皆さん、ご無沙汰しております。春学期も始まってなかなか慌ただしい日々を過ごしておりました。授業以外だと、3月1日ーから5日までシカゴでのInternational Studies Associationの年次学会に参加してました。論文発表2本に加え、パネルの司会と討論者の役割もこなしたので、過去一忙しい学会でした。年配の先生方は毎回こんな忙しいのかと思うと尊敬します。
最近のニュースとしては、学会中に
Journal of Experimental Political Science(JEPS)から投稿中の論文について条件付き採択をもらいました。「条件付き」の部分はデータを提出して論文中の分析結果が再現できるかどうかのチェックが主ですので、ここまで来ればほぼ安心です。数か月後には現物が拝めると思うと非常に嬉しいです。ちなみに、今回の論文の内容についてはこの前出版された
『現代思想』2025年2月号でも触れたので、もし興味のある方はそちらも見て頂けたら良いかもしれません。珍しく日本語で書きました。
JEPSはアメリカ政治学会の実験研究セクションによって創立されたジャーナルで、政治学でも実験を使った研究にフォーカスしています。比較的歴史の浅いジャーナルではあるのですが、2023年時点でのImpact Factorも3.2と政治学カテゴリーでは高く、業界内の評判は高くなっていると思います。モンテレイ工科大学のリストでもトップ・ジャーナル扱いとなっています。特徴としては、実験の手順や透明性について高い基準を設けており、実験データと分析コードの提出は当然のこと、IRBの審査に通ったことの証明書の提出義務もあり、pre-registration(プレレジ)も強く推奨されている他、分析方法等でプレレジから逸脱した場合はそれをこと細かく論文中に書きなさいと指示されています。こうした要求により、研究者は研究不正を行ったり、分析モデルをちょろまかすことで統計的に有意な結果を出すといったことが難しくなるので、研究の再現性や透明性を高めるうえで非常に良い試みだと思います(投稿する側としては、手間や負担が増えるなと感じたりもしますが笑)。あとは、論文の長さは短め(standard articleでも4000 wordsが上限)というのも一つの特徴です。
JEPSはその名前からわかる通り、国際関係論だけでなく政治学一般のトピックを対象にしたジャーナルです。自分はこれまで国際関係論に特化したジャーナルからしか論文が出てなかったので、今回のJEPSで政治学一般に受ける論文を書ける研究者だという認知が得れたりしないかなという淡い期待を抱いています(だいぶ淡いかもしれません)。また、"Experimental"と書いていることからも政治学で実験をする人たちからは広く知られているジャーナルなので、そこから論文を出すことは「こいつはちゃんとした実験ができる奴なんだ」というシグナルになるのではと考えています(これもだいぶ淡いかもしれません)。なので、JEPSから論文を出せそうということで、自分は非常に喜んでいます。
論文の内容ですが、国際政治における評判費用(international reputation costs)と安心供与(assurances)の関係について検証したものです(
プレプリント版はこちら)。「自分たちの国は平和的な国ですよ」「攻撃的な意図はないですよ」という安心を他国に供与することは国際平和を達成するうえで重要なことですが、そもそも国際政治学の中でも安心供与はあんまり研究されていないトピックですし(Knopf 2012)、何をしたら安心供与に寄与するのかもよくわかっていないという問題があります。安心供与のコミットメントの信憑性を高める一つのメカニズムとして国内観衆費用(domestic audience costs)があります。平和にコミットしているにもかかわらず武力行使といった攻撃的な行動を行えば、指導者は国内の聴衆から選挙で負ける、支持が減るといった形で懲罰される(=国内観衆費用の発生)と考えられており、転じて国際平和へのコミットメントを国内観衆費用を高める形で行えば、その約束は他国から信用されやすいと考えられます。ただ、平和のコミットメントを破棄すると国内観衆費用が発生することを示したサーベイ実験にはLevy et al.(2015)とQuek(2017)があるのですが、私が共著者と行った実験ではLevyたちの実験結果は再現できなかったの(Takei and Paolino 2023)で、安心を他国に供与するのに国内観衆費用に頼るのはいささか心許ないと言わざるを得ません。
他のメカニズムとして、国際評判費用があります。平和にコミットメントしておきながら侵略行為をしたりすると、他国から平和的な国でないと思われて対抗処置をされたり、同盟国の離反をもたらします。国内観衆費用と同様の理屈で、評判費用を高めるような平和へのコミットメントを行えば、他国へ安心供与できると考えられます。ただ、安心供与のコミットメントを破棄すると評判費用が発生する理論上は考えられているのですが(Kydd and McManus 2017)、そのことを実証した研究はほとんどありません。例外としてCebul et al.(2021)があるのですが、彼らの論文でもどのような条件だと評判費用が高まるのかについてはあまり議論されていません。そこで、日中関係のシナリオを用いて、2024年5月にアメリカで実験を行いました。その結果、日本と中国の軍備増強という仮想的な状況についての小文を読んだアメリカ人に、この軍備増強は日本ないし中国の過去の平和へのコミットメント(日本は平和主義、中国は平和的台頭・発展)からの逸脱だと考えられるという追加情報を与えると、日本および中国の将来のコミットメントへの信憑性が下がる(=評判費用の発生)ことがわかりました。さらに、この信憑性の低下の度合いは中国でより大きく、これは中国がアメリカのライバル国である一方、日本は同盟国であり、内集団びいきが働いた結果だと解釈できます。この実験結果は、国際評判費用が安心供与の有力なメカニズムであることを示唆しています。日本の平和憲法も、第二次大戦後日本が他国から平和的な国だと思ってもらうやり方としては効果的だったのかもしれません。
今後は具体的にどうすれば評判費用を高めて安心供与を行うことができるのか(自分の過去の研究(Takei 2024)に引き付けてコミットメントを公にするかどうか、など)についてより深堀りしていきたいなと考えています。この他、投稿中の論文もたくさんありますので、引き続き自分が面白いと思う研究を続けていきたいなと思ってます。
今回は以上です。それではまた次回よろしくお願いします。
Cebul, M. D., Dafoe, A., & Monteiro, N. P. (2021). Coercion and the Credibility of Assurances. The Journal of Politics, 83(3), 975-991.
Knopf, J. W. (2012). Varieties of assurance. Journal of Strategic Studies, 35(3), 375-399.
Kydd, A. H., & McManus, R. W. (2017). Threats and assurances in crisis bargaining. Journal of Conflict Resolution, 61(2), 325-348.
Levy, J. S., McKoy, M. K., Poast, P., & Wallace, G. P. (2015). Backing out or backing in? Commitment and consistency in audience costs theory. American Journal of Political Science, 59(4), 988-1001.
Takei, M., & Paolino, P. (2023). Backing Out but Backing in Audience Costs? A Replication of Levy et al.(2015). Foreign Policy Analysis, 19(2), orad008.
Takei, M. (2024). Audience Costs and the Credibility of Public versus Private Threats in International Crises. International Studies Quarterly, 68(3), sqae091.
Quek, K. (2017). Type II audience costs. The Journal of Politics, 79(4), 1438-1443.