前回の記事で僕の単著の論文がInternational Studies Quarterly(ISQ)という国際関係論のトップ・ジャーナルから条件付き採択(conditional accept)をもらったという話をしましたが、この度conditionalがとれて無事正式に採択されました。これからデータの再現性チェックやcopy editingがあるのでオンラインで現物を見るのはもう少し先になりそうですが、プレプリント版はこちらからアクセスできます。” Audience Costs and the Credibility of Public versus Private Threats in International Crises” というタイトルです。

内容なのですが、国際関係論において重要ではあるけど未解決の問題の一つに、国際危機において敵対国を威嚇する際、public threatとprivate threatのどっちの方がいいんだ? というものがあります。public threatとは、公衆の面前で行う威嚇のことです。例えば1962年のキューバ危機のときに、ソ連のキューバへの核兵器持ち込みに対し、当時の米国大統領だったジョン・F・ケネディは海上封鎖の声明を出したのですが、あれはテレビ演説によって伝えられたものでした。テレビ演説なので、アメリカの国民も威嚇の存在と内容を知っているわけですね。それに対し、秘密外交ルートを通じてこっそり威嚇するという選択肢もあります(=private threat)。1950年の朝鮮戦争の際に、中国はアメリカに国連軍が38度線を越えたら軍事介入するというメッセージを伝えるのですが、これは駐中インド大使であるKavalam Madhava Panikkarを通じて内密に伝えられたものでした(Christensen 1992)。

上記のように、威嚇するにしてもpublicかprivateかという選択肢があり、当然どちらの方が威嚇の信憑性が高いのか、より効果的なのかという話になります。私が前々から関心を持っている国内観衆費用の理論からすると、前者の方が信用されやすいという予測が立てられます。なぜなら、威嚇がpublicなら、国内の観衆は威嚇の存在および内容を知っているので、もし政治的指導者がその威嚇を反故にした場合、指導者を(選挙等を通じて)罰することができるからです。かたや、private threatの場合には国内観衆には指導者を懲罰する機会が生まれない。したがって、public threatの方が大きい観衆費用を発生させることができ、それゆえに敵対国に威嚇を信用されやすい、ということになります(Fearon 1994; Fearon 1997)。この予測自体は国際関係論の分野ではよく知られたものなのですが、他方で最近はこの考え方に挑戦する研究も増えてきています。例えば、Katagiri&Min(2019)はpublic threatはいろんな国内・国際観衆のことを考慮して発言しなければいけないから相手国に意図が伝わりづらい、かたやprivate threatだと意図をストレートに伝えられるからより効果的という主張をしています。

このようにpublic threatとprivate threatの信憑性についてはいろんな理論的予測があるのですが、どちらの方が信憑性が高いのかについて実証的に検証した研究はほとんどありません。その一つの例外が前述のKatagiri&Minなのですが、彼らは1958-63年のベルリン危機でのソ連側のpublic/private threatの文書をテキスト分析するというアプローチをとっているので、private threatの方が効果的という彼らの発見が因果関係を示しているのかどうかについてはちょっと微妙なところがあります。

そこで、この論争に対する一つの答えを与えるべく、アメリカでサーベイ実験という実験を行いました。いくつかある実験の中でもコンジョイント実験(conjoint experiment)というものを実施しているのですが、ここでは詳細は省きます。実験の内容は、簡単に言うと、仮想的な二か国(Country A or B)が領土を巡って国際危機に陥っていて、Country A or Bが引き下がらない(stand firm)確率はどれくらいだと思いますか?というのを聞くんのですが、その際にこれらの国が威嚇をしたのか、威嚇をした場合はpublicかprivateかという情報をランダムで与えています。また、国内の観衆がタカ派またはハト派であるか、指導者が国内的に人気が高いか低いか、といった情報もランダム化しています。public threatの信憑性を高めるメカニズムが観衆費用なのであれば、国内観衆がタカ派であり、指導者が人気がない場合に観衆費用が大きくはずなるので、このような条件下でpublic threatの信憑性がより高まると考えられます。

実験の結果、private threatと比べ、public threatの方が信憑性が若干高く、かつ国内観衆がタカ派and/or指導者に人気がない場合にpublic threatの効果が大きいという発見が得られました。この結果は大衆の面前で行った威嚇の方が信用されやすく、その信憑性をもたらすメカニズムは国内観衆費用だということ示唆しています。したがって、概ね観衆費用理論に合致する実験結果になったと言えるでしょう。平たく言えば、威嚇なり約束なり、相手に信じてもらいたいのなら人前でやった方がいいよ、ということになるでしょうか。

もちろんこの研究でこのテーマが終わりになるわけもなく、例えば「public threatの信憑性を高めるメカニズムは観衆費用以外に無いの?」「private threatの信憑性が高くなる因果メカニズムは?」「サーベイ実験の結果の外的妥当性は?」「威嚇以外のコミットメントにも応用できる話?」「そもそも指導者は威嚇をpublicにするかprivateにするかをどうやって選んでるの?」などなど、積み残している課題も多いです。なので、僕自身もこのテーマを引き続き深堀りしていきたいなと思ってますし、この論文を面白いと思った他の研究者が上記のような問題に取り組んでくれたら、これ以上ない幸せですね。

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さて、誰が興味あるのかわからないですが、投稿や査読のプロセスについてもちょっと情報提供できたらと思います。今回出版した論文はResearch Noteというフォーマットで掲載されることになります。日本語だと研究ノートと呼ばれることもあり、日本計画行政学会によると「研究論文は、研究の学術的貢献が十分に認められ、論文としての完成度が高いもの、研究ノートは論文ほど完成度が高くないが、学会誌掲載することが有意義と認められるもの」という区別をされています。ですが、僕もいろいろ気になって調べてみたのですが、国際ジャーナルではArticleとResearch Noteに貴賤の違いは基本的に無く、海外の大学で昇進審査に影響することもほとんど無いようです。

ISQにはOriginal Research ArticlesとResearch Notesという異なるフォーマットがあります(他にもTheory Notesとかありますが、ここでは割愛)。以下がISQのウェブサイト上の説明になります。

• Original Research Articles are long-form submissions to the journal—Original research articles should not exceed 12,000 words—including all tables, figures, footnotes, and bibliography, but excluding abstract and maximum 10 pages of appendices. These submissions address important global phenomena relevant to a general international-studies audience. They should have a well-developed, original, theoretical argument that is supported, as appropriate, by a rigorous substantive analysis consistent with the manuscript’s methodological approach. As with all contributions, they should reflect original work.

• Research Notes make a novel and focused contribution to empirical knowledge of significance in international studies, and typically include the presentation of new data. Research notes range from 4,000-8,000 words (excluding online supplementary material). These contributions frequently involve quantitative analysis, but they may be qualitative in character—such as pieces that introduce new archival material that challenges conventional wisdom on cases important to the broader discipline. For this type of manuscript, we do not require the same level of theoretical complexity and detailed empirical investigation as for a regular research article. But in addition to potentially describing new data, the manuscript should show how the new data can make a valid and important contribution to the study of international studies, for instance by pointing to results that are significantly different from research studies published previously. Key to a successful research note is presentation of valuable information to other researchers in terms of the aim of the note, problem formation, information collection, conclusions, and directions for further research.

それで、博論執筆時から僕はこの論文はResearch Noteとしてジャーナルに投稿するつもりで書いていました。というのも、この研究では理論的に新しいことは特に言っておらず、既存の理論や主張へのエビデンスの分裂状態を解決するという、あくまで実証的貢献が売りだと思っていたからです。と考えると、上で赤くハイライトした通り、ISQに出すのであればResearch Noteの方が適していると考えられます。

ちなみに投稿するジャーナルとしてはISQ以外では当初British Journal of Political Science(BJPS)も検討していました。BJPSは政治学のトップ・ジャーナルの一つですし、ISQと同様にLetterという短いフォーマットがあります(up to 4000 words)。また、観衆費用でサーベイ実験を用いた研究かつLetterのフォーマットの論文がこの間出版されています(Quek 2022)。なので、研究のインパクト的にBJPSなら手が届くかなと検討していたのですが、博論コミッティーの一人から「基本的に国際関係論(International Relations, IR)の人に受ける内容だからISQの方が合ってそう」と言われたのと、僕自身は政治学よりはIRの研究者としてのアイデンティティの方が強く、IRのことがちゃんとわかってて研究できる奴という認知を得る方が現時点では大事だと思っていたので、まず最初にISQに投稿することにしました。ISQがダメだったら、IRのジャーナルでかつResearch Note的なフォーマットがあるInternational Interactions、Journal of Global Security Studies、Foreign Policy Analysisあたりに投稿しようかなと考えていました。

初稿は2023年5月16日に提出し、6月30日に修正後再提出(revise and resubmit, R&R)の査読結果が返ってきました。ISQは以前別のペーパーで投稿して、3か月待った後リジェクトだったので、今回1か月半で返ってきたのもびっくりしましたし、一回目の投稿でR&Rが来たことにも驚きました。なかなか嬉しかったのですが、一人目(R1)と二人目(R2)の査読者で相反する修正要求があり、どうしたものかと考えていたら再投稿が提出期限ギリギリの12月17日になってしまいました。6か月も修正期間をもらったのに、時間が溶けていくのはなんて早いんでしょう。

結局R2の要求を呑まずにR1に従って修正をしたので、「いやー、僕がR2の立場だったら怒るかもしれんなぁ…」と掲載拒否を覚悟していました、ですが、蓋を開けてみたら2回目の査読をしてくれたのはR1だけで、R1の後押しもあって1月8日にconditional acceptの連絡が来ました。国際ジャーナルでは編集者の裁量も大きく、編集者が味方してくれたことも大きかったように感じます。細かな修正・加筆をして2月4日に再々投稿をし、2月8日に正式採択となったのが、今回の顛末になります。

ちなみに、去年Foreign Policy Analysis(FPA)から別の論文が出たときも、他のジャーナルに投稿することなく、一回目の投稿でFPAからR&Rが来て、わりとするすると出版まで行きました。他方で、複数のジャーナルから掲載拒否をくらった挙句、行き場を失ったペーパーもたくさんあります。なので、うまくいく時は1回目ですんなり、そうでない時はいつまで経っても論文化できない、というパターンが僕には当てはまります。これがわりと普遍的な傾向なのかどうか、少し気になります。自分が投稿するジャーナルの選び方がやや保守的なこと(=なんでもいいから最初はAmerican Political Science Review(APSR)から投稿といったやり方はしていない)、一定程度知名度のある国際ジャーナルなら同じような質の査読者が見るから、どこに出そうと致命的な問題があれば査読者たちはそれに気づくといったことと関係あるのかな、なんて思ったりしてます。

2017年に早稲田の博士課程進学に失敗して、2018年に北テキサス大学に拾ってもらうまで放浪していたことを考えると、ISQに論文が採択された現状は出来すぎという感もあります。ISQレベルのジャーナルから出版したことがある日本人のIR研究者はそこまで多くないはずなので。ですので、ここまで到達できたことに対する満足感も大きいのですが、他人が自分の仕事ぶりを評価するときに、(1) ISQは業界内での評判は高いけどImpact Factorといった指標面でいうとそこまででもないこと、(2) 前回のFPAから連続で、Research Noteという短いフォーマットでの論文出版なので、豊かな理論的貢献がある、長い論文が書けない奴だと思われかねないこと、(3) ISQ、FPAはIRに特化したジャーナルで、APSRやAmerican Journal of Political Science(AJPS)といった政治学の広いオーディエンスを対象としたジャーナルからは論文が出せていないことあたりが、今後減点材料になってくるのかなと思います。なので、長期的にはこれらを念頭に、文句のつけようがない履歴書に仕上げていきたい所存です。

いつもと比べて長くなりましたが、テンション高めなので、そういうことです(笑)。来週から春学期が始まるので投稿頻度はまた落ちそうですが、ゆるゆると無理ないペースで今後も続けていきたいと思います。

というわけで今回はこのあたりで。ではでは。


・参考文献
Christensen, Thomas J. "Threats, Assurances, and the Last Chance for Peace: The Lessons of Mao's Korean War Telegrams." International Security (1992): 122-154.
Fearon, James D. "Domestic political audiences and the escalation of international disputes." American Political Science Review 88.3 (1994): 577-592.
Fearon, James D. "Signaling foreign policy interests: Tying hands versus sinking costs." Journal of Conflict Resolution 41.1 (1997): 68-90.
Katagiri, Azusa, and Eric Min. "The credibility of public and private signals: A document-based approach." American Political Science Review 113.1 (2019): 156-172.
Quek, Kai. "Untying Hands: De-escalation, Reputation, and Dynamic Audience Costs." British Journal of Political Science 52.4 (2022): 1964-1976.
早いもので日本滞在も終わり、1月27日にメキシコに帰還しました。非常に楽しい一時帰国だったので、正直悲しんでいます。

滞在中はほぼ毎日旧友(or新友?)と会ったり家族と旅行しに行ったりして楽しい時間を過ごしていましたが、研究面でもなかなか収穫がありました。以下が主なイベントになります。

・2023年
12月14日: 以前よりお世話になっている先生に会いに行く①
12月15日: 早稲田開催のコンジョイント実験についてのセミナーを見に行く
12月16日: 早稲田開催の国際関係論についてのワークショップを見に行く
12月17日: International Studies Quarterly(ISQ)でrevise&resubmit(R&R)になってたペーパーを再投稿。神に祈る
12月18日: 以前よりお世話になっている先生に会いに行く②
12月20日: 神戸大学でinvited talk
12月21日: 広島に移動して共同研究者とミーティング
12月25日: 早稲田のとあるゼミで研究発表
12月26日: もらっている研究助成先の中間報告会で進捗報告


広島で食べた牡蠣。

・2024年
1月8日: 学習院大学で開催のJapanese Society for Quantitative Political Scientists (JSQPS)の冬季集会で研究報告
1月9日: ISQからconditional acceptanceの連絡。喜びすぎて両親と天丼を食べに行く(ちなみに僕持ち。自祝と言うらしい)
1月11日: 早稲田のとあるゼミに参加(12月25日とは違うゼミ)
1月14日: 以前よりお世話になっている先生(+旧友)と食事
1月18日: 以前よりお世話になっている先生に会いに行く③
1月24日: とあるジャーナルからR&Rの連絡
1月25日: 茨城大学のとあるゼミに参加
1月27日: メキシコへの帰途につく


自祝の天丼。


茨城で食べたあんこう鍋。

上記の中だと、やっぱりISQのconditional acceptanceは感慨深かったです。ISQは国際関係論のトップ・ジャーナルの一つですし、もともと博論の一部で単著なので、一人でもこのぐらいのジャーナルに出せる力量があることを示す意味では非常に大きいです。ここまで来ると掲載拒否になること可能性はほぼないですが、conditionalが無くなってただのacceptになった後で、どんな内容の研究か紹介する記事でも書きたいなと思っています。

また、数日前にも別のジャーナルからR&Rをもらえて、次につなぐことができています。5か月待たされた甲斐があったと言っていいんでしょうか笑 北テキサス時代に指導教授ともうずいぶん前からやっている研究で紆余曲折あったのですが、なんとか形になりそうなところまで来ていて嬉しいです。なかなか厳しい修正要求ですが、ベストを尽くして仕留められるよう努力したいです。

というわけで、個人的にはなかなか慌ただしい日本滞在でした。正直もっとゆっくりしたかったです笑 モンテレイ工科は2月12日から春学期なのでまだ2週間ぐらい時間ありますが、どうせ授業準備で消えるんだと思います。Geopolitics and Technologyという授業をまかされてしまったのですが、geopoliticsがいまだに何なのかあやふやです。100分の授業を30回もしなきゃなりません。どうしましょう。

春学期もメキシコのプエブラで3月頭に開催の学会や、4月初旬にサンフランシスコでInternational Studies Associationの年次大会に出たりと、それなりに予定も埋まってきています。前者はモンテレイ工科大学主催の内向けの学会です。モンテレイ工科はたくさんキャンパスがあり、僕はモンテレイ・キャンパス所属なのですが、メキシコ・シティ、グアダラハラ、プエブラ、ケレタロなど、メキソコ各地にキャンパスがあります。なので、同じモンテレイ工科の研究者でも会ったことがない人も多いため、各地のキャンパスに所属する研究者たちのネットワーキングを目的とした学会だと聞いています。後者は発表×2に加え、パネルの司会を務めたり、pre-conference workshopに参加したりと、ちょこちょこ初体験のイベントもあります。忙しいうちが華だと思って世界中飛び回ろうと思います。

というわけで今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。
またずいぶん間が空いてしまいました。どうも、メキシコ男です。
12月頭でモンテレイ工科大学での1学期目が終わりました。もうね、本当に辛かったです笑 何が辛かったかと言われればそれはそれはたくさんあるのですが、二点に集約すると授業負担とスペイン語になります。

1. 授業が大変

当たり前ですが、院生時代からは考えられないぐらいの授業負担を一学期に強いられるので、授業とその準備だけでその週が終わるということがざらにあります。僕は今学期、

- Diversity in a Globalized World
- Conflict and Negotiation
- Global Challenges

という三つの授業を担当しました。モンテレイ工科の教育システムはかなりユニークで、5週・10週・15週に渡って行われる講座や、1週間の短期集中のものもあり、選択しに富んでいます。僕の場合は、Diversityのコースは1週間の集中講義(10月後半)、Conflict and Negotiationは8月頭から12月初旬にかけて15週にまたがるコース、最後のGlobal Challengesは10月後半-12月初旬の5週で集中して教えるコースとなっていました。僕がメキシコに来るのが7月後半と学期が始まる直前だったこともあり、学期の前半にはあまり授業を担当しなくていいように学部が手配してくれた結果、このような割り当てになりました。なので8-9月あたりはメキシコでの生活に慣れたり、移民関係の手続きに集中していればよかったのですが、必然の結果として10-11月は全く研究ができなくなるほど教務に時間を取られました。非常に大変な時期でした。

教える授業の内容も結構やっかいで、下二つは基本的にIRの授業だからよかったのですが、Diversityは自分でもあんまりなじみのあるトピックでは無かったので、gender inequality、racial stereotype、income gapその他諸々を勉強せざるをえませんでした。ただ、diversityはジョブマに出ていた時にDiversity Statementを書かされてその時いろいろ考えたことがあったので、いざ教える段階になったら意外と話すことあるなと思いました。来学期も同じコース教えるのですが、一回教えた経験があれば次はだいぶ楽かなと思っています。とはいえ、このコースはさきほども述べた通り短期集中講義で、月から金まで毎日4時間教えなきゃいけないという鬼畜っぷりなので、その週の土日は疲れすぎて泥のように眠る以外何もできないという有様でした笑

あとモンテレイ工科の特徴として、一つのコースを複数人の講師が担当するものが多いです。自分の場合はDiversity以外のコースはそのパターンでした。複数人で教える場合いろいろと不都合も多くて、例えばConflict and Negotiationでは学生から課題の意図がよくわからんという苦情が出て、自分の担当日じゃないのに授業に参加しなきゃいけないみたいな事態が発生しました。また、うちの学部は現状アメリカで博士号を取った人ばかりというわけでもないので(今後たいぶ増えていきそうですが)、理論的にも方法論的のも教育的背景が違う教授たちと一緒に教えることに結構苦労しました。さらに、モンテレイ工科では教員がシラバスを作るわけではなく、出来合いのシラバスに沿って教えなくてはなりません。与えられたトピックの中で工夫はできるものの、基本的にあらかじめ容易された授業設計に従って教えなきゃいけないという窮屈さもあります。

というわけで、モンテレイのシステムに慣れるのは、それはそれは大変でした。


2. スペイン語が中心の世界

完全に舐めていたと言えばそれまでなのですが、メキシコとはいえ「基本大学内とその周りで生活するんだから、英語できればなんとかなるでしょ!」と高をくくってました。完全に間違いでした。もちろん学部の教授たちや大学生たちは基本的に英語が話せるのですが、大学を一歩出ると英語はほぼ通用しなくなります(体感95%ぐらい)。大学内でもやっぱりスペイン語で話す方が楽なのか、教授会が英語しか話せない教授置いてきぼりでスペイン語オンリーになったりします。「これはまずいわ」と思って9月から週二回のスペイン語の個人レッスンを受けたり、Duolingoで勉強してるのですが、当然数か月ですぐできるようになるはずもなく、幼稚園児や小学生レベルの内容を30過ぎにもなってやらせられる屈辱を味わっています笑

とはいえ以前台湾に長期留学したこともあってこれが4言語目なので、多分他の人と比べ学習のスピードは早いはずなのですが、歳のせいなのか以前にも増して記憶力が悪くなってると感じさせられる場面が増えてきています。完全に習得するまでは数年かかるなという体感なのですが、ただでさえ教務で苦しめられてるのに本業である研究に割く時間が減ってしまう始末です。


とはいえ辛い経験ばかりだったわけでもなくて、例えばモンテレイは結構いろんな人を呼んで研究会をしたり、ジョブ・トークが毎週のようにあったりするので、最先端の研究に触れる機会がたくさんあったので、それは楽しかったですね。あと、モンテレイは教授たちの距離感が近く、特に僕と同様に最近モンテレイに入ってきた教授たちとはびっくりするぐらい仲良くなりました。週末みんなでお出かけするぐらいの仲です笑

なので、いい思い出もあるのですが、今は大変だったなという思いが大半を占めています。現在は日本に一時帰国中で、1月末まではいる予定です。モンテレイの冬休みは比較的長いので、これから研究の遅れを取り戻さなければなりません(各所にご迷惑をおかけしております。まことに申し訳ございません……)。

というわけで今回は以上です。それではまた次回。
7月20日にモンテレイに到着し、メキシコでの新生活が始まりました。最初の2週間はホテルに泊まり、8月4日からアパートに住み始めました。ホテル代やその間の食費等はすべて大学持ちでした。こんないい思いしていいのかと思いながら過ごしていました。アパートも大学から歩いて3分ぐらいのところを借りることができ、非常に快適です。

来たばかりのメキシコは天国のようでした。なにしろご飯がおいしい! ホテルの朝食のビュッフェに毎日通ってました。スペイン語も話せないのに、レストランの店員さんとちょっと仲良くなりました(amigoとか言ってました)。

大学のオフィスももらいました。北テキサス大学では窓もないところで5人共用とかいう監獄みたいな部屋でしたが、モンテレイ工科からは無事窓付きのオフィスを頂きました。まだ届いてませんが、僕専用のノートパソコンももらえるみたいです。モンテレイの秋学期はもう8月7日から始まっているのですが、来たばかりなので8月終わりまで授業がないように大学が調整してくれています。致せり尽くせりです。




モンテレイ工科の人たちもすごく良くしてくれています。僕がアパートのデポジット代をちょっと銀行まで払わなきゃいけなくなったときはとある教授が車に乗っけてくれましたし、最近モンテレイに就職した人たちで一緒に夕食食べた後、一人の教授の家で飲み会もしました。他にも週ごとの昼食会を企画してくれたり、Rayadosってサッカー・チームに試合見に行こうとか話しています。

というわけで、「ここが私のアナザースカイ…?」と思いながら最初の数週間を過ごしてきたわけですが、新しい国に住んだら当然良いことばかりのはずもなく、少し気になる点も出始めてきました。

まず、モンテレイの物価はそんなに安くないです。というか、日本と比べて若干高いんじゃないかとすら感じてきています。例えば、最近大学の周りに韓国料理屋さんを見つけてよく行ってるのですが、冷麺一つで210ペソ(約1800円)します。米ドルにすると12ドルなので、アメリカの生活に慣れてるとまぁこんなものかなという感じですが、円安の影響もあって日本円で考えると安くもないなという感じです。



また、行政はいろいろグダグダなところもあります。先週Resident Cardを発行してもらうために大学から車で片道30分ぐらいのところにあるImmigration Officeに行かなければならなかったのですが、書類を全部提出した後に、「今finger printのシステムが落ちてるから、また後日来て」と言われて、結局カードをもらえたのはその1週間後でした。Uberに乗ってて気づいたことですが、大学の周りはすごい栄えてますが、Immigration OfficeのあるGuadalupeは道路かなりガタガタで、古い建物も多かったです。メキシコは結構いびつな発展の仕方をしてるんじゃないかなと思ったりもしました。

大学関連でいうと、火曜に教授会があったので出席してきたのですが、途中まで僕に気を遣って英語で話してくれていたものの、途中から議論がややヒートアップするとすべてのやり取りがスペイン語になり、全くついていけなくなりました笑 それまでスペイン語を話せなくても意外と生活に困ってなかったのですが、「スペイン語話せないといつまで経っても外様のままっぽいな」と感じ、本格的にスペイン語を勉強することにしました(初めて使いましたが、Duolingoは本当にすごいですね)。語学の勉強はモチベーションがあればそんなに苦でもないのですが、研究する時間をだいぶ持っていかれそうではあります。

早くもメキシコとのハネムーン・ピリオドは終わった感じですが(笑)、総合的に言うとモンテレイ工科大学およびメキシコへの印象はだいぶポジティブなままです。日本国外で博士号を取って日本の大学に就職する人は少なくないですし、それが素直な道だと思いますが、(政治学専攻の)日本人でメキシコの大学に就職したパイオニア(笑)として、「こういう道もあるよ」ということをこのブログを通じてお伝えできたらいいなと思っています。

というわけで今回は以上になります。¡Hasta luego!
いつの間にか前回の更新から約2か月も経っていましたが、この間いろいろありました。現在はモンテレイ工科大学で働く準備を着々と進めています。

まず、博士論文を正式に提出し、ガウンのレンタルで129ドルも取られイライラしつつも(笑)、5月16日に卒業式に出てきました。アメリカでの卒業式は初めての経験でしたが、壇上にいたのは15秒ぐらいで、あとは他の修士・博士の修了生を待つだけだったので、特に面白くもなんともないイベントでした。待機中にHooderとして来てくれた指導教授と研究の話をしてる時間が一番楽しかったです。

ついで、6月28日にダラスのメキシコ領事館での面接があり、無事労働ビサが下りました。ビザを取るのに日本帰らなきゃいけないかなと思っていたのですが、テキサスで全部手続きを済ませられることがわかってよかったです。とはいえ面接は4時間にもおよび、途中提出した写真が「これじゃダメ」とのことで近くのCVSまで炎天下の中歩いてパスポート用の写真を撮りに行ったりと、なかなか大変でした。面接自体は待ち時間が長く、面接官からは「何しにメキシコ行くの?」とか「趣味は何?」といった基本的な質問をされたぐらいで、わりとさくっと終わりました。面接後は(これから散々食べることになるだろうに)領事館の隣にあるメキシコ料理レストランで昼食を食べて帰りました。非常にうまかったです。



これであとは現地に引っ越しするだけになりました。今のところ7月20日を予定しており、モンテレイについたら2週間はホテルに滞在し、その間に家を探す手はずになっております。渡航費・ホテル滞在費は全部大学が負担してくれるので、すごくありがたいです。

秋学期に教える授業ももう判明しており、かなり時間無くなりそうだなと思っているので、今から授業準備をしつつ、自身の研究を爆裂に進めております。実は今年に入ってから今までになくジャーナルに論文を投稿していて、

- 1月27日に博論の第一章をジャーナルに投稿→6月19日にリジェクトの連絡。
- 2月22日に共著のペーパーAを投稿→5月3日にリジェクトの連絡。
- 5月16日に博論の第三章を投稿→6月30日にR&Rの連絡。
- 5月23日に共著のペーパーAを別のジャーナルに投稿、現在結果待ち。
- 6月3日に共著のペーパーBを投稿→6月7日にデスク・リジェクトの連絡。ちなみにデスク・リジェクトはこれが初の経験。
- 7月6日に共著のペーパーBを別のジャーナルに投稿、現在結果待ち。

といった感じです。先週もらったR&Rは嬉しかったですね。国際関係論の人なら皆読むようなジャーナルですし、かつ単著だったので。とはいえ、二人の査読者のうち一人は非常に好意的だったのですが、もう一人の査読者の要求に応えるのは容易ではなさそうなので、緊張感を持って修正に臨んでいるところです。あと、単純に投稿数が増えたこと自体に研究能力が上がったなと実感しています。ペーパーBも今月中には修正を終えて別のジャーナルに投稿できそうではあります。今手元にある原稿を論文化している一方で、新しいプロジェクトもちょこちょこ進めており、そのうち一つは研究助成ももらえました(僕はPIではなく共同研究者ですが)。この先数年戦える持ち球は確保できたかなという感触はあります。

とはいえ研究&研究の生活ができるのも今のうちで、モンテレイに旅立ったら別の戦いが始まりそうです。というわけで、乞うご期待。