23勝15分けという成績で、ユーヴェが史上二チーム目の無敗優勝を成し遂げた今季のセリエA。ピルロに関して言えば、ユーヴェの優勝は彼なくして成し遂げられなかったのだから、素直に嬉しいが、他ならぬミランが唯一の達成者だった偉業を目の前でやられたというのは、一人のサポーターとしては悔しくてならない。とはいえこうも完璧にシーズンを戦い抜かれては、この90年代からの因縁ののライバルを祝福する他ない。

負け惜しみをいえば、ミランは直接対決含めシーズン6敗を喫していながら最後までユーヴェを追い詰めたわけだが、相手が1敗もしていない状況ではむしろなぜもっと勝てなかったのかと考えてしまうあたり、やはり心では敗北を認めているのだろう。



それはさておき、またしてもミランの歴史を彩ってきた選手が去っていくことになった。ここ数年はチームの中心選手の入れ替わりが思いのほか激しいのは周知の通りだが、今回に関しては、今までの比ではないだろう。優勝を逃した上にこれか、と思ったのはなにも僕だけではないだろう。


ざっと退団が確定している選手を並べてみると、ガットゥーゾ、ネスタ、ザンブロッタ、ファン・ボメル。さらにまだ確定こそしていないものの、まず残留はしないだろうインザーギとセードルフ。



中でも、ガットゥーゾとネスタ、セードルフそしてインザーギの退団は、ミラニスタとしては非常に堪えるものがある。サッカーのビジネス化が進み、生ける伝説であるデル・ピエロがあっさりと退団を宣告される今の時代、マルディーニやコスタクルタらが、あるいはあるべきバンディエラの最後のひとにぎりだったのかもしれない。この4人は去年退団したピルロのように、いずれも10年以上にわたってミランに貢献してきた選手である。僕が個人的に大好きなインザーギはじめ、彼らが一斉に退団するというのは、身を切るように辛い。


その後、フィオレンティーナからボスマンプレーヤーとなるモントリーヴォの獲得が内定していることが発表され、ナンシーのトラオレの獲得も発表された。だが、レジェンドたちの退団話のあとで、イタリア代表とはいえ迫力でアクィラーニに劣り司令塔としてピルロに劣るモントリーヴォと、名前も聞いたことがないようなフランスの選手を連れて来られても、まるで喜べないのは僕だけではないだろう。


もちろん、彼らがノチェリーノやボアテングのようなサプライズとなる可能性は否定できないし、ここからベルルスコーニとガッリアーニがどのようなウルトラCをやるかもしれないが、だとしても獲得が噂される選手の中でサポーターの溜飲を下げられるのは、それこそテベス級の選手が来た時だけだろう。



いくら格安でいい選手を手に入れたところで、この数年間絶えずサポーターの愛する選手たちを放出し、そのうえユーヴェやバルサのように他に誇れるサッカーをしているわけでもないアッレグリのミランは、しばらくの間勝ち続けることで自信を正当化しなければいけなかった。にもかかわらず、チャンピオンズリーグで敗退し、セリエAでは放出したピルロに手痛い「恩返し」をされた。


綺麗事を言っていられる世界ではないにしろ、攻守にイブラとチアゴ・シウバにたよりっきりで、加えて中盤のフィジカルを前面に押し出している今のサッカーは、けっしてミラニスタの全面的な支持を得てはいない。勝てているなら何も言うまい、というスタンスの人は少なからず居るだろう。



何もバルセロナのようなパスサッカーをしろとは言わないが、せめてミラニスタたちが見ていて楽しめるミランに戻って欲しいものだ。とはいえ今は、クラブの新たなシンボルとなったチアゴが、どこにも引き抜かれることのないように祈るしかないのだが。

コパ・イタリアの準決勝2ndレグは2-2の引き分けで終わり、、ユベントスが2試合合計4-3として決勝進出を決めたのは、もうご存知のことだろう。


個人的には言うまでもなくミランの決勝進出を願っていたのだが、いやしかしさすがは未だ今季リーグ戦無敗のビアンコネーロというべきか。試合自体はまだハイライトしか見ていないが、なるほど負けてもしょうがない、白熱した試合だった様子。


なかでもひときわ印象に残るのが、先制点を決めたデルピエロだ。評価点の上では見事な決勝弾を決めたヴチニッチが一番のようだが、やはり僕はこの大ベテランの仕事を評価したい。


あくまでハイライトしか見ていないのであまり知ったようなことはいえないが、こういう大一番での先発起用にゴールで応えるというのは、今季限りでの退団が会長から宣言されているという、彼が置かれている異例の状況ともあいまって、一フットボール好きとして非常に興奮する。さすが、デルピエロはデルピエロだったと思う。


久々の出番となった同じく大ベテランのインザーギにも、是非ともゴールを決めてアッレグリの信頼を勝ち取ってほしかったところだが、過ぎたことをとやかく言っても仕方がない。


とにかく、この男のユーヴェでのラストシーズンと、そしてシーズン後の去就からも、まだまだ目が離せない。

グループリーグに引き続き、決勝トーナメントでまた顔を合わせることになった、ミランとバルセロナ。


毎年のことではあるが、やはりFIFAの作為的な抽選ではないかと疑ってしまうほど、面白い因縁を持つカードである。


ミラニスタである僕としては、ぜひともリーグ戦での勢いをそのまま持ち込んで勝ってほしいところだが、バルセロナは依然として最強のチームであり、加えてリーガで優勝が絶望的な分、CLへのモチベーションも相当なはず。あくまで客観的にUEFAの大会での戦績を見る限りでは、今シーズンのミランはスペイン2強とバイエルンに次ぐ強さを持っていると思うが、当然ながら簡単な試合になるはずもない。事実、グループリーグでの2試合は結局ミランは勝てなかったのだから。


もちろん他にも注目の試合はあるが、個人的にはこのカードを一番楽しみにしている。

カルチョスキャンダルに関与したとして勝ち点のペナルティを与えられたリーグ戦での堂々とした戦いぶり。そして、そんな逆境の中で2年連続のCL決勝進出、そして前年にイスタンブールでの決勝でまさかの逆転負けを喫したリヴァプールを相手に、インザーギの2ゴールで勝利し優勝。


翌年、FIFAクラブワールドカップで来日し、日本の浦和レッズとも戦った。


あの頃のミランが今も強く印象に残っている人は多いのではないだろうか。


あれから5年、サッカーという観点からすると長いような短いような微妙な時間だが、ミランはずいぶんと顔ぶれが変わった。


翌07-08が終わると、、左サイドバックとして攻撃面で多大な貢献をしていたセルジーニョが引退(現在はミランのスカウト)。同じく不動の右サイドバックだったレジェンド、カフーも契約満了で退団。存在感を失っていたジラルディーノ、怪我続きだった「怪物」ロナウド、


当時絶対的な存在であったエースのカカ、偉大なるバンディエラ、パオロ・マルディーニ。そしてイタリアのクラブの監督としては異例の長期政権を築いていたカルロ・アンチェロッティ。数シーズンにわたって様々な面でクラブの核であり続けたこの3人は、クラブワールドカップの優勝から約2年後の08-09シーズンオフ、揃ってクラブを後にした。


さらにその後、マッシミリアーノ・アッレグリ、イブラヒモビッチ、ロビーニョら新たな中心となる存在を得て、久々のスクデットを獲得した素晴らしい10-11シーズン後、加入以来ミランのサッカーのシンボルであり続けた稀代の司令塔、アンドレア・ピルロが契約満了でユベントスへ。同じくミランの前線を支え続けてきた愛すべき真のストライカー、フィリッポ・インザーギは、アッレグリ監督から戦力外通告を受け、もはや試合に出ることは滅多にない。


ほかにも、グルキュフ、ヤンクロフスキ、カラーゼ、ジダといった当時のなじみの顔は、ほとんどが退団。今や残っているのは、衰え知らずのネスタ、そしてほかの大ベテランたち(アンブロジーニとガットゥーゾ、セードルフ)くらいのものである。


CLでバルセロナと互角の戦いを繰り広げるなど、新たなサイクルに入り、再び強さを取り戻したミラン。選手や監督の入れ替わりは何度だって行われてきたものなのだから、気にするのもおかしいのかもしれないが、それでもあの頃のミランからの変わりように、一抹の寂しさを覚えずにはいられない。

インテルのエトーが、ロシアのアンジ・マハチカラへ移籍した。

正確にはまだ基本合意した段階ではあるが、エトーの代理人が「あとは詳細を詰めるだけ。明日には決まる」といっているから、もうエトーはアンジの選手だと思ってもいいだろう。

この移籍に関しては、僕は驚き半分、納得半分といったところ。


驚いた理由はいわずもがな、エトーはイブラヒモビッチとのトレードで加入して以来、恐ろしいまでの運動量を生かしたプレスと、バルセロナ時代と変わらない得点力で、この2年間のインテルの大黒柱といえる存在だったからだ。1年目に関してはミリートやモッタのほうが目立っていたが、去年はこの2人が不調と怪我に見舞われ続けていた間にも、当然のようにゴールを決め続けた。序盤戦の大不振と、更にはミランとの直接対決に2度敗れているにも関わらず、最終的に2位でフィニッシュしたのも、エトーの活躍なくしてはありえなかったろう。それゆえに、案外あっさりと彼を手放したことに、少々驚きを隠せない。

一方で、納得した理由もシンプル。要は単なる財政難だ。これは何も今に始まったことではない。去年もマイコンが移籍を騒がれていたし、今年もスナイデルの移籍話がまことしやかに噂されていたのだから。エースとはいえすでに30歳の選手に2700万ユーロの移籍金と、さらにエトー本人にはあのロナウドを実に数百万ユーロ上回る驚愕の年俸を提示したのだから、これはまさに断ることのできないオファーというやつだ。


そして、イタリアのクラブの財政難とて今に始まったことじゃない。元から資金が豊富とはいえないローマ、ここ数年の不振で収入減に苦しむユヴェントス、前述したインテル。そして僕のもっとも愛するクラブである去年の王者ミランでさえ、一時は大エースであるカカを含めた主力を売却せざるをえないほどの資金難に陥り、現時点でもそれほど改善されたとはいえない。巧みな交渉術でイブラやロビーニョなどの核を手に入れ、さらにフリートランスファーやジェノアとの友好関係を利用したレンタルなど、ありとあらゆる手段を用いてしたたかに補強を進め、今年もメクセスやタイウォといった優秀な選手をフリーで獲得するなど、資金を考えると素晴らしいクオリティを備えたミランだが、それでも根本的なところでは資金不足は否めない。


事実、スペインやイングランドのクラブと比べると、金銭的な面で不利なのは明らか。カカの移籍に対するガッリアーニのコメントからもわかるように、移籍金はおろか選手のサラリーすらも常に念頭に入れておかなければいけないとなれば、プレミアとリーガに水をあけられ、外国人枠のないブンデスに抜かれてしまうのも致し方ないことなのかもしれない。


だが、はたして本当にそれだけなのだろうか。セリエAの衰退が止まらないのは、なにも金の問題だけではないだろう。考えてもみてほしい。今まさに最強を謳うバルセロナで、その驚異的なまでのポゼッションサッカーの中核を担っているのは、他でもないシャビやイニエスタ、ペドロやピケといった、スペインの国産選手なのだ。ビルバオのように、主力のほとんどを育成で確保しているチームも少なくない。ブンデスリーガにしても、多くのクラブで優秀な国産の若手選手が主力を担っている。プレミアはともかく、この2つのリーグを引っ張っているのは国産の若いタレントなのだ。


一方、セリエAはどうだろう。確かに近年はトップスターの移籍が目立つ。とはいえ、そのほとんどは、カカやサンチェス、エトーといった外国人選手であり、逆にイタリア人選手に目を向けてみれば、チームを引っ張るほどの活躍を見せる若手は、数えるほどしかいない。たとえばミランには、主力を張るイタリア人の中でまだ若いといえるのはアバーテくらいのもので、インテルにもパッツィーニラノッキアしかレギュラーに名を連ねるイタリア人がいないという有様だ。

これはユーヴェやローマ、そしてその他のプロヴィンチャをみてもいえることであり、それがひいては代表レベルでのスター不足にもつながっている。


確かに、結果至上主義のイタリアサッカーでは、若手がプレッシャーに押しつぶされてしまうことはよくあるかもしれない。それゆえ、スペインなどと比べて若手が育ちにくい土壌が出来上がってしまっているともいえる。だが、真の意味で90年代の隆盛を取り戻そうと思うなら、かつてのインザーギやデル・ピエロ、トッティやカンナバーロのような、傑出した若いタレントを育て上げることが、もっとも重要なことではないだろうか。