
なぁ、あの頃のオレ。
半年ぶりに届いた、
イタリアのコーチからのメール。
震える手で開いた。
お前の頭の中では、
もう内容は決まってた。
「イタリアへ来い。」
これや。
下手したら、
「待たせたな。」
「次はプロ契約や。」
ぐらい書いてある思てた。
なぁオレ。
勝手にコーチのセリフまで
用意すな。
ほんでメール読む。
そこには、
日本の会社名と連絡先。
「詳しいことは、
こちらへ問い合わせてください。」
……。
なぁオレ。
「来い。」
ちゃうんかい。
かなり待って届いたん、
イタリア行きの招待状ちゃう。
問い合わせ先や。
でもな。
日本に、
イタリアへつながる会社がある。
それだけで、
お前の中のイタリア熱が、
一気に復活した。
◆ 電話する前から出発
会社名見る。
電話番号見る。
また会社名見る。
また電話番号見る。
なぁオレ。
何回見ても、
電話番号は増えへんぞ。
むしろ、
減ることもない。
それでも嬉しかった。
ずっとほったらかしてた、
イタリア語の本を引っ張り出す。
表紙見る。
開く。
……。
全然分からん。
なぁオレ。
夢は復活したけど、
イタリア語は全然復活してへん。
……
そもそも、
備わってない。
ほんで写真見る。
レッサーパンダ。
キリスト。
白髪じいじ。
ちびっ子達。
もう頭の中では、
イタリアへ戻っとる。
飛行機乗る。
ミラノ着く。
ボール蹴る。
イタリア語しゃべる。
……。
なぁオレ。
最後のやつだけ、
完全に妄想や。
まだ電話すらしてへん。
それやのに、
妄想だけ先に、
イタリア入国しとった。
◆ 温度差エグい電話
次の日。
さっそく会社へ電話する。
中年ぐらいの男性が出た。
声は比較的若い。
でも話し方は、
めちゃくちゃ事務的やった。
オレは紹介された経緯と、
イタリアへ留学したいことを説明する。
担当者。
「現在、
イタリアサッカー留学を
斡旋する企画を考えております。」
「内容が決まりましたら、
またご連絡いたします。」
オレ。
「分かりました!」
電話切る。
……。
「よっしゃぁぁぁ!!」
部屋一周走る。
イタリア語の本出す。
写真並べる。
ほんで頭ん中。
イタリア。
ピザ。
パスタ。
ティラミス。
サッカー。
……。
なぁオレ。
留学行く気か、
食べに行く気か、
どっちや。
ほんで勢い余って、
地球儀まで回す。
……。
なぁオレ。
イタリア探したかったんか、
地球回したかったんか、
どっちや。
◆ 5分後に1人考える
ガッツポーズしたまま、
ニヤニヤしてる。
もう気持ちは、
完全にイタリアや。
……でもな。
5分後。
担当者の言葉が、
ゆっくり頭に戻ってくる。
「これから、
企画を考えておりまして……」
……。
ん?
……。
なぁオレ。
ちょっと待て。
「これから企画する。」
って言うてへんかったか?
ほな、いつやねん。
来月か?
半年後か?
一年後か?
ホンマに、
やろうとしてるんか?
部屋で一人、
だんだん腹立ってくる。
「企画って何やねん!」
「考えてるって、
どこまで考えてんねん!」
「日にちぐらい、
決めてから言うてくれや!」
なぁオレ。
誰にキレとんねん。
担当者、
何も悪ない。
ちゃんと最初から、
「これから企画します。」
言うてくれとる。
勝手に聞き飛ばして、
勝手に飛行機乗って、
勝手にイタリア着いて、
勝手に腹立てとるんはお前や。
5分前。
地球儀回して、
「イタリアーー!!」
5分後。
日本の部屋で、
「企画って何やねん!」
……
なぁオレ。
情緒、
時差ボケしとる。
◆ それでも復活した夢
結局。
また待つことになった。
いつになるんか分からん。
ホンマに、
実現するんかも、
まだ分からん。
それでもな。
長い間、
消えかけてた気持ちは戻ってきた。
「またイタリアへ行きたい。」
その思いや。
イタリア語の本を、
もう一回開く。
相変わらず、
全然分からん。
なぁオレ。
気持ちはイタリア。
学力は日本に置き去りや。
でも少しずつ、
また前を向き始めた。
土木の仕事も続けた。
しんどい。
疲れる。
それでも前とは、
少しだけ違った。
働いた先に、
イタリアが見え始めた。
◆ 結論
なぁ、あの頃のオレ。
お前な。
メール一通で舞い上がって、
電話一本で、
もうイタリア行った気になってたな。
「これから企画します。」
その一言で、
5分後には現実へ引き戻されて、
一人で勝手に腹立てとった。
でもな。
あの電話で決まったんは、
留学ちゃう。
たった一つ。
「もしかしたら。」
その可能性だけや。
希望ってな。
「決まった未来」
から生まれるんちゃう。
「もしかしたら。」
その一言だけで、
人間は、
もう一回歩き出せるんや。
まぁお前の場合、
希望があったんちゃう。
ただ、
気ぃ早すぎただけや。
……
でもな。
あの気ぃ早さがあったから、
お前はもう一回、
夢の方を向けたんや。
【一言まとめ】
企画はこれから。
妄想だけは、
すでにイタリア到着済みやった。
【次回】
待ちに待った一本の連絡。
ついに、
イタリアサッカー留学が動き出す。