昨年の12月に館林の美術館で山口晃展
を見た時に、
細かいところまで改めて目を向ければ「ウォーリーを探せ」や
安野光雅さんの「旅の絵本」よろしくいろんなことが見つけられるかもねと
図録を買って帰ろうと思ったですが、何と!展覧会をやっているのに、
図録が完成しておらないとかで予約販売になっていたのですね。
送料を含めた金額を支払って到着を待ったわけですが、
確か3月頃発想予定となっていたところ、これがなかなか来ない。
結果的に3月末ギリギリくらいで到着しましたけれど、
これが4月に入って発送てなことになっていたら
消費税の差額分はどうなってたんでしょうかね…。
消費税のことはともかく、
ようやっと届いた図録をぱらぱら眺めやっていて、またまた「そうだ!」と思い当りますのが、
練馬区立美術館で開催中(といっても、会期は4/6まで)の野口哲哉展、
またの名を「野口哲哉の武者分類図鑑」(分類と書いてぶるいと読ませる、武者ぶるいですな)。
両者に繋がりがあるとすれば、あたかも戦国時代の合戦に臨む武者像を描いて、
そこにその当時にはあり得ないものと取り交ぜて造形してしまうというあたりでしょうか。
まあ、武者繋がりで思い出したというところでありますね。
とはいえ、野口作品の方は絵ではなくって、樹脂やプラスチック素材を用いて作り出す造形物。
リアルな現代版武者人形と言ったら、想像しやすいかもしれません。
で、その武者人形がリアルを超えた、いわゆるシュルレアルなものになっているわけですけれど、
フライヤーの一部をちと大きめに見てみますと、こんな具合です。
どうです?みょうちきりんでありましょう。
一見して、兜がへんてこだと見てとれるものと思います。
特に真ん中のなどは兜が侍に語りかけていて、侍の方でもこれに応えている。
兜と会話しておるのですなあ。
単なる「おふざけ」ではないかと切って捨てることもできましょうけれど、
作者はこんなふうに言っているのですね。
心から面白いと感じる物を正直に作れば、きっと思いは伝わってくれる事でしょう。
つまり、中途半端なおふざけでない、真面目にふざけているんだとも言えましょうか。
ですから、作者からすれば見る側にも作者と同じように面白いと思ってもらえれば
大成功なのでしょうけれど、その実、「美術館」という器に「展示」された「作品」となると、
見ている側が妙に神妙な様子で眺めている(眺めてしまう)。
作者にとってみれば、面白がってもらうはずのものを神妙に眺めている人たちを
神様目線で見ることが、実は何より面白いことであったりするのかも。
というふうに考えているかもしれないと思う、さらに引いたところに自分がいる
てなことにもなりますけれど。
ところで、先ほどのみょうちきりんな兜ですけれど、
果たして本当にヘンテコなのかは難しいところでありますね。
語りかける兜には無理があるとしても、戦国時代の武将がかぶった兜のデザインは、
後世の者から見ると「え?!」というものがないではないわけで。
これは新潮社とんぼの本「変り兜」という一冊で、
どうやらこちらは本当に戦国期の武将たちのものだった兜のうち、
今の感覚で変わった形のものばかりを集めたことらしいのですが、
表紙(見るからにうさぎ!)を見ただけで、本展の作者・野口哲哉さんも
たじたじなのではなかろうかと。
兜といえば、「紙わざ大賞
」の展覧会にあった新聞紙で作られたリアル兜のようなものと
(というより五月人形の、と言った方が分かりやすいですね)
思ってしまいがちですが、そうじゃあないんだと言うことに気付かされるわけです。
が、この辺りは作者に意図にはないでしょう、たぶん。
と、また別の展示室に足を踏み入れてみますと、今度は絵画系の作品に。
こちらでも武者が自転車の乗っていたり(山口作品ではバイクでしたが)なんだりというものが
並んでいる。
そして、こちらの展示室での妙味は、
武者が自転車に乗ってるてなことは現実には無かったことながら、
傍らの解説がさも古文書から引用したかのような体裁で、
そのあり得なさそうことがあり得たかのようにまことしやかなものになっているのでありますよ。
先に東京ステーションギャラリーの
「ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在」展
で見た
ライアン・ガンダー作品を思い出させる、複合的な手段・手法をもって
「虚」を「実」とも思わせる物語性に富んだものとなっているのですね。
事ここへ至って、作者のいう「心から面白いと感じる物」とは、
ここまで大風呂敷を広げることだったんだねと思ったわけです。
見ている方も確かに面白いですが、作っている方のにんまり度合いは推してしるべし。
さながら、思ったよりも多い来場者(ちょっと前にNHKのアートシーンで紹介してましたし)が
やっぱり神妙に眺めている…で、いちばん面白がって見ているふうなのは
どうみても外国人らしき人。
この人、妙に日本語が堪能で、日本の歴史にも大層詳しいのか、例の架空の解説文を読んでは
「こんな元号はないから、これ、全部作りものだね」てなことを言ってはしゃいでおられました。
いろんな人がいるものです。
ということで、展示も会場内も妙に面白い展覧会なのでありました。