♰THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA ♰
★今日のベビメタ
本日3月2日は、2014年、日本武道館最年少記録を樹立したLegend“巨大コルセット祭り2日目“黒い夜”が行われ、海外ツアーへの旅立ちが発表された日DEATH。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は、BABYMETALのデビュー曲であると同時に、アイドルソングにブルータルなリフを導入した実験的な作品だった。
イントロの「♪ABAC#A・A、ABADC#BA」というアラーム音は、Key=A(イ長調)で、小田急線ロマンスカーというか、ジェフ・ベックの「Jeff’s Boogie」のアドリブで聴かれるハーモニクス音というか、要するにチャイムの構成音である。
さくら学院は学校とか学生生活をテーマにした「成長期限定ユニット」だったから、「ベリシュビッツ」に「オクラホマミキサー」が使われているのと同じくらい当然である。
しかし、次の瞬間、「♪AAAA・A、CBA、D#DC」というへヴィなギターのリフに変わると、Keyは、Am(イ短調)に変わる。長調で始まった曲がいきなり短調になるのである。
日本の流行歌には「山あり谷あり」が欠かせないから、学園テーマのアイドルソングなら、Ⅰ→Ⅵm→Ⅱm→V、つまり「戦争を知らない子供たち」のコード進行か、Ⅰ→V→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴとなる「カノン進行」を応用するのが定番である。つまりAで始まった学園ソングなら、ⅥmであるF#mに発展するのがふつうである。
しかし「ド・キ・ド・キ☆モーニング」ではAからいきなりAmになってしまう。これはKey=AのⅥmではなく、Key=CのⅥmだ。
Aから転調してAmになることで、明るいアイドルソングのはずが、暗い短調に変わる。つまり、普通じゃない。
さらにリフの中に出てくるD#音が曲者である。通常のAmなら展開部はDmだからD音が使われるはずのところ、わざわざD#音にしている。これによって、曲調は、マイナーコードの持つ「暗く悲しい感じ」より、一歩進んでエクストリームな「不気味な感じ」になるのだ。
リフは、「「♪A・ACBA、D#DC」とか、「♪CBA、CB・A、D#DC」とかリズムを変えながら、SU-「♪ぱっつんぱっつん前髪ぱっつん」YUI・MOA「♪Cuty Style!」というラップ&Scream部分のバックに流れる。
MVでは幼い三人の後ろで骸骨の全身タイツを着た奇妙な男たち=骨バンドが体をゆすりながら演奏のフリをしている。気味が悪い。
この映像は、Kawaiiアイドル的歌詞&ラップと、Am+D#音で「不気味な感じ」のバッキングという曲の構造を、忠実に視覚化しているわけである。
Bメロの「♪知らないフリはキライキライ…」になると、バッキングはAm→F→Dm→EというKey=Cにおけるマイナー進行に変わる。
しかしこれが、ありそうでなかったコード進行なのだ。
マイナーコード進行の定番はAm→Dm→E→Amという3コードである。
Amの次にFを絡める場合には、Am→F→G→Cというふうに、最終的にⅠ=Cに解決するために、Ⅳ=Fの次にはⅤ=Gをもってくるのが普通だ。
Am→F→Dm→Eというコード進行は、前半部分と後半部分が分断されているのである。
Ⅰ=C→Ⅳ=Fと発展すれば、明るい日常からもっと明るい未来が開けるのに、Ⅵm=Am→Ⅳ=Fと発展してしまうと、暗い現実に、さらに不安で不気味な要素が加わってくる感じになる。
なんとかせねば。
この三人のKawaii女の子たちの未来がぐちゃぐちゃになってしまう…・
そこで、2回目のAm→Fのところ、つまり「♪10%背伸びしたいしたいよねッ!」のところで、「♪「DDEEFFGG」「AAG#G#F#F#EE」というギターのパッセージが入る。前半はKey=Am(イ短調)だが、G#以降はKey=A(イ長調)に変わる。
この短調から長調へ変わるという、音楽におけるドラマティックな大勝利!の感動を、ぼくが初めて味わったのは、巨大ロボットSFのさきがけである「ジャイアントロボ」(NET、1967~68年)の主題歌であった。
「♪かがやく太陽背に受けて、鉄の巨人のさけび声」までは「水戸黄門」のリズムにのって、Em→Am→B7のマイナー進行だが、「♪勝利のがいかだ、正義の旗だ、すすめ!ジャイアントロボ たて!ジャイアントロボ」の部分は、G→Am→D→G→D→Gとメジャー進行になる。
Key=Em(ホ短調)=G(ト長調)なので、厳密にいえば、これは転調ではなく、平行調のマイナー進行から、同じ調のまま、メジャー進行になっただけだ。
それでも、この短調から長調に変わって劇的に明るくなる曲調に、ぼくはシビレタ。歌詞も「♪♪勝利のがいかだ」となっている。がいかというのは「凱歌」であり、小学2年生にしてぼくはこの言葉を覚えてしまった。ジャイアントロボの叫び声は「バッファ!」。YUIちゃんの学年末テストの答えである。
「ド・キ・ド・キ☆モーニング」の場合は、もっと手が込んでいて、Key=Am(イ短調)はKey=C(ハ長調)であるのに、「ジャイアントロボ」のようにⅠ=Cに変わるのではなく、転調してKey=A(イ長調)に変わる。転調するためのブリッジとして「DDEEFFGG」「AAG#G#F#F#EE」というギターのパッセージを入れているわけである。
だが、効果は同じだ。
暗くて不気味な曲調が、一気に明るくなる。
「♪よねッ」のあとは、「♪リンリンリンッあわてずHurry Up、お・ね・が・いチョ待ってチョ待って…」という、慌ただしい女の子の朝のシーンを表現した可愛らしいアイドルソングになる。
バッキングのギターも、裏拍でA→F#→D→Eというリフを刻むだけになる
ではなぜ、素直にメジャー進行のアイドルソングにせず、手の込んだ転調を含み、不気味に聴こえるへヴィなリフを採用したのか。
それは、恐ろしいことに、明るく楽しい学生生活は、BABYMETALにとって「世を忍ぶ仮の姿」ないしは、「アンダーカバー」としての“修行”に過ぎなかったからだ。
BABYMETALには、ブルータルな曲調で癒しと救いを求める「お客さん」の平凡な日常や常識に「死」を与え、生まれ変わらせる使命があった。
2010年の重音部結成時、すでにキツネ様は、過酷な「アイドルとメタルの融合」というONLYONEのBABYMETAL道を歩むことになる三人の将来を予見していた。
だから、その予兆として、忙しい学園生活を送る女の子たちを表現したBABYMETALのデビューソング「ド・キ・ド・キ☆モーニング」にも、ちゃんとブルータルな仕掛けを施しておいた。
Kawaiiアイドルソングなのに、パンテラ風の不気味でへヴィなリフが付き、後ろで骨バンドが踊っている。三人はメロイックサインならぬキツネサインをして、胸の前でクロスさせるキメポーズを誇らしげにとる。
その違和感に世界中が「なんじゃこりゃ!?」と驚いた。
だが、それこそ、ブルータルな「アイドル界のダークヒロイン」の鮮烈なデビューであり、世界中を熱狂の渦に巻き込むBABYMETALの原点であった。
(つづく)