『なぁ、あの頃のオレ』青春編

『なぁ、あの頃のオレ』青春編

失敗だらけの人生を、
今のオレが昔のオレにツッコむ。

16歳で一人イタリアへ。
気ぃ使いすぎて空回り。

失敗も、勘違いも、だいたい自分発。

全部実話。1話完結。

『なぁ、あの頃のオレ。』連載中。



◆ ダンディな先輩

なぁ、あの頃のオレ。

ある日、
オレより年上の先輩が、

イタリアへ、
やって来た。

あまり、
しゃべらへん。

落ち着いとる。

ちょっと、
ダンディ。

……。

『お前と、だいぶ種類ちゃうな。』

そんな先輩には、
妙なこだわりがあった。

サッカーシューズ。

一足ちゃう。

何足も、
持っとる。

さらに。

ブラシ。

クリーム。

布。

何に使うんか分からん、
謎の道具まである。

……。

(多いな……。)

(靴屋でも、
開くんかな。)

……。

『勝手に転職さすな。』


◆ 謎のこだわり

それだけやない。

先輩は暇さえあれば、
シューズを磨いとった。

ブラシで、
シャッシャッ。

クリーム塗って、
またシャッシャッ。

仕上げに、
キュッキュッ。

……。

ずっと、
磨いとる。

一方。

オレのシューズ。

練習で、
ドロドロ。

部屋へ戻る。

……。

置く。

次の日。

……。

そのまま履く。

『扱いの差、
飼い犬と野良犬ぐらいあるぞ。』

先輩のシューズは、
今日もピカピカ。

オレのシューズには、
昨日の土。

場合によっては、
一昨日の土。

……。

(まぁ、
履けたらええやろ。)

そんな先輩を、
毎日のように見とるうちに。

オレの中で、
ある呼び名が生まれた。

……。

(靴磨き親方。)

……。

『何の役職やねん!!』

ただの、
年上の先輩やぞ。

シューズを丁寧に、
磨いとっただけや。

それを勝手に、
親方へ任命。

本人。

自分が親方になったことすら、
知らん。


◆ 気になってきた

最初は。

(ようやるなぁ。)

その程度やった。

でも。

毎日、
親方のシューズを見る。

ピカピカ。

その横に、
オレのシューズを置く。

……。

汚い。

親方の横に置いた瞬間、

オレのだけ、
田んぼから救出されたみたいに見える。

……。

(ちょっと、
やってみよかな。)

最低限の道具は、
以前帰国する人からもらってた。

さらに親方からも、
いくつか道具をもらった。

ブラシ。

クリーム。

布。

……。

気ぃ付けば、
だいたい揃った。

『お前、ほぼ買ってへんやないか。』

そして。

道具が揃った、
その瞬間。

オレの頭の中で、
なぜか何かが始まった。

……。

(親方!)

(お願いがあります!!)

(オレを、
弟子にしてください!)

……。

妄想の親方。

腕を組む。

黙る。

しばらく、
オレを見る。

そして。

重い口を、
開く。

(この道はな……。)

(なかなか、
険しい道だぞ。)

……。

(それでも、
ついて来れるか?)

……。

(はい!)

(親方!!)

……。

『何が始まったんや!!』

靴磨きやぞ。

山籠もりちゃうぞ。

しかも。

現実の親方は、
目の前で普通に、

シューズを、
磨いとるだけ。

一言も、
しゃべってへん。

お前一人で、
弟子入り志願して。

お前一人で、
覚悟を問われて。

お前一人で、
決意した。

『師匠本人が参加してへんのに、
師弟ドラマ完成しとるやないか!!』

それでも。

オレの中では、
この日。

正式に、
弟子入りが決まった。

『親方の承認ゼロで入門すな!!』


◆ 謎の仕上げ

実際にやってみると、
これが意外とおもろかった。

汚れを落として、
クリームを塗る。

ブラシをかけると、
だんだんキレイになっていく。

……。

(おぉ……。)

なんか、
ええ。

そして。

最後の仕上げに、
使うものがあった。

女性用の、
ストッキング。

……。

(ストッキング?)

……。

『待て。』

サッカー上手くなりたくて、
イタリアまで来た男が。

いま。

女性用ストッキング、
握っとる。

『お前の留学、
どこへ向かっとんねん!!』

でも。

これで磨くと、
めちゃくちゃキレイになる。

キュッ。

キュッ。

……。

(おぉ!!)

黒光り。

角度を変えて、
見る。

(ええやん。)

光に当てて、
また見る。

(……めっちゃ、
ええやん。)

……。

『いつまで見とんねん!!』

シューズやぞ。

美術品ちゃうぞ。

でも。

オレは、
黒光りしたシューズを、

うっとり、
眺めとった。

……。

(親方……。)

(オレ、
この道いけるかもしれん。)

……。

『どの道や!!』


◆ 次の練習

そして。

次の練習。

ピカピカに磨いた、
シューズを履く。

グラウンドを見る。

土。

……。

(あ。)

(これ……。)

(汚れるやん。)

……。

『当たり前や!!』

サッカーシューズやぞ。

ボール蹴ったら、
汚れる。

踏まれたら、
傷つく。

泥も、
つく。

……。

(イヤやな……。)

……。

『何のために磨いたんや!!』

キレイにした結果。

汚したく、
なくなった。

サッカー上手くなりたくて、
イタリアまで来たのに。

いま気になっとるのは。

……。

シューズの、
光沢。

『技術ちゃうんかい!!』

危うくオレは。

シューズを守るために、
サッカーを邪魔者にするとこやった。


◆ さすが親方

それからも。

オレは、
シューズを磨くようになった。

汚れたら、
キレイにする。

道具も使う。

少しずつ、
手入れも覚えた。

(さすが、
親方やな。)

親方のシューズは、
いつ見てもピカピカ。

道具も、
完璧。

手入れも、
丁寧。

こだわりも、
すごい。

オレは、
ちょっと尊敬しとった。

……。

ただ。

ここまで、
親方を持ち上げてきて。

非常に、
言いにくいことがある。

……。

親方。

サッカーは。

……。

お世辞にも、
上手くなかった。

……。

…………。

『そっちは磨かれてへんかったんかい!!』

靴。

ピカピカ。

道具。

完璧。

手入れ。

完璧。

サッカー。

……。

上手くない。

……。

(親方……。)

(そこまで、
シューズ磨くんやったら。)

(もうちょい、
サッカーの腕も磨いた方が……。)

……。

『お前が言うな!!』

お前もさっきまで、

女性用ストッキング握って、
黒光りしたシューズを、

角度変えながら、
うっとり眺めとったやないか。

親方。

弟子。

二人そろって。

『磨く場所、
ちょっと間違っとるぞ!!』


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

それまでのお前は、
サッカーシューズなんか、

履けたら、
それでええと思っとった。


でも。

毎日のように、
先輩が大事そうに手入れする姿を見て。

お前も、
少しだけ変わった。


汚れを落として。

磨いて。

キレイになったら、
なんか嬉しい。


物を大切にするって、
こういうことなんやな。


知らんことを、
誰かから教わって。

影響を受けて、
自分もやってみる。


そうやって、
覚えたこともあったんやろな。


……。


まぁ。

その人を勝手に、
親方へ任命して。

本人の許可なく、
弟子入りして。


妄想の親方から、

(この道は、
険しいぞ。)

とか言われて。


最後は、
女性用ストッキング握って。

黒光りしたシューズを、
うっとり眺めとったけどな。


……。


『どこ目指してたんや、お前。』


なぁオレ。

人から影響を受けるんは、
悪いことちゃう。

知らんことを、
やってみるんもええ。


ただ。

あそこまで夢中になって、
磨かなアカンかったんは。

シューズだけやなくて。


……。


サッカーの腕も、
やったんちゃうか。


……。


まぁ。


親方も、
やけどな。


【一言まとめ】
親方も弟子も、
磨く場所を、
ちょっと間違えた。


【次回】
オカンにまかせたオレ。


◆ 白い謎の物体

なぁ、あの頃のオレ。

イタリア生活にも、
少し慣れてきた頃。

部屋で先輩が、

白くて丸いもんを、
めちゃくちゃ美味そうに食べとった。

「それ何です?」

「モッツァレラチーズ。」

……

モッツァ……

何?

人生で、
聞いたことない。

でも。

「へぇ〜。」

……

なぁオレ。

何が、
「へぇ〜。」や。

頭ん中、

「?????」

しかないやないか。

分からん時ほど、

分かった顔するん、
やめろ。


でも。

先輩が、

めちゃくちゃ美味そうに、
食べとる。

……

食べたい。

次の日。

オレは、
スーパーへ向かった。


◆ 謎の物体と対面

チーズ売り場を見る。

すると。

透明な袋の中に、

白くて丸い物体が、
液体に浮いとる。

……

あった。

……

ん?

これ……

ゆで卵?

丸い。

白い。

大きさも、
それっぽい。

……

なるほど。

イタリアでは、

ゆで卵、

水に入れて売るんか。

……

なぁオレ。

何が、

「なるほど。」

や。

お前いま、

イタリアの食文化、

勝手に一個、
作ったぞ。


しかも。

いっぱい、
並んどる。

「へぇ〜。」

「イタリア人、

ゆで卵、
めっちゃ食べるんや。」

……

なぁオレ。

何で、
そうなる。

商品名、

モッツァレラ。

売り場、

チーズ。

昨日、

先輩から聞いた名前、

モッツァレラ。

……

証拠、

全部そろっとる。

それでも。

オレの判定。

……

ゆで卵。

……

なぁオレ。

お前の中の、
ゆで卵。

強すぎるぞ。


そして。

さらに、

オレの推理は進む。

……

もしかして。

イタリア人が、

サッカー強いんも……

……

ゆで卵か?

……

なぁオレ。

待て。

たった今、

イタリアサッカー界、

数十年の強さの秘密を、

ゆで卵で、
解明したぞ。

スカウトも。

育成も。

戦術も。

……

全部、
いらんかったな。

卵、

茹でたら、
ええねんな。


◆ 食べてみる

部屋へ戻る。

袋を開ける。

取り出す。

プニッ。

……

ん?

柔らかい。

ゆで卵と、

ちゃう気がする。

……

でも。

まぁ、

イタリアの、
ゆで卵やしな。

……

なぁオレ。

何やねん、

「イタリアのゆで卵やし。」

違和感全部、

外国のせいにすな。


パクッ。

……

…………。

味、

ない。

もう一口。

……

やっぱり、

ない。

しかも。

黄身も、

ない。

……

なぁオレ。

ここや。

普通の人間なら、

ここで気付く。

ゆで卵に、

黄身がない。

……

大事件やぞ。


でも。

オレ。

……

「イタリアの卵って、

こうなんかな。」

……

なぁオレ。

まだ、

イタリアのせいにするんか。

もう認めろ。

お前が、

間違っとる。


でも。

当時のオレは、

まだ認めへん。

美味くもない。

不味くも……

いや。

どっちか言うたら、

不味い。

そこで。

オレ、

先輩を見る。

「これ、

ホンマに美味しいんですか?」

……

なぁオレ。

待て。


チーズ売り場、

疑わんかった。

商品名、

疑わんかった。

プニプニでも、

疑わんかった。

黄身がなくても、

疑わんかった。

ほんで。

最初に疑ったん、

……

先輩の味覚。

……

お前、

自分だけ、

無罪なん?


昨日まで、

モッツァレラの存在すら、
知らんかった男が、

今日、

先輩の味覚を、
審査しとる。

……

なぁオレ。

食の初心者が、

先輩に、

レッドカード出すな。


◆ アドバイス

すると。

横におった人が言う。

「塩かけてみ。」

「塩?」

……

チーズに?

……

なぁオレ。

そこは、

疑うんや。

ゆで卵認定は、

ノーチェックやったくせに。


半信半疑で、

パラパラ。

パクッ。

……

うまっ!!

……

え?

何これ。

さっきのヤツと、

同じ?

もう一口。

「うまっ!」

また一口。

「うまっ!」

……

なぁオレ。

お前の食レポ、

塩ひと振りで、

全面撤回されたぞ。


さっきまで、

「先輩、

これホンマに美味しいんですか?」

今。

「モッツァレラ、

うまっ!」

……

なぁオレ。

先輩の味覚より、

お前の味覚の方が、

だいぶ、
信用ならんぞ。


◆ 一番食うヤツ

そこから。

オレ、

モッツァレラに、

ドハマり。

塩。

オリーブオイル。

トマト。

いろいろ、
試す。

スーパーへ行く。

モッツァレラ。

また行く。

モッツァレラ。

次も、

モッツァレラ。

……

なぁオレ。

数日前まで、

「イタリア人、

ゆで卵、
食べすぎやろ。」

言うとった男が。

今、

その売り場に、

一番通っとるやないか。


数日前。

「サッカー強い理由、

ゆで卵か……。」

数日後。

買い物カゴ。

……

モッツァレラ。

……

なぁオレ。

イタリアサッカーの秘密、

お前が、

一番食うとるぞ。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

知らんもんを見て、

勝手に、

ゆで卵やと思う。

食べ方も知らんのに、

「不味い。」

と決める。

挙げ句。

自分は一切疑わず、

先輩の味覚を、
疑う。

……

なぁオレ。

問題、

モッツァレラちゃう。

ほぼ、

お前や。


でも。

塩をひと振りしただけで、

「不味い」が、

「うまっ!」

に変わった。

知らんかっただけ。

それだけやった。


知らんから、

間違える。

でも。

間違えたからこそ、

知ることもある。

あの頃のお前は、

そんな勘違いを、
繰り返しながら。

少しずつ、

知らん世界を、
知っていったんやろな。

……

なぁオレ。

100話まで来て、

ちょっと、

ええこと言うように、
なったな。

でも。

記念すべき、

100話目。

その話の始まり、

……

モッツァレラ見て、

「ゆで卵や。」

やからな。

……

成長、

間に合ってへんぞ。


世界を知る前に、

まず。

ゆで卵と、

モッツァレラの違い、

覚えよか。

そこからや。


【一言まとめ】
ゆで卵やと思った。
チーズやった。


【次回】

靴磨きに目覚めたオレ。




◆ ダイという男

なぁ、あの頃のオレ。

日曜日。
練習は、完全に休み。

せやのに時々、
朝からジョギングしとった。

……。

『休め!!』

何のための、
休日や。

お前の休日、
平日より元気やないか。

一緒に走っとったんが、
二個下のダイ。

このダイ。

人との距離を縮めるんが、
異常に早い。

この前会ったイタリア人。

気ぃ付いたら、
家に泊まりに行っとる。

……。

なぁダイ。

早い早い。

『Wi-Fiでも、
もうちょい接続に時間かかるぞ。』

一方。

オレ。

「ベーネ。」
「グラッツェ。」
「オー!」

……。

なぁオレ。

ダイは、
人間関係広げとるぞ。

『お前はまず、語彙広げろ。』


◆ 朝から勝負

そんなある日。

ダイが言う。

「勝負しましょう!」

「ええで。」

スタート。

ダイ、
ビューーーン!

……。

速っ。

オレは、
一定。

一定。

一定。

ダイ、
チラッ。

振り返る。

……。

オレ、
来ない。

また振り返る。

……。

来ない。

ゴールしたダイ。

ゼェゼェしながら、
言う。

「最後……絶対ラストスパート、
かけてくると思ってたのに……。」

オレ。

「知らん!」

……。

なぁオレ。

勝負するって、
言うたよな?

ダイ一人、
駆け引きして。

ラストスパート警戒して。

お前。

最初から最後まで、
ただのジョギングやないか。

『ちょっとは勝負に参加せぇ!!』


◆ もう一つの勝負

ジョギングのあと。

みんなで集まって、
よう遊んだ。

中でも、
よくやったんが、

大貧民。

……。

イタリアまで来て、

大貧民。

『海外感、ゼロ。』

ほんで。

オレ、
めちゃくちゃ弱い。

負ける。
また負ける。

また、
最下位。

……。

革命起きても、
オレだけ何も変わらん。

ずっと、
貧民。

『カードゲームでまで、
下積み長いな。』

しかも。

オレ、
負けず嫌い。

負けるたびに、
腹立つ。

(絶対、
勝ったる。)

この時。

オレの中で


何かが、
静かに動き始めた。

……。

『嫌な予感しかせぇへん。』


◆ 秘密特訓

ある日。

部屋に、
誰もおらん。

……。

(よし。)

オレ。

トランプを、
取り出す。

シャッ。

配る。

(ここで、
これ出したら……。)

回収。

また、
配る。

(いや。)

(ジョーカーは、
まだや……。)

……。

なぁオレ。

何してんの?

お前。

イタリアまで、
何しに来たんやった?

……。

サッカー。

そうやな。

『ほな何で一人で、
大貧民の自主練しとんねん!!』

しかも。

真剣や。

カード並べて、
腕組んで。

(ここで革命は、
まだ早い……。)

……。

『怖い怖い。』

相手、
誰や。

右側も、
お前。

左側も、
お前。

革命起こすヤツも、
お前。

革命に困るヤツも、
お前。

……。

全部、
お前やないか。

『一人で何の心理戦しとんねん!!』

右のオレの手札を、
左のオレが読む。

左のオレの作戦を、
真ん中のオレが警戒する。

……。

全員、
手札丸見え。

『史上もっとも意味のない
情報戦やないか!!』


◆ 目指す道

でも。

何度もやっとるうちに、
少しずつ分かってきた。

(ここは、
我慢や。)

(ジョーカーは、
ここや。)

……。

強なっとる。

確実に、
強なっとる。

……。

大貧民だけ。

そして。

オレの中に、
妙な自信が生まれた。

(いける。)

まずは、
みんなを打ち負かす。

今までオレを貧民にしてきたヤツらを、
全員倒す。

そして。

その先は……。

……。

(日本か。)

……。

(いや。)

(せっかくや。)

(世界や。)

……。

(大貧民で、
世界チャンピオンになったる。)

……。

『何でやねん!!』

なぁオレ。

待て待て待て。

何で急に、
世界まで行った。

お前いま、
イタリアの部屋で、

一人、
トランプ配っとるだけやぞ。

予選すら、
開催されてへん。

そもそも。

大貧民の世界大会、
どこでやっとんねん。

でも。

当時のオレは、
真剣やった。

まず、
目の前のヤツらを倒す。

その先に、
世界。

……。

『サッカーで持て!!
その志!!』


◆ ついに、その時が来た

そして。

秘密特訓を重ねたオレは、
ついに確信した。

(いける。)

(今なら、
勝てる。)

意気揚々と、
みんなのところへ行く。

「今日、
大貧民しようや!」

すると。

一言。

「もう飽きた。」

……。

え?

「もう、
大貧民いいわ。」

……。

…………。

終わった。

秘密特訓。

革命の研究。

ジョーカーの使い方。

そして。

世界チャンピオンへの道。

全部。

一回も披露せず、
終了。

……。

『世界どころか、
試合そのもの消滅したやないか!!』

強くなるスピードより、

みんなが飽きるスピードの方が、
速かった。

世界への道。

……。

参加者不足で、
閉鎖。


◆ まだ終わってへんかった

まぁ、
ええ。

一人で自主練してたことなんか、
誰も知らん。

そう思っとった。

すると。

ダイが、
ニヤニヤしながら言う。

「実は……。」

……。

嫌な予感。

「見たんですよ。」

……。

何を?

「一人で、
トランプ並べてたの。」

……。

…………。

見られとる。

よりによって、
そこ。

試合で、
ええプレーしたところでもない。

練習で、
頑張っとるところでもない。

誰もおらん部屋で、
一人。

トランプ並べとるところ。

そこだけ、
しっかり目撃されとる。

オレ。

「いや……、
研究しててん。」

ダイ。

少し間を置いて、

「なかなか、
怖かったですよ……。」

……。

…………。

『二個下に、
気ぃ遣いながら怖がられとるやないか!!』

想像してみ。

部屋を覗いたら、
一人。

無言で、
トランプ並べとる。

腕組んどる。

真剣な顔で、
カード見つめとる。

……。

そら、
怖いわ。

しかも。

本人に聞いたら、

「研究しててん。」

……。

『怖さ増しとるやないか!!』

せめて、

「暇やったから。」

って言え。

世界チャンピオンには、
なれへんかった。

みんなにも、
勝てへんかった。

でも。

後輩から、

「なかなか怖い人」

には、
なれた。

……。

『唯一取れた称号、それなん?』


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

負けたら、
悔しい。

悔しかったら、
練習する。

できるまで、
やる。

その根性は、
悪くなかった。

問題は。

使う場所や。

サッカーが上手くなりたくて、
イタリアまで来た。

そのオレが。

誰もおらん部屋で、
一番熱心に自主練したんが、

……。

大貧民。

『努力の配分、
どうなっとんねん!!』

しかも。

ようやく強なった頃には、
誰もやってへん。

世界を目指した。

大会は、
ない。

仲間に勝とうとした。

仲間は、
飽きた。

残った成果は、
後輩からの、

「なかなか、
怖かったですよ……。」

……。

なぁ、あの頃のオレ。

努力は、
裏切らへんかったな。

ちゃんと、
結果出たぞ。

……。

『結果の出る場所、
だいぶ間違えたけどな。』


【一言まとめ】
世界を目指した。
大貧民で。


【次回】
イタリアの、
白い謎の物体とオレ。


◆ 陽気なロベルトじい

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアでの毎日は、
朝からサッカー。

昼飯食って、
またサッカー。

一日終わる頃には、
身体はクタクタ。

そんな毎日の楽しみが、
夕食やった。

そして、
もう一つ。

給仕係の、
ロベルトじい。

いつもニコニコしとる、
陽気なおじいちゃん。

この人、
とにかくようしゃべる。

何か言う。
自分で笑う。

また言う。
また、自分で笑う。

……。

なぁロベルトじい。

待って。

オレまだ、
何言うたか一個も分かってへん。

『先にオチまで一人で到着すな!!』


◆ 一個覚えたら増えた

ロベルトじいは、
毎日オレを見ると、

嬉しそうに、
話しかけてきた。

「○△□◇※〜?」

……。

分からん。

あとで聞いたら、
「調子どうや?」

みたいな意味らしい。

しかも、
地元の方言。

……。

なぁロベルトじい。

外国人相手に、
いきなり方言から入るな。

大阪来た外国人に、

「兄ちゃん、
もうかりまっか?」

から始めるようなもんやぞ。

でも。

毎日聞かれとったら、
さすがに覚える。

「○△□◇※〜?」

「△○◇!」

調子ええ!

すると。

「オォーーー!!」

ロベルトじい、
大喜び。

肩、
バンバン。

さらに、
ベラベラベラベラ。

……。

分からん。

なぁオレ。

一個覚えたせいで、
分からん会話が増えとるやないか。

『語学力1上がって、
会話難易度10上がっとるぞ!!』


◆ デザートと漫談

夕食が終わると、
みんな帰っていく。

オレも、
帰ろうとする。

すると。

「スーシー!」

……。

止められる。

オレだけ、
残る。

ロベルトじいが、
奥から戻ってくる。

手には、

デザート。

夕食には出てへんかったヤツを、
オレにだけ持ってきてくれる。

「ありがとう!」

オレ、
食べる。

ロベルトじい、
ニコニコ。

……。

最高やん。

ただし。

このデザートには、
セットがあった。

オレが食べ始めると、
ロベルトじいも横に来る。

「○△□◇※〜!」

「ハッハッハッハ!」

「△□※○〜!」

「ハッハッハッハ!」

……。

ロベルトじい漫談。

字幕、
なし。

オレ、
ほぼ分からん。

でも。

目の前で、
めちゃくちゃ笑っとる。

せやから。

「ハハハ……。」

……。

愛想笑い。

すると、
さらにしゃべる。

オレ、
また笑う。

さらに、
しゃべる。

……。

なぁオレ。

笑うな。

ロベルトじい、

「今日、
めっちゃウケる!」

って、
手応え感じとるやないか。

『終わらせるための愛想笑いで、
漫談延長しとるぞ!!』

そのうち。

ロベルトじいが、
また何か言う。

「○△□◇……」

オレ。

「ハッハッハッハ!」

……。

なぁオレ。

早い。

まだ、
話し終わってへん。

そもそも、
オチがあるんかすら知らんやろ。

お前もう、
話を聞いて笑っとるんちゃう。

ロベルトじい見たら、
笑う身体になっとるぞ。

『パブロフのスーシーや!!』


◆ 笑ったらアカン夜

そんなある日。

いつものように、
オレだけ残った。

ところが。

その日の、
ロベルトじい。

……。

真顔。

笑わへん。

オレの目を見て、
ゆっくり何かを話し始めた。

「○△□◇※……」

……。

オレ。

いつものクセで、

「ハハ――」

……。

待て。

これ、
笑ったらアカンやつや。

ロベルトじい、
真剣。

オレも、
真剣な顔で聞く。

……。

分からん。

でも。

絶対、
何か大事な話や。

(家族の話か?)

(若い頃の、
つらい思い出か?)

それとも。

……。

(切れ痔か?)

……。

『何でそこ行った!!』

いや。

真顔で、
こんな長いこと、

切れ痔の話、
せんやろ。

……。

(するか?)

(イタリア人やし。)

……。

『イタリア人を何やと思っとんねん!!』


◆ オレの推理が止まらん

ロベルトじいは、
まだしゃべっとる。

今度は、
両手を広げる。

……。

何や。

人生?

世界?

家族?

……。

(スーパーの、
大安売りか?)

「トマトが、
こんなに安かったんや!」

とか?

……。

いや。

あの真顔で、
トマトの特売を、

こんな熱量で、
語るか?

……。

でも。

イタリアや。

トマトは、
大事かもしれん。

……。

『国ごと巻き込んで
可能性残すな!!』

今度は、
胸に手を当てる。

……。

え?

胸?

愛?

大切な人?

心臓?

まさか、
病気か?

オレ、
ちょっと心配になる。

……。

いや。

待てよ。

(冷蔵庫に置いといたプリン、
誰かに食われたとか?)

……。

『胸に手ぇ当てて
プリンの無念語るか!!』

なぁオレ。

聞け。

推理すな。

本人が目の前で、
答えしゃべっとるぞ。

さらに。

ロベルトじい、
遠くを見る。

……。

来た。

これは、
絶対重い。

若い頃の後悔。

昔の恋人。

もう会えへん、
大切な人。

……。

それとも。

(近所の犬に、
また吠えられたんか?)

……。

いや。

遠い目で、
犬の話はせんやろ。

……。

でも。

毎日吠えられとったら、
するかもしれん。

……。

『何で一回捨てた候補、
全部拾い直すねん!!』

気ぃ付けば、
オレの中の候補。

家族。
恋愛。
病気。

切れ痔。
トマト。
プリン。
近所の犬。

……。

『推理するほど
真相から遠ざかっとるやないか!!』


◆ 結局、何の話や

そして。

ロベルトじいが、
最後にゆっくりうなずいた。

オレも、
ゆっくりうなずく。

「……ベーネ。」

ロベルトじいも、
うなずく。

……。

おぉ。

何か、
通じた。

……。

『何がや!!』

お前いま、

切れ痔か、
プリンか、

犬かすら、
絞れてへんぞ。

ようやく、
話が終わった。

レストランを出る。

……。

疲れた。

朝から走って、
蹴って、

一日中、
練習した。

でも。

最後に一番疲れたんは、

ロベルトじいの話を、
勝手に推理し続けた、

オレの脳みそやった。


◆ 次の日

翌日。

オレ、
ちょっと気になりながら、

夕食へ行った。

昨日、
あんな真剣やったし。

大丈夫なんかな。

レストランへ入る。

ロベルトじいが、
オレを見つける。

「スーシーーー!!」

肩、
バンバン。

「○△□◇※〜!!」

「ハッハッハッハ!!」

……。

いつもの、
陽気なロベルトじいや。

めちゃくちゃ、
元気。

オレ、
ちょっと安心する。

(よかった。)

(病気では、
なさそうや。)

……。

ということは。

……。

(切れ痔か?)

……。

『何でそこに戻んねん!!』


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

結局。

あの夜、
ロベルトじいが、

何を話しとったんか。

今でも、
分からん。

家族やったんか。
昔の恋人やったんか。

人生やったんか。

切れ痔やったんか。
トマトやったんか。

プリンやったんか。
犬やったんか。

……。

たぶん。

この中に、
正解ない気がする。

でも。

毎晩、
みんなが帰ったあと、

オレだけ残して。

デザートを、
持ってきてくれた。

いっぱい話して、
いっぱい笑ってくれた。

言葉は、
ほとんど分からんかった。

それでも。

ロベルトじいが、
オレのことを可愛がってくれとった。

それだけは、
ちゃんと分かった。

……。

ただな。

ロベルトじい。

あの夜。

ホンマに、
何の話やったん?

……。

まぁ。

今もう一回聞いても、
たぶん分からんけどな。

なぁ、あの頃のオレ。

お前。

人の話は、
全然訳せへんのに。

勝手に話を作る能力だけは、
異常に高かったな。

『イタリア語より先に、
妄想力だけペラペラやないか!!』


【一言まとめ】
話は分からん。
想像だけ、
めっちゃ進んだ。


【次回】
朝から、
ジョギング。


◆ 完全オフ

なぁ、あの頃のオレ。

日曜日。
完全オフ。

練習、なし。
コーチも、おらん。

毎日サッカー漬けで、
身体もクタクタ。

ようやく来た、
週に一度の休み。

……。

よし。
公園行こ。

ほんで、
サッカーしよ。

……。

『休め!!』

何のための、
完全オフや。

身体は休みたがっとるのに、
足だけ出勤しとるやないか。

しかも。

一緒に来たヤツらも、
誰一人、

「今日は、
サッカーやめとこ。」

とは言わん。

普通にボール持って、
公園へ向かう。

……。

なぁオレら。

サッカーが、
好きなんか。

それとも。

サッカー以外の休日の過ごし方を、
誰一人知らんのか。

完全オフ。
予定。

サッカー。

『完全に、オンやないか!!』


◆ 知らん人が増えていく

公園では、
ミニゲームしたり、
ボール回ししたり。

コーチもおらんから、
完全に遊びやった。

すると。

近くにおった、
イタリア人のおっちゃんが来た。

何か、
言うとる。

どうやら、

「オレも入れて。」

みたいな感じ。

(え?)

(おっちゃん、
やるん?)

と思っとったら。

もう、
入っとる。

普通に、
パス要求しとる。

……。

『参加まで、早っ!!』

名前、
知らん。

どこの誰かも、
知らん。

職業も、
知らん。

でも。

数分後には、
普通にパス回しとる。

すると。

また一人。
さらに、一人。

気ぃ付いたら、
知らんイタリア人が増えとる。

……。

『公園でサッカー始めたら、
現地メンバー勝手に
補充されていくやないか!!』

でも。

こういう時、
「あぁ、サッカーの国やなぁ。」

って思った。

名前も知らん。
自己紹介も、してへん。

それでも。

ボール一個あったら、
一緒に遊べる。

あの頃のオレには、
それがなんか嬉しかった。


◆ 女の子が入ってきた

そんなある日。

また公園で、
サッカーしとった。

すると。

10代後半ぐらいの、
女の子が来た。

メガネかけて、
ちょっと、
ポッチャリしとる。

どうやら、

「私も入れて。」

みたいな感じ。

もちろん、
どうぞ。

ただ。

その時のオレ。

(まぁ、
女の子やし。)

(ちょっと、
手加減したろ。)

……。

『誰がお前に
ハンデ設定する権限与えたんや!!』

名前、
知らん。

サッカー歴、
知らん。

実力、
知らん。

知っとること。

女の子。
以上。

それだけで、
もう手加減する側に回っとる。

なぁオレ。

どっから湧いてきた。
その謎の余裕。


◆ あれ?

女の子に、
ボールが入る。

ピタッ。

……。

ん?

キレイに、
止める。

次。
パス。

スッ。

……。

(うまいな。)

でも。

まだオレは、
余裕。

(まぁ。)

(それぐらいは、
な。)

……。

『何でまだ上からやねん!!』

そして。

女の子が、
ドリブルしてくる。

オレ。

軽く、
取りに行く。

スッ。

「え?」

抜かれた。

……。

(まぁ。)

(たまたまや。)

出た。
たまたま。

自分の評価を、
一切下げずに済む。

オレ愛用、
魔法の言葉。

もう一回。

今度は、
ちょっとちゃんと行く。

スルッ。

また、
抜かれる。

……。

(今のは……。)

(入り方が、
悪かった。)

『原因分析だけは一流やな!!』

相手がうまい。

その可能性には、
まだ行かない。

一回目。
たまたま。

二回目。
入り方。

オレの脳内では、
まだオレは負けてない。

次。

また、
女の子にボール。

オレ。

腰、
落とす。

じっと、
相手を見る。

……。

なぁオレ。

さっき、
「手加減したろ。」

言うてた男が。

完全に、
ガチの守備に切り替わっとるぞ。

『手加減、どこ行った!!』


◆ ようやく答えにたどり着く

何回かやっとるうちに、
さすがのオレも、

認めざるを、
得んかった。

……。

この子。
うまい。

ホンマに、
うまい。

そこで。

普通の人なら、
こう思う。

(この子、
サッカーうまいな。)

でも。

オレは、
普通では終わらない。

オレの中で、
一つの答えが出た。

……。

(この子。)

(将来、
イタリア代表になるんちゃうか。)

……。

『急に話、デカなったな!!』

でも。

そう考えたら、
全部つじつまが合う。

トラップ。
うまい。

パス。
うまい。

ドリブル。

オレ、
抜かれる。

……。

なるほど。
代表候補か。

(ほな、
しゃあない。)

……。

『何がしゃあないねん!!』

お前いま。

自分が抜かれた事実を、
素直に受け入れる代わりに、

名前も知らん女の子の、
将来を勝手に書き換えたぞ。

しかも。

代表。

クラブチームとか、
地域選抜とか、

そんな段階、
全部飛ばした。

いきなり、
イタリア代表。

『自分守るために、
相手どこまで出世させんねん!!』

そして。

さらに都合よく、
考え始める。

もし。

将来イタリア代表になるような、
選手やったとしたら。

そら。

オレが抜かれても、
しょうがない。

むしろ。

そんな選手と、
イタリアの公園で対戦できた。

……。

(ええ経験したな、
オレ。)

……。

『負け惜しみを、
青春の思い出に変換すな!!』

数分前まで、
手加減しようとしとった相手に。

最後は、
貴重な経験をいただいとる。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

完全オフの日まで、
公園へ行って。

知らんおっちゃんと、
名前も知らんままサッカーして。

女の子が来たら、
勝手に手加減しようとして。

抜かれたら、

(たまたま。)

また抜かれたら、

(入り方が悪かった。)

それでもダメなら、
最後には、

(将来、
イタリア代表になる。)

……。

なぁオレ。

忙しいな。

手加減する側から、
わずか数十分で、

未来の代表選手を見送る側に、
回っとるぞ。

『お前、何の立場やねん!!』

でも。

あの公園では、
年齢も、国籍も、

男も女も、
関係なかった。

ボール一個あったら、
知らん人とも一緒に笑えた。

イタリアで、
サッカーが日常にあるって、

こういうことなんやろな。

……。

ところで。

あの女の子。

その後、
どうなったんやろ。

ホンマに、
女子のイタリア代表になったんかな。

……。

まぁ。

オレ。

あの子が、
サッカーやってる子かどうかさえ、

聞いてへんねんけどな。

……。

『そこからかい!!』

なぁオレ。

名前も知らん。
所属も知らん。

サッカー歴も知らん。

サッカーやってるかどうかも、
知らん。

分かっていること。

公園で、
オレを抜いた。

以上。

……。

『それだけで
イタリア代表まで送り出したんか!!』


【一言まとめ】
抜かれすぎて、
未来の代表にした。


【次回】
給仕係の、
ロベルトじいとオレ。


◆ ルームメイト交代

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアへ来た頃、
最初のルームメイトはカルロスやった。

ところが、
ある日。

カルロスは、
隣の部屋へ移っていった。

ケンカしたわけやない。

仲が悪くなったわけでもない。

理由は……

よう分からん。

……

まさか。

オレの、
イビキ?

いや。

寝言?

……

両方?

なぁオレ。

原因、

自分の中だけで、
どんどん増えとるやないか。

しかも本人、

寝とるから、
何も知らん。

カルロスは、
文句一つ言わず、

静かに、
部屋を移っていった。

……

カルロス。

あの時、
何があったんや。

オレ、

寝ながら、
何したんや。


◆ クマ先輩

そんなカルロスと入れ替わって、
一つ上の先輩が入ってきた。

オレは心の中で、

「クマ先輩。」

と呼んどった。

理由。

顔。

身体。

……

クマ。

以上。

なぁオレ。

人のあだ名付ける時だけ、

判断、
異常に早いな。

もちろん、
本人には言うてへん。

……

そこだけ、

ちゃんと、
ビビっとる。


そんなクマ先輩。

朝は、
ほぼ冬眠中やった。

「朝ご飯、
食べません?」

「ん〜……。」

……

返事はある。

生存確認、
終了。

でも、
起きへん。

送迎バスの時間ギリギリで、
ようやく起きる。

眠そうな顔で、
バスへ乗る。

座る。

……

寝る。

なぁオレ。

起きてへんやないか。

部屋からバスへ、

寝床、
移動しただけや。


◆ 燃料どこや

ところが。

グラウンドへ着いた瞬間、

クマ先輩、
急に目を覚ます。

何事もなかったように、
アップを始める。

ほんで、

走る。

……

めちゃくちゃ、
走る。

朝飯、
食べてへん。

バス、
爆睡。

グラウンド、

全力。

……

なぁオレ。

燃料、
どこや。

夜中に、

こっそり充電でも、
しとんのか。

オレには、
ホンマに不思議やった。

でも。

そんなクマ先輩とは、
いつも一緒におった。

練習中も。

ホテルでも。

移動中も。

しょうもないこと言い合って、

よう、
ゲラゲラ笑っとった。


◆ 関西弁が壊される

クマ先輩は、

たまに、
オレの関西弁をマネした。

「なんでやねん。」

「アカンやろ。」

……

うまい。

普通に、
うまい。

関東の人やのに、

妙に、
イントネーションが自然やった。

すると。

それを見とったカルロスまで、

参戦。

「アカンて。」

……

ん?

もう一回。

「アカンて。」

……

違う。

なぁカルロス。

文字は、
全部合っとる。

せやのに。

口から出た瞬間、

全部、
違う。

何や、
その「アカンて」。

関西弁の服着た、

別の言語やないか。

クマ先輩、
爆笑。

カルロスも、
笑っとる。

オレも、
笑う。

……

なぁオレ。

お前、

関西弁の先生みたいな顔、
しとるけど。

イタリア語、

七割ぐらい予想で、
通訳しとったヤツやからな。

人の発音、

採点しとる場合ちゃうぞ。


◆ 「超」が気になる

もう一つ。

オレが、
なかなか慣れへんかった言葉。

……

「超。」

「超うめぇ。」

「超スゲェ。」

「超楽しい。」

……

何でも、
超。

なぁオレ。

何が、

そんなに、
超えとんねん。

「超うめぇ。」

何を超えた。

昨日の飯か。

「超スゲェ。」

普通のスゲェ、

どこ行った。

オレには、

「めっちゃ。」

それで、
ええねん。

……

なぁオレ。

待て。

お前も、

めっちゃうまい。

めっちゃすごい。

めっちゃデカい。

……

同じやないか。

人の「超」には、
やたら厳しいくせに。

自分の「めっちゃ」は、

日本全国共通みたいな顔で、
使っとるやないか。

お前の中の日本、

関西中心に、
回りすぎや。


◆ 一番おかしかったヤツ

そんなある日。

日本人みんなで、
ちょっとしたパーティーをした。

誰かが、
天ぷらを揚げる。

誰かが、
皿を並べる。

誰かが、
飲み物を用意する。

みんな、

何かしら、
動いとる。

そして。

オレ。

……

食う。

天ぷら、
揚がる。

……

食う。

料理、
並ぶ。

……

食う。

新しいの、
出てくる。

……

食う。

なぁオレ。

お前の担当、

何や。

味見係か。

しかも、

誰にも、
任命されてへんぞ。

先輩もおる。

後輩もおる。

みんな、
動いとる。

オレだけ、

皿持って、
待機。

……

働け。


すると。

一人が、
笑いながら言った。

「オレくん、

食べてばかりやね。」

……

その時のオレ。

「そんなこと、

言わんでもええやん。」

……

なぁオレ。

言われるわ。

むしろ、

誰か、
もっと早よ言え。

天ぷら、
揚げへん。

皿、
並べへん。

飲み物、
運ばへん。

でも。

料理が完成した瞬間だけ、

誰より、
反応が速い。

なぁオレ。

サッカーでは、

出足の速さ、
そこまででもないのに。

天ぷらには、

プレス、
速いな。

揚がる。

……

食う。

また揚がる。

……

食う。

なぁオレ。

お前、

パーティーで一番、
役に立ってへんぞ。

何も作らん。

何も運ばん。

でも、

食う時だけ、
絶対おる。

……

一番、
腹立つヤツやないか。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

クマ先輩見て、

「寝すぎやろ。」

カルロス見て、

「関西弁、
ちゃうやろ。」

関東のヤツ見て、

「超って、
何やねん。」

……

お前。

人の変なところ、

よう、
見つけとったな。

でも。

一回だけ、

その観察する方向、

自分に、
向けてみよか。

ルームメイト、

静かに移動。

人のあだ名、

勝手にクマ。

人の言葉には、

やたら厳しい。

ほんで。

パーティーでは、

何もせず、
天ぷら食う。

注意されたら、

「そんなこと、
言わんでもええやん。」

……

なぁオレ。

一番、

ツッコまなアカンかったん、

お前や。

……

でも。

不思議なもんやな。

今でも覚えとるんは、

サッカーのことだけやない。

朝起きへん先輩。

変な関西弁。

「超」を連発するヤツ。

みんなで食った、
天ぷら。

同じヤツらと、
同じ場所で。

アホみたいなことで、
笑っとった。

あの頃は、

それが青春やなんて、
思ってもなかった。

ただ、

毎日、
おもろかった。

でも今になって、

そういう、
しょうもない時間ほど、

やたら、
残っとる。

……

なぁオレ。

ええ話みたいに、
締めようとすな。

その思い出の中で、

お前、

天ぷら、
食ってただけやぞ。


【一言まとめ】
人にツッコむ前に、
まず、
オレやった。

【次回】
公園で、
サッカーするオレ。


◆ いつものバル

なぁ、あの頃のオレ。

練習が終わると、
みんなでよく寄る場所があった。

グラウンド近くの、
小さなバル。

たまに飲み物買ったりしてた。

毎日のように通っとるうちに、
マスターもオレらの顔を覚えてくれた。

店へ入ると、
ニコッと笑ってくれる。

オレも、

ニコッ。

……

以上。

なぁオレ。

常連みたいな顔しとるけど、

会話、
ほぼ成立してへんぞ。

イタリア語より先に、

笑顔だけで乗り切る技術、
身につけとるやないか。


◆ 謎の赤い液体

そんなある日。

いつものように、
バルへ行くと。

マスターが、

大きなガラスの器を、
持ってきた。

中には、

真っ赤な液体。

……

何やこれ。

ジュース?

……

赤い。

なんか、
甘そう。

マスター、
笑っとる。

……

よし。

飲も。

……

なぁオレ。

何が、
「よし。」や。

お前いま、

赤い。

甘そう。

マスター、
笑っとる。

その三つだけで、

正体不明の液体、
飲むこと決めたぞ。

確認、

ゼロや。

一杯もらって、

ゴクッ。

……

「うまっ。」

甘い。

飲みやすい。

これ、

ジュースみたいやん。

もう一口。

……

うまい。

……

ん?

ちょっと待て。

これ……

ワインちゃうん?


◆ 飲んでから気付く

……

オレ、

未成年やぞ。

……

急に、

怖なってきた。

これ、

飲んでええんか?

……

捕まらへんよな?

なぁオレ。

その確認、

飲む前にせぇ。

もう、

胃の中や。

でも。

不安になったオレの妄想は、
止まらん。

もし今、

警察が入ってきたら?

「お前、
何歳や。」

って聞かれる。

……

でも。

イタリア語や。

質問の意味すら、
分からん。

……

なぁオレ。

未成年飲酒の前に、

取り調べ、
成立してへんやないか。

ほんで、

もし捕まったら?

警察署。

親に連絡。

日本にも連絡。

……

「息子さんが、

イタリアでワイン飲みました。」

……

最悪や。

せっかく、

イタリアまで、
サッカーしに来たのに。

帰国理由、

ワイン。

……

なぁオレ。

弱っ。

せめて、

「イタリアの強豪相手に、
激闘の末――」

とかで帰れ。

何や、

「バルで飲みました。」

って。

サッカー、

一切関係ないやないか。

さらに。

強制帰国とか、

ないよな?

空港で、

一人スーツケース持って、
帰ってくるオレ。

親が待っとる。

……

「どうやった?」

……

「ワイン飲んで、
帰ってきた。」

……

そんなこと言えるか。

留学費用かけて、

何しに行っとんねん。

……

なぁオレ。

安心せぇ。

まだ、

誰もお前を、
捕まえに来てへん。

お前一人だけ、

頭の中で逮捕されて、
強制帰国して、

もう日本、
着いとるぞ。

◆ 周りを確認

恐る恐る、

周りを見る。

……

マスター、

普通。

客も、

普通。

誰も、

オレを見てへん。

……

あれ?

もう一回、
周りを見る。

……

やっぱり、

誰も気にしてへん。

……

よし。

大丈夫や。

……

なぁオレ。

何でやねん。

さっきまで、

人生終わっとったやろ。

警察おらん。

誰も止めへん。

マスター、
笑っとる。

……

大丈夫。

……

なぁオレ。

何を根拠に、
安心しとんねん。

お前いま、

周り見渡して、

誰も騒いでへん。

……

よし、
飲んでええ。

って決めたよな。

判断基準、

全部、
他人やないか。


◆ 無料で全部消える

しかも。

どうやら、

そのワイン。

……

タダ。

……

無料。

……

「えっ?」

……

もう一杯。

……

なぁオレ。

待てぇ!!

さっきまでの、

警察は!?

強制帰国は!?

空港の親は!?

……

無料って聞いた瞬間、

頭ん中におった、

警察も。

空港で待っとる、
親も。

強制帰国も。

……

全部、

消えたやないか。

しかも。

二杯目から、

誰にも勧められてへん。

自分で注ぐ。

三杯目。

また、
自分で注ぐ。

……

なぁオレ。

誰が、

飲み放題や言うた。

マスター、

「一杯どうぞ。」

オレの解釈、

「好きなだけどうぞ。」

……

話、

勝手に広げんな。

もう一杯。

……

また、
自分で注ぐ。

……

なぁオレ。

お前、

さっきまで、

警察に捕まる心配、
しとったよな。

今度は、

マスターに、

「もう飲むな。」

って言われる心配、
せぇ。

一杯。

二杯。

三杯。

……

何杯飲んだんか、

覚えてへん。

……

なぁオレ。

お前、

ワイン飲んどるんちゃう。

無料を、

飲んどるんや。

「イタリア、
最高や!」

……

評価、

軽っ。

サッカー。

歴史。

文化。

街並み。

全部差し置いて、

決め手、

タダ酒。

◆ 次の日

そして翌日。

練習終了。

いつものバルへ行く。

店へ入る。

マスターがおる。

……

でも。

オレが最初に見たんは、
マスターやない。

カウンター。

……

ない。

店の奥。

……

ない。

昨日の、
赤いヤツがない。

「あれ?」

……

なぁオレ。

顔に出すな。

何を、

当然あるみたいな顔しとんねん。

一回、
無料でもらっただけやぞ。

定期サービスちゃうぞ。


さらに翌日。

……

ない。

その次の日。

……

ない。

また次の日。

……

ない。

……

なぁオレ。

何日、
確認しとんねん。

サッカーの成長より、

無料ワインの再入荷、

気にしとるやないか。

お前、

イタリアまで、
何しに来たんや。

ほんで、
ようやく思う。

……

もしかして。

オレが、

飲みすぎたから?

……

なぁオレ。

気付くん、
遅っ。

初日に気付け。

マスター、

「あいつ来た!」

「赤いの隠せ!」

って、

なっとったかもしれんぞ。

結局。

あの日以来、

あのワインが出てくることは、
二度となかった。

……

まぁ。

一杯すすめられて、

勝手に何杯も飲んだ男が、
おったからな。

……

お前や。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

最初は、

マスターに笑ってもらうだけで、
嬉しかった。

言葉も分からん。

注文するんも、
ちょっと緊張する。

それが。

毎日通って、
顔を覚えてもらって。

いつの間にか、

「知らん店」が、

「いつもの店」に、
なっとった。

……

ただ。

お前の場合。

馴染む前。

ニコッ。

馴染んだ後。

勝手に注ぐ。

翌日。

探す。

……

なぁオレ。

馴染み方、

急激すぎるやろ。

遠慮って、

徐々になくなるもんやと、
思っとったわ。

お前、

無料の二文字で、

一気になくしたな。


【一言まとめ】
遠慮より先に、
ワインが、
なくなった。


【次回】
ルームメイト、
交代。


◆ 来なくなるヤツ

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアへ来て、
毎日サッカー漬け。

午前練習して、
昼飯食って、また練習。

最初はみんな、
目ぇギラギラしとった。

でも。

一週間。

二週間。

一か月。

少しずつ、
練習に来ぇへんヤツも出てきた。


その中に、
東京から来たヤツがおった。

聞いた話では、
日本で遊び過ぎて、

親に、

「一回、
イタリアでも行ってこい。」

みたいな感じで、
送り出されたらしい。

……

なぁオレ。

スケール、
デカない?

普通、

「ちょっと、
頭冷やしてこい。」

ぐらいやろ。

冷やす場所、

イタリアなん?


ホンマかどうかは、
知らん。

でも。

そいつは練習に、
来たり来ぇへんかったり。

そのうち、
ほとんど見ぃひんようになった。

「何しに、
イタリア来たんやろ。」

……

なぁオレ。

珍しく、
まともなこと言うとるな。

大丈夫か。

変な物食べてないか。


オレは、
一日たりともムダにしたくなかった。

せっかく来た、
イタリアや。

本気で、
サッカーやりたかった。

……

おぉ。

カッコええぞ、
オレ。

……

今のところは。


◆ なんか笑われとる

午後は、
イタリア人との練習。

ある日の、
ボール回し。

オレが、
取りに行く。

あと一歩。

チョン。

また追う。

チョン。

また追う。

チョン。

……

取れへん。

すると。

周りから、

クスクス。

……

ん?

笑っとる?

……

オレを?

……

その瞬間。

オレの中で、
勝手に話がデカくなった。

「日本人や思って、

ナメとるんちゃうか。」

……

なぁオレ。

待て。

誰も、

「ジャポネーゼ。」

言うてへんぞ。

お前が、
ボール取れてへん。

↓

笑われた気がする。

↓

日本人が、
ナメられた。

↓

日本の名誉を、
取り戻さなアカン。

……

なぁオレ。

三段飛ばしで、

国際問題に、
発展さすな。

お前いま、

ただの、
ボール回し中やぞ。

日の丸、

どこから出してきた。


◆ オレが出した答え

でも。

腹立った。

悔しかった。

「ナメられたら、
アカン。」

……

どうする。

……

技術で、
見返すか。

ボールを、
奪うか。

相手の動きを、
読むか。

……

オレが出した答え。

……

当たる。

……

なぁオレ。

選択肢、
少なっ。

サッカー留学来て、

解決方法だけ、
昭和の不良やないか。


次のパス。

オレ、

全力で行く。

ガツンッ!

身体ごと、
ぶつかる。

相手、

「おっ。」

みたいな顔。

……

よし。

……

なぁオレ。

何が、
よしや。

ボール、

まだ向こうやぞ。

お前、

ボール取りに行って、

人に、
当たっただけや。

また行く。

ガツン。

また追う。

身体入れる。

また行く。

すると。

さっきまで、
笑っとった相手が、

だんだん、
笑わんようになった。

……

よし。

……

なぁオレ。

それ、

認められたんか?

怖がられただけ、
ちゃうんか?

お前の目標、

「サッカーで認められる。」

やったよな。

いつの間に、

「イタリア人から、
笑顔を奪う。」

に変わっとるで。

◆ なんか変わってきた

でも。

オレが本気で追うほど、
向こうも変わってきた。

パスが、
速なる。

ボールを離すんも、
早なる。

当たりも、
強なる。

……

オレ。

思う。

……

効いてる。

……

なぁオレ。

何が、
効いとんねん。

お前、

湿布ちゃうぞ。


さっきまでの、

「ほら、
取ってみろ。」

みたいな空気が、

「取られるな。」

に変わっていく。

そして。

気ぃ付いたら、

誰も、
笑ってへん。

……

やった。

……

なぁオレ。

だから、

何を達成したんや。

イタリアまで来て、

最初の成果、

「現地の人から、
笑顔を消しました。」

……

履歴書に、
書けへんぞ。


しかも。

向こうも、
本気になった。

パス、
速い。

当たり、
強い。

オレも、
必死。

……

なぁオレ。

良かったな。

ナメられてへんぞ。

……

全員、

めちゃくちゃ、
本気やぞ。

……

どうした。

さっきまでの、

「ナメんなよ。」

の顔。

……

もう、

ちょっとだけ、
ナメてくれてもええ。

とか思うなよ。

◆ 肩ポン

でも。

不思議と、
嫌やなかった。

こっちが本気で行ったら、
向こうも本気で返してくれる。

そのうち。

向こうから、
話しかけてくれるヤツも増えた。

プレーを、
褒めてくれるヤツもおった。

ほんで。

肩を、

ポンッ。

……

オレ。

思う。

……

認められた。

……

なぁオレ。

判定、
早っ。

肩ポン、
一回やぞ。

契約書も、
届いてへん。

監督から、

「君を、
イタリアサッカー界の一員として認めます。」

とも、
言われてへん。

でも。

当時のオレの中では、

肩ポン。

イコール、

イタリア合格。

……

審査、
ゆるすぎるやろ。


でも。

嬉しかった。

言葉では、
うまく伝えられへんかったけど。

「オレも、
本気でやりたい。」

それだけは、

少し、
伝わった気がした。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

お前は、

笑われた気がした。

そこから、

「日本人が、
ナメられた。」

に変換して。

勝手に、
日の丸背負って。

出した答えが、

……

体当たり。

……

今考えたら、

だいぶ、
頭がおかしい。


しかも。

そもそも。

最初から、

お前を笑ってへんかった可能性すら、
ある。

……

もし、
そうやったら。

普通にボール回ししてたら、

急に日本人が、

ガツン!

また、

ガツン!

……

向こうからしたら、

「何でアイツ、
急にキレたん?」

やぞ。

……

なぁオレ。

国際交流どころか、

国際誤解、
生み出しとるやないか。


それでも。

こっちが本気で行ったら、
向こうも本気で返してくれた。

言葉がなくても、

本気が伝わることは、
あるんやと思う。

……

ただな。

笑う。

話す。

握手する。

いろんな国際交流が、
あったはずや。

その中で、

お前が選んだ方法。

……

体当たり。

……

なぁオレ。

お前の国際交流、

フィジカルに、
頼りすぎや。


【一言まとめ】
勝手に日の丸背負って、
体当たりした。


【次回】
遠慮をなくしたオレ。

『なぁ、あの頃のオレ。』は、
基本1話読み切りです。

どこから読んでも大丈夫です。

初めての方に、
おすすめの3話を選びました。

気になった話から、
どうぞ。


◆ 帰国の日、エロ本3冊

青春編 第79話 「諦めかけてたオレ」

帰国の日。
成田空港。

オレのカバンには、
イタリアでもらったエロ本が3冊入っていた。

▶ 第79話を読む
https://note.com/regal_wren4369/n/n2a0686bdc052?sub_rt=share_pw





◆ 子どもたちに仕返し

青春編 第68話
「日本のもので子どもたちに仕返ししたオレ」

イタリアの子どもたちに、
散々笑われたオレ。

翌日、
仕返しすることにした。

▶ 第68話を読む
https://note.com/regal_wren4369/n/n6d4587867600?sub_rt=share_pw





◆ なぜか先に人気者

青春編 第64話
「なぜか先に有名になったオレ」

夢だった、
イタリアのサッカー合宿。

到着初日。

まだボールにも触ってへんのに、
なぜか先に人気者になった。

▶ 第64話を読む
https://note.com/regal_wren4369/n/nbfeed01a8b61?sub_rt=share_pw





気になった話があれば、
一話だけでも読んでもらえたら嬉しいです。


◆富山から来た男

なぁ、あの頃のオレ。

イタリア生活にも、
少しずつ慣れてきた。

朝起きて、
ラスク食べて牛乳飲んで。

練習して、
飯食って、また練習。

……

なぁオレ。

夢のイタリア留学、
だいぶ日常になっとるやないか。


一緒に来た日本人にも、
いろんなヤツがおった。

その一人が、

富山から来た男。

……

やのに。

いつの間にか、
みんなから、

「カルロス。」

って呼ばれとった。

顔が濃い。
肌もちょっと黒い。

何となく、
ブラジル人っぽい。

……

なぁカルロス。

お前、
富山県民やぞ。

日本からイタリア来て、

なぜ、
ブラジルを経由した。

国籍、
忙しすぎるやろ。

◆ カルロスのこだわり

カルロスは、
サッカーも上手くてマジメやった。

ある朝。

送迎バスで、
ヘッドホン付けとる。

「何聴いてるん?」

聞いたら、
当時人気やったアイドル。

「あぁ、
好きなん?」

すると。

真顔で、

「好きではない。」

……

「尊敬してるだけ。」

……

何やそれ。

なぁカルロス。

毎日、
聴いとるやないか。

好きではない。

でも、
毎日聴く。

でも、

尊敬。

……

難しい。

オレ、
イタリア語勉強しに来たのに、

カルロス語まで、
覚えなアカンのか。

◆ いつもの午前練習

午前の練習は、
日本人だけ。

でも指導するんは、
イタリア人コーチ。

当然、
全部イタリア語。

……

分からん。

いや。

ちょっとは、
分かる。

……

たぶん。


そんなある日。

前の短期合宿で一緒やった、
コーチが来とった。

オレを見るなり、

「スーシー!」

……

出た。

前回、
勝手につけられた、

オレのイタリア名。

しかも。

それを聞いた他のコーチまで、

「スーシー!」

「スーシー!」

……

なぁオレ。

本名、
イタリアで完全に戦力外やないか。

◆ なぜかオレに説明する

ほんで。

そのコーチが、
オレのところへ来た。

ベラベラベラベラ。

……

オレ。

必死で聞く。

……

全部は、
分からん。

でも。

聞き取れた単語。

身振り。

指さす方向。

今の練習。

そして、

コーチの顔。

……

全部集める。

……

たぶん、
こういうことや。


オレ、
みんなに伝える。

「たぶん、

こう動いて、
ここにパス出すんやと思う。」

みんな、

「あぁ、
なるほど。」

……

なぁオレ。

待て。

まだ、
正解発表されてへんぞ。


ほんで。

みんなが、
オレの説明どおりに動き始める。

オレ、
見る。

コーチも、
見る。

……

何も言わん。

止められへん。

怒られへん。

……

ということは。

……

合ってる?

すると。

コーチが、
オレを見る。

笑顔で、

「ブラーボ!」

……

え?

……

ブラーボ?

……

オレ、

褒められた?

……

なぁオレ。

その顔、
やめろ。

さっきまで、

「たぶん、
こういうことや。」

やったヤツが、

「やっぱり、
オレには分かってた。」

みたいな顔すな。

お前、

コーチの顔まで、
翻訳材料に入れとったやないか。


◆ 何かが始まった

でも。

この、

「ブラーボ!」

が、
アカンかった。

……

オレの中で、

何かが、
生まれた。

……

自信。

……

なぁオレ。

生まれるな。

まだ早い。


ほんで。

コーチの中でも、
何かが決まったらしい。

次の説明。

ベラベラベラベラ。

最後に、

オレを見る。

……

え?

また?


オレが伝える。

みんな、
動く。

コーチ、

「ブラーボ!」

……

またや。


次の説明。

ベラベラベラベラ。

そして。

また、

オレを見る。

……

なぁオレ。

決まったぞ。

どうやら、

通訳、
お前や。

……

ちょっと待て。

面接、

いつした。

試験、

いつ受けた。

履歴書、

出してへんぞ。

イタリア語も、

全部、
分かってへんぞ。

……

一回、

それっぽく訳せた。

↓

みんな、
ちゃんと動いた。

↓

「ブラーボ!」

↓

通訳。

……

なぁオレ。

採用まで、

四工程しかないやないか。

しかも。

本人の意思確認、

一回もないぞ。


◆ 全員こっちを見る

それから。

コーチが、
何か説明する。

説明が終わる。

コーチ、
オレを見る。

すると。

日本人まで、
オレを見る。

……

やめろ。

全員で、

「さぁ、
お願いします。」

みたいな顔すな。

お前らが思っとるほど、

スーシー、
仕上がってへんぞ。


コーチ、

ベラベラベラベラ。

オレ。

分かった単語、
三つ。

身振り、
二つ。

最後は、

顔。

……

なぁオレ。

最後、
語学ちゃうやないか。

顔色や。


それでも。

「たぶん、
こういうことやと思う。」

みんな、

「なるほど。」

……

何でや。

何で、
そんな素直に信じる。

もうちょい、
疑え。

訳しとる本人が、

一番、
疑っとるぞ。


◆ だんだん慣れてくる

でも。

何回か通ると、
オレにも変化が出てくる。

……

ちょっと、

自信出てくる。

……

なぁオレ。

出すな。

そこ、

一番出したらアカン、
自信や。


もし。

「10本走れ。」

を、

「100本走れ。」

って訳したら、

全員、
地獄。

「右から攻めろ。」

を、

「左から攻めろ。」

って訳したら、

作戦、
スーシー一人で崩壊。

……

怖っ。

オレ、

思ってたより、
権力持っとるやないか。


それでも。

コーチは、
オレを見る。

みんなも、
オレを見る。

……

何で、
そんな信用するんや。

頼むから、
一人ぐらい、

「こいつ、
ホンマに分かっとる?」

って疑ってくれ。

この中で、

スーシーの実力を、
一番正確に把握しとるん。

……

スーシーだけや。


◆ 結論

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアへ来た頃は、

話しかけられるだけで、
固まっとった。

聞き取れへんかったら、
焦っとった。

それが。

毎日聞いて。

分かる単語を拾って。

身振り見て。

指さす方向見て。

最後は、
コーチの顔まで見て。

気付けば、

みんなの前で、
通訳しとった。

……

なぁオレ。

それ、

通訳なんか。

推理なんか。

どっちや。


でも。

完璧に分かるまで、
待たんでも。

分からんなりに、
やってみたら、

前に進めることもある。

……

おっ。

何か、
ええ話になってきたぞ。

「完璧じゃなくても、
一歩踏み出そう。」

……

みたいな。

……

でも。

なぁオレ。

お前がやっとったん、

通訳やからな。

一歩踏み出す前に、

ちゃんと訳せ。


【一言まとめ】
それっぽく訳したら、
なぜか通訳になった。


【次回】
無料のワインを、
飲んだオレ。