平均で60年の歴史を持つラジオ局、41年の歴史を持つテレビ局は、悪く見れば旧弊が蓄積した組織とも云えよう。
 
ペデスタルカメラ
長期的に見れば一部の新聞や雑誌などと同様に長期低迷の産業と感じた。そうしたメディアの中でも、放送事業は明らかに「装置産業」であり、経営転換の難しさがのしかかっている。
 
新聞社との相互依存、度重なる放送設備の更新、収益性追求による外注依存、相変わらずの視聴率万能、インターネットなど新しいメディアとの乖離など課題山積と思われる。今までの放送局に対する分析を見直して、気が付いた点を拾い上げてみた。
 

 
    現状   課題
         
テレビ離れと経営   視聴率が長期下落傾向にあり、ネットの普及で広告出稿費の分散化が進む。   売上の大幅加増も望めないので、従来の経営を続ければ構造不況業種に転落する。
         
膨らむ償却資産   一般的に天井高など特殊な構造の社屋と、需要の少ない専用機器を必要とする。   装置産業と云われる故に、固定経費中で資産償却が占める割合が極めて多い。
         
技術革新の経営圧迫   2003年から本格化した地デジ化で放送設備の総入替えが必要になった。   放送設備導入のコストが経営圧迫の要因になり、営業利益の改善が課題となる。
         
収益性の悪化   経費の増大から、広告料金が高止まり、一方で広告出稿の分散化も起こっている。   安定したスポンサーと収入が得にくい傾向から、収益性の悪化が進行している。
         
社会性へのコスト増   コ-ポレート・ガバナンス、コンプライアンスに対する社会的要望が高まっている。   管理部門への人員配置が大幅にシフトしているため、創造的な仕事ができにくい。
         
専門技術の疲弊   放送局は各分野で特殊技術の専門性と能力が求められるが、専門家の意識が薄い。   専門職の人件費が高い上に、技術教育に多大なコストを要している。
         
劣悪な労働環境   制作現場などでは、出勤日と勤務時間が不定期な上に、突発的な出張も重なる。   一般企業と比較して労働条件が悪化し、心身両面での負担が極限に達している。
         
情報交換の固着化   分野ごとの専門化が進んでいるため、相互交流や情報交換が停滞しがちである。   情報の伝達に必要以上に時間がかかるため、多角的な情報分析と共有が削がれている。
         
オリジナリティ欠如   コスト抑制のために制作外注が増加し、一方で新聞などへの相互依存から抜出せない。   コスト最優先で、創意性や独自性が欠落し、番組の品質レベルが低下しがちである。
         
視聴率万能の信仰   視聴率だけが最優先の番組制作が、視聴者の知的満足をもたらさない。   視聴率以外の顧客評価と社内評価が見いだせないため、前例踏襲が継続している。
         
多様性への対応不足   インターネットの普及でコンテンツ量が増えて、視聴者の多様化が一般化している。   固定された放送時間、汎用な遡及対象などで、視聴者の多様化に対応しづらい。
         
双方向性の限界   啓蒙、啓発の番組使命を重視するあまり、視聴者との情報乖離が生まれている。   システム上の課題を含め、視聴者の意見が番組制作に影響を受ける事を避けたがる。
         
公平性の担保   調査、裏付、検証作業の未消化から報道内容の信頼性が揺らいでいる。   制作側意図だけで作られた番組をすでに見抜かれているために「テレビ離れ」が増す。

 
無論、各局とも新機軸の打ち出しに躍起になっている事もわかるが、装置産業故の収益性改善の難しさが足かせになっていると云えよう。
 
加えてメディアの従業員独特のプライドと、その意識を支える給与体系にもメスを入れざるを得ないのだろう。
これに対峙するユニ・グローバル・ユニオンの一翼を担う民放労連(日本民間放送労働組合連合会)は、まさにグローバリズム信仰の中心で、同じユニオン傘下の日本放送労働組合(NHK労組)とも連携している。
 
1965年に始まった「ビデオ・リサーチ」の調査だが、1977年に吉田電通社長の肝いりで「ミノル・メーター」による「視聴率」調査が導入された。
現在は、オンラインメーター、ピープルメーター、日記式のアンケートが併用されている。
 
広告料金や番組に対する評価として、未だに視聴率が優先されている不思議さは正にガラパゴスと云えよう。
 

 
放送局としてのクリエティビティとグローバリズムで形成された独特のテレビマンのプライドは、社内に要する相互連絡の欠如、部外者(特に視聴者)を見下す姿勢が世論からの乖離を生みだす結果となっている。
 
更に独善的なプライドでの番組作りは、一般人からの反論さえ無視する状況を生み、報道の公平性を問われる事態を生んでいる。
 
ミュージシャンなどの芸術家などであれば、自らの思想信条から自己主張することは当然許容される訳で、受け入れられなければ聞いたり見なければ良いだけだ。
 
一方ネット空間では、掲示板やSNS上では熾烈な対立意見のディベートが繰り返されることで、真実に近づく文化が生まれている。
 
テレビマンは、自らを政治家や芸術家と同じマインドと勘違いしては危険である。
 
従って放送局も単なるネットとの融合で双方向性を構築するだけでなく、前述のようなネット文化まで取り込むまでの検討が必要だろう。
 
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