3/19(土)短期ワークショップ「こんなに役立つ!! ホントのエチュード vol.2」。
今回は、11名の方が参加してくださいました。
ありがとうございました!!
今回は、初めて僕のクラスを受講される方や、多方面の経歴の方がいらっしゃってくださいました。
それぞれの方が、学んできたことが違う中で。
クラスの内容も、前回のエチュードのワークショップに比べてややハードルの高い部分もあったため、正直、難しく感じられた方もいらっしゃったと思います……m(_ _)m
そう感じた方も、何か、お役に立てることをお伝えできていたら幸いです。
エチュードは、本当に役立つ訓練方法です。
ただし、一つ一つを、焦らず、丁寧に理解していくことが大事です。
そのあたり、今回は、応用的な内容も多かった部分もあったので……
次回は、もっともっと、基礎部分に立ち返った内容のクラスをやってみたいと思っています。
楽しみにしていてくださいね!!
▲一段飛ばしは、ずっこけます。
次回は、より丁寧に進めてみたいと思っております。
さて、話は変わって。
前回記事で、「演劇」と「コント」の違いを、「ドラマ性」という観点から紐解きました👇
主人公が、ドラマの「スタート地点(入り口)」から「ゴール地点(出口)」にかけて、内面的にどれだけ成長しているか??
人間関係が、どれだけ変化しているか??
その成長・変化の振れ幅が大きいほど、良質で面白い「演劇作品」になるんですね。
この話。
実は、「コント」との比較だけでなく、ちょっと面白いところにも及んでいます。
それは、「ミュージカル」と「音楽劇」の違い。
これ、どちらも、セリフと歌で表現する劇ですが。
この二つには、決定的な違いがあるんです。
それが、この「スタート地点(入り口)とゴール地点(出口)の位置」の問題に関係しています。
……ミュージカルも、音楽劇も。
どちらもドラマ、つまり「演劇」です。
作品のスタート地点からゴール地点にかけて、主人公がどれだけ内面的な成長を遂げられているか?
人物同士の関係が、どれだけ変化しているか?
その、スタート地点とゴール地点の「位置」が違えば違うほど、ミュージカルも音楽劇も、ドラマチックで面白く、質の良い作品と言えるわけですね。
これは、「演劇」の鉄則です。
そして、この「現在地の移動」は、作品全体だけでなく、各 “シーン” 毎でも必ず起こっています。
ワンシーンを取り出しても、キャラクターたちは、その “シーン” のスタート地点(入り口)からゴール地点(出口)にかけ、内面的な移動をします。
その移動距離が大きければ大きいほど、その “シーン” はドラマチックで、面白い、というわけです。
さてさて。
ミュージカルも、音楽劇も。
シーンの中で「歌」が歌われますね。
しかし。
この二つには、「歌を歌う “場所”」に決定的な違いがあるんです!!
まず。
ミュージカルとは、「歌でドラマを展開させる」という演劇です。
セリフだけのお芝居では、文字通り、セリフだけで物語を運び、感情を動かし、ドラマを展開させなくてはいけません。
そして。
(観客の)感情を動かすには、それ相応の時間が必要です。
俳優同士のセリフのやり取りが、台本上それなりのページ数、必要になるものです。
しかし、音楽は。
あっという間に観客の心をグイッと動かすことができるんですね。
しかも、音楽は、言語の壁も超越する。
言葉や人種、民族、文化が違っても、楽しいメロディーはやっぱり「楽しい」ものですし、悲しい旋律は「悲しい」感情を想起させます。
それだけ、音楽が持つ「ドラマ展開」の力は、強力。
一瞬にして、感情に劇的な変化をもたらすことができるのです。
例えば、セリフだけだとその感情に到達するのに「10分」かかるようなシークエンスを、ミュージカルだと「たった1コーラスだけ」で達成できる。
ミュージカル『エリザベート』では。
王室に閉じ込められ、規則にがんじがらめにされた主人公シシィが、「私だけに」というたった一曲だけで、「誰にも束縛されず、自由に生きること」を人生の目標と見定め、それを決意します。
これ、セリフでこの感情の変化や人生の決断を表現しようとしたら、もっと時間がかかる決断のシーンです。
▲王妃の崩れ落ちそうな心は、たった1曲の歌で決意へと変化し、立ち上がります。
あるいは、『シスター・アクト 〜天使にラブ・ソングを〜』では。
“マフィアのボスの愛人でナイトクラブの売れない歌手” という主人公デロリスと、“清廉潔白がすべて” の修道女たち。
この、似ても似つかない者同士が、たった一曲だけで打ち解け合って大合唱〜!!(『Raise Your Voice』)という、あり得ない展開を、ミュージカルはやってのけてしまいます。
こんな、文化も生活様式も超越するような大ジャンプのシーン。
セリフ劇でこれを表現しようとしたら、それこそ作品まるまる一本を使う必要があるくらい、大変な作業です。
でも、ミュージカルでは、たった1曲だけでその奇跡を成し遂げてしまうんですね。
▲ミュージカルならではのカタルシスが味わえる、名シーンです!!
映画も、舞台も、BGMによって場面の感情を盛り上げたりしますよね。
そんな風に、音楽は、ドラマの劇的効果を一気に押し上げてくれます。
ならば。
俳優のセリフ自体を、音楽と同化させてしまえば……つまり、セリフを「歌」にすれば、セリフ劇以上の劇的効果を、よりスピーディーに起こすことができる。
これが、「セリフ劇」の世界に、「ミュージカル」が誕生した理由の一つです。
……そこから考えると。
劇作家は、いよいよドラマが盛り上がる時にこそ、「歌」を入れることになります。
そうすることで、表現しようとしているドラマを、より一層効果的に表現できるからです。
セリフ劇を主な活躍の場とされているベテラン俳優の木場勝己さんが、ミュージカル『キャバレー』(主演・藤原紀香さん)にご出演されていた時。
あるパーティーの会場で、こんなスピーチをされていました。
「……まったく、ミュージカルってのはね。
ここからいよいよドラマが動くぞ、芝居の見せ所だぞ、ってとこになると、歌になっちゃう。
(得意の)セリフを喋らせてくれないんだよ。」
こんな風に、ボヤいていらっしゃいました(笑)
でも、このスピーチこそが「ミュージカルとは何か?」を雄弁に物語っています。
セリフ劇を得意としている俳優が、いよいよ「さぁ、ここからが見せ場!!」 というところになると、歌になっちゃう……。
でもそれは、ミュージカルが、「さぁ、ここから!!」というドラマの展開部分で、より劇的効果を高めるために「歌」という表現方法を使う演劇であることを考えると、すっごく理に叶っていることなんですよね。
「一番いいところ」が「歌」で表現される。
それがミュージカルなのですから……。
▲木場勝己さん。
一方。
音楽劇は、あくまでも「セリフ劇に、歌がくっついたもの」です。
ドラマは、全てセリフで展開し、その結果到達した「ゴール地点」になって、ようやく歌が歌われます。
あるいは、途中段階で歌われたとしても、その間はドラマの展開はストップします。
音楽劇では、ドラマの展開はあくまでも「セリフ」で行われ。
歌はドラマ展開に “関与しない” んです。
▲キャラクターの内面的な変化。
このグラフの “坂道” 部分で歌うのが「ミュージカル」なのに対し。
「横ばい」の場所(矢印の部分)で歌っているのが「音楽劇」。
あるいは、途中段階で歌われる場合、そこではドラマは展開せず、あくまでも「挿入歌」として歌が披露されます。
ミュージカルと音楽劇の違い、とは。
ドラマが大きく動くところが歌になっているのが、ミュージカル。
ドラマはセリフで動かして、それが終わった後に(または途中で立ち止まって)歌を添えるのが音楽劇。
つまり。
▶︎ミュージカルは、キャラクターの心情が、歌の “入り口” から “出口” にかけて「変化・成長する」(=ドラマが展開する)。
▶︎音楽劇は、キャラクターの心情が歌の中で「変化・成長しない」(=ドラマが展開しない)。
これが、ミュージカルと音楽劇の、決定的な違いです。
さらに、この考え方を応用していくと。
同じ「歌を歌う」というシーンでも。
その中で大きくドラマ展開をさせられれば……つまり「歌い出し」から「歌い終わり」までの(内面的な)移動距離を大きく引き離すことができれば、それは「ミュージカル・ナンバーとして、よりレベルの高い歌唱」だと言えます。
ミュージカルの歌唱を勉強されている方は。
この考え方を知っておくと、「どう表現すれば良いか?」の指標として、とても役立つはずです。
▲ミュージカルにおける歌の表現とは。
一曲の中で、この矢印のスタートからゴールまでの高さをどれだけ付けられるかで、ドラマチックで胸を打つ歌唱になると言えます。
いかがでしたか?
……まぁ、その境界線は曖昧な部分もありますし、新しい表現手法もどんどん生み出されてくるでしょうから、堅苦しく「カテゴリー分け」する必要もないのかもしれません。
でも、もし。
なんらか、自分の中に “指標” となる考え方があるかどうかで、その表現世界が理解しやすく、そして面白く見えてくるなら、それはとても良いことだと思っています。
好きなこと、やりたいことは、詳しくなって面白がったもの勝ちですからね(笑)
今回の記事が「面白い」と思ってくださっていたなら、ぜひ、参考にしてみてくださいね!!
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