いよいよ、ヨーロッパの移籍市場も残すところあと10日で終わりとなる。


プレミアリーグのチームを見ると、王者ユナイテッドはもとより、復活を誓うリヴァプール、チャンピオンズリーグ出場権を狙うシティとトッテナム、いずれのチームも多少の差はあれど、新シーズンの核となるべき選手の補強はおおよそ完成している。ここに来て僕が失望を隠せないのは、アーセナルとチェルシーの両チームの補強だ。


チェルシーはビラス・ボアス監督の引き抜きに始まり、超逸材であるロメル・ルカクやピアソンの獲得、昨季ボルトンでブレイクしたスターリッジの復帰など、話題性に関しては事欠かない。まして、去年は不調だったトーレスやラミレス、怪我でいなかったベナユンが復帰するなど、なるほど確かに戦力的には優勝候補といえるだろう。


しかしながら疑問をぬぐえないのは、既存の戦力に対する扱いだ。チェルシーのスタメンを見てみれば、チェフやランパード、テリーなどのクラブの顔である選手をはじめ、ほとんどがベテランというべき年齢に差し掛かりつつあるということ。しかも彼らはチェルシーでの在籍年数も5年前後の選手が多い。

これはかつてチェルシーに在籍したフランク・ルブーフも言っていたことだが、クラブの大半がこうした選手で固められているというのは、モチベーションの低下や、選手がボスのような不遜な振舞いをすることにつながってしまう。事実、ミラン時代に人心掌握の腕前を見せ付けたアンチェロッティでさえ、ベテラン勢を完全にコントロールはできなかったし、去年のチェルシーにはまるでフレッシュな勢いがなかった。

まして、スターリッジ、カクタなどの若手が台頭しつつある状況で、なぜ依然としてそれなりの価格がつくドログバやアネルカなどのベテランを売却しないのか。大刷新をしろとまでは言わないが、こうした引く手数多の高給取りのベテランの移籍は、チームに限らず本人たちにとっても、モチベーションを刺激するいい機会のはずだ。世代交代を進めつつ補強資金も手に入る一挙両得のオペレーションのはずなのに、いまだベテランがレギュラーとベンチのメンバーの大半を占める現状は、僕個人としてはどうにも納得しかねるというか、理解に苦しむ部分である。


一方のアーセナルだが、こちらに関しては単純に補強が進んでいない、というかむしろチームとしてランクダウンしている印象すらある。というのも、ガエル・クリシーのシティ移籍に始まり、チームの核であるセスク・ファブレガスをとうとうバルセロナに放出し、更にサミル・ナスリも移籍濃厚だからだ。ここ3年間、チームを引っ張ってきた選手たちを失うとあれば、いかに育成に定評のあるアーセナルと言えど、戦力ダウンなどと言うレベルではない。

無論、ラムジーやギブスなど、彼らの後継者たりえる能力を持った選手はいるし、ウィルシャーやウォルコット、ソングやシュチェスニーなど、新たに核となるべき選手もいるにはいる。彼らが同時に大ブレイクするようなことがあれば、当然優勝はありえないはなしではない。が、あえて最も悲観的な見方をすれば、求められるのがメジャータイトルである以上、中心選手3人を放出した代わりに入ってきた即戦力がジェルビーニョ1人では、とてもじゃないが同じく成長を続ける他のビッグ5を退けることはできないだろう。

事実、開幕から例によって怪我人が続出し、第2節でリヴァプールには0-2で敗れている。ここにきてCSKAモスクワの本田や、レアルのカカなどのビッグネームに手を伸ばし始めたようだが、はっきりいってあまりに遅い。セスクがいたころでさえ、ビッグネームの獲得は至上命題だったにもかかわらず、いまではそのセスクに加え、主力が2人ももいなくなったのだ。これではリーグとチャンピオンズリーグはおろか、国内カップでも危ういかもしれない。


とはいえ、「もう」10日しか残っていないのではなく、「まだ」10日残っている、という考え方もできる。チェルシーのトーレスのように、結論は急がず、まずはじっくり見てみよう。

ここ最近、切に感じたことがある。


それは、日本では、ストライカーという存在があまり認められない、ということだ。


日本代表、ひいては日本人全体の決定力不足という問題は、かの釜本邦茂以来ずっとあり続けてきた課題である。


Jリーグに関わる人たちをはじめ、新聞などが口々にそういうことを言っているのを聞いて久しい。


が、日本の指導理論や人々のサッカー観を見ていると、とてもじゃないが簡単に解決できる問題じゃない気がする。


守備へのこだわり

特に多く耳にするのが、「攻撃的に行き過ぎるのは良くない」という意見である。というのも、日本が目指すパスサッカーでは、最終ラインはもちろんFWにいたるまで守備をすることがポゼッションを得るうえでも重要、といった言い分が多い。かつて中田が欧州で見せていたようなプレーができていなかったのも、日本代表では彼のプレーは「攻撃的過ぎる」からだったという。更には、優勝したアジアカップでは、岡崎や前田の守備が大きく賞賛されるなど、ますますFWは守備で貢献するべき、との見方が強まっているきがする。


だが、つい最近までは、ボールが回るのにゴールが決まらないということが問題になっていたのではなかったか。


フォワードの原点

確かに、DFが攻撃の基点になれる時代にある以上、前線でのチェックやプレスは必要なことだし、ひいて守ることも時には必要かもしれない。逆にそれをまったくしないのなら、普通ならともかくトップレベルでは相手に好き勝手ロングボールを出させてしまうことになる。実際、一流選手の中ではルーニーやテベスのようなハードワーカーは珍しくもないし、メッシのような選手でさえ守備でなまけることは許されない。そういう意味で、岡崎らは守備においては良くやっているといえる。



ただ、ひとつ忘れないでほしいのが、ルーニーやテベスは、前線の汗かき役である前に、一流のゴールゲッターなのだ。去年も今年もテベスはチームでダントツトップのゴール数を誇っているし、ルーニーだって昨シーズンは序盤からゴールを量産していた。そして、そのルーニーと最後まで得点王を争ったドログバだって、ハードワーカーといえる選手だ。



結局のところ、サッカーにおいて守備がどれだけ進歩しても、FWとは常に点を取ることが仕事であるポジションであり、それはこれからも変わらないだろう。リヴァプールのカイトのように点を取るより守備での貢献が期待されている選手ならまだしも、ハードワークの前にゴールを決められなければ話にならないのである。



それを如実に物語っているのが、チェルシー加入後のフェルナンド・トーレスではないだろうか。思い返せば、彼の加入後、ゴールが決まらないことを話題にする人はごまんといながら、彼のハードワークを称えていたのはアンチェロッティくらいのものだったろう。もちろん彼に期待されていたものが得点力だったというのもあるだろうが、それを言うならそもそもFWが得点を期待されるポジションだろう。



つまり、FWとはまず何よりも、「得点できる」選手であることが求められる。チャンスメーカーやポストプレーヤーなどプレースタイルに差があるのだから案外そうでもないだろう、と思う人もいるかもしれないが、そういった選手だってある程度は点を取れなくては評価されないし、なにより点が取れる相棒がいてこそそういう選手も気持ちよくプレーができるのだ。


「守備をしている」は体のいい言い訳

河村優さんというコーチの方がいる。その人はイタリアでコーチをしていたころに、日本とのFWに対する見方の違いを知ったという。その人が書いた著書の中に、「日本人はミスを恐れる」という文がある。そして読んでからまわりの選手たちのプレーを見てみると、なるほど誰もが無難なプレーばかりをしている感はある。特にFWの選手は、パスの回数と比べて、抜け出しやシュートの回数は明らかに少ない。彼らは守備にはよく顔を出すのだが、肝心の攻撃でいつもチャンスをなかなかつくれないのだ。


もちろん、あくまで私の身の回りの選手なので、よりレベルの高いところであればゴールチャンスも当然多いだろう。しかし、私個人の感想として、点を決められないFWを「彼は守備をしている」などといってかばうのは、極端な話、点を決めていないことへの、ひいては攻撃でのミスの言い訳にしか聞こえない。


日本では、点を決められないなら、せめて守備で走れ、とでも言うような風潮がある。しかし、それが一方でFWのシュート回数を減らすことにもなっている。そして、シュートを多く打たないことには、点を取れる選手は育たない。もしも生まれもってそういう才能を持っていた選手がいたとしても、守備に積極的でなければ頭ごなしに否定される日本では、そのままで頭角を現すことはできないだろう。最悪、守備に追われるうちに中途半端なプレースタイルになってしまうこともある。なぜもっと、FWは育てるものだという意識が日本人にはないのか、疑問に思えてならない。



インザーギのすごさをわからなければいけない

日本には、「ごっつぁんゴール」という言葉がある。たとえばゴール前にいた選手の目の前にこぼれだまが落ちてきて、押し込むだけのゴールなどがそういわれる。確かに偶然そういう場面になったなら、運が良いといってもいいだろう。だが日本人は、押し込むだけのゴールは全て運がいいから決まるとでもいうように、そういうゴールをあまり好まない。たとえば今の子供に、好きなFWはと聞けば、ほとんどがロナウドやメッシのような、派手で目立つ選手の名前を挙げるだろう。ミュラーやインザーギのような選手は、逆に「どこがすごいの?」と聞かれるかもしれない。


だが、よく考えてみてほしい。彼らは、狙ってそういう触れば決まるところにいる選手なのだ。どんなに運が良くても、それだけでヨーロッパでもっとも恐れられるFWにはなれない。彼らはゴールへの執着心が強く、どうすれば決められるかわかっているからこそ、常にボールに合わせられる位置にいることができるのだ。


ゴールへの気持ちを殺してはいけない

守備が大事なのは認めるし、まったくしないのも考え物ではある。しかしだからといって、監督と、更にはチームメートからも「守備しろ!」といわれ続けていては、せっかくのゴールへの気持ちもしぼんでしまうことになる。そして最後に出来上がるのが、守備とパスばかりするFW、というわけだ。利他的といえば聞こえはいいが、はっきりしたエゴも持ち合わせていない選手が点を取るという目的意識をもてるはずもない。


少々極論になってしまったが、「決定力」とは、けっして才能だけによる能力ではないのだから、少なくともFWにおいては、攻撃的な選手に、もっと肯定的な見方をするべきだ。

7日に行われたセリエA第36節、ミラン対ローマの試合。


残り3試合で2位インテルと勝ち点差8をつけているミランは、引き分け以上で優勝が決まる試合だった。


結果は0-0のスコアレス。


ミラニスタたちも待ちに待ったであろう、7年ぶりのリーグ優勝を決めた。


私もミラニスタなので、ここは喜びを爆発させたいところだが、ここはひとまず今年のミランを振り返ってみようとおもう。


まずは、今年の優勝にもっとも貢献したであろう選手を挙げてみよう。


1人目は、文句なしにイブラヒモビッチだろう。インテルとの直接対決など大事な試合を出場停止で欠場するなど、問題児っぷりは相変わらずなのを見せてくれたものの、それでもシーズン序盤から中盤に掛けては前線の核としてゴールとアシストを量産。去年までミランの長年の課題だったゴール不足と大型FWの不在を一息に解決してくれた。インテルがモタモタしていた時期に、ミランを引っ張ったのは間違いなく彼だろう。


次は、大きな成長を遂げたチアゴ・シウバ。マルディーニから彼の引退時に後継者に指名されたブラジル人は、コンビを組むネスタと世界最高ともいわれる堅守を発揮し、さらにはその相棒がいないときでも、ミランの最終ラインをしっかりと支えていた。もちろん相棒のネスタも含めて、彼らなくして優勝は絶対なかっただろう。


そして、ベルルスコーニとガッリアーニも当然その立役者だろう。近年は、ロナウジーニョやシェフチェンコなど、話題性ばかりですでに全盛期のプレーは見る影もない選手ばかりを高額で獲得し、一方でエースのカカを放出するなど、その市場での立ち回りは常にサポーターから批判されていたが、今シーズンはイブラヒモビッチを前代未聞の方法(レンタルながら、移籍金の分割払いでの事実上の完全移籍)で獲得し、さらにはロビーニョを1400万ユーロで獲得。チームの新たな核を作ったのに続き、DFマリオ・ジェペスやMFボアテング、GKアメーリアといった選手を安値で獲得し、バランスのいいチームを作り上げた。しかしこれだけでは終わらず、冬にはさらにファン・ボメル、カッサーノ、エマヌエルソンといった優良選手をこれまたほとんど移籍金をかけずに獲得し、選手層の質とともに厚さも確保した。その後のボアテングやファン・ボメルの活躍や、ネスタが離脱していた時期のジェペスのみせたパフォーマンスは、誰もが知るところだろう。


また、アッレグリ監督の采配も光った。ベルルスコーニが再び良い補強を始めた年に就任したというのは、去年満身創痍のチームを預けられ、しかもベルルスコーニにことあるごとに戦術に口出しされていたレオナルドと比べればずいぶんラッキーだったろうが、それでも選手たちを良くまとめ、4-3-1-2を用いて、前任と違いしっかりとした守備組織を構築したことは、賞賛に値するだろう。優秀な選手は多かったとはいえ、新加入の選手が中核を担ったチームを見事にまとめたのも、彼の監督としての能力だと言っていい。特にレオナルドとの確執から輝きを失っていたガットゥーゾらベテランを復活させたことで、アンチェロッティ以来のまとまりのあるチームになったといえる。


チャンピオンズリーグでこそ、新興勢力ともいえるトッテナムに負けてしまったが、パトやメルケルといった若手が着実に成長していくことができれば、ビッグイヤーを再び掲げるのも時間の問題だろう。サントスのMFガンソなどの獲得も噂されており、もし獲得が実現すれば、彼はかつてのルイ・コスタやカカのように、新たなチームの核なれる素材だ。


もちろんそうそう上手く行くものでもないだろうが、もしかすると、遠くないうちに去年モウリーニョのインテルが果たした3冠の偉業を、今度はミランが達成するのを目にすることができるかもしれない。

34節時点でユナイテッドと勝ち点差9だったアーセナル。


第35節でユナイテッドを1-0で撃破し、ユナイテッドとの勝ち点差を6に縮めたものの、まだユナイテッドを勝ち点3差で追うチェルシーもいるので、依然として逆転優勝は厳しい状況だ。その上位2チームは次節で直接対決するが、仮にチェルシーが勝ってアーセナルが両チームとの勝ち点3差に縮めたとしても、両チームが共に残りの3試合で2敗することはまずないだろう。今年のリーグタイトルは、最早アーセナルから遠ざかりつつあるといってもいい。


では、今のアーセナルに足りないものとはなんなのか。足りない知恵を振り絞って、自分なりに考えてみた。


まずよく言われているのが、若すぎるということ。これは、さほどサッカーに詳しくない人でさえとっさに出てくる理由である。世間の人々いわく、「若いから勢いはあるが、勝負弱いし立て直しがきかない」とのことだ。そして、それに似たようなことをセスクら選手も意識していることが彼らの発言から伺える。


アーセナルは他のビッグクラブと比べてずっと予算が少なく、年俸の高いスター選手は放出をためらわないにもかかわらず、若手を買って育てる方針で毎年のようにチャンピオンズリーグに出場し、なおかつリーグタイトルを争うのは見事というほかない。


だがしかし、このままではもう行き詰まりが近いことも確かだろう。結局毎年何らかのタイトル争いには絡むものの、どうしても優勝には手が届いていないのだから。今シーズンのカーリングカップ決勝で格下のバーミンガムに負けたことが、何よりそれを象徴している。そういった大一番の試合を戦った経験というものが、まず何より足りないものだといえるだろう。


一方で、単純な力不足という一面もある。ユナイテッドやチェルシー、さらには台頭してきたシティなどと比べても、超一流と呼べる選手がなかなかいないのは事実だ。セスクやファン・ペルシー、ウォルコットといったところはすでにトップクラスであるものの、この3人は怪我で離脱することが少なくない。


他の選手、たとえばシャマクはいい選手だが、かつてユナイテッドとリーグタイトルを分け合っていたころと比べれば、アンリやヴィエラ、ベルカンプのような、圧倒的な選手というのはいない。あえて言うなら、まだ「優秀な若手」レベルの選手も多い。最終ラインに関しても、安定した守備をしているとはいえないだろう。


現時点で安定しているトップ選手はアルシャービンくらいということになるが、彼にしても欧州での優勝経験は07-08シーズンのUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)しかない。


結局、アーセナルに必要なのは、数人のビッグネームだということだろう。それも、大きな大会の決勝などで戦った経験の豊富な、そう、まさにシャルケを引っ張るラウールのような選手が。

バルサがウェンブリーで行われるチャンピオンズリーグ決勝進出を決めた。


カンプ・ノウで3日に行われたチャンピオンズリーグ準決勝、レアル・マドリー対バルセロナの2ndレグ。言わずと知れたクラシコの4連戦最終戦でもあるこの試合、結果はご存知のように、1-1の引き分けに終わり、2試合合計3-1でバルセロナが勝ち抜けた。


ここ数シーズンの両チームの成績を考えれば、決してありえない結果ではないだろう。かたや世界最強とうたわれ、いまやどんなチームでも対戦を嫌がるバルセロナと、かたや最終ラインから前線まで、世にも豪華なメンバーをずらりと揃えながらも、ムラが大きく勝ち続けられないレアル。リーグ戦での勝ち点差8という数字を見ても、レアルがバルサに負けたとしてもなんら不思議ではない。


ただ、今回の4連戦、特にチャンピオンズリーグ準決勝の2試合は、物議をかもすことが非常に多くあった。まず、何より目立ったのが、メディアでも大きく取り上げられている審判の判定。1stレグでは、ぺぺの退場について、そして2ndレグでは、イグアインのゴール取り消しについてである。


まずはぺぺの退場についてだが、レアルの言い分が、映像を見ても退場に値するタックルではなかった、ということ。しかし、これについては審判を責めることはできないだろう。レッドカードは怪我や痛がり方などではなく、危険なタックルだったかどうかによって出されるものであって、そしてそれは審判が決めることなのだから、いくらシミュレーションだなどと騒いだところで、所詮はよくある議論に過ぎない。逆に、チームメイトを退場に値した、などと言う選手は滅多にいるものではないのだから、この騒動についてはどちらが悪いなどという問題などではないだろう。とはいえ、この試合でレアルがどれほどのファウルをしたか(31回)を考えれば、極端な話、見せしめという意味でさほど危険なタックルでなくてもレッドカードが出るのは当然の流れでもある。


次に、ゴールの取り消し。これについては、本当にレアルが不運だったというしかないだろう。実際その場面では、ロナウドがファウルをしたというよりも、偶然ぶつかったものをとられたというのが正しい。そして、あの1ゴールがあれば流れは違っていた、というシャビ・アロンソの言い分にも思うところはある。去年のワールドカップのドイツ対イングランドの試合を思い出せば、なるほどたしかにゴールが認められていれば試合展開は変わっていたかもしれない。


だが、1試合目で2-0のスコアだった以上、決まっても2-1なのだから、あの1点が決まっていれば違った、などというのは負け惜しみでしかないのもまた事実。レアルがそのあと腐ることなくもう1度ゴールを決めて見せたのはさすが一流クラブと褒めるしかないが、幻のゴールについてはタラレバの話でしかないのだから、しょうがない。審判だって人なのだから、微妙な判定をしてしまっても、ああいう場合は責めることはできない。


別にバルセロナを庇護しているわけではないし、チャンピオンズリーグという世界最大の大会のひとつで、実力以前の問題に大きく勝敗を左右されてしまったレアルの選手たちの怒りもよくわかる。しかし、どちらがよりよいサッカー、勝って当然のサッカーをしていたかといえば、明らかにバルセロナであるし、そもそもバルセロナの選手だって、いいことばかりではなかったのだ。


この4連戦、ピッチのコンディションは常に悪かった。レアルのホームスタジアムであるベルナベウは、バルサの選手の技術を殺すために、明らかに2、3センチほど普通より長くなっていたという。そして、国王杯決勝の行われたメスタージャスタジアムでも、ピッチコンディションはバルサの選手たちがしっかりプレイできないようになっていたと、メディアでは報じられている。


ここまで聞くと、それは同じピッチにいたレアルも同じじゃないか、とも思うが、ここに両チームの違いがある。レアルはフィジカルの優れた選手が多く、カウンター主体のサッカーをする。だから、ピッチが悪くても馬力で勝つことはできる。国王杯決勝を見た人なら、あれはまさにそういう試合だったと納得してもらえるだろう。逆にバルセロナの長所はパスサッカーなのだから、まともにボールが動かないようなピッチでは、当然パスがうまく通せず、不利な条件に立たされるわけだ。それでも3試合目からはきっちり修正してきたのだから、これはバルセロナを褒めるべきだろう。


一方で、レアルが4試合全てで去年のインテルのような、超守備的なスタイルを選択したことに関しては、責められることではないだろう。なぜなら、今のバルサに勝とうと思うなら、それがある程度有効な戦術であることは去年実証済みであるし、攻撃的に行こうとしたシーズン最初のクラシコでは、0-5で惨敗しているのだから。


クラブのレジェンドであるディ・ステファノをはじめ、レアルがするようなサッカーじゃないという批判は多くあるが、それは極端な話、綺麗ごとでしかないと思う。バルセロナのパスサッカーは下部組織からずっと選手がやってきたものであって、当然そうそう押さえ込めるものではないし、いくらタレントが揃っているといっても、カペッロ以来守備的な戦術が浸透してしまったレアルがすぐに真似できるものでもない。毎シーズンのように中心メンバーが変わってきたレアルに、いきなり内容と結果を両立したサッカーでバルセロナに勝て、というのがそもそも難しいのである。将来的にバルセロナのようなサッカーができるようになればもっと違う試合ができるかもしれないが、少なくともすぐにでも取れる戦術の中では、モウリーニョの選択はもっとも合理的なものである、というべきだろう。


ただ、もっとも合理的な戦術ををもってしても、チャンピオンズリーグという大舞台で、バルセロナに勝つことはできなかった。疑惑の判定やピッチコンディションなど、いろんな波乱はあった。なにもレアルばかりが悪いわけでもない。それでも、4連戦の結果と内容は、今の両チームの間に、どれだけ見えにくくも確かな差があるのかを、はっきりと示している。