢えて知りたくもないと思っていたわけでありますよ。


ところが、このところ「連隊の娘」「真珠採り」 とMETライブ・アンコールを見に行って、

これの上映館が松竹系の東劇とあって、予告編をやるのですなあ。

「月イチ歌舞伎」の8月はシネマ歌舞伎「怪談 牡丹燈籠」ですよと。


映画館で予告編が次々流れる最中、不意打ち的にホラーやオカルトものが飛び出して

あと後まで夢見の悪い思いをさせられた経験は数知れずなのですけれど、

どうも「怪談 牡丹燈籠」は勝手が違うようすだったのですなあ。


フライヤーにも「笑いも満載の現代版『怪談 牡丹燈籠』をお楽しみください」とありますし、

また昨秋TV放送で「絵本合法衢」 を見て片岡仁左衛門の演技も気になっており、

そして今週のやはりTV放送で「伽羅先代萩」 を見て坂東玉三郎の演技もまた気になるところ。


この両者が共演しているというだけに、「牡丹燈籠」を見に行こうと決意(大げさですが)。

それでも、迷いに迷った挙句であるのは、上映最終日になっていよいよ出かけたあたりに

あらわれてますが…(笑)。


シネマ歌舞伎「怪談 牡丹燈籠」


で、結果的にはタイトルに書いたように、こんな笑える話であったかと。

しかも、話の構造がうまく仕立ててあって、怪談たる「牡丹燈籠」のエッセンスを活かしつつ、

人情悲喜劇にしてあった、とまあ、こういう次第。


これのどこまでが噺家・三遊亭圓朝のなせる技であるのか、

「現代版」とうたわれた脚色によるものなのかは寡聞にして知らずですが、

近寄ってみないと分からないこともあるということですなあ。


萩原新三郎(片岡愛之助)とお露(中村七之助)の悲恋(怖さの主成分ですが)はむしろ脇筋で、

これに絡んだ伴蔵(片岡仁左衛門)と妻お峰(坂東玉三郎)の極貧脱出劇とその後が主でして、

両者の演技の妙は、ここでは大いに笑わせてくれる方向でも十二分に発揮されておりましたよ。

(玉三郎はお姫様ばかりかと思ったら、そうでもないのだと初めて知りました…)


歌舞伎の本公演をいい席でとは庶民にはなかなかの高嶺の花で、

かといって映画館で見るのはどうよ…とも思ってました(METライブも見るまではそう思ってた)が、

予約の苦労もなく気軽に行けますし、クローズアップで表情の微妙な芝居やらも見てとれるので、

これはこれでお楽しみといえるような気がしましたですよ。


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